79 / 121
第三章 ホオズキの街
第79話 万能薬の原料『パナシーアタケ』(その裏で)
しおりを挟む
「それじゃあ、デネブさん。行ってきます!」
「はい。この街の運命はあなた方に託します。必ず万能薬の原料となる『パナシーアタケ』を採取してきて下さいね!」
「はい! 任せて下さい!」
アメリア達は森に『パナシーアタケ』を探しに向かって行った。
私は、奴等の姿が見えなくなるまで手を振ると、ニヤリと口を歪める。
「それにしても、デネブさんも人が悪いな。なんだよ? 万能薬の原料となるパナシーアタケって(笑)」
「そうそう、あれはパナシーアタケじゃなくて、スエヒロタケだろ?」
「万能薬の原料どころかスエヒロタケ感染症を引き起こすヤベーキノコじゃねーか(笑)」
「おいおい、あいつらにも手伝わせる気かよ? この街の支配をよ?」
「人聞きの悪いことを言うんじゃない。これは我が祖国のために必要なことだよ。それに嘘は言っていないさ。万能薬の原料となるパナシーアタケは存在している。ただし、こんな森で取ることは絶対にできはしないがね」
そう。先ほどガラスケースに入れて見せたキノコは、この街を襲った病の元となるキノコだ。
私は長い月日をかけてこの街の人達の信頼を勝ち取り、万病に効く薬と称してスエヒロタケを街に住む者達に飲ませることに成功した。
スエヒロタケ感染症は、肺にスエヒロタケの菌糸が気管支の中に住み着くことで発症する。これを治すためには、我が祖国に伝わる秘薬を飲むか、それこそ万能薬を飲むしか方法はない。
「それにしても、まさかこのタイミングで、オーダー辺境伯からの偵察がやってくるとは思いもしなかったよ。フォーリッシュの奴も早い所、我が祖国の支配を受け入れ楽になればいいものを……」
「まあまあ、いいじゃありませんか。この街はもうおしまいです。どの道、明日になれば、この領土を奪うために軍がやってくるんでしょう?」
「ああ、その通りだ。それまでの間、生かさず殺さずの状態を保ちますよ? 彼等に死なれては折角の労働力が失われてしまいますからねぇ?」
「はははっ! 違いねぇ! あいつ等、俺達が隣国の兵士だと知ったらどんな顔するかなぁ?」
「いいねぇ。早くその瞬間が見たいものだぜ!」
「時期が来れば見れますよ。彼等の絶望する瞬間がね。馬鹿な領民は病から解放されて感謝してくるかもしれませんが……」
それはそれで面白い。
私が発症させたスエヒロタケ感染症。
それを我が祖国が派遣してくれる予定の兵士達が秘薬を持って治し、なし崩し的にこの街を実効支配する。
オーダー辺境伯が未知のギフトを持っていたとしても、領民という人質を取られれば、領主という立場上、無碍にはできないだろう。
なにも知らない領民は、スエヒロタケ感染症に苦しんでいる際、なにもしてくれなかった領主を恨み、反対に領民を助けた私達を称賛する。
もしかしたら、こんな領主の下で暮らすよりも、我が祖国の支配下に入ることを迎合するかも知れない。
「領主というのは大変だな。デネブさんが故意に流出させた未知の感染症にも完璧に対応して見せないといけないなんてよ」
「まったくだ。大変だねえ、領主様は……」
「……同感だな。民衆は常に減点方式。領主がどんなにいい施策をしようが、そんなことは領主としてやって当たり前のことだと言い張り、納める税が重くなれば領主のことを批判する。それは未知の感染症が広まってしまっても同じこと。領主なんてマゾがやる仕事だよ」
「まあまあ、その言い方では、この街を良くしようと無駄な努力をしているフォーリッシュ様が可哀想ですよ。彼はただ相手が悪かっただけです。さて、そんな哀れなこの街の領主であるフォーリッシュ様の様子でも見に行きましょうか。あんな人間でも死なれては困るのでね」
私達は高笑いを浮かべると、街の中に入っていった。
「しかし、この街。スタンピードが起こったらおしまいですね。防壁がこんなにもボロボロじゃあ、どうしようもない。一体なんでこんなことをさせたんですか?」
門番の一人が私にそう問いかけてくる。
「そんなこと、決まっているでしょう? この街を立ち行かなくさせるためですよ。我々の助けなくしてね……」
名目としては救援目的だが、仮にも他国の軍がこの街に押しかけてくるのだ。
多少の混乱が予想される。
しかし、こうもわかりやすく防壁が壊されていることがわかれば話は別だ。
せっかく、病から解放されたというのに、街を護るための防壁が壊されていては安心して生活を送ることはできない。
結果として、領民達は否応もなしに軍の駐留を認めることになる。
いや、認めざる負えなくなるはずだ。
「へえ、そうなんですか」
「ええ、とても簡単な話でしょう?」
扉を開け館に入ると、ベッドで寝込むフォーリッシュに視線を向ける。
「この男が最初から頷いてくれれば、こんなことにはならなかったのですけどね」
そこには、過呼吸を起こし、足に手足からキノコを生やしたフォーリッシュの姿があった。
「まだ、死んではなりませんよ? フォーリッシュ様」
そう呟くと、私は深い笑みを浮かべた。
「はい。この街の運命はあなた方に託します。必ず万能薬の原料となる『パナシーアタケ』を採取してきて下さいね!」
「はい! 任せて下さい!」
アメリア達は森に『パナシーアタケ』を探しに向かって行った。
私は、奴等の姿が見えなくなるまで手を振ると、ニヤリと口を歪める。
「それにしても、デネブさんも人が悪いな。なんだよ? 万能薬の原料となるパナシーアタケって(笑)」
「そうそう、あれはパナシーアタケじゃなくて、スエヒロタケだろ?」
「万能薬の原料どころかスエヒロタケ感染症を引き起こすヤベーキノコじゃねーか(笑)」
「おいおい、あいつらにも手伝わせる気かよ? この街の支配をよ?」
「人聞きの悪いことを言うんじゃない。これは我が祖国のために必要なことだよ。それに嘘は言っていないさ。万能薬の原料となるパナシーアタケは存在している。ただし、こんな森で取ることは絶対にできはしないがね」
そう。先ほどガラスケースに入れて見せたキノコは、この街を襲った病の元となるキノコだ。
私は長い月日をかけてこの街の人達の信頼を勝ち取り、万病に効く薬と称してスエヒロタケを街に住む者達に飲ませることに成功した。
スエヒロタケ感染症は、肺にスエヒロタケの菌糸が気管支の中に住み着くことで発症する。これを治すためには、我が祖国に伝わる秘薬を飲むか、それこそ万能薬を飲むしか方法はない。
「それにしても、まさかこのタイミングで、オーダー辺境伯からの偵察がやってくるとは思いもしなかったよ。フォーリッシュの奴も早い所、我が祖国の支配を受け入れ楽になればいいものを……」
「まあまあ、いいじゃありませんか。この街はもうおしまいです。どの道、明日になれば、この領土を奪うために軍がやってくるんでしょう?」
「ああ、その通りだ。それまでの間、生かさず殺さずの状態を保ちますよ? 彼等に死なれては折角の労働力が失われてしまいますからねぇ?」
「はははっ! 違いねぇ! あいつ等、俺達が隣国の兵士だと知ったらどんな顔するかなぁ?」
「いいねぇ。早くその瞬間が見たいものだぜ!」
「時期が来れば見れますよ。彼等の絶望する瞬間がね。馬鹿な領民は病から解放されて感謝してくるかもしれませんが……」
それはそれで面白い。
私が発症させたスエヒロタケ感染症。
それを我が祖国が派遣してくれる予定の兵士達が秘薬を持って治し、なし崩し的にこの街を実効支配する。
オーダー辺境伯が未知のギフトを持っていたとしても、領民という人質を取られれば、領主という立場上、無碍にはできないだろう。
なにも知らない領民は、スエヒロタケ感染症に苦しんでいる際、なにもしてくれなかった領主を恨み、反対に領民を助けた私達を称賛する。
もしかしたら、こんな領主の下で暮らすよりも、我が祖国の支配下に入ることを迎合するかも知れない。
「領主というのは大変だな。デネブさんが故意に流出させた未知の感染症にも完璧に対応して見せないといけないなんてよ」
「まったくだ。大変だねえ、領主様は……」
「……同感だな。民衆は常に減点方式。領主がどんなにいい施策をしようが、そんなことは領主としてやって当たり前のことだと言い張り、納める税が重くなれば領主のことを批判する。それは未知の感染症が広まってしまっても同じこと。領主なんてマゾがやる仕事だよ」
「まあまあ、その言い方では、この街を良くしようと無駄な努力をしているフォーリッシュ様が可哀想ですよ。彼はただ相手が悪かっただけです。さて、そんな哀れなこの街の領主であるフォーリッシュ様の様子でも見に行きましょうか。あんな人間でも死なれては困るのでね」
私達は高笑いを浮かべると、街の中に入っていった。
「しかし、この街。スタンピードが起こったらおしまいですね。防壁がこんなにもボロボロじゃあ、どうしようもない。一体なんでこんなことをさせたんですか?」
門番の一人が私にそう問いかけてくる。
「そんなこと、決まっているでしょう? この街を立ち行かなくさせるためですよ。我々の助けなくしてね……」
名目としては救援目的だが、仮にも他国の軍がこの街に押しかけてくるのだ。
多少の混乱が予想される。
しかし、こうもわかりやすく防壁が壊されていることがわかれば話は別だ。
せっかく、病から解放されたというのに、街を護るための防壁が壊されていては安心して生活を送ることはできない。
結果として、領民達は否応もなしに軍の駐留を認めることになる。
いや、認めざる負えなくなるはずだ。
「へえ、そうなんですか」
「ええ、とても簡単な話でしょう?」
扉を開け館に入ると、ベッドで寝込むフォーリッシュに視線を向ける。
「この男が最初から頷いてくれれば、こんなことにはならなかったのですけどね」
そこには、過呼吸を起こし、足に手足からキノコを生やしたフォーリッシュの姿があった。
「まだ、死んではなりませんよ? フォーリッシュ様」
そう呟くと、私は深い笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
1,052
あなたにおすすめの小説
私のスローライフはどこに消えた?? 神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!
魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。
なんか旅のお供が増え・・・。
一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。
どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。
R県R市のR大学病院の個室
ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。
ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声
私:[苦しい・・・息が出来ない・・・]
息子A「おふくろ頑張れ・・・」
息子B「おばあちゃん・・・」
息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」
孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」
ピーーーーー
医師「午後14時23分ご臨終です。」
私:[これでやっと楽になれる・・・。]
私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!!
なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、
なぜか攫われて・・・
色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり
事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!!
R15は保険です。
人間不信の異世界転移者
遊暮
ファンタジー
「俺には……友情も愛情も信じられないんだよ」
両親を殺害した少年は翌日、クラスメイト達と共に異世界へ召喚される。
一人抜け出した少年は、どこか壊れた少女達を仲間に加えながら世界を巡っていく。
異世界で一人の狂人は何を求め、何を成すのか。
それはたとえ、神であろうと分からない――
*感想、アドバイス等大歓迎!
*12/26 プロローグを改稿しました
基本一人称
文字数一話あたり約2000~5000文字
ステータス、スキル制
現在は不定期更新です
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?
紺
ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。
世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。
ざまぁ必須、微ファンタジーです。
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます
水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか?
私は、逃げます!
えっ?途中退場はなし?
無理です!私には務まりません!
悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。
一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる