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第138話 嵌められた『ああああ』達②

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「さてと……あの馬鹿共をどう釈放してどうするかなぁ……」

 転移組と冷蔵庫組の奴等、相当、部下の事を恐れているらしい。
 何せ、俺の部下共を嵌めて自分の配下にしようとする位だ。
 まあ、上級ダンジョンを攻略するだけの実力があるから気持ちはわからんでもないけど。しかし……。

「転移組に冷蔵庫組かぁ……」

 あいつ等、本当にどうしてやろうか?
 あっち側から積極的に突っかかって来なければ、こちらからやり返すなんて事をしなかったのに……まったく馬鹿な奴等だ。
 まあ、とりあえず、あいつ等の解放を先にするとして……。

「さて、ここかな?」

 本当に俺の経営する宿の隣りに収容所があった。
『こんな場所に犯罪者を収容すんなよ。大通りだぞ!』と言う思いを抱えながら、俺は近くの兵士に話しかける。

「すいません。ここに収容されているこの人達を解放したいんですけど……」

 そう言って、解放したい人達のリストを渡すと、兵士は渋面を浮かべる。

「この者達はもうここにはいない。先ほど、このリストにある者達は先ほど国の使いの者が連れて行ったが……」
「はあっ?」

 意味がわからない。それはどういう事だろうか?

「いや、ちょっと、言っている意味がわからないんですけど、国の使いの者が連れて行ったってどういう事ですか? つい先ほど、冒険者協会でその者達の借金を俺が返済したばかりなので、その国の使いの者とやらに連れていかれる意味がわからないんですけど……」

 そう苦言を言いつつ、支払証明書を渡すと、兵士は顔を青褪めさせる。

「えっ? ま、まさか、そんなっ……も、申し訳ございませんが、少々、お待ち下さい!」
「はあっ?」

 意味がわからない。
 しばらく入口で待ちぼうけしていると、血相を変えた兵士と上司っぽい人が駆けてきた。

「お、お待たせ致しました。私はこの収容所の長官、アーノルドと申します。この度は申し訳ございません」
「えっ? どういう事ですか?」

 つーか、なんで謝っているの、このおじさん?

 俺がそう尋ねると、頭を下げた状態で汗をだらだら流しながらアーノルドは話始める。

「じ、実はつい先ほど、国の使いの者がリストにある者達の引き渡しを要求してきまして……」
「ふむふむ。それで?」
「二日経過しましたし、これ以上待ってもこの者達の借金を肩代わりするような者は現れないかと思い、リストにある者達を引き渡してしまったのです……」
「ほーう。それはそれは……」

 大変な事をしでかしてくれたものだ。

「……それで?」

 俺がそう返すと、アーノルドは滝のような汗を流す。

「ぼ、冒険者協会から支払われたお金は返金致しますので、ここは一つ無かった事にしては頂けないでしょうか……?」
「へえー、ふーん。そう。俺があいつ等の借金を代わりに返済してやったのを、最初から無かった事にしてほしいとそういう事……」

 俺はモブ・フェンリルバズーカを手に持ち振り上げる。

「は、はい……。誠に厚かましいお願いだとは思いますが、よろしくお願いしま……」

 そして、アイシールドが言葉を言い切る前にそれを振り下ろした。

「いや、無かった事にできる訳ねーだろうがぁぁぁぁ! 馬鹿かテメェ!」
「げ、げふうっ!?」
「『げふうっ』じゃねー! あいつ等は一応、俺の傘下にいるんだよ。借金を立て替えてやった時点で俺のものなのっ! 何、お前のミスを隠す為に最初からなかった事にしてやらなきゃいけないんだよっ! あいつ等に借金返済するまで借金奴隷やってろとでも言うつもりか、この大馬鹿野郎っ!」

 モブ・フェンリルバズーカの砲身が当たり嗚咽を漏らすアーノルド。
 後ろに控えている兵士も怯えている。

「どこだっ! その国の使いの者とやらは、俺の部下を連れてどこに行ったっ!」
「そ、それは……」
「『それは』じゃねーんだよっ! どこに連れて行ったっ!」

 モブ・フェンリルバズーカをウリウリしながら恫喝すると、アーノルドと兵士は涙目を浮かべる。

 つーか、取り締まる側の兵士がそれやっちゃダメだろ。
 いいからその国の使いの者とやらが俺の部下をどこに連れて行ったのかを吐きなさいよ。

「そ、それは、言えませ……」
「もし万が一、『言えません』と答えたらお前の頭に大きな風穴が空く事になる」

 アイシールドの言葉に被せて言うと、アーノルドが押し黙る。
 正直、埒が明かない。

「……おい、そこの兵士っ!」
「は、はいっ!」

 アーノルドに照準を向けながら、兵士に声をかけると、兵士は直立姿勢で敬礼した。

「お前は外で警備をしていたよな? リストに乗っている四十六人がどこに向かっていったのかお前ならわかるんじゃないか?」
「そ、それは……」

 そう言って、兵士長と共に押し黙る兵士。
 仕方がない。これだけはやりたくなかったが……。

「……言わないというなら考えがある」

 俺はモブ・フェンリルバズーカの照準を兵士長に向けると引き金に指をかけた。

「十秒だ。そこの兵士。兵士長の命が惜しくば、十秒以内に国の使いの者とやらが向かった場所を教えろ。十秒経過したらコイツの命はないものと思え……」

 怒鳴らず、恫喝せず淡々とそう言ってやると、アーノルドは涙目を浮かべたまま、縋り付く様な視線を兵士に送る。

「一、二、三……おいおい、薄情な奴だな……そんなに自分達のミスを認めたくないのか? 六、七……」

 もうちょっとで十秒、経過しちゃうよ?

 俺が一秒一秒丁寧に数えてやると、兵士は兵士で慌て始める。

「ま、待ってくれっ! ちょっと待ってっ! な、なんで犯罪者を庇うような事をするんだっ! 借金しているんだから、そのまま借金の返済が終わるまで借金奴隷になった所であんたには関係ないじゃないかっ!」
「いや、あるって言ってんだろうがぁぁぁぁ! 九」

 俺が九まで数えると、アーノルドは顔を真っ青にして俺に視線を向けてくる。

「それじゃあな、いい来世を送れよ……十」
「ちょっとまっ! 言うっ! 言いますからっ!」

 アーノルド決死の叫びを聞き、俺はすんでの所で引き金を止める。

「……それで、あいつ等はどこに行った?」
「ヘ、ヘル組だ。冷蔵庫組の傘下ヘル組が引き取っていった!」
「ヘル組?」

 なんだその馬鹿みたいな名前の組は……。

「そのヘル組はどこにある?」
「こ、ここを五百メートルほど進んだ先にある! ヘル組と大きく暖簾に書いてあるからすぐにわかるはずだっ!」
「ふーん。そう? それじゃあ、案内して貰おうか……」
「えっ? なにをっ……」
「いや、万が一、お前が嘘を言っていて手遅れになったら困るじゃん? それにお前には俺の正当性を証明して貰わなきゃならないんでね」

 そう言って、アーノルドを肩に担ぐと、俺はアーノルドに言われた方向に走り始める。すると、アーノルドが嗚咽の声を漏らした。

「うっ! ゆ、揺れる! 縦に揺れるっ! は、走らないでぇぇぇぇ!」
「いや、そんなこと知るかっ! そもそも確認を怠ったお前が悪いんだろうがぁぁぁぁ!」
「す、すいません――!」

 そんなこんなで、俺は部下達のいるヘル組の建物の前に辿り着いた。

「も、もうやめっ……ぽひゅっ……」
「おいおい、マジか……」

 何の為にお前を連れて来たと思っているんだ。
 俺の正当性を証明する為だろう。

「仕方がない。とりあえず、部下共をヘル組から取り戻すとするか……」

 国の使いの者だろうが知ったこっちゃない。
 俺は部下達の借金を代位弁済してやった。だから部下は俺のもの。それが全てだ。

 面倒臭いので、アイテムストレージから取り出したソリにアーノルドを乗せると、ソリに繋がれた紐を引っ張りながらヘル組の建物に入ろうとする。

 すると、建物の中からいかにもな強面の男達が姿を現した。

「なんだテメェらっ!」
「モブ・フェンリルが何の様だぁ? ああっ!? こらっ!」
「ぶっ殺されたくなければすぐさま消えなっ!」

 その発言を聞いた瞬間、言葉でわかち合うのは不可能だと悟る。
 仕方がなくアーノルドを乗せたソリの紐を手から放すと、代わりにモブ・フェンリルバズーカをぶっ放した。

『ドカーンッ!』という爆音が鳴り響き、強面共が地に伏す中、俺はソリを引いて建物の中に入っていく。

「……まったく、ゲーム世界はこんな奴らしかいないのか?」

 暴力団の事務所にカチコミしに来たかの様な様相になってきた。
 だが、俺は悪くない。俺は、ヘル組に盗られた部下達を取り戻しに来ただけだ。
 潔く返すならよし。返さないなら戦争だ。
 モブ・フェンリルスーツを着込んだレベル三百オーバーの俺に勝てると思うなよ。俺のバックにはエレメンタルさん達が付いているんだからな!

 そんな事を思いながら先を進んでいくと、頬に傷がある強面が俺の進路を塞ぐ。

「おいおい。まさか、モブ・フェンリル一人にやられたのか? 情けねー野郎共だ……」
「はぁー。へぇー。そう。お前も俺の進路を塞ぐの?」

 つーか、何?
 障害物か何かですか、お前?

「ああ、俺はヘル組の―――」
「いや、そういうのはどうでもいいんで……」

 そう言うと、俺は進路を塞ぐ障害物にモブ・フェンリルバズーカを向ける。
 すると、進路妨害をしてきた強面の頬が引き攣った。

「ち、ちょっと、待てっ! 話し合えばっ……」
「……話し合いで済めば戦争は起こらねぇんだよぉぉぉぉ!」
「ま、待ってぇぇぇぇ!」

『ドカーンッ!』という空砲を男の間近で鳴らしてやると、男はそのまま崩れ落ちる。

「……ぐぅっぺ」
「さて、あいつ等はどこにいるのかな?」

 アーノルドを乗せたソリを引きながら一部屋一部屋探索し、探索し終った部屋に俺に絡んできた男達を積み上げると、どんどん奥へ進んでいく。

「こ、このキチガイモブ・フェンリルがぁぁぁぁ!」
「死ねぇぇぇぇ!」

「いや、お前が死ねぇぇぇぇ!」
「「ぐげっぷ……」」

 思いきりモブ・フェンリルバズーカを横に凪ぐと、男達の体がくの字に折れ曲がり壁に激突し、沈黙する。

 くそっ、中々、見つからないな……。

「おい! お前っ! 本当にヘル組があいつ等を連れて行ったのか?」

 全然いないんですけどっ!
 つーか、これでいなかったら俺が一方的に組を襲撃しているだけになっちゃうんですけれどもっ!?

 そう組員を恫喝すると、組員は顔を青褪めさせる。

「た、確かにこの奥にいる筈ですっ! 信じて下さいっ!」
「ったく……。仕方がないな……」

 嘘を言っている様子はなさそうだ。
 まあ、まだ部屋は残っている。
 仕方がなく捜索を続けると、奥の部屋から何やら声が聞こえてきた。

「この声は……」

 もしかして『ああああ』と部下共の声?

「こんな所にいたのか……」

『命名神シリーズ』を装備しているであろうあいつ等なら大丈夫かな?

 手を煩わせた罰だ。
 俺はモブ・フェンリルバズーカを扉に向けると、扉に向かって実弾をぶっ放した。
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 2022年8月27日AM7時更新となります。
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