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第二章 アベコベの街
第63話 『キノコマスター』の力に気付く街の支配者
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アベコベの街にある領主の住む館。
この街の領主オーダー・インベーションは、椅子に座りながら笑みを浮かべていた。
「ふふふっ、これは興味深い……」
「どうされたのですか? オーダー様」
「ん? ああ、実は私のギフトでノース君について探りを入れているのだが、あそこに見える巨大なキノコ……あれは『キノコマスター』のギフトによるものでないかとの仮説が立ったのだよ」
「そうなのですか!?」
「ああっ……」
目の前に浮かんでいる透明なボードに地図を浮かべると、定点観測したノースのこれまでの行動履歴を点で表示していく。
そして、点と点を線で結ぶと、この街と巨大なキノコが線で繋がった。
六時間ごとに定点観測した結果、昼間はこの街に、夜はあの巨大なキノコの下にいることがわかっている。当然、夜にこの街を出た記録もない。
どうやって移動しているかはわからないが、間違いなくギフトの力によるものだろう。
「しかし、もしそうだとすると、とんでもないギフトですね。冒険者協会に照会した所、『キノコマスター』は『キノコを召喚するギフト』だと本人から直接話を聞いたようですが……」
「ああ、まったくだ。『キノコマスター』であるノース君が夜にあの巨大なキノコの下に戻っていることから、あのキノコは家としての役割を果たしていると見て間違いないだろう。そして『勇者』であるブレイブ君の報告……少なくとも我々が普段口にするようなキノコを召喚するギフトでないことだけは確かだ……」
私がそう言うと、アメリア君が唖然とした表情を浮かべる。
おそらく、そんな危険人物を放置していて問題ないのかと考えているのだろう。
「そ、そんな危険人物を放置していて大丈夫なのですか?」
ほら、思った通りだ。
やはり、アメリア君の思考は読みやすい。
「ふむ。私も一度だけノース君と会ったことがある。まあ、偶然だったが、その時の感触からして、危険人物ではないように感じた。しかし、万が一ということもある」
念のため思考を弄っておこう。
そう考えた私は、目の前に浮かんでいる透明なボードにノース君を表示させ、思考をセーフティに書き換えようとする。
「うん? これはどういうことだろうね?」
思考の書き換えができない??
いままで、そんなことはなかった。
「どうかされたのですか?」
「いや……まあ、大したことでは……あるのかな?」
この私の街に住んでいる人間の中で唯一、私の意のままに操ることのできない人間がいる。
これはいけない。許されない。
いや、絶対に許してはいけないことだ。
しかし、どうする?
『勇者』ブレイブを調査に向かわせた所、頭にキノコを生やし帰ってきた。
記憶を書き換えられているようで、ブレイブの記憶を読み取ることもできない。
辛うじてピンハネ君の記憶を読み取ることには成功したが、支離滅裂。
わかったことといえば、強大な力を持っている。ただそれだけだ。
「ふむ、困ったね」
正直、この街に危害を加えないという確約があるのであれば、いまのままでも問題ない。それにあの場所は、国境。守護代わりに置いておくというのも一つの手段。
「スカウト致しますか?」
「ふむ。スカウトか……」
あれほどの力を持つ者が、この街に仕官してくれるだろうか?
いや、ダメ元でスカウトしてみるか……。
「いいね。それでは、ノース君のスカウトを君に頼もうかな?」
「はい。お任せ下さい。それで、スカウトに応じない場合はいかが致しますか?」
「そうだねえ……」
できれば殺しておきたいが、それも難しいだろうね。下手に敵に回し、あの巨大キノコを街にけしかけられても困る。
まあ、私の力を以ってすれば負けることはないだろうが、万が一ということもある。
「……私自らノース君に会いに行こうじゃないか」
「オーダー様自らですか!?」
アメリア君が驚いたかのような表情を浮かべている。
うん。アメリア君の反応は見ていて飽きることはない。
それではもっと驚いてもらおうかな?
「ああ、なにか問題でもあるかい?」
「い、いえ……」
「そうだよね。問題なんて一切ない。もしスカウトを断られた場合、ノース君の持つ力次第で彼を私の食客として迎えようと思うんだけど、どうかな?」
「あの者をオーダー様の食客として迎えるのですか!?」
「いや……やはり食客として迎えいれるのは止めにしよう。代わりに彼を私の養子に迎え入れることにするよ」
そう言うと、アメリア君が驚愕といった表情を浮かべる。
「あの者は孤児院出身ですよ!? 辺境伯であらせられるオーダー様とはあまりに身分が違いすぎます!」
「ほう。そういえば、ノース君は孤児院出身だったね。それならば丁度いい。養子ではなく。息子として迎えようか」
「オーダー様っ!」
想像以上の驚きようだ。
これだからアメリア君をおちょくるのはやめられない。
だが……。
「まあ落ち着きたまえアメリア君。花のように可憐な顔立ちが台無しだよ?」
「オーダー様、私をからかうのはおやめ下さい!」
「いや、私は本気だよ。場合によっては本気でノース君を取りにいく。彼は私の力が及ばない存在だからね。首輪を付けていないと怖いじゃないか……」
「で、ですが……」
「それに彼はフラナガン院長が育てあげた孤児。問題ないさ……きっとね」
そう呟くと、私は高らかと笑った。
この街の領主オーダー・インベーションは、椅子に座りながら笑みを浮かべていた。
「ふふふっ、これは興味深い……」
「どうされたのですか? オーダー様」
「ん? ああ、実は私のギフトでノース君について探りを入れているのだが、あそこに見える巨大なキノコ……あれは『キノコマスター』のギフトによるものでないかとの仮説が立ったのだよ」
「そうなのですか!?」
「ああっ……」
目の前に浮かんでいる透明なボードに地図を浮かべると、定点観測したノースのこれまでの行動履歴を点で表示していく。
そして、点と点を線で結ぶと、この街と巨大なキノコが線で繋がった。
六時間ごとに定点観測した結果、昼間はこの街に、夜はあの巨大なキノコの下にいることがわかっている。当然、夜にこの街を出た記録もない。
どうやって移動しているかはわからないが、間違いなくギフトの力によるものだろう。
「しかし、もしそうだとすると、とんでもないギフトですね。冒険者協会に照会した所、『キノコマスター』は『キノコを召喚するギフト』だと本人から直接話を聞いたようですが……」
「ああ、まったくだ。『キノコマスター』であるノース君が夜にあの巨大なキノコの下に戻っていることから、あのキノコは家としての役割を果たしていると見て間違いないだろう。そして『勇者』であるブレイブ君の報告……少なくとも我々が普段口にするようなキノコを召喚するギフトでないことだけは確かだ……」
私がそう言うと、アメリア君が唖然とした表情を浮かべる。
おそらく、そんな危険人物を放置していて問題ないのかと考えているのだろう。
「そ、そんな危険人物を放置していて大丈夫なのですか?」
ほら、思った通りだ。
やはり、アメリア君の思考は読みやすい。
「ふむ。私も一度だけノース君と会ったことがある。まあ、偶然だったが、その時の感触からして、危険人物ではないように感じた。しかし、万が一ということもある」
念のため思考を弄っておこう。
そう考えた私は、目の前に浮かんでいる透明なボードにノース君を表示させ、思考をセーフティに書き換えようとする。
「うん? これはどういうことだろうね?」
思考の書き換えができない??
いままで、そんなことはなかった。
「どうかされたのですか?」
「いや……まあ、大したことでは……あるのかな?」
この私の街に住んでいる人間の中で唯一、私の意のままに操ることのできない人間がいる。
これはいけない。許されない。
いや、絶対に許してはいけないことだ。
しかし、どうする?
『勇者』ブレイブを調査に向かわせた所、頭にキノコを生やし帰ってきた。
記憶を書き換えられているようで、ブレイブの記憶を読み取ることもできない。
辛うじてピンハネ君の記憶を読み取ることには成功したが、支離滅裂。
わかったことといえば、強大な力を持っている。ただそれだけだ。
「ふむ、困ったね」
正直、この街に危害を加えないという確約があるのであれば、いまのままでも問題ない。それにあの場所は、国境。守護代わりに置いておくというのも一つの手段。
「スカウト致しますか?」
「ふむ。スカウトか……」
あれほどの力を持つ者が、この街に仕官してくれるだろうか?
いや、ダメ元でスカウトしてみるか……。
「いいね。それでは、ノース君のスカウトを君に頼もうかな?」
「はい。お任せ下さい。それで、スカウトに応じない場合はいかが致しますか?」
「そうだねえ……」
できれば殺しておきたいが、それも難しいだろうね。下手に敵に回し、あの巨大キノコを街にけしかけられても困る。
まあ、私の力を以ってすれば負けることはないだろうが、万が一ということもある。
「……私自らノース君に会いに行こうじゃないか」
「オーダー様自らですか!?」
アメリア君が驚いたかのような表情を浮かべている。
うん。アメリア君の反応は見ていて飽きることはない。
それではもっと驚いてもらおうかな?
「ああ、なにか問題でもあるかい?」
「い、いえ……」
「そうだよね。問題なんて一切ない。もしスカウトを断られた場合、ノース君の持つ力次第で彼を私の食客として迎えようと思うんだけど、どうかな?」
「あの者をオーダー様の食客として迎えるのですか!?」
「いや……やはり食客として迎えいれるのは止めにしよう。代わりに彼を私の養子に迎え入れることにするよ」
そう言うと、アメリア君が驚愕といった表情を浮かべる。
「あの者は孤児院出身ですよ!? 辺境伯であらせられるオーダー様とはあまりに身分が違いすぎます!」
「ほう。そういえば、ノース君は孤児院出身だったね。それならば丁度いい。養子ではなく。息子として迎えようか」
「オーダー様っ!」
想像以上の驚きようだ。
これだからアメリア君をおちょくるのはやめられない。
だが……。
「まあ落ち着きたまえアメリア君。花のように可憐な顔立ちが台無しだよ?」
「オーダー様、私をからかうのはおやめ下さい!」
「いや、私は本気だよ。場合によっては本気でノース君を取りにいく。彼は私の力が及ばない存在だからね。首輪を付けていないと怖いじゃないか……」
「で、ですが……」
「それに彼はフラナガン院長が育てあげた孤児。問題ないさ……きっとね」
そう呟くと、私は高らかと笑った。
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