136 / 360
第136話 キャッシュフローゲーム翌日
しおりを挟む
「マ、マジか……」
会田さん開催のキャッシュフローゲームを行った翌日、会田さんから直接連絡があった。
何でも、一週間後の土曜日に俺が思い付きで立ち上げた組織?宝くじ研究会、通称ピースメーカーの入会体験を受けたい人達がいるとの事だ。
入会体験を受けたいという人の人数は、とりあえず百人。
どうやら会田さんのマルチグループは相当大きなグループだったようだ。
各週に百人ずつ入会体験をしてほしいと言ってきた。
「だ、大丈夫か、これ……」
主に俺の持つ『レアドロップ倍率+500%』の在庫……。
一応、マイルームにある倉庫から目一杯の課金アイテムを持ち出してきたつもりだが、流石に毎週百人ずつ入会体験ともなると在庫が心配になってきた。
ダメ元でマイルームにもう一度行ってみるとして、なんとか安定的に『レアドロップ倍率+500%』を確保しなければまずい。
それにしても、この課金アイテムどこで売っているんだ?
少なくとも現実となったゲーム世界で課金アイテムが売っているのを見た事がない。
とりあえず、『レアドロップ倍率+500%』の確保は喫緊の課題だな……。
それと宝くじの購入場所も課題の一つだ。
関東・中部・東北自治宝くじの当選くじは俺と会田さんで粗方乱獲してしまった。
となれば、残るスクラッチくじは西日本宝くじと地域医療等振興自治宝くじ。ジャンボくじと数字選択式宝くじ位だ。
即効性があるのはスクラッチくじだが、いかんせんインパクトのある結果を与える事はできない。まだ全国自治宝くじがあるから問題ないと思うが、最悪、数字選択式宝くじをやらせるか……。
ロトは俺と購入が被ってしまうが、ミニロトやビンゴ5、ナンバーズ位であれば問題はない。念の為、購入制限もかけておこう。
会田さんの様に十万円をBETされても困る。
何より、宝くじが本当に当選するというパフォーマンスができなくなってしまう。
と、とりあえず、倉庫に『レアドロップ倍率+500%』を取りに行くか……。
会田さんに後日、宝くじ購入の場所を伝える旨をSNSで送ると、スマートフォンをアイテムストレージに放り込みベッドで横になる。
そして「――コネクト『Different World』」と言うと、『Different World』の世界へとダイブした。
マイルームに転移する為には、転移門『ユグドラシル』の前に立ち、メニューバーから『マイルーム』を選択する必要がある。
俺は祈る気持ちでメニューバーを開くと、メニューバーから恐る恐る『マイルーム』の文字を探していく。
すると、一番下の方に『マイルーム』の文字が表示されていた。
「ま、まだあった……」
しかし、まだ安心はできない。
……とりあえず、行ってみるか。
心の中でそう呟くと、俺はメニューバーからマイルームの文字を選択し、「転移。マイルーム」と口にして『マイルーム』へと転移した。
「……お、おう」
なんだか普通に入る事ができたな。
まあ嬉しい誤算だ。
結構前に、カイルの奴が入れないと言っていた事を一瞬思い出したが、あれは一体何だったのだろうか?
マイルームに入る為には、利用期限付きの課金アイテム『マイルーム利用権』または、『ムーブ・ユグドラシル』が必要となる。
まあ、カイルの奴は単純だからな。
もしかしたら『マイルーム利用権』の有効期限が切れて入れなくなっていたのを『マイルームに入れない』と勘違いしていただけなのかもしれない。
マイルームに転移した俺は早速、マイルーム内に置かれた端末に触れ、『倉庫メニュー』内を確認していく。
「よし。取り敢えず、倉庫内のアイテムは無事のようだな……」
むしろ、前よりアイテムが増えているような気がする。
マジで意味がわからないな。これについても一度検証が必要かも知れない。
幸いな事に、俺には、俺と同じ(現実とゲーム世界を行き来できるという)境遇にある美琴ちゃんがいる。
今度、『ムーブ・ユグドラシル』でもプレゼントして、美琴ちゃんも同様のマイルームに入る事ができるかどうか検証してみよう。
「……と、その前に」
今の内に、倉庫にあるアイテムを、アイテムストレージに移動させないと……。
「おっ! あるあるっ!」
俺は倉庫内にある各種『レアドロップ倍率』を中心にアイテムストレージに格納していく。
前回は、パーティーを組む気皆無だったので自分の欲しいアイテムを中心にアイテムストレージに格納したが、今回は『レアドロップ倍率』中心にアイテムを格納する事にした。
「……ふう。まあ、こんなもんかな?」
倉庫内に入っていた各種『レアドロップ倍率』の大半をアイテムストレージに格納する事ができた。これで当分、『レアドロップ倍率』に悩まされる事はなさそうだ。
それにしても、なんでまた補充されているんだろ?
まったく以って不思議な倉庫だ。まあいいんだけど……。
「他にも何かないかな……って、えっ?」
そんな事を言いながら倉庫内のアイテムをスクロールしながら物色していると、倉庫内で見た事のある通貨単位が表示されている事に気付く。
「さ、三百億円っ!?」
い、いや、それだけじゃない。米ドルや人民元、ユーロやウォンで日本円とほぼ同額のお金が倉庫の中に……。
す、すごい……。
まるで、人気モバイルゲームの年間売上数年分のお金が各国通貨で倉庫内に入っている。
つーか、なんで、現実世界の通貨がこんなに倉庫内に入っているのっ!?
あまりの大金に唖然とした表情を浮かべてしまうが、俺のマイルームの倉庫内に入っている以上、やる事は一つ。
「こほんっ、まあいいか……」
その大金すべてを自分のアイテムストレージの中に格納していく。
ヤベーなこれ、なんだか意味もなく涎が出そうだ。
しかし、本当になんでマイルームの倉庫に課金アイテムとこんな大金が……。
本当に意味がわからない。だが、俺にとっては僥倖だ。
しかし、意味は分からなかろうが金は金。マイルームの倉庫に入っている俺の金だ。
つまり、この金は俺のものという事。
ついでに言えば、現実世界にログアウトできない他の人達にはまったく意味のない金ともいえる。
つまり、この金は現実世界に戻る事ができる俺が使うべきお金とそういう事だろう。
「ありがとう。神様……」
日本人には、実質的無宗教な人が多い。
教会に行くのは結婚式、仏教のお世話になるのはお葬式。新年に受験合格、健康祈願、恋愛成就等をお願いし、クリスマスにはホールケーキを前にイエス・キリストの生誕を祝う。
正直、俺もその中の一人だ。
だけど、今日位は祈らせてほしい。
倉庫内からアイテムストレージにお金を格納すると、俺は神様に祈りを捧げる。
お金はいくらあっても無駄にはならない。
というより、これだけのお金があれば、銀行の利息だけで生活できるんじゃないだろうか?
「……いや、駄目だな」
よくよく考えてみれば、銀行の普通預金の金利は0.001%。
三百億円預けても年間三十万円にしかならない。
それに、こんな大金を銀行に振り込めば、即刻税務調査に入られそうだ。
しかも一日の内に引き出す事のできるお金に制限までかかってしまう。
俺にとってデメリットしかない。ついでに現実世界に戻ったら銀行から金を引き出して全額アイテムストレージに格納してしまおう。
三百億円預けて三十万円の利息しか付かない所に預けていても意味はない。
アイテムストレージが一番安全だ。
「よし。粗方金は引き出したし、そろそろマイルームから出るか……」
自分で言っていて何だが、泥棒にでもなったかの様な気分だ。
しかし、ここはゲーム世界。
マイルームの倉庫は運営によりプレイヤー一人一人に割り振られている。
まあ運営がいま何をしているのかまったく知らないが、俺が思うに、こんな大量のアイテムやお金が倉庫内に収められていたのは、この世界が現実となった弊害……つまり、バグ的な何かがマイルームで発生し、その結果、俺に巨万の富を授けてくれたのだろう。
自分で言っていて、何を言っているのかわからないが多分そうだ。
そういう事にしておこう。
転移門『ユグドラシル』経由でマイルームから出ると、俺は教会跡地に向かう事にした。
何故、教会跡地に向かう事にしたのか。それは生臭司祭の様子を確認する為だ。
生臭司祭には、既に一億コル投資している。
教会を建て直す間、暇だろうし、この機会にレベル上げをしてあげようと考えた為だ。ついでに、教会の建設がちゃんと進んでいるのかを確認するという理由もある。
「さて、生臭司祭はちゃんと仕事してるかな……」
まあ、教会の仕事なんかしてなくても、レベル上げか上級ダンジョン『アイスアビス』の攻略に着手していればそれでいいんだけど……。
そんな事を考えながら教会跡地に向かうと、そこには……。
「ミ、ミトラ司教! どうかお考え直し下さい!」
「いいや、これは本国の決定である。ユルバン、お主を助祭に降格処分とする」
「そ、そんなぁ!?」
高らかに降格処分を告げる司教様と、生臭司祭……いや、生臭助祭様がいた。
「な、何故ですっ! 私はこんなにも神に……教会に尽くして……」
「いや……教会に尽くす者が、教会建設を他人任せにし、冒険者の真似事をして我が国の上級ダンジョン『アイスアビス』を攻略する等、聞いた事がないわっ!」
まったく以ってごもっとも。
ぐうの音も出ない程、正論だ。
というより、仕事が早いな。
ユルバン助祭。いつの間にか、ミズガルズ聖国にある上級ダンジョン『アイスアビス』を攻略していたらしい。
俺が金だけ渡して放置している間によくもまあ……。
しかし、それが祟って今度は、今、建設中の教会の司祭から降ろされ助祭になってしまったようだ。
まったく以って嘆かわしい限りである。
「ま、待って、お待ち下さい。それには深い訳が……」
「後任の司祭は追って派遣する。それまでに教会を建て直しておくように……」
「ミ、ミトラ司教ぉぉぉぉ!」
ミズガルズ聖国の司教、ミトラはそれだけ言うと、馬車に乗り込みそのままどこかへ行ってしまう。
両手両足を地面に付きながら悔し涙を流すユルバン助祭。
流石の俺も胸の内が痛くなってきた。
俺はユルバン助祭に近付き、軽く肩を叩くと「教会を建て直す費用や借金は帳消しにしてやるから元気出せよ」とだけ呟く。
丁度、莫大なお金をマイルームの倉庫から発掘した所だ。
この位の出費であれば、まったく懐は痛まない。
唖然とした表情を浮かべるユルバン助祭の肩を再度、軽く叩くと、俺は教会跡地を後にした。
---------------------------------------------------------------
2022年8月23日AM7時更新となります。
会田さん開催のキャッシュフローゲームを行った翌日、会田さんから直接連絡があった。
何でも、一週間後の土曜日に俺が思い付きで立ち上げた組織?宝くじ研究会、通称ピースメーカーの入会体験を受けたい人達がいるとの事だ。
入会体験を受けたいという人の人数は、とりあえず百人。
どうやら会田さんのマルチグループは相当大きなグループだったようだ。
各週に百人ずつ入会体験をしてほしいと言ってきた。
「だ、大丈夫か、これ……」
主に俺の持つ『レアドロップ倍率+500%』の在庫……。
一応、マイルームにある倉庫から目一杯の課金アイテムを持ち出してきたつもりだが、流石に毎週百人ずつ入会体験ともなると在庫が心配になってきた。
ダメ元でマイルームにもう一度行ってみるとして、なんとか安定的に『レアドロップ倍率+500%』を確保しなければまずい。
それにしても、この課金アイテムどこで売っているんだ?
少なくとも現実となったゲーム世界で課金アイテムが売っているのを見た事がない。
とりあえず、『レアドロップ倍率+500%』の確保は喫緊の課題だな……。
それと宝くじの購入場所も課題の一つだ。
関東・中部・東北自治宝くじの当選くじは俺と会田さんで粗方乱獲してしまった。
となれば、残るスクラッチくじは西日本宝くじと地域医療等振興自治宝くじ。ジャンボくじと数字選択式宝くじ位だ。
即効性があるのはスクラッチくじだが、いかんせんインパクトのある結果を与える事はできない。まだ全国自治宝くじがあるから問題ないと思うが、最悪、数字選択式宝くじをやらせるか……。
ロトは俺と購入が被ってしまうが、ミニロトやビンゴ5、ナンバーズ位であれば問題はない。念の為、購入制限もかけておこう。
会田さんの様に十万円をBETされても困る。
何より、宝くじが本当に当選するというパフォーマンスができなくなってしまう。
と、とりあえず、倉庫に『レアドロップ倍率+500%』を取りに行くか……。
会田さんに後日、宝くじ購入の場所を伝える旨をSNSで送ると、スマートフォンをアイテムストレージに放り込みベッドで横になる。
そして「――コネクト『Different World』」と言うと、『Different World』の世界へとダイブした。
マイルームに転移する為には、転移門『ユグドラシル』の前に立ち、メニューバーから『マイルーム』を選択する必要がある。
俺は祈る気持ちでメニューバーを開くと、メニューバーから恐る恐る『マイルーム』の文字を探していく。
すると、一番下の方に『マイルーム』の文字が表示されていた。
「ま、まだあった……」
しかし、まだ安心はできない。
……とりあえず、行ってみるか。
心の中でそう呟くと、俺はメニューバーからマイルームの文字を選択し、「転移。マイルーム」と口にして『マイルーム』へと転移した。
「……お、おう」
なんだか普通に入る事ができたな。
まあ嬉しい誤算だ。
結構前に、カイルの奴が入れないと言っていた事を一瞬思い出したが、あれは一体何だったのだろうか?
マイルームに入る為には、利用期限付きの課金アイテム『マイルーム利用権』または、『ムーブ・ユグドラシル』が必要となる。
まあ、カイルの奴は単純だからな。
もしかしたら『マイルーム利用権』の有効期限が切れて入れなくなっていたのを『マイルームに入れない』と勘違いしていただけなのかもしれない。
マイルームに転移した俺は早速、マイルーム内に置かれた端末に触れ、『倉庫メニュー』内を確認していく。
「よし。取り敢えず、倉庫内のアイテムは無事のようだな……」
むしろ、前よりアイテムが増えているような気がする。
マジで意味がわからないな。これについても一度検証が必要かも知れない。
幸いな事に、俺には、俺と同じ(現実とゲーム世界を行き来できるという)境遇にある美琴ちゃんがいる。
今度、『ムーブ・ユグドラシル』でもプレゼントして、美琴ちゃんも同様のマイルームに入る事ができるかどうか検証してみよう。
「……と、その前に」
今の内に、倉庫にあるアイテムを、アイテムストレージに移動させないと……。
「おっ! あるあるっ!」
俺は倉庫内にある各種『レアドロップ倍率』を中心にアイテムストレージに格納していく。
前回は、パーティーを組む気皆無だったので自分の欲しいアイテムを中心にアイテムストレージに格納したが、今回は『レアドロップ倍率』中心にアイテムを格納する事にした。
「……ふう。まあ、こんなもんかな?」
倉庫内に入っていた各種『レアドロップ倍率』の大半をアイテムストレージに格納する事ができた。これで当分、『レアドロップ倍率』に悩まされる事はなさそうだ。
それにしても、なんでまた補充されているんだろ?
まったく以って不思議な倉庫だ。まあいいんだけど……。
「他にも何かないかな……って、えっ?」
そんな事を言いながら倉庫内のアイテムをスクロールしながら物色していると、倉庫内で見た事のある通貨単位が表示されている事に気付く。
「さ、三百億円っ!?」
い、いや、それだけじゃない。米ドルや人民元、ユーロやウォンで日本円とほぼ同額のお金が倉庫の中に……。
す、すごい……。
まるで、人気モバイルゲームの年間売上数年分のお金が各国通貨で倉庫内に入っている。
つーか、なんで、現実世界の通貨がこんなに倉庫内に入っているのっ!?
あまりの大金に唖然とした表情を浮かべてしまうが、俺のマイルームの倉庫内に入っている以上、やる事は一つ。
「こほんっ、まあいいか……」
その大金すべてを自分のアイテムストレージの中に格納していく。
ヤベーなこれ、なんだか意味もなく涎が出そうだ。
しかし、本当になんでマイルームの倉庫に課金アイテムとこんな大金が……。
本当に意味がわからない。だが、俺にとっては僥倖だ。
しかし、意味は分からなかろうが金は金。マイルームの倉庫に入っている俺の金だ。
つまり、この金は俺のものという事。
ついでに言えば、現実世界にログアウトできない他の人達にはまったく意味のない金ともいえる。
つまり、この金は現実世界に戻る事ができる俺が使うべきお金とそういう事だろう。
「ありがとう。神様……」
日本人には、実質的無宗教な人が多い。
教会に行くのは結婚式、仏教のお世話になるのはお葬式。新年に受験合格、健康祈願、恋愛成就等をお願いし、クリスマスにはホールケーキを前にイエス・キリストの生誕を祝う。
正直、俺もその中の一人だ。
だけど、今日位は祈らせてほしい。
倉庫内からアイテムストレージにお金を格納すると、俺は神様に祈りを捧げる。
お金はいくらあっても無駄にはならない。
というより、これだけのお金があれば、銀行の利息だけで生活できるんじゃないだろうか?
「……いや、駄目だな」
よくよく考えてみれば、銀行の普通預金の金利は0.001%。
三百億円預けても年間三十万円にしかならない。
それに、こんな大金を銀行に振り込めば、即刻税務調査に入られそうだ。
しかも一日の内に引き出す事のできるお金に制限までかかってしまう。
俺にとってデメリットしかない。ついでに現実世界に戻ったら銀行から金を引き出して全額アイテムストレージに格納してしまおう。
三百億円預けて三十万円の利息しか付かない所に預けていても意味はない。
アイテムストレージが一番安全だ。
「よし。粗方金は引き出したし、そろそろマイルームから出るか……」
自分で言っていて何だが、泥棒にでもなったかの様な気分だ。
しかし、ここはゲーム世界。
マイルームの倉庫は運営によりプレイヤー一人一人に割り振られている。
まあ運営がいま何をしているのかまったく知らないが、俺が思うに、こんな大量のアイテムやお金が倉庫内に収められていたのは、この世界が現実となった弊害……つまり、バグ的な何かがマイルームで発生し、その結果、俺に巨万の富を授けてくれたのだろう。
自分で言っていて、何を言っているのかわからないが多分そうだ。
そういう事にしておこう。
転移門『ユグドラシル』経由でマイルームから出ると、俺は教会跡地に向かう事にした。
何故、教会跡地に向かう事にしたのか。それは生臭司祭の様子を確認する為だ。
生臭司祭には、既に一億コル投資している。
教会を建て直す間、暇だろうし、この機会にレベル上げをしてあげようと考えた為だ。ついでに、教会の建設がちゃんと進んでいるのかを確認するという理由もある。
「さて、生臭司祭はちゃんと仕事してるかな……」
まあ、教会の仕事なんかしてなくても、レベル上げか上級ダンジョン『アイスアビス』の攻略に着手していればそれでいいんだけど……。
そんな事を考えながら教会跡地に向かうと、そこには……。
「ミ、ミトラ司教! どうかお考え直し下さい!」
「いいや、これは本国の決定である。ユルバン、お主を助祭に降格処分とする」
「そ、そんなぁ!?」
高らかに降格処分を告げる司教様と、生臭司祭……いや、生臭助祭様がいた。
「な、何故ですっ! 私はこんなにも神に……教会に尽くして……」
「いや……教会に尽くす者が、教会建設を他人任せにし、冒険者の真似事をして我が国の上級ダンジョン『アイスアビス』を攻略する等、聞いた事がないわっ!」
まったく以ってごもっとも。
ぐうの音も出ない程、正論だ。
というより、仕事が早いな。
ユルバン助祭。いつの間にか、ミズガルズ聖国にある上級ダンジョン『アイスアビス』を攻略していたらしい。
俺が金だけ渡して放置している間によくもまあ……。
しかし、それが祟って今度は、今、建設中の教会の司祭から降ろされ助祭になってしまったようだ。
まったく以って嘆かわしい限りである。
「ま、待って、お待ち下さい。それには深い訳が……」
「後任の司祭は追って派遣する。それまでに教会を建て直しておくように……」
「ミ、ミトラ司教ぉぉぉぉ!」
ミズガルズ聖国の司教、ミトラはそれだけ言うと、馬車に乗り込みそのままどこかへ行ってしまう。
両手両足を地面に付きながら悔し涙を流すユルバン助祭。
流石の俺も胸の内が痛くなってきた。
俺はユルバン助祭に近付き、軽く肩を叩くと「教会を建て直す費用や借金は帳消しにしてやるから元気出せよ」とだけ呟く。
丁度、莫大なお金をマイルームの倉庫から発掘した所だ。
この位の出費であれば、まったく懐は痛まない。
唖然とした表情を浮かべるユルバン助祭の肩を再度、軽く叩くと、俺は教会跡地を後にした。
---------------------------------------------------------------
2022年8月23日AM7時更新となります。
11
お気に入りに追加
1,086
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、エブリスタでも投稿中
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる