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第161話 クソ宰相との交渉②
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信用できぬ者に期待する事は何一つない。
しかし、信用が置けないこの国の王族共は、『ムーブ・ユグドラシル』を持ち、利用価値のある俺を何とか自分の意のままに動かそうとするだろう。
まあ、俺の場合、ちょっかいをかけられたら勝手に倍返しで対処させて貰うので、宰相が何かしら働きかけてきても問題ないが、『ああああ』達は俺とは違う。
だからこそ、俺はまず『ムーブ・ユグドラシル』の回収から始める事にした。
『ああああ』達が『ムーブ・ユグドラシル』を持っている事は既に国側に知られている。しかし、ここでそれを取り上げてしまえば、カティ宰相も『ああああ』達から『ムーブ・ユグドラシル』の献上を求められる事もなくなる。
何せ、献上させようにも『ムーブ・ユグドラシル』自体がないのだ。
きっと、歯を食いしばり、机に拳をぶつける程、悔恨してくれる事だろう。
「さあ、お前等に預けた四十六個の『ムーブ・ユグドラシル』。耳揃えて返して貰うからな。一人一人、ちゃんと、この箱に入れていけ~」
そう言って、『ムーブ・ユグドラシル』を箱に入れるよう促していく。
すると、部下の一人が俺に抗議の声を上げた。
「何でだよ! お前、これ自由にしていいって言ってただろっ!」
「ああっ?」
そんな事、言っていませんが?
誰だ。そんな嘘八百を広めた奴。
犯人探しでもするかの様に視線を横に流していくと、ただ一人『ああああ』だけが俺から視線を外した。なるほど理解した。どうやら『ああああ』が根も葉もない噂を流したようだ。
とはいえ、ここでそんな事を言っても仕方がない。
犯人の顔は既に割れているがここはあえて見過ごして上げよう。
なんか話が長くなりそうだし……。
「……まあ、そういうのどうでもいいからさっさとこの箱に入れてね」
「納得できねーって、言ってんだろっ! 『ああああ』さん、言ってやって下さいよっ!」
「…………」
『ムーブ・ユグドラシル』を取り上げられる事に納得いかない部下の言葉を聞き『ああああ』が俺の前に出てくる。
「『ああああ』お前……」
そして、綺麗な土下座を極めた。
「す、すいませんでしたぁぁぁぁ!」
そんな、『ああああ』を見下ろしながら「はあっ……」とため息を吐くと、部下の一人が『ああああ』に発破をかける。
「ど、どうしちゃったんですか『ああああ』さんっ! 『ああああ』さん、特別ダンジョンを攻略した後、言っていたじゃないですかっ! もう。モブ・フェンリルの時代は終わりだってっ! これからは俺達の時代だって言っていたじゃないですかっ!」
そんな部下の発破を聞き、慌てふためく『ああああ』。
「ち、違うっ! いや、違わないけど、違うっ!」
「いや、どっちなんだよ……」
慌てふためく『ああああ』に呆れ顔を浮かべていると、『ああああ』は泣きながら俺に縋りついてくる。
「ち、違うんだって、カケルくぅん! 確かに言ったさ。そう言ったさっ! でも、本心は違う。ちょっと、調子に乗っちゃただけなんだっ! そう。ちょっと調子に乗って言ってしまっただけなんだよぉ!」
呆れた言い訳だ。
まあ、図に乗ってしまう気持ちも分からなくはない。
この世界において特別ダンジョン攻略攻略はまさしく偉業だ。
特に現実となったゲーム世界では、ダンジョン攻略自体に死の危険性がある。
それを乗り越え、攻略情報なしで特別ダンジョンを攻略した事は素直に賞賛できる事だ。
まあ、そっちがその気ならそれでもいい。
「ふぅー。お前の気持ちはよくわかった。つまり、お前等は俺の庇護下から離れると、そういう事だな。お前達の気持ちはよくわかった……。希望する者は『ムーブ・ユグドラシル』は持っていて構わない……」
どうせ回数制限のある『ムーブ・ユグドラシル』だ。
回数制限はあるにしろ、持っているだけで国から目を付けられる代物だ。それでも持っていたいというのであれば仕方がない。
「……だだし、次、何かあってもお前達の事は助けないから、それで良ければ、その『ムーブ・ユグドラシル』を腕に嵌めるといい」
まず百パーセント。宰相辺りが何かを仕掛けてくるだろうが、自分の力で対処できるのであればそれでいい。
「……まあ、好きにするといいさ」
そう言って立ち上がると、『ああああ』を除く部下達が歓声を上げた。
まあ、上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』と特別ダンジョン『ユミル』を攻略した報酬として既に借金奴隷から解放してある。
俺の庇護下から離れるというのであれば、好きに生きるといい。
流石の俺も去る者は追いはしない。
「カ、カケルくぅんっ!」
ただ一人『ああああ』だけは、俺の庇護下に居たそうな顔をしているが無視しておいた。
『ああああ』はすぐに調子に乗る。
現実世界では、自宅警備員として四十年間、親の脛を齧り続けていた古参プレイヤーの一人。親の脛齧りとはいえ、現実世界の年齢で言えば、会社の課長クラスになっていてもおかしくはない年齢だ。
『ああああ』より低い年齢の俺が言うのも何だか変な気はするが、『ああああ』はもう何度か痛い目にあった方がいい。あいつには、ピンチになると誰かに頼る節がある。
箱に入ったままの『ムーブ・ユグドラシル』を置いたまま外に出ると、俺は笑みを浮かべた。
「……まあこれはこれでいいか」
『ああああ』達がいれば、カティ宰相も態々、俺にちょっかいをかけてくる事もないだろう。どの道『ムーブ・ユグドラシル』を使う事ができるのも数回限り。
既に上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』の離脱・攻略。そして、リージョン帝国からの帰還時と既に三回使っている為、後、一回か二回使えれば御の字状態にある。
下手したら帰ってこれなくなる可能性もあるし、流石のあいつ等もそんな状態の『ムーブ・ユグドラシル』で、新しい世界『スヴァルトアールヴヘイム』に向かおうとは考えもしないだろう。
カティ宰相に嵌められて『ムーブ・ユグドラシル』を献上したとしても、それはそれ。使えなくなった『ムーブ・ユグドラシル』を前に悔しがるカティ宰相の顔が目に浮かぶ。
そんな事を考えながら宿を出ると、数台の馬車が俺の目の前で停まった。
目の前で停止した馬車にぽかんとした表情を浮かべていると、馬車から男達が降りてくる。
「えっと、あなた達は……」
「初めまして、私はセントラル王国の財務大臣に仕えている徴税官・リヒトーと申します。他の者達は皆、私の部下です」
「はあ、そうなんですか……? それで、徴税官のリヒトーさんは何しにここへ? 宿泊をご希望でしたら申し訳ございません。只今、満室でして……」
「いえ、私達は宿に宿泊する為にここに来たのではありません」
そう言って、カバンから紙を取り出すと、俺の目の前でそれを広げた。
「……あなたには税金の虚偽・過少申告の嫌疑がかけられております」
「はっ?」
徴税官・リヒトーが出した用紙に視線を向けると、そこには捜索差押許可状と書かれている。そこには、セントラル王国の財務大臣・バランスシートと、宰相・カティの名が記されていた。
「……こちらは国が発行した捜索差押許可状です。これより、建物内を捜索させて頂きます」
「はっ、はああああぁぁぁぁっ!?」
あ、あのクソ宰相やりやがったぁぁぁぁ!
つーか、運営っ!
なんでゲーム世界に税金なんて概念持ってきてるんだよっ!
夢壊れるだろうがっ!!
まあ、ゲーム世界が現実になった以上、税金がないと国家運営がままならないだろうという事はなんとなくわかるけれどもっ!
「……では、早速捜索に移らせて頂きます」
「ち、ちょっと待てっ! お客さんが泊ってるんだっ! また今度にしてくれ、頼むからっ!」
俺がそう懇願するも、徴税官であるリヒトーは首を横に振る。
「残念ながらそうはいきません。証拠隠滅の危険性がありますので……。それに、今の時間は清掃の為、お客様が全員外に出ていることも確認済みです」
「えっ? そうなの?」
経営方針を伝えるだけで、基本、宿経営にノータッチだったから知らなかった。
「…………」
俺の反応に、不審なものでも見るかのような目を浮かべるリヒトー。
お客様気分で宿経営しているのだから仕方がないじゃないかと言いたい。
赤字が出ないだけ御の字だ。
……うん?
そう考えると、確かに過少申告しているのかもしれない。
だって、赤字が出ない程度の経営しかしてないし。
まあ、お客さんが全員外に出ているならそれでいい。
「じゃあ、どうぞ……」
「はい。それでは、皆さん。お願いします」
徴税官であるリヒトーがそう言うと馬車の中から兵士が次々と降りてくる。
総勢十人位だろうか?
兵士達はリヒトーと共に宿の中に入ると支配人に捜索差押許可状を見せ、捜索に乗り出した。
「徴税官です。皆さん、そのまま動かないで下さい」
完全に命令口調だ。
徴税官という単語を聞いた宿の職員達は、ピタリと手を止め、直立姿勢で動きを止める。
「えー、徴税官のリヒトーさんが虚偽・過少申告の嫌疑で宿の捜索に来ました。皆さんには大変ご迷惑をおかけ致しますが、出来る限り彼等に協力するようお願いします」
リヒトーに続き、職員達にそう命じると、リヒトーが俺に視線を向けてきた。
「カケル様と支配人に聞かせて頂きたい事がございます。どこか落ち着いてお話しできる場所はないでしょうか?」
「落ち着いて話ができる場所ですか?」
目配せすると、支配人がリヒトーの前に立つ。
「リヒトー様。どうぞこちらへ」
「はい。それでは皆さん。虱潰しにお願いしますね?」
リヒトーはそう兵士達に言い残すと支配人について行った。
当然、俺も支配人について行く。
「どうぞ、こちらの席におかけ下さい」
「はい。ありがとうございます」
そう言って支配人が案内したのは宿のエントランスホールにある待合所。
支配人と共にソファーに座ると、リヒトーは俺に視線を向けてくる。
「さて、捜索とは別件になりますが、一つだけ……。カケル様。何故、私達がここに捜索しに来たのかわかりますか?」
当然。捜索差押許可状。そこに書かれたカティ宰相のサインを見れば、一発で分かる。
「えっ? 狭量なカティ宰相辺りが、俺からムーブ・ユグドラシルを取り上げ損ねた嫌がらせの為にこんな事をしているんじゃないですか?」
歯に衣着せず、率直な意見を述べる。
すると、リヒトーはこめかみに青筋を浮かべた。
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2022年10月12日AM7時更新となります。
しかし、信用が置けないこの国の王族共は、『ムーブ・ユグドラシル』を持ち、利用価値のある俺を何とか自分の意のままに動かそうとするだろう。
まあ、俺の場合、ちょっかいをかけられたら勝手に倍返しで対処させて貰うので、宰相が何かしら働きかけてきても問題ないが、『ああああ』達は俺とは違う。
だからこそ、俺はまず『ムーブ・ユグドラシル』の回収から始める事にした。
『ああああ』達が『ムーブ・ユグドラシル』を持っている事は既に国側に知られている。しかし、ここでそれを取り上げてしまえば、カティ宰相も『ああああ』達から『ムーブ・ユグドラシル』の献上を求められる事もなくなる。
何せ、献上させようにも『ムーブ・ユグドラシル』自体がないのだ。
きっと、歯を食いしばり、机に拳をぶつける程、悔恨してくれる事だろう。
「さあ、お前等に預けた四十六個の『ムーブ・ユグドラシル』。耳揃えて返して貰うからな。一人一人、ちゃんと、この箱に入れていけ~」
そう言って、『ムーブ・ユグドラシル』を箱に入れるよう促していく。
すると、部下の一人が俺に抗議の声を上げた。
「何でだよ! お前、これ自由にしていいって言ってただろっ!」
「ああっ?」
そんな事、言っていませんが?
誰だ。そんな嘘八百を広めた奴。
犯人探しでもするかの様に視線を横に流していくと、ただ一人『ああああ』だけが俺から視線を外した。なるほど理解した。どうやら『ああああ』が根も葉もない噂を流したようだ。
とはいえ、ここでそんな事を言っても仕方がない。
犯人の顔は既に割れているがここはあえて見過ごして上げよう。
なんか話が長くなりそうだし……。
「……まあ、そういうのどうでもいいからさっさとこの箱に入れてね」
「納得できねーって、言ってんだろっ! 『ああああ』さん、言ってやって下さいよっ!」
「…………」
『ムーブ・ユグドラシル』を取り上げられる事に納得いかない部下の言葉を聞き『ああああ』が俺の前に出てくる。
「『ああああ』お前……」
そして、綺麗な土下座を極めた。
「す、すいませんでしたぁぁぁぁ!」
そんな、『ああああ』を見下ろしながら「はあっ……」とため息を吐くと、部下の一人が『ああああ』に発破をかける。
「ど、どうしちゃったんですか『ああああ』さんっ! 『ああああ』さん、特別ダンジョンを攻略した後、言っていたじゃないですかっ! もう。モブ・フェンリルの時代は終わりだってっ! これからは俺達の時代だって言っていたじゃないですかっ!」
そんな部下の発破を聞き、慌てふためく『ああああ』。
「ち、違うっ! いや、違わないけど、違うっ!」
「いや、どっちなんだよ……」
慌てふためく『ああああ』に呆れ顔を浮かべていると、『ああああ』は泣きながら俺に縋りついてくる。
「ち、違うんだって、カケルくぅん! 確かに言ったさ。そう言ったさっ! でも、本心は違う。ちょっと、調子に乗っちゃただけなんだっ! そう。ちょっと調子に乗って言ってしまっただけなんだよぉ!」
呆れた言い訳だ。
まあ、図に乗ってしまう気持ちも分からなくはない。
この世界において特別ダンジョン攻略攻略はまさしく偉業だ。
特に現実となったゲーム世界では、ダンジョン攻略自体に死の危険性がある。
それを乗り越え、攻略情報なしで特別ダンジョンを攻略した事は素直に賞賛できる事だ。
まあ、そっちがその気ならそれでもいい。
「ふぅー。お前の気持ちはよくわかった。つまり、お前等は俺の庇護下から離れると、そういう事だな。お前達の気持ちはよくわかった……。希望する者は『ムーブ・ユグドラシル』は持っていて構わない……」
どうせ回数制限のある『ムーブ・ユグドラシル』だ。
回数制限はあるにしろ、持っているだけで国から目を付けられる代物だ。それでも持っていたいというのであれば仕方がない。
「……だだし、次、何かあってもお前達の事は助けないから、それで良ければ、その『ムーブ・ユグドラシル』を腕に嵌めるといい」
まず百パーセント。宰相辺りが何かを仕掛けてくるだろうが、自分の力で対処できるのであればそれでいい。
「……まあ、好きにするといいさ」
そう言って立ち上がると、『ああああ』を除く部下達が歓声を上げた。
まあ、上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』と特別ダンジョン『ユミル』を攻略した報酬として既に借金奴隷から解放してある。
俺の庇護下から離れるというのであれば、好きに生きるといい。
流石の俺も去る者は追いはしない。
「カ、カケルくぅんっ!」
ただ一人『ああああ』だけは、俺の庇護下に居たそうな顔をしているが無視しておいた。
『ああああ』はすぐに調子に乗る。
現実世界では、自宅警備員として四十年間、親の脛を齧り続けていた古参プレイヤーの一人。親の脛齧りとはいえ、現実世界の年齢で言えば、会社の課長クラスになっていてもおかしくはない年齢だ。
『ああああ』より低い年齢の俺が言うのも何だか変な気はするが、『ああああ』はもう何度か痛い目にあった方がいい。あいつには、ピンチになると誰かに頼る節がある。
箱に入ったままの『ムーブ・ユグドラシル』を置いたまま外に出ると、俺は笑みを浮かべた。
「……まあこれはこれでいいか」
『ああああ』達がいれば、カティ宰相も態々、俺にちょっかいをかけてくる事もないだろう。どの道『ムーブ・ユグドラシル』を使う事ができるのも数回限り。
既に上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』の離脱・攻略。そして、リージョン帝国からの帰還時と既に三回使っている為、後、一回か二回使えれば御の字状態にある。
下手したら帰ってこれなくなる可能性もあるし、流石のあいつ等もそんな状態の『ムーブ・ユグドラシル』で、新しい世界『スヴァルトアールヴヘイム』に向かおうとは考えもしないだろう。
カティ宰相に嵌められて『ムーブ・ユグドラシル』を献上したとしても、それはそれ。使えなくなった『ムーブ・ユグドラシル』を前に悔しがるカティ宰相の顔が目に浮かぶ。
そんな事を考えながら宿を出ると、数台の馬車が俺の目の前で停まった。
目の前で停止した馬車にぽかんとした表情を浮かべていると、馬車から男達が降りてくる。
「えっと、あなた達は……」
「初めまして、私はセントラル王国の財務大臣に仕えている徴税官・リヒトーと申します。他の者達は皆、私の部下です」
「はあ、そうなんですか……? それで、徴税官のリヒトーさんは何しにここへ? 宿泊をご希望でしたら申し訳ございません。只今、満室でして……」
「いえ、私達は宿に宿泊する為にここに来たのではありません」
そう言って、カバンから紙を取り出すと、俺の目の前でそれを広げた。
「……あなたには税金の虚偽・過少申告の嫌疑がかけられております」
「はっ?」
徴税官・リヒトーが出した用紙に視線を向けると、そこには捜索差押許可状と書かれている。そこには、セントラル王国の財務大臣・バランスシートと、宰相・カティの名が記されていた。
「……こちらは国が発行した捜索差押許可状です。これより、建物内を捜索させて頂きます」
「はっ、はああああぁぁぁぁっ!?」
あ、あのクソ宰相やりやがったぁぁぁぁ!
つーか、運営っ!
なんでゲーム世界に税金なんて概念持ってきてるんだよっ!
夢壊れるだろうがっ!!
まあ、ゲーム世界が現実になった以上、税金がないと国家運営がままならないだろうという事はなんとなくわかるけれどもっ!
「……では、早速捜索に移らせて頂きます」
「ち、ちょっと待てっ! お客さんが泊ってるんだっ! また今度にしてくれ、頼むからっ!」
俺がそう懇願するも、徴税官であるリヒトーは首を横に振る。
「残念ながらそうはいきません。証拠隠滅の危険性がありますので……。それに、今の時間は清掃の為、お客様が全員外に出ていることも確認済みです」
「えっ? そうなの?」
経営方針を伝えるだけで、基本、宿経営にノータッチだったから知らなかった。
「…………」
俺の反応に、不審なものでも見るかのような目を浮かべるリヒトー。
お客様気分で宿経営しているのだから仕方がないじゃないかと言いたい。
赤字が出ないだけ御の字だ。
……うん?
そう考えると、確かに過少申告しているのかもしれない。
だって、赤字が出ない程度の経営しかしてないし。
まあ、お客さんが全員外に出ているならそれでいい。
「じゃあ、どうぞ……」
「はい。それでは、皆さん。お願いします」
徴税官であるリヒトーがそう言うと馬車の中から兵士が次々と降りてくる。
総勢十人位だろうか?
兵士達はリヒトーと共に宿の中に入ると支配人に捜索差押許可状を見せ、捜索に乗り出した。
「徴税官です。皆さん、そのまま動かないで下さい」
完全に命令口調だ。
徴税官という単語を聞いた宿の職員達は、ピタリと手を止め、直立姿勢で動きを止める。
「えー、徴税官のリヒトーさんが虚偽・過少申告の嫌疑で宿の捜索に来ました。皆さんには大変ご迷惑をおかけ致しますが、出来る限り彼等に協力するようお願いします」
リヒトーに続き、職員達にそう命じると、リヒトーが俺に視線を向けてきた。
「カケル様と支配人に聞かせて頂きたい事がございます。どこか落ち着いてお話しできる場所はないでしょうか?」
「落ち着いて話ができる場所ですか?」
目配せすると、支配人がリヒトーの前に立つ。
「リヒトー様。どうぞこちらへ」
「はい。それでは皆さん。虱潰しにお願いしますね?」
リヒトーはそう兵士達に言い残すと支配人について行った。
当然、俺も支配人について行く。
「どうぞ、こちらの席におかけ下さい」
「はい。ありがとうございます」
そう言って支配人が案内したのは宿のエントランスホールにある待合所。
支配人と共にソファーに座ると、リヒトーは俺に視線を向けてくる。
「さて、捜索とは別件になりますが、一つだけ……。カケル様。何故、私達がここに捜索しに来たのかわかりますか?」
当然。捜索差押許可状。そこに書かれたカティ宰相のサインを見れば、一発で分かる。
「えっ? 狭量なカティ宰相辺りが、俺からムーブ・ユグドラシルを取り上げ損ねた嫌がらせの為にこんな事をしているんじゃないですか?」
歯に衣着せず、率直な意見を述べる。
すると、リヒトーはこめかみに青筋を浮かべた。
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2022年10月12日AM7時更新となります。
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