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第7話 浮かれる高校生達

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 冴えないおっさんこと、高橋翔から、財布とスクラッチくじをカツアゲした高校生達はいきり立っていた。

「すげー! これ見てみろよ! 財布の中に三十万円も入っているぜ!」
「へぇ、マジかよ。あのおっさん、意外と金持ってたんだな?」
「おいおい、そんな事よりもこれ見てみろよ! 三千万円だぜ。三千万円! 三千万円のスクラッチくじだ!」
「「「なにっ!」」」

 三千万円のスクラッチくじを前に高校生達が色めき立つ。

「ほ、本当だ! すげぇ!」
「そ、それだけあれば、うまい棒が何本買えるんだ!?」
「馬鹿っ! うまい棒どころの話じゃねーよ! おい、これどうする?」
「そんな事、決まっているだろ! 今すぐ換金しに行こうぜっ!」

 おっさんこと高橋翔を暴行し、スクラッチくじをカツアゲした高校生達は歓喜の表情を浮かべながら宝くじ売り場に向かった。

「ごめんなさいね。銀行で引き換えてくれる? ここじゃあ、五万円までしか引き換えることができないのよ」
「そ、そうですか……わかりました」

 宝くじ売り場に向かった高校生達は早速、三千万円のスクラッチくじを、おばちゃんに提示する。おばちゃんは一瞬、戸惑いの声を上げると、ここでは三千万円の引き換えができないと言ってきた。

「なんだよ。使えねーな!」
「三千万位用意しておけっつーの!」
「仕方がねーな! もう行こうぜ!」

 高校生達は揃って落胆の声を上げる。

「まあ、いいじゃねーか。どっちにしろ、明日には三千万円が手に入るんだ! 今日の所はこの三十万円で豪遊しようぜ!」
「まあ、そうだな」
「ヨっちゃんの言う通りだぜ。ゲームセンターに行こうぜ。ゲームセンターによ」
「そうだな。三十万円を持ってゲームセンターに繰り出すか!」

 口々にそう言うと、高校生達は、高橋翔からカツアゲした財布を持ってゲームセンターに向かった。
 ゲームセンターに向かう途中、財布の中に社員証があることに気付く。

「おい。これを見てみろよ」
「うん。社員証?」

 財布から社員証を引き抜くと、ヨっちゃんと呼ばれたこのグループのリーダー格が悪い笑みを浮かべた。

「ああ、折角だから、あのおっさんの職場にお礼の電話をしてやろうぜ」
「おっ、いいねぇ!」
「どうせなら、あのおっさんが突然暴行を振るい、俺達から三千万円のスクラッチくじを奪おうとしたって事にしよう」
「あ~あ、あのおっさん。終わったな」
「まあいいじゃねーか。これは俺達なりのお礼だよ。お礼……冴えないおっさんの人生に彩りを加えてやろうぜ。ちょっと、スパイシーで過激な彩りかもしれないけどよ」

 そう呟くと、ヨっちゃんと呼ばれたリーダー格の高校生は、高橋翔が就職していたアメイジング・コーポレーション株式会社に電話をかけた。

「……さて、これで良しと。そういや、このスクラッチくじは誰が持つ? 言っておくが持ち逃げは許さねぇぞ? 当選金は一人六百万円ずつ山分けするって決めているからな」
「それじゃあ、ヨっちゃんが持ちなよ」
「ああ、それなら納得だ」
「無くしたりしたら事だからな。それにしても六百万円か……すげー金額だな」
「ああ、そんな金額手にするのは初めてだぜ! あのおっさんには感謝してもしきれねぇな!」
「全くだ。おっ? 新台が出てるじゃねーか! 早速、やろうぜ!」
「ああ、誰かこの金を換金してこいよ」
「おっ、それじゃあ、俺が行ってくるぜ」
「ああ、頼んだぜ」

 高校生の一人が高橋翔の財布から万札を取り出し、百円玉に替えていく。

「ヨっちゃん! 持ってきたよ」
「ああ、サンキュー! それじゃあ、お前達! 前祝いだ。精一杯、ゲーセンを満喫しようぜ!」
「「「おおっ!!」」」

 その日、ゲームセンターの閉店時間を迎えるまで、ゲームを楽しんだ高校生達は、帰りに買い食いをし、満面の笑みを浮かべながら帰路についた。

 ◆◇◆

 玄関の扉を開けると、案の定、そこには警察官が立っていた。
 年輩の警察官と、若い警察官の二人組。
 双方共に、笑みを浮かべながら声をかけてくる。

「えーっと、突然訪問してごめんね。最近、物騒でしょう。近くで高校生に対する恐喝事件が発生したみたいでちょっと話を聞かせて貰ってもいいかな?」

 この有無を言わせぬいやらしい聞き方。
 これが警察官か。完全に石田管理本部長の言う事を鵜呑みにしている。
 いや、通報があったから取り敢えず話だけでも聞いてみるかって体か?
 まあ、話を聞いてみれば分かることだ。

 俺は警察官に向かってわかりやすく愛想笑いを浮かべる。

「ええ、勿論です! 高校生に対する恐喝事件ですか。怖いですね。それが本当なら大事件ですから、当然、協力させて頂きますよ! ああ、でも最近、冤罪事件も多いですからね。もし万が一、犯人が高校生なんて言った場合でも警察はちゃんと捕まえてくれるんですよね? なにせ恐喝事件ですから! もし捕まえるべき人間が高校生だったとしても犯罪は犯罪ですよね。再犯率も高そうだし、初犯だからって見逃したりしないですよね? ああ、品行方正な警察官の方を前に失礼しました。それで、話とは何でしょうか?」

 言いたい事を、言いまくった俺は笑顔を浮かべながら警察官に問いかける。
 警察官は苦笑いを浮かべると、手帳とペンを取り出し質問を始めた。

「それでは、いくつか質問させて貰ってもいいかな?」
「はい。善良な一般市民として、職務質問に答えるのは当然の義務ですから」
「そ、そうかい? それじゃあまず、君の名前を教えてくれるかな?」
「私の名前ですか? 私の名は高橋翔、二十三歳、独身です。今日までアメイジング・コーポレーション株式会社の経理部員として働いてましたが、理不尽な理由でクビとなり今は無職をやっています」
「そ、そうか。高橋翔君ね。身分を証明するものはあるかな? 免許証とかでもいいんだけど」

 免許証はある。
 しかし、ここはあえて無いと言っておこう。
 警察官とはいえ、家探ししてまで免許証を見つけろとは言わない筈だ。

「すいません。先程、葛高等学校の生徒五人にカツアゲされまして、当選金三千万円のスクラッチくじと一緒に三十万円と免許証の入った財布を強奪されてしまった為、今はありません。あ、住民票ならありますよ? 今日、失業保険の受給手続きをする為に、ハローワークに行ってきたんで」
「あ、ああ、それでいいから見せてくれるかな?」
「はい。今、お持ちしますね」

 そう言うと、カバンからクリアファイルに入った住民票を取り出し、警察官に手渡した。

「うん。ありがとう。高橋翔君、本人に間違いないようだね。それで、この辺りで恐喝事件が発生した見たいなんだけど、何か心当たりはないかな?」

 あれ?
 この警察官。さっき俺が行った事をなかった事にしてない?
 まあいい。そっちがその気なら何度でも主張してやる。
 なにせ、俺は当事者だからね!

「ええ、心当たりならありますよ。私がその被害者ですね。つい先ほど、宝くじ売り場前で五人の高校生に絡まれ、換金前のスクラッチくじ三千万円と財布に入った三十万円を奪われました。見て下さいよ。この動画を……」

 スマホを見せると、そこには、高校生五人が俺に暴行を働き、スクラッチくじと財布を奪い去っていく動画が映し出されていた。
 当然、俺の視線には、プライバシー保護の観点から黒い線が入っている。
 俺に暴行を働いた高校生達には、黒い線を入れていない。

「こ、これは……」
「酷いですよね。善意の第三者が動画を撮ってSNSに流してくれたみたいですが、これはもはや恐喝の域を超えています。実はこれから警察に被害届を出しに行こうと思っていたんですよ。警察官の皆さんが来てくれて丁度良かったです。私に暴行を加え、換金前の三千万円のスクラッチくじを強奪した高校生五人組に対して被害届の提出を考えているのですが、アドバイスを頂けませんか?」
「そ、それは私達では何とも……その件は警察署にご相談下さい」
「そうですか、折角、警察官の方が来られたので、丁度いいと思ったのですが残念です。病院で診断書も手に入れてますので、この動画と共に明日にでも警察署に相談させて頂きますね。それで、聞きたい話ってなんでしたっけ?」

 俺がそう言うと、警察官は苦笑いを浮かべる。

「い、いえ、もう十分話は聞かせて頂きました。私達はこれで失礼します。ご協力頂きありがとうございました」
「いえいえ、それではまた明日お会いしましょう」

 そう呟くと、警察官は玄関の扉を閉め、そそくさと出て行ってしまった。

 俺はスマホに視線を向けるとニヤリと笑う。

 Twitterのインプレッション数がどんどん上がっていく。
 順調に拡散し始めたようだ。
 リアルタイム検索で話題のキーワードを見てみると、『おっさん暴行』や『スクラッチくじ』はたまた『葛高』『俺の当選くじぃぃぃぃ!』といったキーワードが上位表示されている。

 まあ、俺、おっさんじゃないけどな。

 それにしても、まさかここまで拡散されると思わなかった。
 これも日頃の行いが良かったお陰だろう。

「ここまで拡散されればもう大丈夫だな」

 SNSを削除すると、俺は深い笑みを浮かべる。

 録画機能。
 それはDWに標準搭載されている機能の一つだ。DWでは、この録画機能を利用し、プレイ動画の撮影をしたり、編集して動画投稿サイトに投稿する事ができる。

 俺はこのDWに搭載されている録画機能を使って、高校生達が俺に暴行し、財布とスクラッチくじを奪っていくシーンの隠し撮りを行った。

 まさか、ヘッドギアなしに録画機能が使えるとは思わなかったが、結果良ければすべて良し!

 この方法を閃いたのは、俺の周りを飛ぶ不可視のカメラがキラリと輝くのが見えたからだ。
 現実世界でメニューバーやアイテムストレージが使えるんだから、当然、録画機能も使える。大規模イベント動画を録画する為に、録画機能を起動したままにしておいたのが生きた形だ。

 そもそも最初から警察は当てにしていない。
 裁判所も未成年に甘い判決しか出さないとわかりきっている。
 だからこその。実名動画配信だ。

 俺をボコってくれた高校生共の実名は、DWのすれ違いプレイヤー機能を活用する事で知った。

 高校生共め、動画を見て絶叫を上げろ。
 整形する以外にどうにもならないようする為の実名顔出し。ついでに高校名も表示しておいた。
 これで、社会的に抹殺したも当然だ。
 勿論、明日には、警察署に被害届を提出する。
 人の人生を滅茶苦茶にするような行いをする奴は一変地獄に堕ちた方がいい。

 未成年には未来がとか言う奴もいるが、それは実際に被害に遭っていないから言える言葉だ。
 中には更生してほしいという聖人君子の様な考えの人もいるかもしれないが、少なくとも俺は違う。

 やられたら普通にやり返す。倍返しだ!

 ぶっちゃけ、コイツらが更生しようが、しまいが何の興味もない。

 さて、ここまでは前段階として、今日の夜にでも、俺の三千万円を取り返しに行くとしよう。
 万が一、換金されたり、自棄になって破られては堪らない。
 俺はメニューバーのマップ機能に視線を向けるとニヤリと顔を歪めた。
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