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第143話 嘘ついてんじゃねーぞ、こらっ!②

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「そ、そうなのですか……わかりました。それでは、どなたに対し、どの様な真偽を問いましょう?」
「そうだな……」

 お布施を受け取ったユルバン助祭の言葉に俺は意気揚々と答える。

「……まずはこの女性にお願いします」

 俺が指を指してそう言うと、俺に冤罪を被せようとしてきたクソ女がビクリと肩を震わせた。

「真偽はどのように問いますか?」
「そうだな……。俺が質問する内容に対して、真偽の判定をお願いしようかな?」

 真偽を問う方法には、いくつかやり方がある。
 真偽官が直接、真偽を確認する方法。
 そして、今回の様に俺が質問をし、真偽官がその真偽を確認する方法。
 他にもいくつかやり方はあるが、今回は、俺が直接本人に質問をする形式を取らせてもらった。
 その方が、後々やり易いからだ。

「……わかりました。それでは、この私、ミズガルズ聖国の助祭、ユルバンが真偽官としての務めを果たさせて頂きましょう」
「ああ、よろしく頼む。それじゃあ、聞かせて貰おうかな?」

 俺を冤罪に嵌めようとした女に視線を向けると、女の表情がみるみる引き攣っていく。

「それでは問おう。お前は俺に対して『性的な視線を向けた』と言ったがこれは事実か?」

 そう問いかけると、女は俯き黙ってしまう。
 応えて貰わなければ、真偽の判定はできない。
 困った表情を浮かべていると、ユルバン助祭が助け舟を出してくれた。

「……答えぬ場合、私はカケル様の言う事が真であると認めます」

 その言葉に目を剥く女。
 まさか、教会の助祭にそんな事を言われるとは思っても見なかったのだろう。

 甘いんだよ。俺はユルバン助祭のスポンサーみたいなものだ。
 そのユルバン助祭が俺に有利に働かない筈がない。

 しばらく、返答を待っていると、女は呟く様に『はい』と呟いた。

「……残念ながら虚偽です。その者は嘘を付いております」

 その言葉を聞き、兵士や周囲の人々が驚愕といった表情を浮かべる。
 当然の帰結だ。何故なら、俺はそんな視線最初から送っていないのだから……。

 もし万が一、この女が自意識過剰でそう思い込んでいた場合、どうなっていたのか解らないが、虚偽として扱われ本当に良かった。
 女も悔しそうな表情を浮かべ、俯いている。

「なるほど、あなたは相当自分に自信のあるナルシストなのでしょうね? 思い上がりも甚だしく素晴らしいと思います」

 俺がそう余計な一言を言うと、ユルバン助祭は『コホン』と咳を吐いた。
 冗談は通じなかったようだ。まあ、いいだろう。

 そこから何点か質問を交わしていく。

「このような手段で、人を冤罪に嵌めた経験はありますか?」
「このような手段で、人を嵌めて優越感に浸った事はありますか?」
「本当に反省していますか?」
「あなたは児童性愛主義者ですか?」

 女はそのすべての質問に対し『はい』と答え、ユルバン助祭に『虚偽』だと否定されていく。最後の質問以外は……。

「う、ううっ……も、もういいでしょ」

 ユルバン助祭により、一つの回答を除きすべてを虚偽だと診断された女は弱弱しくも意気消沈しながらそう呟く。
 しかし、まだ終わりにはしない。最後に聞きたい事が残っているからだ。

「それでは、お望み通り最後に一つだけ質問して終わりにしよう。俺を冤罪に嵌めようと思ったのは、冷蔵庫組に命令されたからか?」

 最後にこう質問すると、女は黙り込んでしまった。
 俺を貶める事が書かれた場所。そこはヘル組の事務所があった場所だ。

 ヘル組が冷蔵庫組と繋がっている事は、ヘル組の事務所を捜索した時から気付いていた。まさか、こんな手段で俺を嵌めてくるとは思いもしなかったが、どうやら俺の思った通りのようだ。

「うっ、ううっ……違います」

 女が悪足掻きでそう言うも、ユルバン助祭が即座にそれを否定する。

「……残念ながら虚偽です。その者は嘘を付いております」

 その瞬間、女に加勢していた男共も意気消沈する。
 どうやらこの男共も冷蔵庫組の一派だったらしい。
 女を庇った男共に同様の質問をして見た所、同じ回答が返ってきた。
 その場で、ユルバン助祭に虚偽判定されていたけど……

「……兵士さん。どうやら、この女は何も反省していない様です。他にも数多くの人を俺と同じ様に冤罪に嵌めてきたようですので、どうぞこの女とそこの男共を豚箱にぶち込んで一生出さないで下さい。この犯罪者達は冤罪で人を不幸にする冤罪メーカーですから」

 そう言うと、兵士は苦笑いを浮かべる。

「そ、そうですね……」
「た、確かに、繰り返し冤罪を作り出してきたとあれば話は別ですね……」

 まさかこんな結果になるとは思っても見なかったのだろう。
 俺を口々に非難してきた有象無象も、俺から視線を外し、そそくさとその場を後にしていく。

 本来であれば、ここにいる全員に対して処罰を下してやりたい所だが、今はまあいいだろう。それよりも、やるべき事ができた。
 上級ダンジョン攻略よりも優先すべき事がなぁ……。

「……ユルバン助祭。ありがとうございます」

 俺がそうユルバン助祭にお礼を言うと、ユルバン助祭は驚いたかの様な表情を浮かべた。もしかしたら、お礼を言われると思っていなかったのかも知れない。失礼な奴である。

「……いえ、私は真偽官として当然の事をしたまでです」
「いや、あの時、ユルバン助祭がここを通りかかってくれなかったらヤバかった。ユルバン助祭には感謝してもしきれないよ」

 上級ダンジョンを攻略するほどの力も持っているし、助祭にしておくには勿体ない。

「もし良ければ、冒険者協会に登録しないか? ユルバン助祭であればすぐにSランクになれると思うよ?」
「わ、私が教会を捨て冒険者協会にですか? 恐れ多い事ですよ!」

 残念だ。司祭から助祭に落とされたユルバン助祭であれば、乗ってくれると思ったのに、キャバクラで燥ぐ聖職者のくせに信仰心は持ち合わせているらしい。

「まあ、ユルバン助祭がそう言うならいいけど、とりあえず、助かった。それじゃあな!」

 後は、あんな落書きをした馬鹿共にお仕置きをしてやるだけだ。
 しかし、どうしてくれようか?
 ヘル組の事務所の外壁に『モブ・フェンリルはロリコン変態野郎』と書いて社会的抹殺を目論む奴等が敵だ。
 ただで済ます訳にはいかない。つーか、消す。社会的に物理的に消す。
 第一、まだあれ消されてないし……。

 何か致命的で合法的にダメージを与える方法はないだろうか……。
 冷蔵庫組にカチコミ仕掛けて、兵士に通報され逮捕されるのも嫌だし……。
 そんな事を考えていると、リージョン帝国の上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』を攻略する為、武装した『ああああ』達が宿から出てきて声をかけてきた。

「カケル君。準備ができたけど、これからどうすればいいの?」
「ああ、『ああああ』か……うん?」

 そういえば、転移組と冷蔵庫組の奴等、こいつ等の力を頼りにリージョン帝国の上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』を攻略させようとしていたような……。
 しかも、この国と冒険者協会。そして、リージョン帝国と共同で攻略を……。

 そこまで考え俺は『ポンッ』と手を付いた。
 そして、『ああああ』達に向かって笑みを浮かべる。

「そういえば、君達。俺に借金あったよね?」
「き、急にそんな事を言ってどうしたの?」

 笑顔で借金の話をする俺に、顔を強張らせる『ああああ』達。

「ちょっと、やりたい事があってさぁ……。借金を帳消しにして上げるから、手伝ってくれないかな? 大丈夫だ。安心して欲しい。少し危険はあるかも知れないけど、必ず生きて帰って来れるし、転移組や冷蔵庫組の連中に確実に仕返しできる方法を思い付いたんだ。どうかな?」

 つーか、やるよな?
 やるに決まっているよな?
 俺に恩義を感じていたら当然だよな?

 暗にそう言ってやると『ああああ』達は何もかもを諦めたかの様な表情を浮かべた。
 もしかしたら『俺に何を言っても無駄』位の事を考えているのかも知れない。
 大正解である。無駄だから観念して俺に協力して欲しい。
 むしろ、借金完済のチャンスを上げている位だ。

「わ、わかったよ。(カケル君に何を言っても無駄だろうし……)何をすればいいんだい?」

 流石は『ああああ』。元自宅警備員とは思えない程の物わかりの良さだ。
 恐らく、このゲーム世界が現実となり親の脛を齧る事ができない事から学習したのだろう。

「何、簡単な事さ。でも、ここでは言えないな……」

 非道な奴と思われても嫌だし、こういう事は人目に触れない所でやるべきだ。
 既にロリコン変態野郎扱いされているのに、更に鬼畜扱いされても困る。
 この案を実行に移すなら収容所の長官であるアーノルド君に話を通しておかなければ……俺が言った事だが、今、転移組と冷蔵庫組の悪い噂を流されるのは拙い。
 流すとしたら、この案が実行された後だ。

 俺がほくそ笑むと、『ああああ』達は更に怯えた表情を浮かべた。

「……悪い様にはしないからとりあえず、宿に戻ろうか?」
「う、うん……」

 そう言うと、俺は顔を引き攣らせ怯えた状態の『ああああ』達を連れて宿に戻る事にした。

 ◇◆◇

 ここは冷蔵庫組本部。
 門の前に並んでいる借金奴隷の姿を見て、冷蔵庫組の若頭、リフリ・ジレイターは唖然とした表情を浮かべていた。

「い、一体、どういう事ですか、これは……?」

 目の前に並んでいるのは隷属の首輪を付け怯えた表情を浮かべている『ああああ』達。私達が策を弄して借金奴隷に落とそうとした者達だ。
 冷蔵庫組傘下のヘル組に壊滅的なダメージを与えたあのクソ生意気なモブ・フェンリルの下に保護されてしまっていたと思っていたが、これは一体、どういう……。

 そんな事を考えていると、収容所の長官であるアーノルドが馬車から姿を現した。
 収容所の長官が現れた事にほんの少し身構えていると、アーノルドが私に対して頭を下げる。

「私は収容所の長官、アーノルドと申します。この度は、借金奴隷の配送が遅れてしまい大変申し訳ございませんでした」
「借金奴隷の配送が遅れって……」

 どういう事?
 だって、借金奴隷は一度、ヘル組の連中が……その後、モブ・フェンリルに……。

「いえ、実は借金奴隷の借金を肩代わりすると申し出て下さった方が急にそれを撤回しまして……私共の都合で申し訳ありませんが、当初の約束通りこちらで引き取って頂けないでしょうか?」
「そ、そう……」

 なるほど、そういう事か。
 あのモブ・フェンリル……。一度、借金奴隷共の借金を肩代わりしたは良いけど、肩代わりした金が惜しくなって撤回したと、そういう事……。

 まったく傍迷惑なモブ・フェンリルだ。
 しかし、こちらとしては都合が良い。

「……勿論。引き取らせて頂きます」
「そうですか、ありがとうございます。既に、転移組のルート様よりお支払いは済んでおりますので、この二十三名を引き取って頂けますようよろしくお願いします」
「ええ、ビーツさん。クレソンさん。この借金奴隷を部屋にお通しして。彼等には上級ダンジョンを攻略して貰わなければならないのですから、丁重にお願いしますよ」

 私がそう手を叩くと、ビーツとクレソンが借金奴隷を部屋に連れて行く。

「それでは、私はこれで失礼します」
「ええ、ありがとう」

 私はアーノルドを見送ると、部屋に入っていく借金奴隷に視線を向けほくそ笑む。

 こうしてはいられない。国や冒険者協会。リージョン帝国に上級ダンジョン攻略の目途が立った事を報告しなければ……。

「……どうやら計画通り行きそうですね」

 そう呟くと、私は意気揚々と電話機を手に取った。

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 2022年9月6日AM7時更新となります。
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