172 / 367
第172話 区議会議員②
しおりを挟む
融解したワインボトルを振り上げたままの恰好で固まっている自称知人。
一体、どうしたのだろうか?
「うん? どうした?」
「……い、いえ、何でもっ!?」
いや、何でもない訳ないだろ……。
そんな事を思いながら、先ほどまで溶けていなかった瓶に俺は視線を向ける。
「そっか……それで、何で溶けた瓶持ってんの?」
「あ、あはははっ……何でだろうね?」
そう尋ねると、自称知人はその瓶を背後に隠し、苦笑いを浮かべた。
うーん。歯切れが悪い。
もしかして、俺に危害を与えようとして、エレメンタルに反撃されたのか?
エレメンタルに視線を向けると、何かを言いた気にチカチカ光る。
うん。わからん。
まあ確かに、現実世界では、あまり人に直接的な攻撃を行わない様にとお願いしてあるけど……。
……まあいいか。
エレメンタルが居れば、安心だ。
以前、エレメンタルの存在を過信し過ぎて刺された事もあったがあれはレアケース。
自称知人は背後に隠した瓶を後ろに放ると、何事もなかったかの様に振舞う。
「あ、あれはファッション。そう。今、流行りのファッションアイテムなんだ!」
「……そうなんだ」
言い訳が苦しい。ファッションだと言い張るなら、何故、そのファッションアイテムを捨てたのだろうか。意味がわからない。
とりあえず、そう呟くと、自称知人が『ウッカリしてました』見たいな表情を浮かべる。
「あっ、そんな事より店に入りましょう」
急に丁寧語になった自称知人。
さっきまでの馴れ馴れしい砕けた口調はどこに行ったのだろうか?
疑問に思う事ばかりだ。
自称知人は思い出したかの様にそう言って、店の扉に手をかける。
しかし、当然ながら扉は開く気配を見せない。
建付けが悪いのだろうか?
チラリと扉に視線を向けると、扉にクローズと書かれたプレートがかかっている事に気付く。えらく達筆で書かれていて、全然気付かなかった。
自称知人もそれに気付いた様で、扉を開けようとする手を止める。
そして、気まずそうに振り向くと、苦笑いを浮かべた。
「あははははっ……まだ、やってなかったみたいです」
そして、腕時計を見ると、
「あっ、バイトの時間だっ! すいません。ちょっと、バイトの時間が迫ってるんで今日はこれで失礼します!」と言って走り去っていった。
バイトか。大事だよね。バイト。
しかし……。
「一体何だったんだ?」
意味がわからない。
まあ、俺としては一人飲みする方が好きだし、自称知人と酒を飲むのはちょっとなーと思っていたので万々歳だ。
「……まあ、いいか」
ため息一つ吐きスマホを取り出すと、昼から飲む事のできる場所を探す。
すると、近くに餃子の王将があった。
最近、餃子を食べていなかったし、つまみも豊富。その上、ビールも飲める。
「とりあえず、ここにするか……」
そう呟くと、俺は餃子の王将に向かう事にした。
餃子の王将に向かい歩いていると、またもや変な奴に遭遇する。
「おい。兄ちゃん。ちいとツラ貸せや……おう?」
そう言って喧嘩をふっかけてきたのは、釘バットを持ったヤンキー。
つまり、アホである。
「ああっ? お前正気か?」
町中で釘バットなんかひけらかして、軽犯罪法違反で捕まっても知らないぞ?
俺がそう言うと、釘バットを持ったヤンキーは、俺に近付きメンチを切ってきた。
何なのだろうか?
もしかして、オヤジ狩り的な何かなのだろうか?
「なめてんじゃねーぞ。兄ちゃん……いいからツラ貸せって言ってんだよ!」
兄ちゃんと言う事は年上か?
しかし、顔が近い。つばも飛んできて不快だ。
「いや、貸す訳ねーだろ。そんな事よりも、お前、さっさと、その釘バット早くしまえって……こんな町中で釘バットを持ってくるなんて何を考えているんだ?」
俺がそう諭してやると、ヤンキーは顔を真っ赤に染めて、釘バットをアスファルトに打ち付けた。
「うるせぇな! 御託はいいからツラ貸せっていってんだよっ!」
やはりアホの相手は疲れる。
恐らく脳に致命的な欠陥があるのだろう。
もしくは、ヤンキー漫画の見過ぎだ。
ヤンキー漫画に影響されて現実世界と漫画世界が混ざり、漫画の世界ではアリだった設定が現実世界にも適用されると、そう錯覚しているのかも知れない。
対話を諦めた俺は、ヤンキーから距離を取る。
「あん? なんだテメェ! 俺にビビってんのか? あっ!?」
距離を取った瞬間、恫喝してくるヤンキー。
「あーはいはい。わかった。わかった。話は後で聞くから、警察から解放されたらまた連絡してよ。そうしたら付き合ってやるからさ」
「あっ? 警察?? 何を言っていやがる! おいこら待てよっ!」
ヤンキーの後ろに青と黒の制服を着た警察官の姿を確認すると、俺はヤンキーに背を向ける。すると、そんな俺の態度に怒り心頭なヤンキーは釘バットを思い切り振り上げると、ドスの聞いたでただ一言「ぶっ殺す!」と声を上げた。
しかし、ここは法治国家日本。ヤンキーがいくら喚こうと俺に指一本触れる事はできない。
それは何故か……。警察官と思わしき二人組が、ヤンキーの背後にいる為だ。
「ああ、君。釘バットを下ろして。ちょっと、話を聞かせてくれるかな?」
そう言って、釘バットを振り上げたヤンキーに声をかける警察官。
その瞬間、ヤンキーは顔を強張らせる。
「……へっ?」
釘バットを振り上げたまま、後ろを振り向くヤンキー。
警察官は硬い表情を浮かべたまま、釘バットを手に掴む。
「へっ? じゃないよ。君ね。釘バットなんて危ない物を振り回しちゃダメじゃないか。ちょっと、署で話を聞かせてくれるかな?」
「えっ? はっ? い、いや、俺は、そういうつもりじゃ……」
「それじゃあ、どういうつもりだったんだい? 人に危害を加える気で釘バットを振ったんじゃないの? 今、『ぶっ殺す』って言っていたよね?」
警察官の言葉に、戸惑うヤンキー。
「い、いや、違うんですっ! お、俺はあいつに……!」
「あいつと言うのは誰の事だね?」
「へっ?」
前を向くと、百万円を手に入れる為の対象である高橋翔が消えている事に気付く。
「そ、そんな馬鹿なっ……お、俺は、あいつに……」
「ああ、詳しい話は署で聞くから……」
ヤンキーに視線を向けた警察官はため息を吐くと、釘バットを押収し、新橋駅近くにある愛宕警察署に連行した。
◇◆◇
自称知人に絡まれ、おやじ狩りに会い、俺は辟易としていた。
「……今日は厄日か何かか?」
折角、ゲーム世界もゴミ問題から落ち着いてきたというのに……。
現実世界に戻ってきた途端これだ。
何だ? 俺は、呪われているのだろうか?
普通、釘バットを持った奴に襲われるか?
俺は、あり得ない非日常に混乱していた。
野生の気配で危機を脱したが、まだまだ悪い事が起きそうな予感がする。
これだから、俺は、現実世界に帰りたくなかったのだ。
そんな中、スマホでネットニュースを見て見ると、近く、北極評議会が突如、北極に現れたユグドラシルへの侵入を試みようとする動きが流されていた。
正直、滅茶苦茶、迷惑だ。下手をすれば死人すら出し得る愚行である。
「相当な死人が出るだろうな……」
調査に向かった人はまず一人も帰ってくる事はできないだろう。
だって、この世界にレベルという概念自体存在しないし、レベル三百の俺ですら、ユグドラシルを護るように張られた薄い膜の中を徘徊する巨大な毒蛇ヨルムンガルドを倒せるかわからない。
とはいえ、俺にできる事は何もない。
「……とりあえず、餃子の王将に向かうか」
そう呟いた瞬間、ナイフを持った男が俺の前に立ち塞がった。
「お、おう……」
驚きである。まさか、ナイフを持った凶悪犯に出くわすとは思いもしなかった。
普通に銃刀法違反である。
「ひ、百万円っ!」
「はっ? 百万円??」
百万円がどうかしたのだろうか?
もしかして、俺の事をハントすると百万円貰えるとか?
懸賞金とか、かかってんの? 俺っ!?
そう言うと、男はナイフを持ち、俺に向かって突撃してくる。
「百万円、百万円、百万円、百万円、ひゃくまんえーんっ!」
「う、うわぁああああっ!」
͡怖っ!?
百万円連呼しながらナイフを持って突撃してくる男、めっちゃ怖い。
俺が慌て逃げ惑っていると、エレメンタルの熱線がナイフの刃先を消し飛ばす。
その瞬間、男は目を剥いた。
「なあっ!?」
ゆっくり減速し、膝から崩れ落ちる男。
そして、柄だけになったナイフを落とすと、四つん這いになり泣き始めた。
「…………」
ど、どうしたらいいんだろうか。この状況……。
とりあえず、通報した方がいいのだろうか?
しかし、事情聴取に付き合うのはちょっと面倒臭い。
うーん。どうしよう。これ……。
そんな事を考えていると、誰かが警察に通報したのだろう。
「こっちです!」と警察官を誘導する人の声が聞こえてきた。
とりあえず、巻き込まれたくない俺は、何事も無かったかのようにその場から離れると、餃子の王将に向かって歩き始めた。
「うん。やっぱり、事情聴取は避けるに限るな……」
まあ、春だし?
春になると頭のおかしい人が多く湧くよね。
そんな奴らに一々構っていられない。
基本的に俺は警察に係り合いになりたくないのだ。
事情聴取なんかに時間を取られたくないともいう。
「……さてと、何を注文しようかな?」
餃子の王将についた俺は、一番奥のテーブルに座るとメニュー表を手に取る。
「新橋駅前店オリジナルメニューの炒飯セットか……」
炒飯に中華スープ、よだれ鶏に餃子が六個付くセットメニューだ。
中々良いな。しかし、今日の俺はただ食事をしに来た訳ではない。
昼間から酒を飲みに来たのだ。美味いつまみを食べながらな。
「すいませーん。注文いいですか?」
手を軽く上げると、店員さんが水を持ってやってくる。
「お待たせしました。注文をどうぞ」
「……それじゃあ、餃子と油淋鶏、揚げそばと回鍋肉、あとビールをお願いします。ビールは料理と一緒に貰えるとありがたいです」
「はい。ご注文ありがとうございます。餃子と油淋鶏、揚げそばと回鍋肉、生ビールですね。少々お待ち下さいませ」
そう言うと、店員さんは厨房に戻っていった。
俺が注文したメニューは、小皿で味わう事のできるジャストサイズメニューなのだ。
料理が来るのを待っている間、店員さんが持ってきた水を口に含みながら、スマホで異世界系の小説を読んでいると、店内にパンクなファッションをした男が入ってきた。
---------------------------------------------------------------
2022年11月3日AM7時更新となります。
一体、どうしたのだろうか?
「うん? どうした?」
「……い、いえ、何でもっ!?」
いや、何でもない訳ないだろ……。
そんな事を思いながら、先ほどまで溶けていなかった瓶に俺は視線を向ける。
「そっか……それで、何で溶けた瓶持ってんの?」
「あ、あはははっ……何でだろうね?」
そう尋ねると、自称知人はその瓶を背後に隠し、苦笑いを浮かべた。
うーん。歯切れが悪い。
もしかして、俺に危害を与えようとして、エレメンタルに反撃されたのか?
エレメンタルに視線を向けると、何かを言いた気にチカチカ光る。
うん。わからん。
まあ確かに、現実世界では、あまり人に直接的な攻撃を行わない様にとお願いしてあるけど……。
……まあいいか。
エレメンタルが居れば、安心だ。
以前、エレメンタルの存在を過信し過ぎて刺された事もあったがあれはレアケース。
自称知人は背後に隠した瓶を後ろに放ると、何事もなかったかの様に振舞う。
「あ、あれはファッション。そう。今、流行りのファッションアイテムなんだ!」
「……そうなんだ」
言い訳が苦しい。ファッションだと言い張るなら、何故、そのファッションアイテムを捨てたのだろうか。意味がわからない。
とりあえず、そう呟くと、自称知人が『ウッカリしてました』見たいな表情を浮かべる。
「あっ、そんな事より店に入りましょう」
急に丁寧語になった自称知人。
さっきまでの馴れ馴れしい砕けた口調はどこに行ったのだろうか?
疑問に思う事ばかりだ。
自称知人は思い出したかの様にそう言って、店の扉に手をかける。
しかし、当然ながら扉は開く気配を見せない。
建付けが悪いのだろうか?
チラリと扉に視線を向けると、扉にクローズと書かれたプレートがかかっている事に気付く。えらく達筆で書かれていて、全然気付かなかった。
自称知人もそれに気付いた様で、扉を開けようとする手を止める。
そして、気まずそうに振り向くと、苦笑いを浮かべた。
「あははははっ……まだ、やってなかったみたいです」
そして、腕時計を見ると、
「あっ、バイトの時間だっ! すいません。ちょっと、バイトの時間が迫ってるんで今日はこれで失礼します!」と言って走り去っていった。
バイトか。大事だよね。バイト。
しかし……。
「一体何だったんだ?」
意味がわからない。
まあ、俺としては一人飲みする方が好きだし、自称知人と酒を飲むのはちょっとなーと思っていたので万々歳だ。
「……まあ、いいか」
ため息一つ吐きスマホを取り出すと、昼から飲む事のできる場所を探す。
すると、近くに餃子の王将があった。
最近、餃子を食べていなかったし、つまみも豊富。その上、ビールも飲める。
「とりあえず、ここにするか……」
そう呟くと、俺は餃子の王将に向かう事にした。
餃子の王将に向かい歩いていると、またもや変な奴に遭遇する。
「おい。兄ちゃん。ちいとツラ貸せや……おう?」
そう言って喧嘩をふっかけてきたのは、釘バットを持ったヤンキー。
つまり、アホである。
「ああっ? お前正気か?」
町中で釘バットなんかひけらかして、軽犯罪法違反で捕まっても知らないぞ?
俺がそう言うと、釘バットを持ったヤンキーは、俺に近付きメンチを切ってきた。
何なのだろうか?
もしかして、オヤジ狩り的な何かなのだろうか?
「なめてんじゃねーぞ。兄ちゃん……いいからツラ貸せって言ってんだよ!」
兄ちゃんと言う事は年上か?
しかし、顔が近い。つばも飛んできて不快だ。
「いや、貸す訳ねーだろ。そんな事よりも、お前、さっさと、その釘バット早くしまえって……こんな町中で釘バットを持ってくるなんて何を考えているんだ?」
俺がそう諭してやると、ヤンキーは顔を真っ赤に染めて、釘バットをアスファルトに打ち付けた。
「うるせぇな! 御託はいいからツラ貸せっていってんだよっ!」
やはりアホの相手は疲れる。
恐らく脳に致命的な欠陥があるのだろう。
もしくは、ヤンキー漫画の見過ぎだ。
ヤンキー漫画に影響されて現実世界と漫画世界が混ざり、漫画の世界ではアリだった設定が現実世界にも適用されると、そう錯覚しているのかも知れない。
対話を諦めた俺は、ヤンキーから距離を取る。
「あん? なんだテメェ! 俺にビビってんのか? あっ!?」
距離を取った瞬間、恫喝してくるヤンキー。
「あーはいはい。わかった。わかった。話は後で聞くから、警察から解放されたらまた連絡してよ。そうしたら付き合ってやるからさ」
「あっ? 警察?? 何を言っていやがる! おいこら待てよっ!」
ヤンキーの後ろに青と黒の制服を着た警察官の姿を確認すると、俺はヤンキーに背を向ける。すると、そんな俺の態度に怒り心頭なヤンキーは釘バットを思い切り振り上げると、ドスの聞いたでただ一言「ぶっ殺す!」と声を上げた。
しかし、ここは法治国家日本。ヤンキーがいくら喚こうと俺に指一本触れる事はできない。
それは何故か……。警察官と思わしき二人組が、ヤンキーの背後にいる為だ。
「ああ、君。釘バットを下ろして。ちょっと、話を聞かせてくれるかな?」
そう言って、釘バットを振り上げたヤンキーに声をかける警察官。
その瞬間、ヤンキーは顔を強張らせる。
「……へっ?」
釘バットを振り上げたまま、後ろを振り向くヤンキー。
警察官は硬い表情を浮かべたまま、釘バットを手に掴む。
「へっ? じゃないよ。君ね。釘バットなんて危ない物を振り回しちゃダメじゃないか。ちょっと、署で話を聞かせてくれるかな?」
「えっ? はっ? い、いや、俺は、そういうつもりじゃ……」
「それじゃあ、どういうつもりだったんだい? 人に危害を加える気で釘バットを振ったんじゃないの? 今、『ぶっ殺す』って言っていたよね?」
警察官の言葉に、戸惑うヤンキー。
「い、いや、違うんですっ! お、俺はあいつに……!」
「あいつと言うのは誰の事だね?」
「へっ?」
前を向くと、百万円を手に入れる為の対象である高橋翔が消えている事に気付く。
「そ、そんな馬鹿なっ……お、俺は、あいつに……」
「ああ、詳しい話は署で聞くから……」
ヤンキーに視線を向けた警察官はため息を吐くと、釘バットを押収し、新橋駅近くにある愛宕警察署に連行した。
◇◆◇
自称知人に絡まれ、おやじ狩りに会い、俺は辟易としていた。
「……今日は厄日か何かか?」
折角、ゲーム世界もゴミ問題から落ち着いてきたというのに……。
現実世界に戻ってきた途端これだ。
何だ? 俺は、呪われているのだろうか?
普通、釘バットを持った奴に襲われるか?
俺は、あり得ない非日常に混乱していた。
野生の気配で危機を脱したが、まだまだ悪い事が起きそうな予感がする。
これだから、俺は、現実世界に帰りたくなかったのだ。
そんな中、スマホでネットニュースを見て見ると、近く、北極評議会が突如、北極に現れたユグドラシルへの侵入を試みようとする動きが流されていた。
正直、滅茶苦茶、迷惑だ。下手をすれば死人すら出し得る愚行である。
「相当な死人が出るだろうな……」
調査に向かった人はまず一人も帰ってくる事はできないだろう。
だって、この世界にレベルという概念自体存在しないし、レベル三百の俺ですら、ユグドラシルを護るように張られた薄い膜の中を徘徊する巨大な毒蛇ヨルムンガルドを倒せるかわからない。
とはいえ、俺にできる事は何もない。
「……とりあえず、餃子の王将に向かうか」
そう呟いた瞬間、ナイフを持った男が俺の前に立ち塞がった。
「お、おう……」
驚きである。まさか、ナイフを持った凶悪犯に出くわすとは思いもしなかった。
普通に銃刀法違反である。
「ひ、百万円っ!」
「はっ? 百万円??」
百万円がどうかしたのだろうか?
もしかして、俺の事をハントすると百万円貰えるとか?
懸賞金とか、かかってんの? 俺っ!?
そう言うと、男はナイフを持ち、俺に向かって突撃してくる。
「百万円、百万円、百万円、百万円、ひゃくまんえーんっ!」
「う、うわぁああああっ!」
͡怖っ!?
百万円連呼しながらナイフを持って突撃してくる男、めっちゃ怖い。
俺が慌て逃げ惑っていると、エレメンタルの熱線がナイフの刃先を消し飛ばす。
その瞬間、男は目を剥いた。
「なあっ!?」
ゆっくり減速し、膝から崩れ落ちる男。
そして、柄だけになったナイフを落とすと、四つん這いになり泣き始めた。
「…………」
ど、どうしたらいいんだろうか。この状況……。
とりあえず、通報した方がいいのだろうか?
しかし、事情聴取に付き合うのはちょっと面倒臭い。
うーん。どうしよう。これ……。
そんな事を考えていると、誰かが警察に通報したのだろう。
「こっちです!」と警察官を誘導する人の声が聞こえてきた。
とりあえず、巻き込まれたくない俺は、何事も無かったかのようにその場から離れると、餃子の王将に向かって歩き始めた。
「うん。やっぱり、事情聴取は避けるに限るな……」
まあ、春だし?
春になると頭のおかしい人が多く湧くよね。
そんな奴らに一々構っていられない。
基本的に俺は警察に係り合いになりたくないのだ。
事情聴取なんかに時間を取られたくないともいう。
「……さてと、何を注文しようかな?」
餃子の王将についた俺は、一番奥のテーブルに座るとメニュー表を手に取る。
「新橋駅前店オリジナルメニューの炒飯セットか……」
炒飯に中華スープ、よだれ鶏に餃子が六個付くセットメニューだ。
中々良いな。しかし、今日の俺はただ食事をしに来た訳ではない。
昼間から酒を飲みに来たのだ。美味いつまみを食べながらな。
「すいませーん。注文いいですか?」
手を軽く上げると、店員さんが水を持ってやってくる。
「お待たせしました。注文をどうぞ」
「……それじゃあ、餃子と油淋鶏、揚げそばと回鍋肉、あとビールをお願いします。ビールは料理と一緒に貰えるとありがたいです」
「はい。ご注文ありがとうございます。餃子と油淋鶏、揚げそばと回鍋肉、生ビールですね。少々お待ち下さいませ」
そう言うと、店員さんは厨房に戻っていった。
俺が注文したメニューは、小皿で味わう事のできるジャストサイズメニューなのだ。
料理が来るのを待っている間、店員さんが持ってきた水を口に含みながら、スマホで異世界系の小説を読んでいると、店内にパンクなファッションをした男が入ってきた。
---------------------------------------------------------------
2022年11月3日AM7時更新となります。
12
お気に入りに追加
1,093
あなたにおすすめの小説
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。
最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。
自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。
そして、その価値観がずれているということも。
これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。
※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。
基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。
魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら
キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。
しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。
妹は、私から婚約相手を奪い取った。
いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。
流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。
そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。
それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。
彼は、後悔することになるだろう。
そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。
2人は、大丈夫なのかしら。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね
カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。
本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。
俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。
どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。
だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。
ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。
かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。
当然のようにパーティは壊滅状態。
戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。
俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ!
===
【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる