上 下
70 / 121
第二章 アベコベの街

第70話 驚愕する領主②

しおりを挟む
 マキシマムさんマッシュルーム・カイザーを唖然とした表情を浮かべながら眺めていると、ノース君が私の袖を引いてくる。

「お父さん、どうかしたんですか?」

 うん。とても純粋な眼差しで私のことを心配しているように見える。
 しかし、知らない世界の決戦兵器を目の当たりにして困惑しているんだよ? とは言えない。

「いや、少しだけ驚いただけだよ。それにしてもこのマキシマム・マッシュルーム・カイザーは凄いね……」

 マキシマム・マッシュルーム・カイザー単体で、街一つ簡単に滅ぼすことができそうだ。
 領外とはいえ、こんな物騒な兵器が近くにあったとは……隣国の領主もこんな物騒なものが近くにあっては気が気ではないだろう。

「君のギフト『キノコマスター』は他にどんなことができるんだい?」
「そうですね……雨の日限定で指定の範囲をキノコ塗れにすることができます」
「へ、へえ……そんなこともできるんだ……」

 指定の範囲をキノコ塗れってなんだ?
 しかも、雨の日限定。意味がわからない。
 しかし、この辺り一帯を治める領主としてノース君の力を確認しておかなければならない。

「ノース君さえよければ、雨が降った日にその力を見せてくれないかい?」
「はい! あっ、丁度、雨が降ってきましたね」

 空を見上げると、辺りが曇り出し、パラパラと雨が降ってきた。
 ノース君はそこらに生えている大きな葉を毟ると雨よけ代わりに渡してくる。

「それじゃあ、僕に着いてきて下さい。これから近くにあるゴブリンの集落に向かいます」
「あ、ああっ……」

 アメリア君と共にノース君に着いて行くと、二十分程歩いた先にゴブリンの集落があった。

「ノース君? ゴブリンの集落に来てなにをしようというんだい?」
「えっと、いまからこのゴブリンの集落をキノコ塗れにして殲滅したいと思います」
「ゴ、ゴブリンの集落をキノコ塗れにして殲滅?」

 ゴブリン単体ならいざ知らず、ゴブリンの集落を殲滅する?
 しかもキノコ塗れにして??
 頭に疑問符を浮かべていると、赤く光る線が天から降り注ぎ、ゴブリンの集落を取り囲んでいく。
 突然の状況に、驚きの表情を浮かべていると、赤く光る線の内側の至るところから、ニョキニョキとキノコが生え始めた。
 赤く光る線の内側に降る雨の一粒一粒が急激にキノコに変わり、ゴブリンの集落がキノコ塗れになっていく。

「な、なんだこれは……」

 信じられない状況に唖然とした表情を浮かべることしかできない。

 外にいるゴブリンに至っては、身体や口の中から大量のキノコが生えだし、大変なことになっている。

 そして赤く光る線が途切れると、ゴブリンの集落があった場所には大量のキノコの山ができ上がっていた。

「こ、これが、キノコマスターの力……!?」

 な、なんて恐ろしい力なんだ。
 雨の日限定の力とはいえ、街でこれをやられたら抵抗する間もなく殲滅されてしまう。

 ふと後ろを振り向くと、アメリア君が白目になっていた。
 その気持ちは凄く理解できる。

 思考放棄できて羨ましいぞ、アメリア君。
 できることなら私もアメリア君のように思考放棄したい。

「お父さん、いかがでしたか?」
「あ、ああっ……とても素晴らしいギフトだね。流石は私の息子だ」

 そう言うと、ノース君は笑顔を浮かべる。

 いや、本当に……他の者の所に行かれる前に確保することができて本当によかった。
 アメリア君はノース君の取り込みに否定的のようだが、これほどの力を持っていることがわかったいま、逃す手はない。というより、逃すことができない。

「そうですか!? ありがとうございます。それでは、キノコ・キャッスルに戻りましょう」
「あ、ああっ……」

 ノース君がそう言うと、天候が晴れてきた。
 まるで、ノース君の力を私に見せつけるかのような天候の変化だ。
 もしやキノコマスターには、天候をも自由に操る力があるのだろうか?

 すると、ズシン、ズシンと音を立てて、マキシマム・マッシュルーム・カイザーがこちらに向かってくる。
 おそらくノース君が呼んだのだろう。
 マキシマム・マッシュルームがノース君に傅くとキノコ・キャッスルに変わっていく。

「…………」

 もうなにも言うまい。
 ツッコミを入れたら負けだ。
 マキシマム・マッシュルーム・カイザー。あれは家だ。兵器兼家だ。
 そういうものだと、思い込もう。

「それじゃあ、お父さん。ああ、アメリアさんもこちらにどうぞ」
「ああ、アメリア君も現実に帰ってきたまえ、いくら思考放棄した所で結果は変わらないよ」

 そう問いかけると、アメリア君がビクリと震える。

「……ハ、ハイ。ワカリマシタ。オーダー様」

 思考放棄の次は、現実逃避か。
 完全に目が死んでしまっているが、羨ましいぞ、アメリア君。
 私の目もとっくに死んだ魚のような目をしている。そんな気がする。

「さあ、ノース君に着いて行こう」

 アメリア君の肩にそっと手を当てると、私の袖を引っ張りながら案内しようとするノース君に作り笑顔を向けながら着いて行く。

 そこから先の記憶はあまりなかった。
 次々と紹介されるキノコ型モンスター……もとい、マッシュルーム兵。
 様々な種類のキノコ。そして、キノコ・キャッスルに住むハーフエルフ。
 私の記憶領域のほとんどはキノコで一杯だ。

「どうでしたか? お父さん!」
「う、うん……。とても素晴らしかったよ。流石は私の息子だな。あははははっ……」

 最後に記憶しているのは、満面の笑みを浮かべるノース君と、死んだ目をしたアメリア君の表情だけだった。
しおりを挟む
感想 371

あなたにおすすめの小説

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下
ファンタジー
 鍛冶師ハルクは幼い時から、道具作りが好きな青年。だが独裁的な国王によって、不本意な戦争武器ばかり作らされてきた。  そんなある日、ハルクは国王によって国外追放されてしまう。自分の力不足をなげきつつ、生きていくために隣の小国で冒険者になる。だが多くの冒険者が「生産職のクセに冒険者とか、馬鹿か!」と嘲笑してきた。  しかし人々は知らなかった。実はハルクが地上でただ一人《鍛冶女神の加護》を有することを。彼が真心込めて作り出す道具と武具は地味だが、全て《超伝説級》に仕上がる秘密を。それを知らずに追放した独裁王国は衰退していく。  これはモノ作りが好きな純粋な青年が、色んな人たちを助けて認められ、《超伝説級》武具道具で活躍していく物語である。「えっ…聖剣? いえ、これは普通の短剣ですが、どうかしましたか?」

虹色のプレゼントボックス

紀道侑
ファンタジー
安田君26歳が自宅でカップ麺を食ってたら部屋ごと異世界に飛ばされるお話です。 安田君はおかしな思考回路の持ち主でわけのわからないことばっかりやります。 わけのわからない彼は異世界に転移してからわけのわからないチート能力を獲得します。 余計わけのわからない人物に進化します。 作中で起きた事件の真相に迫るのが早いです。 本当に尋常じゃないほど早いです。 残念ながらハーレムは無いです。 全年齢対象で男女問わず気軽に読めるゆるいゆる~いストーリーになっていると思いますので、お気軽にお読みください。 未公開含めて30話分くらいあったのですが、全部行間がおかしくなっていたので、再アップしています。 行間おかしくなっていることに朝の4時に気づいて右往左往して泣く泣く作品を削除しました。 なかなかに最悪な気分になりました。 お気に入りしてくださった方、申し訳ありません。 というかしょっちゅう二行も三行も行間が空いてる小説をよくお気に入りしてくださいましたね。 お気に入りしてくださった方々には幸せになってほしいです。

士官学校の爆笑王 ~ヴァイリス英雄譚~

まつおさん
ファンタジー
以前の記憶もなく、突如として異世界の士官学校に入学することになったある男。 入学試験のダンジョンで大活躍してはみたものの、入学してわかったことは、彼には剣や弓の腕前も、魔法の才能も、その他あらゆる才能にも恵まれていないということだった。 だが、なぜか彼の周囲には笑いが絶えない。 「士官学校の爆笑王」と呼ばれたそんな彼が、やがてヴァイリスの英雄と呼ばれるなどと、いったい誰が想像し得ただろうか。

風は遠き地に

香月 優希
ファンタジー
<竜の伝説が息づく大地で、十七歳の青年は己を翻弄する逆境を打破できるのか> 啼義(ナギ)は赤ん坊の頃、"竜の背"と呼ばれるドラガーナ山脈の火山噴火の際に、靂(レキ)に拾われ、彼が治める羅沙(ラージャ)の社(やしろ)で育つ。 だが17歳になった啼義に突き付けられたのは、彼の持つ力が、羅沙の社の信仰と相反するものであるという現実だった。そこから絡(もつ)れて行く運命に翻弄され、彼は遂に故郷を追われてしまう。 体ひとつで未知なる地へ放り出された啼義は、新たな仲間との絆を深めながら、自らの道を探し、切り開こうと奮闘する。 テーマは"逆境の打破"。試練を力に変えて、希望を紡ぐ冒険ファンタジー。 <この作品は、小説家になろう、カクヨム、pixivでも掲載しています>

神様!僕の邪魔をしないで下さい

縁 遊
ファンタジー
可愛い嫁をもらいラブラブな新婚生活を予想していたのに…実際は王位を巡る争いやら神様とのケンカやらいろいろあり嫁との時間が取れない毎日。 誰か僕に嫁と2人で過ごせる時間をください! そう思いながら毎日を過ごしている王子のお話です。 ※この物語は『神様!モフモフに囲まれる生活を希望しましたが自分がモフモフになるなんて聞いていません』のスピンオフです。

トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。

ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。 冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。 その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。 その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。 ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。 新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。 いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。 これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。 そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。 そんな物語です。 多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。 内容としては、ざまぁ系になると思います。 気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。

処理中です...