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第三章 ホオズキの街
第92話 フォーリッシュ兄様との対面⑤
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「それでは、万能薬を注入しますね」
クロユリさんは注射器の針をフォーリッシュ兄様の腕に刺すと、パナシーアタケを煮詰めて作成した万能薬を注入していく。
「ええっ!? ク、クロユリさん、なにやってんの!!?」
<ノース様、落ち着いて下さい。あのハーフエルフは、この満身創痍な肥満体を助けるために万能薬を体内に注入しているだけです。この方法なら誤嚥の心配もありません。注射は感染症が進行して、万能薬を飲み込むことができなくなった人にも有効な手段です。ただし、この医療行為は素人が手を出していいものでないことは確かですが……>
なるほど、クロユリさんはフォーリッシュ兄様を助けるために……。
素人による危険な行為も人命救助を優先した行為だと思うと、なんとなく尊い行為だと思えてくるから不思議だ。
<ご都合主義の異世界だからこそ許される話ですね>
えっ?
いまなにか言った?
<いえ、なにも言っておりません。そんなことより見て下さい。満身創痍な肥満体が、ただの肥満体になっていきますよ>
顔を上げると、フォーリッシュ兄様の手足に生えていたキノコが自然に剥がれていくのが見える。
心なしかフォーリッシュ兄様の表情が穏やかになった気がした。
というより、満身創痍な肥満体とは誰のことだろうか?
まさか、フォーリッシュ兄様のことを言っている訳じゃないよね?
<じき目覚めるでしょう。さて、この者達の処遇についていかが致しますか?>
そうだね。どうしようか?
デネブ達が感染症を街に拡げた実行犯であることに疑いない。フォーリッシュ兄様の治める街に隣国、ストレリチア王国の軍を侵攻させ実効支配しようともした。
「ぐっ、ぐぐぐっ……い、一体なにが……」
どうしようか考えていると、デネブが意識を取り戻す。
メイスで殴られて意識を取り戻すとは、中々しぶとい。
いや、ここは死んでいなくてよかったと喜ぶべきだろうか?
「お、思い出したぞ。クソガキ共めが、まだ私は終わらない! こうなれば自棄だ。お前達にいいことを教えてやろう。お前達が探してきたキノコはなぁ。感染症の源、スエヒロタケなんだよ! そもそも、万能薬の原料となるパナシーアタケは精霊の力無くして作ることはできない。わかるか? 自然に生えることなんてありえないんだよ!」
「ええっ!?」
いや、それは知っていますけど……。
どう反応していいか分らず、とりあえず、驚いた表情を浮かべる。
デネブ、クロユリさんにメイスで殴られ記憶を失ってしまったのだろうか?
一緒にパナシーアタケを使って万能薬作りしたのに……。
すると、僕の反応を見ていい気分になったのか、デネブが意気揚々と話し始めた。
「はっはははっ! お前達の短慮がこの街の住民達を殺すんだ。ざまぁみろっ! だが、私も鬼ではない。いますぐにこの私を開放しろ。そうすれば、お前達を含む街の住民達の命だけは助けてやる。どうせ軍を制圧したというのも嘘なのだろう? さあどうする!」
突然、選択を迫られ悩んでいると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<いや、悩む必要すらないですよね? パナシーアタケは森の精霊ドライアドの力に依って作られています。あのハゲがなにを勘違いしているかはわかりませんが、住民に振る舞ったのは感染症を引き起こすスエヒロタケではありません。それに軍を制圧したのは事実。そろそろ連れてくる頃ではないでしょうか?>
連れてくる?
ナビさんの文字に疑問符を浮かべていると、突然、玄関が開いた。
玄関に視線を向けると、唖然とした表情を浮かべたアメリアさんが扉を開けて入ってくる。
随分と怖いものを見たかのような表情を浮かべているけど、一体どうしたというのだろうか?
「……アメリアさん。どうしたんですか?」
そう呟くと、アメリアさんが僕の肩を掴み激しく揺すってくる。
「……ノース様? アレは一体なんですか?」
「ア、アレとは?」
アメリアさんの言うアレがなにを指すのかわからず、そう呟くと、アメリアさんが盛大なため息を吐く。
「アレですよ。アレ! あのキノコの軍隊、一体どこに隠れていたんですか!」
「あ、ああ、あれは、ナビさんが……」
「ナビさん? これ以上、訳のわからないことを言わないで下さい。なんですかナビさんって……いえ、そんなことはどうでもいいです。門の外にいるストレリチア王国の人達みんなの頭にキノコが生えているんですけど、もしかしてノース様の仕業ではありませんよね? 街の中を巡回するキノコが見えましたけどノース様の仕業ではありませんよね? お願いですから僕の仕業ではありませんと言って下さい!」
「ええ、僕の仕業と言われればそうかもしれませんが……」
心外である。
僕はこの街を護るために仕方がなくナビさんの言う通りにしただけなのに……。
「や、やはりそうでしたか……」
そう言うと、アメリアさんが身体を脱力させた。
「お、おい。お前達、一体なにを言っている」
デネブがそう言うと、アメリアさんは力なく笑う。
「ストレリチア王国の人間も余計なことをしてくれましたね。ノース様に大義名分を与えてどうするんですか……これではどちらにしろ侵略されたようなものではありませんか……」
酷く心外な言い方だ。
僕に街を侵略する気なんてない。
デネブと一緒にしないで欲しい。
「ど、どういうことだ」
アメリアさんはデネブの襟を持ち引き摺ると、玄関口の扉を開け外を見せる。
そこには、頭にキノコを生やしたストレリチア王国軍と、それを捕縛しているマッシュルーム兵の姿があった。
「な、なんだこれはぁぁぁぁ!」
信じられない光景を見たデネブは叫び声を上げた。
クロユリさんは注射器の針をフォーリッシュ兄様の腕に刺すと、パナシーアタケを煮詰めて作成した万能薬を注入していく。
「ええっ!? ク、クロユリさん、なにやってんの!!?」
<ノース様、落ち着いて下さい。あのハーフエルフは、この満身創痍な肥満体を助けるために万能薬を体内に注入しているだけです。この方法なら誤嚥の心配もありません。注射は感染症が進行して、万能薬を飲み込むことができなくなった人にも有効な手段です。ただし、この医療行為は素人が手を出していいものでないことは確かですが……>
なるほど、クロユリさんはフォーリッシュ兄様を助けるために……。
素人による危険な行為も人命救助を優先した行為だと思うと、なんとなく尊い行為だと思えてくるから不思議だ。
<ご都合主義の異世界だからこそ許される話ですね>
えっ?
いまなにか言った?
<いえ、なにも言っておりません。そんなことより見て下さい。満身創痍な肥満体が、ただの肥満体になっていきますよ>
顔を上げると、フォーリッシュ兄様の手足に生えていたキノコが自然に剥がれていくのが見える。
心なしかフォーリッシュ兄様の表情が穏やかになった気がした。
というより、満身創痍な肥満体とは誰のことだろうか?
まさか、フォーリッシュ兄様のことを言っている訳じゃないよね?
<じき目覚めるでしょう。さて、この者達の処遇についていかが致しますか?>
そうだね。どうしようか?
デネブ達が感染症を街に拡げた実行犯であることに疑いない。フォーリッシュ兄様の治める街に隣国、ストレリチア王国の軍を侵攻させ実効支配しようともした。
「ぐっ、ぐぐぐっ……い、一体なにが……」
どうしようか考えていると、デネブが意識を取り戻す。
メイスで殴られて意識を取り戻すとは、中々しぶとい。
いや、ここは死んでいなくてよかったと喜ぶべきだろうか?
「お、思い出したぞ。クソガキ共めが、まだ私は終わらない! こうなれば自棄だ。お前達にいいことを教えてやろう。お前達が探してきたキノコはなぁ。感染症の源、スエヒロタケなんだよ! そもそも、万能薬の原料となるパナシーアタケは精霊の力無くして作ることはできない。わかるか? 自然に生えることなんてありえないんだよ!」
「ええっ!?」
いや、それは知っていますけど……。
どう反応していいか分らず、とりあえず、驚いた表情を浮かべる。
デネブ、クロユリさんにメイスで殴られ記憶を失ってしまったのだろうか?
一緒にパナシーアタケを使って万能薬作りしたのに……。
すると、僕の反応を見ていい気分になったのか、デネブが意気揚々と話し始めた。
「はっはははっ! お前達の短慮がこの街の住民達を殺すんだ。ざまぁみろっ! だが、私も鬼ではない。いますぐにこの私を開放しろ。そうすれば、お前達を含む街の住民達の命だけは助けてやる。どうせ軍を制圧したというのも嘘なのだろう? さあどうする!」
突然、選択を迫られ悩んでいると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<いや、悩む必要すらないですよね? パナシーアタケは森の精霊ドライアドの力に依って作られています。あのハゲがなにを勘違いしているかはわかりませんが、住民に振る舞ったのは感染症を引き起こすスエヒロタケではありません。それに軍を制圧したのは事実。そろそろ連れてくる頃ではないでしょうか?>
連れてくる?
ナビさんの文字に疑問符を浮かべていると、突然、玄関が開いた。
玄関に視線を向けると、唖然とした表情を浮かべたアメリアさんが扉を開けて入ってくる。
随分と怖いものを見たかのような表情を浮かべているけど、一体どうしたというのだろうか?
「……アメリアさん。どうしたんですか?」
そう呟くと、アメリアさんが僕の肩を掴み激しく揺すってくる。
「……ノース様? アレは一体なんですか?」
「ア、アレとは?」
アメリアさんの言うアレがなにを指すのかわからず、そう呟くと、アメリアさんが盛大なため息を吐く。
「アレですよ。アレ! あのキノコの軍隊、一体どこに隠れていたんですか!」
「あ、ああ、あれは、ナビさんが……」
「ナビさん? これ以上、訳のわからないことを言わないで下さい。なんですかナビさんって……いえ、そんなことはどうでもいいです。門の外にいるストレリチア王国の人達みんなの頭にキノコが生えているんですけど、もしかしてノース様の仕業ではありませんよね? 街の中を巡回するキノコが見えましたけどノース様の仕業ではありませんよね? お願いですから僕の仕業ではありませんと言って下さい!」
「ええ、僕の仕業と言われればそうかもしれませんが……」
心外である。
僕はこの街を護るために仕方がなくナビさんの言う通りにしただけなのに……。
「や、やはりそうでしたか……」
そう言うと、アメリアさんが身体を脱力させた。
「お、おい。お前達、一体なにを言っている」
デネブがそう言うと、アメリアさんは力なく笑う。
「ストレリチア王国の人間も余計なことをしてくれましたね。ノース様に大義名分を与えてどうするんですか……これではどちらにしろ侵略されたようなものではありませんか……」
酷く心外な言い方だ。
僕に街を侵略する気なんてない。
デネブと一緒にしないで欲しい。
「ど、どういうことだ」
アメリアさんはデネブの襟を持ち引き摺ると、玄関口の扉を開け外を見せる。
そこには、頭にキノコを生やしたストレリチア王国軍と、それを捕縛しているマッシュルーム兵の姿があった。
「な、なんだこれはぁぁぁぁ!」
信じられない光景を見たデネブは叫び声を上げた。
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