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1章
第22話 暗転
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AM10:06 ドミナ
目の前で大粒の雨が地面を叩きつけていた。
緑を育む事ができない荒涼とした大地を責め立て痛めつけるかのように、上空の黒雲は水滴となった自らの分身を容赦なく放ち続ける。
この枯れ果てた土地も、かつては生命に満ち足りた草花を茂らせていたのかもしれない。
しかし時の流れと共に土壌は渇いていき、草木は枯れ、住み着いていたミミズにも見捨てられ、今ではこの雨を吸収する気力さえ失っているようだ。
そうして一人寂しく傍に居てくれた草花の笑顔を思い出し『こんなはずじゃなかった』と嘆きながら風化していくんだろう・・・・。
私はそんな事を考えながら野営のテントの内側でボンヤリと雨を見つめていた。
一体いつからここにいて、どれくらいの時間こうして膝を抱えているのかも分からない。
昨夜、あの恐ろしい力を使ってロールさん達を巣穴に閉じ込めてからの記憶が朧気だからだ。
あの後、自分のしてしまった事から目を背けるようになにも考えず、ただブリザード様の後についていった。
恐らく先行していた残りの隊員さん達と合流して、今はこうして山裾の空き地で野営しているんだろう。
生き残った隊員さん達は怪我をしていないだろうか?
仲間を喪って落ち込んでいないだろうか?
そんな事を他人事の様に思い始める。
そう、他人事の様に・・・・。
私は決して彼らとは相容れないんだろう。
もちろん、檻の中で怯えているパプリカの人達とも。
だって私も、この枯れた土地と一緒で一人ぼっちなんだから・・・・。
「いやはや困ったものだ。こうも酷いと身動きが取れないではないか」
雨を見ながらボンヤリしていると後ろからブリザード様が嘆いた声が聞こえてきた。
早くこの土地から離れたいのだろう、その声色から目を向けなくてもこの大雨にうんざりとしている表情が窺える。
うんざりしてるのは私の方なのに・・・・。
「ドミナ、昨晩はよく眠れたかな?」
胸の内で辟易していると、どこかからかう様な口ぶりでブリザード様が声をかけてきた。
まるで私の心を見透かして、その上でわざと煽っているかのように聞こえてしまう。
返事をするのも煩わしかった私は黙って目の前の雨を見続ける。
するとブリザード様が呆れたように鼻を鳴らした。
「いかんなあ、今のお前は曲りなりにもこの部隊の副隊長だぞ。そのお前があの程度の事でこうも気落ちするなどと。いい加減自分の立場を自覚したらどうだね」
・・・・あの程度の事。
ブリザード様の言葉で昨晩の光景が脳裏に浮かび上がる。
青い火花、岩肌を突き刺す雷撃、崩れ落ちる岩盤。
私の力でロールさん達は・・・・。
「うぅ・・・・!」
すでにトラウマになってしまった出来事を思いだし、胸が痛みだし、呼吸が乱れる。
「フフフ、胸が痛むか?自分が恐ろしいか?そうやって目を反らし続けようと己の業が風化する事はないぞ」
「・・・・やめて、ください」
「割りきりなさいドミナ。あの時のお前の判断は正しく、その力は美しかった。あんな神々しくも禍禍しい花火を見たのは久しぶりだ」
「やめて、私は・・・・」
「その小さな手から放たれたあの美しい雷。あの時と同じだ。私が初めて施設長に出会い戦った時と同じ力だよ。やはりお前はあのお方に似ている」
ブリザード様は遠い過去を思い出しながら恍惚とした表情で震えながら語る。
「当時の私はクリムゾンを追放され、野盗にでも身を落とそうかと考えていた。そんな時、突如目の前に現れたあのお方と私は戦い、そして敗れたのだ。力の差がありすぎて唖然としたよ。幼少期から天才と呼ばれ、若くして戦場に身を投じ、勝ち続けていた私が手も足も出なかった。あの時私の運命は変わったのだ!」
空を覆う黒い雲を見つめながら、自分に酔いながら語り続けるブリザード様。
私はその姿を不気味に感じながら、話の内容に驚いていた。
ブリザード様が昔、クリムゾンの特殊部隊にいたと言う話は聞いた事があった。
今ドナドナ部隊の隊長をしているのはその時の経験を買われてのことらしい。
でもまさか、あの施設長と戦った事があったなんて。
ブリザード様は視線を黒雲から私へと移し怪しく微笑む。
「そして昨晩私は確信したよ。やはりお前はスケルトンケアの指導者となるべき人間だ。お前の力は人を魅せ、そして恐怖させる二面性を持っている。強大な霊巣魔力量、生まれついての七色の才能、それこそが我らユーリエッセ人の信念”魔力至上主義〈エターナルドリーム〉”の体現者としての証なのだ!」
・・・・どうして、こんなにも食い違うんだろう?
私はずっと、この力は人に寄り添うための物だと信じて生きてきた。
けど、この人は・・・・この人たちは・・・・。
野営地の中央に目を向けると、そこには雨風を凌ぐため白い布で覆われた檻が見える。
故郷を襲われ、大切な人を奪われ、震えながら自分の運命に絶望するパプリカの人達。
「・・・・私は」
そしてこの世界で泣いているのはあの人たちだけじゃない。
オールドファームでは非色民と蔑まれ、虐げられて生活していた村人たち。
私のこの力はあの人たちを笑顔にする為にあるはずなんだ!
「誰かを抑圧する力なんて私は要りません。人を傷つける力なんて要りません。・・・・私は貧しい人達を支えてあげられる力が欲しいんです」
震える膝を腕で押さえながら私は勇気を出してブリザード様に自分の言葉をぶつける。
私達スケルトンケアは魔力のあるなしで勝手にその人の人生を縛り付けてきた。
この世界で魔力は遺伝しない。
魔法が重視されるユーリエッセでは血の繋がりは希薄な物に扱われがちだ。
農園から都へ、都から農園へ。
魔力産業の発展という名目で多くの血と涙をこの大地に落としてきた。
私達が生み出すのは両親から引き離された子供の泣き声と、子を連れて行かれた両親の悲鳴。
そこには決して私が理想として思い描いてきた愛ある世界は存在しない。
スケルトンケアは・・・・私たちは変わらなくちゃ・・・・
「絵空事だな。そんな物では人は幸せになれんよ」
だけどブリザード様は震えながら吐き出した私の想いをバッサリと切り捨てた。
子供のわがままをあしらうかのように・・・・。
「魔物どもが蔓延るこの世界で人々に必要とされるのは魔力〈エターナル〉という武器だ。お前が憐れんでいるパプリカ人達も、私が力を行使しなければ魔物に血肉を食まれるしかないのだぞ。現に今のお前は私の背中に隠れているだけではないか?それでパプリカ人たちを守れるのか?」
「そ、それは・・・・!」
痛いところを突かれて言葉を失ってしまう。
確かに私の小さな体では何も守れない。
こうやってブリザード様の背中に隠れながら振り回される現状を、変える力はない・・・・。
そもそもパプリカの人達をこんな目に合わせてるのはこの人なのに。
力のない私の言葉はこのドナドナ部隊の中では誰よりも無力なんだ。
「そして非色民にしてもそうだ。身を守る術を持たず、自分たちの生活基盤すら築き上げることのできない者たちに必要なのは力ある者による支配なのだ。我々が奴らを農園という柵の中に閉じ込めているのは言うなれば救済なのだよ。柵の中の世界しか知らない無知だから分からないのだ。外の世界がどれほど過酷かを。そして自分たちではどう足掻いてもその環境に適応する事ができないという現実を。力なき夢などこの世界では許されない。牙を持たない家畜は柵に繋がれている現状こそが救いなのだ」
「でも・・・・」
そうだとしても、それじゃあ何のためにあの人たちは生きているの?
あの人たちがいつも見上げている空はきっとこの黒雲と同じだ。
雨に打たれ、雷に怯え、冷たく身を震わせながら体を丸めながら晴れ間が覗くのを待っている。
このままでは決して過ぎ去る事のない黒雲を見つめながら・・・・。
「ドミナよ。どうやらお前は奴等の本質が見えていないようだな」
そんな私の心情を察したのかブリザード様は嘆息しながら私に告げる。
「お前は非色民どもの表面だけを見て奴等を憐れんでいるのだろう。それが間違いなのだ。奴等は家畜などではない。その本質は卑しい寄生虫なのだよ」
「寄生虫?どういう事ですか?」
その言葉の意味が分からず私はブリザード様を見上げた。
そして、私は衝撃を受ける。
いつも余裕の笑みを浮かべながら自分の主張を押し付けてくるブリザード様のその顔が、今は苦虫を踏み潰したように歪んでいたからだ。
「・・・・それはお前自信がこの旅で知ることになるだろう」
ブリザード様は私の視線から逃げるように顔を背けながらそう告げる。
「・・・・私から言えることは手綱の握り方を誤るなと言うことだけだ。・・・・少し隊員達の様子を見てくる。お前も雨があがるまで休んでおきなさい」
自分を抑える様な低い声でそれだけ言い残し、ブリザード様はやはり逃げるようにテントから離れて行った。
・・・・今の表情はなんだったんだろう?
ブリザード様のあんな表情・・・・初めて見た。
・・・・寄生虫、とあの人は言っていた。
その言葉の意味するところは分からない。
昔、非色民の人達との間でなにかあったのかな?
旅を続ければ私にも分かるはずと言っていたけど?
・・・・いや、今は何も考えたくない。
答の見えない疑問をボンヤリと考え続け、だけど私の思考は徐々に鈍化していく。
今、私が本当に求めてるのは停滞だ。
これ以上誰も傷つけなくていい立ち止まったこの状況。
変えたいとは思う、けど今の私では結局誰かを傷つけるだけなんだもん・・・・。
今はただこの雨が降り止まなければ、こんな旅は続ける必要はないのにと思うばかりだった。
AM10:06 ホーリィ・クローゼット
目覚めは雨音と共に訪れた。
トントンと目の前で小刻みに何かが叩かれる音を聞きながらゆっくり瞼を開いていく。
てっきり坑道の黒い岩盤が視界に表れると思っていたけど、予想に反しそこにあったのは染みだらけの木製の天井だった。
ここは一体・・・・?
混乱しながら私は周りを確認する為寝起きでぼやけた目を擦りながら、上体をゆっくり起こしていく。
「ぬっ、起きたか」
その時、横から声が聞こえてきた。
顔を向けるとそこには”本の様な物””を片手に持ったロールさんがいた。
「ロールさん?ここは?」
「坑道の外にあった古い小屋の中だ。汚い上にあちこち隙間が空いてはいるがなんとか雨風は凌げる」
「坑道の外?それじゃあ・・・・」
「ああ、安心しろ、ここはもうコロニーの外だ。お前たちは皆無事に生き残ったんだよ」
信じられなかった・・・・。
苦痛に倒れ、魔獣に襲われるというあの地獄の状況で生き残れるなんて・・・・。
夢みたい・・・・。
「・・・・あっ!! アロウさんとフレアさんは!?」
二人の事を思い出し私はバッと身を乗り出す。
「落ち着け、坊や達ならそこで眠ってるよ」
言いながらロールさんは小屋の奥に顎を向ける。
二人は埃だらけの床に横たわり眠っていた。
見たところ大きな怪我もなさそうだ。
よかった・・・・。
「明け方に出口を抜けて今はもう昼前だ。胸はまだ痛むか?」
そう言われて私は自分の状態を確認する。
胸はまだ少しズキズキするけど、エターナル化光素中毒で倒れていた時に比べてずいぶん楽になっていた。
霊巣にも魔力が戻ってきている。
「少し痛むけど大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
「気にすることはない。というより、俺の方こそお前を振り回して悪かったな。予定ではさっさと救いだして相棒と合流するはずだったんだが、随分回り道することになったな」
「そんなっ!謝らないで下さい!こうして生きていられるだけで私は充分感謝してます!」
頭を下げるロールさんに対して慌てて両手を振る。
そんな私の姿にロールさんはフッと笑みを浮かべる。
「どうやら、少しは吹っ切れた様だな」
「え?」
「森で泣き出した時は『このまま消えてしまいたい』って顔してたからな。少しは生きる希望ができたみたいで安心したよ」
言われて私は視線を床に落とす。
今でもお母さんたちを殺された現実を思うと胸が苦しくなる。
いっそ私も二人のところに行けたならと、そんな風に思ってしまうのはどうしようもない。
・・・・でも、もう少しだけ留まってみたいとも思う。
「・・・・だって、みんなが居てくれたから」
視線を落としながらそう呟いた瞬間、視界が涙でにじんできた。
胸がぽかぽかと熱くなる。
その温もりが手足が震えるような絶望を和らげてくれる。
胸からこみ上げた暖かい雫が瞳からポタリと零れ落ち、ささくれた床板に優しく滲んでいく。
「私なんかを見捨てずに、必死で戦ってくれたから、それが、うれしくて・・・・」
本当に私って駄目な女だ。
物語に出てくるような悲劇のヒロインじゃあるまいし、一人で泣いて、一人で落ち込んで。
アロウさんもフレアさんもずっと一緒に泣いてくれていたのに、ロールさんがずっと守ってくれて・・・・そばにいてくれたのに。
あんな化け物と戦わせて、死にかけて・・・・一人じゃなかったんだって、ようやくそれに気付くなんて。
「言っただろう。スライム族は困っている人間を見捨てない。そこの2人だって一緒だ。4人とも爪弾き者ばかりだがそんな俺たちだからこそ分かり合えることもある。・・・・お前はもう、一人じゃないだろ?」
優しい声音でロールさんが右手を差し伸べてくれる。
「お前を助けに来たんだ、ついてきてくれるか?」
「・・・・はい。みんなと一緒にいたいです」
涙滲んだ声でロールさんに答えながら私はその手を掴んだ。
巨漢のロールさんの手のひらはやっぱり、すごく・・・・大きかった。
けどその温もりは私と変わらない。
人肌の温もりが小さな私の手のひらを包んでくれる。
あの時、あの屋敷で差し伸べてくれた右手をようやく受けいれられた気がした。
「・・・・ところで、それなんですか?」
涙を拭いながら私はロールさんが左手に持っていた"それ"に目を向ける。
ずっと気になっていた本のような日記の様な・・・・不思議な物体。
いや、おそらく物ではないんだろう。
形は本に見えるけど・・・・紙ではなく薄透明の光の粒子がそれを形成しているからだ。
おそらくは、魔法だと思うけど・・・・
「ああ、これか。これはスライム製の賢人魔法”大丈夫♪スライム族の攻略本だよ!〈パーフェクトバイぷる〉”だ」
「・・・・ぱーふぇくと、ばいぷる?」
「うむ、俺たちスライム族の”たびのきろく”を書き記した物だ。世界各地に散らばる魔商スライム族は滞在している地域の物価や採取可能な資源、それと魔物の情報なんかを記録していてな、いつでも仲間内で情報共有出来るようにしているんだ。それを可能としているのが賢人魔法、この”パーフェクトバイぷる”だ。言うなれば魔商スライム族の見聞録だな」
「へえ~、なんだか便利ですね。じゃあ、ひょっとしてあのゴキブリの事も?」
「いや、あのゴキブリは記録に載っていない。どうやら俺が第一発見者のようだから記録を取っておこうと思ってな。・・・・まあ、”暗黒ルシファー大陸”の魔物だとしたら載ってないのも当たり前なんだが」
「・・・・・・・・」
・・・・・・・・ん?暗黒ルシファー大陸?
「なんですか?その、”暗黒ルシファー大陸”って?」
どうも、聞いたことのない不思議な単語ばかりが出てくるなぁ。
なんだか混乱しそう・・・・。
「暗黒ルシファー大陸ってのはこのユーリエッセ大陸の南にある幻の大陸の事だ。地域によって名称はコロコロ変わる。この大陸では暗黒ルシファー大陸、現地ではスピリファー、他にもさまざまだが・・・・一番浸透してるのは"魔界〈ルシ=フェル〉"って呼び方だな。たしかパプリカでもそう呼ばれてたはずだが、聞いたことないか?」
「あっ!それならおばあちゃんに聞いたことあります」
子供の頃寝る前によく聞かされた。
この世界には魔界〈ルシ=フェル〉と呼ばれる、人間が足を踏み入れる事のできない幻の大陸があるらしい。
曰く、その地は私達の住む大地より遥かに過酷な環境で、そこで生まれた魔物は凶暴性、生命力、戦闘力のすべてに於いて他の大陸の魔物より強大である、と言われている。
そして、私の村では『悪い事ばかりするといつか悪魔に攫われて魔界〈ルシ=フェル〉の魔王に食べられてしまうんだよ!』・・・・と、低い声で脅かすようにおばあちゃんに聞かされてきた。
その話を聞かされて夜は恐くて眠れなくなったものだ。
・・・・今考えてみると、おやすみ前の子供に聞かせる話じゃないと思うんだけど・・・・。
でも・・・・この話はたしか・・・・
「ロールさん、それっておとぎ話なんじゃないんですか?」
おばあちゃんはさも本当の事の様に語っていたけれど、同じ様に子供の頃聞かされていたお父さんはそんなものただの作り話だと笑っていた。
私も子供の頃は信じていたけど、さすがにこの年になるとそんな話は・・・・
「いや、暗黒ルシファー大陸は実在する。いまだ上陸出来た者はいないが、多くの調査団にその存在を視認されているんだ」
しかし疑わしい顔を向ける私に対し、ロールさんは毅然とした声で言い切った。
「それに人間の肉体がその生命を終えると回帰現象で光の粒子となって昇っていくだろう?あの光は全て暗黒ルシファー大陸に流れていくんだ」
「あの光が・・・・?」
じゃあ、お父さんもお母さんも昨晩殺されたアロウさんの親方も今頃は・・・・
「田舎なんかではその辺りの情報が錯綜して、その地域の怪しげな伝承と面白おかしく織り混ぜられたりしてるんだ。恐らくお前のばあさんもそれと同じ口だろう」
「なるほど・・・・」
いたずら好きだったおばあちゃんらしいや・・・・。
「でもどうして誰もその大陸に上陸出来ないんですか?」
「それはだな、暗黒ルシファー大陸の近海から"モーセの尾接界"と言われる馬鹿デカイ結界が発生しているからだ」
「・・・・・・・・もーせのおせっかい?」
今日何度目か分からない初めて聞く単語にもう頭がこんがらがってきた・・・・。
「”モーセの尾接界”。その名の通り蛇の尾が鎖状に絡まった様な形の結界だ。海底から力場が発生し、そのまま海面を突き抜け、上空まで伸びた結界は大陸を360度ドーム状に包んでしまっているんだ」
「そんな!大陸一つを丸ごと包み込む結界だなんて!」
「その上厄介なのがその頑強さだ。過去に我こそはという数多の使い手達が磨き上げた力で結界を破ろうと自身の持つ最高の魔法を撃ち込んできた。・・・・が、結果は罅一つ入れる事が出来ず逆に自らのプライドを粉々に砕かれてしまったわけさ。結局お宝を求めてやってきた調査団たちはその結界を打ち破ることもすり抜けることも出来ず、外から指を咥えて眺めるだけ。やがて食料と金だけがなくなっていき、その内みんな馬鹿らしくなって小石を蹴りながら故郷に引き返して行ったわけさ・・・・」
遠い目をしながら語るロールさん。
海の向こう側でそんな現象が起きるてなんて、なんだか不思議だ。
誰も近づけない幻の大陸かぁ・・・・。
あれ?でも、それって、
「ねえロールさん、じゃあその結界がある限り外からはもちろん、内側からも誰も出られないんじゃないですか?」
私が疑問をぶつけるとロールさんは目を閉じて天井を仰いだ。
「・・・・物理的に考えると、そうなる」
「それっておかしくないですか?ロールさんはあのゴキブリがルシ=フェルの魔獣だって言ってましたけど、それならあのゴキブリはどうやってその結界をすり抜けて来たって言うんですか?」
説明がつかない話だ。
あの魔獣、それに魔獣使いのあのアリーガという男はその不可侵の結界を何らかの方法ですり抜けた事になる。
それに仮にすり抜けたとしても、あんな大型の魔獣が海を越えてこの大陸までやってくるなんてとても想像できない。
天井を仰いでいたロールさんは徐に首を落とし、なぜか自分の胸を押さえながら重苦しく息を吐き出した。
「・・・・実は、方法がないわけではないんだ。モーセの尾接界を超える事も、あの魔獣をこの大陸に送り込むことも・・・・。だけど、もしそうだとしたらまずい事になる」
「まずい事?どういうことですか?」
「これは俺の仮設なんだが・・・・ある”2つの存在”が協力し合えばルシ=フェルの魔獣をこの地に送り込むことが出来るはずだ」
「2つの存在?なんですかそれ?」
「それは・・・・」
(ガサ・・・・ガサ・・・・)
・・・・うん?
ロールさんがまさに答えようとしたその時、後ろでもぞもぞと動き出す音が聞こえてきた。
私たちは話を中断して後ろを振り返る。
「ん、う~ん・・・・・・・あれ?どこだここ?」
布が擦れるような音の正体はアロウさんの目覚めによるものだった。
まだ覚醒しきってないのか、アロウさんは目を擦りながらぼんやりと視線を宙にさ迷わせている。
「あっ!アロウさん、体は大丈夫ですか?」
私は慌てて近寄りその背中を支える。
「ホーリィ?・・・・ここは?」
「坑道の外にあった古い小屋だそうです。私たちあのコロニーから生きて出られたんですよ」
「コロニーの外に?・・・・あっ!ふ、フレアは!?あいつは無事か!?」
寝起きでボンヤリとしていたアロウさんだったけど、フレアさんの事を思いだしたとたん、慌てて私に詰め寄ってきた。
「お、おちついて!フレアさんならそこで寝てますよ!」
慌てる肩を押さえながら目線で隣で寝ているフレアさんを示す。
「えっ?・・・・あ、ほんとだ」
フレアさんの無事を確認したアロウさんはホッしたのかへなへなと腰を曲げた。
・・・・よっぽど、大事な存在なんだろうな。
ちょっとだけ、うらやましい・・・・。
「・・・・さて、アロウも目覚めたことだし俺は少し外の空気を吸ってこようか」
「え?」
と、今度はロールさんがそんな事を言い出して立ち上がる。
「お前たちは今のうちにゆっくり休んでおけ。この小屋の周囲に結界を張っておいたから俺が戻るまでここからは出るなよ」
「ち、ちょっと待ってくださいよ!まだ話の途中で・・・・」
「続きはそっちの貧乳が起きてからだ。俺も少し情報を整理する時間が欲しい。出発前に色々やる事があるしな」
そう言い残しさっさと出ていこうとするロールさん。
その背中は結論を先延ばしにしたいようにも見える。
なんだか、焦らされてるようでスッキリしない。
「・・・・それに」
・・・・と、ドアノブを掴んで扉を開こうとした時、ロールさんは徐にこちらを振り返った。
そして小さな声で、だけどハッキリと呟いた時のその顔を私たちは忘れることがないだろう。
「この件に一番関わってくるのは恐らく・・・・その女だ」
「え・・・・?」
視線をまっすぐフレアさんに向けながら悲哀に満ちた顔で呟いたロールさん。
その表情に私たちは固まる。
女の私より透き通った肌に整った顔立ち。
中でも一際目を引くその美しい瞳から、一滴の涙が流れていたからだ。
(どうして・・・・フレアさんが・・・・?)
そう問いかけたいけど・・・・言葉が出てこない。
(どうして・・・・泣いてるの・・・・?)
頬をゆっくり伝うその雫を眺めるだけで、唇が開こうとしない。
誰も何も言葉が発せず重苦しく時が流れる。
1秒・・・・2秒・・・・3秒・・・・と、時がゆっくり流れるような錯覚に陥る私たち。
やがてロールさんの顎から床にその雫が落ちた時、ガチャリと音が鳴る。
ドアをゆっくり開けながらロールさんは外に体を向ける。
雨を防ぐため黒いフードを被りながら足を踏み出す。
ドアが自然と閉まっていき、徐々に黒い背中が隠れていく。
結局、その背中が見えなくなるまで私もアロウさんもただの一言も言葉を発することが出来なかった・・・・。
AM10:06 フレア・ロングコート(1:00)
「・・・・で?あいつはこんな汚い小屋にか弱い乙女を残して出て行ったって事?」
二人から現在の状況を聞いた私は呆れながら腕を組む。
時刻はお昼過ぎ。
先ほど目覚めた私は先に起きていたアロウとホーリィと共に無事を喜び合った後、軽い祝勝会を開いていた。
と言っても、料理は私がアロウの家で調達していた食糧を使ったサンドイッチとりんご。
天候は相変わらず雨が降り続け、極めつけに会場はこの廃墟同然の汚ねえ小屋。
魔物が突進してくれば崩れ落ちそうな掘っ立て小屋に私達を置いて行くなんて。
今、腹をすかせたあのゴキブリが襲ってきてみなさい、ひとたまりもないわよ。
「一応、魔よけの結界を張ってくれたみたいですから、ここから出なければ大丈夫だと・・・・」
「けど出て行ってからもう2時間は経ってるんでしょ?一体何やってんのよ?」
昨晩コロニーデビューを果たし冒険者としての一歩を歩き出した私達だが、やはりまだまだ半端者ばかり。
魔物が蔓延る外界で3人だけと言うのはどうしても不安なのだ。
「・・・・色々やることがあるとは言ってたんですけど、ロールさん様子が変だったんですよね・・・・」
私が不満を漏らしているとホーリィが心配そうに呟いた。
「様子が変だったって・・・・具体的には?」
「理由は分からないんですけど、すごく辛そうでした。・・・・ロールさん、一瞬だけですけど、泣いてたんです」
「・・・・あのロールが?どうして?」
「それは・・・・分からないんですけど・・・・・」
力弱く答えホーリィは俯いてしまった。
・・・・どうも要領を得ないわね。
ホーリィもなんか私に遠慮しながら答えてる様にも思えるし。
あの面の皮の厚いのロールが泣くなんて想像が・・・・いや、そう言えば私がアリーガをぶっ飛ばした時もそんな顔してた・・・・。
あの時は必死だったから気にしなかったけど、なんであんな顔されたんだろう?
・・・・というより、あの時の私の力は一体何だったの?
「・・・・フレアさん?」
・・・・いや、原因は薄々分かってるんだ、私は。
昨日から私の周りで嫌な事ばかり起きている。
それと同時に私の内側で不気味な力が蠢き始めている。
その発端は間違いなく・・・・
「あの、フレアさん?」
右手にゆっくりと目を向ける。
そこにはあの女に犯された呪いが刻まれていた。
──1:00
あの時、右手に走った激しい痛みを伴い表れた人外の力。
呪いの進行と共に身体に起こった異変。
もしかして、ロールはこの呪いの事を・・・・
「フレアさん!」
「へぁっ?」
急に耳元でホーリィの声が響き、私は思考の淵から呼び起こされた。
「急にどうしたんですか?フレアさんこそ辛そうな顔してますよ?」
「え?あ、ごめん」
いかん、私としたことが・・・・。
呪いの事は不安になるから考えないようにしてたのに。
「なんだか顔色も悪そうですし、もう少し休んでた方がいいんじゃないですか?」
私の顔を心配そうに覗きこむホーリィ。
せっかくの祝勝会なのにしんみりしちゃってるじゃない。
私は頭をぶんぶんと振って笑顔を作る。
「だ、大丈夫よ!ほら、せっかくの祝勝会なんだからあんな男の事なんかほっといて盛り上がるわよ!」
不安は燻っている。
だけど、今は・・・・今だけは笑っていたい。
ここまでずっと暗い気持ちで歩き続けて来たんだもの。
傷つきながら、泣きながら、痛みに堪えながら、ようやく抜けたんだから。
ロールがいないのは勿体ないけど、この3人で生きている喜びを分かち合わなきゃ。
・・・・そう言えばさっきから、1人黙りこんでる奴がいるわね。
「ちょっとアロウ!あんたさっきから何黙ってるのよ!」
目尻を吊り上げて私は地蔵になっていたアロウに喝をいれる。
「へぁっ?」
急に怒鳴られたアロウはなんとも間抜けな声を出しながらようやくこちらに意識を向けた。
「あんたねえ!ムードは最悪だけどこんな美少女2人と食事してるのよ!メンズが盛り上げなくてどうするの!」
「あ、ああ・・・・悪い」
アロウは謝りながらもまたすぐに俯いてしまう。
「・・・・ひょっとしてまだ体調が悪いの?」
「いや、そうじゃないんだ。・・・・なんか、ようやくひと息つけたと思ったら、色々考えちゃってさ」
「あっ・・・・」
いかん、私としたことが・・・・。
アロウだって同じに決まってるじゃない。
幼馴染と別れて、お兄さんは生死不明。
頼れる存在もいない中、故郷を追われ危険な世界に飛び出したばかり。
昨日、色々な事がありすぎた私達だけど、アロウの心の傷はこの中で一番新しくまだ傷が塞がってもいない状態だ。
その傷口からドクドクと薄黒い血が流れ続けてるのを無理に押さえて、アドレナリンを出しながらここまで走り続けて来たんだもの・・・・。
一晩たったら・・・・そりゃ、つれえでしょうよ。
「俺、ほんと弱えよな・・・・」
アロウは話すうちにどんどん沈んでいき、ついにはそんな事を言い出す始末だ。
「あんたなに言い出すのよ?」
「だってさ、外の世界ってロールとかアリーガとかホント凄え奴ばっかでさ。俺なんてロールの背中に隠れてるだけでフレアみたいに一緒に戦うなんてとてもできないよ」
・・・・私だって、隠れて逃げ回ってただけなんだけど。
というか、あんな奴らと一緒にされてたまるか。
「それに今も一人じゃこの小屋から出ることも出来やしない。村出てもこうやって結界の中で魔物に怯えてるなんて、これじゃあなにも変わらないじゃないか」
「それは・・・・今はしょうがないですよ」
「そうよ、今はまだ私たちだけで外を歩くのは危険なの。ロールが帰ってくるまで・・・・」
「でも、もし・・・・ロールがこのまま帰ってこなかったら?」
アロウがその言葉を放った瞬間、私の背筋が凍る。
「あいつも兄貴みたいに俺達を置いて行ったら?どうすればいいんだ?」
ここまでロールが私達を置いていく素振りなんて一度たりとも見せなかった。
スライム族の使命だと言って、ずっと私達を守り続けてくれた。
一緒に居てくれて、それが当たり前だと安心しきっていたと言われれば・・・・確かにその通りだ。
あいつが魔獣と闘いに行った時、私が動けたのはそんなあいつを失いたくなかったから。
あの時確かに私達は仲間だったからだ。
だから私は燃える闘魂を胸に立ち上がる事が出来た。
少しだけ強くなることが出来た。
でももし、ロールに見限られたら・・・・?
心が離れられてしまったら、その時私は立ち上がる事が出来るだろうか?
考えるだけで足が震え出す。
ロールに、アロウに、ホーリィに、母さんやアルに拒絶されたら、私はもう立ち上がれないだろう。
そこまで考えてようやく気づいた。
今のアロウの気持ちが。
誰かに拒絶されるということがどれ程苦しいのかを。
「ラビットが言ってた通りだ。俺やっぱり外の世界を甘く見てたんだ。自分の力で外に出てやるなんて意気込んでても、結局どっかで兄貴が迎えに来てくれるかもなんて期待してたんだ。
兄貴に依存してたんだ。こんなおんぶにだっこでお荷物の俺なんかいつかみんな・・・・」
そんな事はないと言わなければいけない。
そう解っていても口が開かない。
どれだけ慰めあっても、どれだけお互いを守り合っても、私達は仲間だと胸を張って言えるだろうか?
弱い自分をさらけ出して相手の同情を誘って依存しているだけなんじゃ・・・・
「そんな事・・・・言わないで」
その時、小さな涙に濡れた声が私とアロウの耳に届いた。
目を向けるとそこには、涙を流したホーリィが悲しみの顔をアロウに向けていた。
「私だって、みなさんに一方的に頼っちゃってます。泣いてばかりで迷惑ばかりかけてます。身体が大きいみんなの事がまだ少し恐いです。でも・・・・!」
天使のような美顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら、ホーリィは必死に訴える。
「あなたの事を見捨てたりなんて、そんな事、しない・・・・。アロウさんは、身を挺して私を、庇ってくれたじゃないですか・・・・。誰より優しい心を持ってるじゃないですか・・・・」
「そんな、俺なんて・・・・」
「あの暗闇の中で倒れた時、みんなの暖かさだけが私の拠りどころだった。みんなが支えてくれたから、私もみんなを信じられた。見捨てたりなんて・・・・しないよぉ・・・・!」
ホーリィは必死に言葉を告げながら泣き崩れた。
アロウは目の前で泣かせてしまった女の子の姿に茫然としている。
ホーリィは誰よりも独りぼっちだった。
確かに私たちはロールにおんぶにだっこのお荷物だった。
でも、そんな私達でも確かに一人の女の子を救えていたんだ・・・・。
私は泣き崩れたホーリィの背中をさすりながら、キッ!とバカ野郎を睨みつける。
「女の子を泣かせるなんて・・・・サイッテー」
「うっ・・・・」
私の責めを受けたアロウはバツが悪そうに目を逸らす。
私は目元をを緩めてその胸にコツンと軽くパンチをいれる。
「しっかりしなさいよ男の子。ビビってんじゃないわよ」
「フレア・・・・」
・・・・猟師をやってるだけあってアロウの胸板は、すごく・・・・大きかった。
なのにこの内側にある心はとても繊細だ。
きっと身を挺して庇った時もとっても恐かったはず。
体は大きくても根っこの部分はまだ男の子だもん、いつだって不安なのよね。
そんなアロウの男の子の部分を今まで支えていたのはきっとあの子なんだろう。
だけど、それも私が引き裂いてしまった・・・・。
今度は私が、支えてあげないとね。
「行くわよ、アロウ」
「へっ?行くって、どこに?」
「ロールのとこ。不安なら迎えに行けばいいじゃない。どうせすぐそこら辺にいるんだから」
「い、いや、でも、外は・・・・!」
怯むアロウの手を握り締める。
「今度は私の背中についてきなさい」
「フ、フレア・・・・」
「私はもう恐くないわよ。・・・・あんたが隣にいるんだから」
私の言葉にアロウはハッとする。
魔力のあるなしなんて関係ない。
尻込みしてるなら蹴り上げてやればいい。
震えているなら手を繋いで・・・・離さなければいい。
ロールに頼り切ってるのが申し訳ないなら、3人でその背中を守ってやるべきなのよ。
握り締めた私たちの体温が混ざり合っていく。
徐々に熱を帯び始め、迷ってたアロウの目に力が戻ってきた。
「・・・・ごめん2人とも、俺、どうかしてたよ」
「アロウさん・・・・!」
「自分で選んだ道だもんな、雨宿りなんてしてる場合じゃなかったよ」
繋いでいた手を離し、アロウは弓を手に取る。
私は小さく頷き武器を手に・・・・
「・・・・あら?」
と、武器を取ろうと床に手を伸ばしたが、肝心の武器が見当たらなかった。
・・・・そう言えば、片手剣は捨てて、護身用のナイフはアリーガとの戦いでどっかに吹き飛んだんだった。
仕方ない、何か武器になりそうな物を・・・・
――カサ・・・・カサ・・・・
凶器を探して小屋を見渡したその時だった・・・・奴が現れたのは。
私の視線が壁のある一点に止まる。
――カサカサカサカサ
カビだらけで変色した壁に浮き出た黒い光。
頭からつんと飛び出た2本の触覚が左右に揺れる。
私の顔からみるみる血の気が引いていく。
「フレア?」
私の異変に気づいたのかアロウは怪訝な顔で私の視線を追っていく。
やがて同じ一点に辿り着いたアロウもピキっと固まってしまった。
誰も何も言葉が発せず重苦しく時が流れる。
1秒・・・・2秒・・・・3秒・・・・と、時がゆっくり流れるような錯覚に陥る私たち。
「ぎ・・・・」
沈黙を破ったのは私だった・・・・。
一声発すれば蓋が開いたように、背中から込み上げた恐怖が喉に溜まっていく。
やがて・・・・それは破裂した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ゴキブリィィィィィィィ!!!!」
喉から魂が飛び出るんじゃないかと思うほどの叫美声が小屋をビリビリと軋ませる。
私のシャウトを全身に浴びた乙女の天敵は驚きカサカサと動き回る。
同時に私も後ろに転げ回りドタンガシャンと取り乱してしまった。
「フレアさん!?お、落ち着いて!」
「敵襲ぅ!敵襲よ!総員!迎撃準備!」
私を落ち着かせようと方を押さえるホーリィを振り切り、全力のファイヤーボールを撃ち込むため、両手にエターナルを込める。
「フレアさん!?ダメ!魔法を撃たないで!」
「止めんじゃないよ!!私のファイヤーボールであのゴキブリを焼き尽くしてやるわ!」
「こんなホコリだらけの場所で撃ったら私達まで燃えちゃいますよ!あと、アロウさんも落ち着いて!」
隣では弓を射とうとするも矢を取り零したアロウがワタワタとしている。
やはりアロウじゃ頼りにならない!
私が仕留めてやるわ!
動き回るゴキブリに照準を合わせようとする。
が、素早い動きを追いきれず焦っていると、小屋の外からドタバタと足音が聞こえてきた。
そして小屋の扉がバタンと開かれる。
「おい!なんだ今の汚い悲鳴は!?一体何があった!」
現れたのは私の叫美声を聞いて慌てて駆けつけたロール(あとで調教)だった。
私は一旦狙いをつけるのを中断し目じりを吊り上げてロールを振り返る。
「ちょっとロール!あんたどうなってんのよ!小屋の周りに結界張ってくれてたんじゃなかったの!?魔物が侵入するとはなにごとよ!」
「なに!?魔物だと!?そんなバカな!?」
「驚いてないでさっさと退治しなさい!動きが速くて狙いが付かないのよ!」
言われてロールは私の照準の先に目を向ける。
そして、敵の姿を確認して「ん?」と首をひねる。
そんな呑気な姿に私はイライラして声を張り上げる。
「ちょっとなにやってんのよ!?早くその魔物を退治しなさい!」
「・・・・いや、ただのゴキブリじゃないか。なに慌ててんだお前?」
「そうよ!ただのゴキブリよ!分かったらさっさと・・・・へ?」
・・・・ただのゴキブリ?
ロールの告げたあっけない指摘に私の両手からエターナルが霧散していく。
「ほ、本当にただのゴキブリなの!?魔物じゃなくて!?」
「見れば分かるだろ?あいつらとは違う。そこら辺にいる普通のゴキブリだよ」
「へ?あ・・・・え?」
魔物じゃ・・・・なかったの?
な、なぁんだぁ~!あ~ビックリした♪
安心した私はその場にへたりこむ。
「あ~あ、食いもんがメチャクチャじゃねえか。もったいない」
私が暴れたせいで散らかってしまった床を見ながらロールが呆れている。
とたんに恥ずかしくなり私は震えながら下を向く。
「ったく、虫一匹現れたくらいでなんだこの様は。お前ら本当にこれからやっていけんのか?」
「うるさいわね!昨日あれだけゴキブリに襲われたんだから仕方ないでしょ!大体あんた今までなにしてたのよ!」
「色々だよ。先を行ってる相棒に連絡したり、コロニーの調査したり、情報整理したり、それにコロニーを封印したりしてたんだよ」
「・・・・コロニーを封印?」
「このままほっといたらまた他の魔物に占領されるだろ。だから強力な結界で魔物が近寄れないようにしたんだよ」
そうか、確かにあのまま放置してたらまたシバウルフあたりのコロニーにされてしまう。
坑道の反対側はにっくきスケルトンが塞いじゃったからこれでもうあの坑道に魔物は近寄れないわ。
「わざわざ、そんな事までしてくれてたのか?」
それまで話を聞いていたアロウが信じられない物を見る様な目でロールを見つめる。
「ずいぶん時間が掛かったが、かなり強力な結界を完成させておいた。誰かが結界を破らない限り坑道に魔物が入り込むことはない。お前もその方がいいんだろ?」
アロウにニヤリと笑みを見せるロール。
恐らくアロウの故郷が襲われない様に気を利かせたんだろう。
「ろ、ロール・・・・!ありがとう・・・・!ごめん・・・・!」
「ん?なぜ謝る?・・・・そしてなぜ泣く?」
アロウは泣き崩れた。
残して来た女の子を想いながら、そして一瞬でもロールを疑ってしまった事に罪悪感を感じて。
そんなアロウの姿をロールはちんぷんかんぷるん?と言った表情で見つめ続けるのだった・・・・。
~1分後~
「アロウさん、落ち着きましたか?」
「ああ、もう大丈夫だよ」
ホーリィに宥められようやく泣き止んだアロウも話を聞ける状態になったようだ。
さてと・・・・さっきのゴキブリ騒動であちこち散らかっちゃってもう祝勝会どころじゃなさそうだ。
続きはブリーズファームに着いてからという事にして、これからの事を話しましょうか。
私は窓の外を見ながらロールに話しかける。
「それでどうするのロール?雨は結構弱まってきたけど、もう出発するの?」
「うむ・・・・できればそうしたいんだが・・・・」
そこでロールは言葉を切り、目を閉じながら天井を仰ぐ。
「実は、お前たちに話しておきたいことがある・・・・あの魔獣の事だ」
重苦しい声でそう告げるロール。
さっきチラっとコロニーの事を調べてたって言ってたけど、なにか新しい手掛かりを手に入れたという事かしら。
やがて、ロールはゆっくりと私の方に顔を向けてきた。
「フレア、お前はあの時見ただろう?魔獣が消滅したあの時なにが起こったのかを」
「見たって・・・・何をですか?」
あの時気を失っていたホーリィは何のことか分からないようだ。
「ロールの”時の雷”で魔獣が爆散した直後にね、その周りにいたゴキブリ達も一緒に消滅しちゃったのよ。まるで熱を当てられた氷のように溶けて消えていったの」
「え?なんですかそれ?魔物だって私達人間や動物と変わらない一つの生命ですよ。どうしてそんな事に?」
・・・・私にも分からない。
しかし、確かにあの時ゴキブリたちは命の糸が切れたように消滅していった。
まるで母体を喪った胎児みたいだわ。
私は答えを求めるようにロールに顔を向ける。
「その答えは簡単だ。あの魔獣もその子であるゴキブリたちも実体を持った存在じゃなかったからだ」
「実体を持ってない?どういうことよ?」
「奴等はみな魔力によって身体を得ていた存在、“召喚獣“だったんだよ」
「「「な、なんですって~~!!?」」」
ロールの告げた衝撃の事実に私達は驚き叫んだ。
「ちょっと待ちなさい!召喚獣って言ったらあんた獣魔法の最高峰の術じゃない!てことは、あのアリーガは召喚術師だったの!?」
召喚獣は契約した魔獣を自らの魔力によって召喚する究極魔法だ。
その力を使う為には強大な霊巣魔力量と伝説の゛Sランク゛の魔法素養を持っていなければならない。
しかしSランクだなんて一つの国に1人いるかいないかという確率でしか生まれない、国宝級の存在だ。
あの間抜けのアリーガがそんなとんでもない存在だなんて・・・・。
「いや、それは違う。アリーガは獣魔法のAランクの使い手だった。奴ではどうあっても伝説の召喚術師にはなれない」
しかしロールは私達の驚きをあっさり否定し、同時にアリーガの戦士としての未来をばっさりと斬り捨てた。
「じゃあ召喚獣じゃないじゃない!アリーガが伝説の召喚術師じゃないんならただの魔獣よ!」
「アリーガは伝説の召喚術師ではなかった。なら術師は別に居たという事だ」
「え!?あの場所に他にも敵が隠れていたって事!?」
まったく気付かなかった。
私達がやっとの思いでアリーガを退治したあの場に、実はもう1人敵がいたなんて!
「いや、あの場にいたのはアリーガだけだ。もし誰か居たというのなら俺の空魔法が生体反応を捉えるはずだ。少なくとも術師はあのコロニーの中には居なかっただろう」
「じゃあ召喚獣じゃないじゃない!召喚術はただでさえ膨大な魔力を消費するのよ!コロニーの外からなんて、そんな遠距離から召喚獣を送り込む事なんて不可能よ!」
「それを補っていたのがアリーガだ。奴は伝説の召喚術師ではないが魔獣の扱いに長けたビーストライダーだ。あの召喚獣は術師からアリーガに使役を譲渡された事によってアリーガの魔力で活動していたんだ」
「そ、そんな・・・・!」
そんな裏技みたいな事が出来るなんて・・・・。
アリーガとその影に潜む召喚術師。
一体なにが目的でそんな事を?
「で、でもロールさん」
私がロールの説を受け入れかけた時、それまで黙って話を聞いていたホーリィが待った!をかけた。
「それならあの魔物はなんだったんですか?ロールさんはあの魔物たちは魔獣から産まれたって言ってたじゃないですか。でも、召喚獣が子を宿すなんて事はできないんですよ」
そ、そうだ、あの魔物の事は説明がつかない。
召喚獣は完全な存在ではない。
実体を持たない仮りそめの存在なのだ。
普通の魔獣の様に繁殖出来るわけではない。
ホーリィの援護を得た私はどうだ!と言わんばかりにロールの言葉を待つ。
・・・・やがて
「・・・・そうだ、確かに普通の召喚獣は所詮魔力によって仮の姿を得た存在だ。その能力はあらゆる制限を受けることになる。本物の魔獣の様に生殖機能を持つことはできない」
「じゃあ召喚獣じゃないじゃない!私は確かに聞いたわよ!あんたがあの魔獣をゴキブリたちのお母さんと呼ぶのをね!つまりあんたの説は矛盾してるのよっ!」
ビシィ!と指を突き刺し私はロールを追いつめる。
逆転されたロールは無言で腕を組み目を閉じる。
私は勝利を確信し小さくガッツポーズをとる。
やはりあの魔獣は召喚獣ではなかったんだ。
伝説の召喚術師も最初から居ない。
そしてアリーガは伝説の召喚術師になれない、ただのイカれたゴキブリオタクだったというわけだ。
私はそう結論付けゆっくりと目を閉じる。
これにて昨晩のゴキブリ事件は本当の意味で決着の時を迎えたのであった・・・・。
~閉廷~
「・・・・甘いな、俺は普通の召喚獣では無理だと言っただけだ。あの魔獣を生み出した召喚術師は、お前たちの常識を遥に超えた化け物なんだよ」
しかし、ロールは自分の説を決して曲げなかった。
固く目を閉じたまま、往生際悪く主張を通そうとするその態度に私もついに堪忍袋の緒が切れた。
私は腕を振り上げ、バン!と床に叩きつける。
「いい加減にしなさい!あんたどこまで場を掻き乱せば気が済むの!あの化け物はただの魔獣だったって事で結論が出たんだからそれでいいじゃない!」
「・・・・俺もそれで済むなら目を背けてしまいたいさ。だがこの目で見てしまい、気付いてしまった現実からは逃れられないんだ・・・・!」
ロールは怯む事なく閉じていた瞼を上げ、私をまっすぐ睨み返す。
その気迫に圧され、一転して私が追い詰められた様な雰囲気になってしまった。
そして、追い打ちをかけるようにロールは告げた。
「敵の正体は伝説のSランクの壁を越えた存在、”水精士〈サイクリスタル〉”の召喚術により生み出されたスーパー召喚獣だ!」
「「「・・・・・・・・・」」」
・・・・ロールの告げた衝撃の事実に私達は言葉を失ってしまった。
ホーリィは困惑した表情を浮かべている。
恐らく意味が分からなかったんだろう、労わる様な目でロールの精神状態を心配している。
だけど私と、そしてアロウは違った。
私達はお互いに顔を向け合い、同時にゴクリと唾を飲み込む。
――サイクリスタル
今確かにロールが発したその言葉は私もアロウも聞き覚えがあった。
オールドファームの屋敷で出会ったあの女が確か自分の事をそう言っていた。
『私はサイクリスタルの一人』だと。
異様な雰囲気を身にまとい、空間を切り裂いて現れ、手も触れず私達の動きを封じたあの力は私達の常識を遥に超えたものだった。
そして、直後私は゛あれ゛に呪われた・・・・
「あの・・・・なんですか、それ?」
一様に固まっていた私たちの沈黙を破ったのは、唯一サイクリスタルに遭遇していなかったホーリィだった。
聞かれたロールは徐に私の左手に目を向け、話し出す。
「サイクリスタル・・・・それは水精という10属性の石ころに呪われ、その力の代行者となった者の事だ」
水晶・・・・
そうだ、黒い、水晶・・・・
あれに私は・・・・
「10属性の、すいしょう、ですか?」
「そう、水なる精と書いて水精だ。水精は1人の人間を選び、その者の霊巣に自分の魔力因子を寄生させるんだ。寄生された人間は左手に呪いが刻まれる。そしてその体は”氷結変異体〈クリスタルミュータント〉”へと変異してしまうんだ」
「ち、ちょっと待ってくれ!それって、もしかして・・・・!」
滔々と話し続けるロールをアロウが遮る。
その目は不安に揺れ、視線をロールと私の交互に巡らせている。
私は俯きながら左手を右手で隠す。
さっきから息が荒くなっている。
何も言葉を発すことが出来ない・・・・逃げたい・・・・。
何故か本能的に危険を察している。
これ以上は聞きたくないと・・・・。
「そうだ、フレアは水精に選ばれミュータントに変異している。サイクリスタルの召喚術師と同質の存在だ。・・・・もはや人間ではない」
しかし、ロールはこちらの逃げたい気持ちを察しながら、決して逃げさせてはくれなかった。
『人間じゃない』その言葉が私の頭の中に反響する。
「に、人間じゃないって、どういう事だよ!?」
「ミュータントは左手の呪紋の短針が進むたび、変異していき最終的にはサイクリスタルになる。見た目は人間と変わらないが、その力は針の進みと共に人外のものになっていくんだ。アリーガを吹き飛ばしたのはその力の一端だ」
私がアリーガと最後の打ち合いをしたあの時、確かに左手に激しい痛みが走った。
あの時、私の針は進んでしまったという事か・・・・。
アロウとホーリィが不安そうな目で私の左手を見つめている。
私は逸らしたい気持ちをこらえ左手に目を向けながら、覆っていた右手をそっとどける。
――1:00
昨晩は0:00の形で止まっていた呪紋は短針が一つ進んでいた。
アロウとホーリィが息をのむ。
ロールが語っていた人外の力、それを私は昨日の戦いの中で幾度か体感している。
・・・・私はもう、人間じゃないの・・・・?
「そ、その呪いを解く方法はないのかよ!?あんたの力でなんとかならないか!?」
ロールに向けたアロウの悲痛な叫びにハッと顔を上げる。
そうだ、この呪いさえ解呪できれば・・・・!
「それは無理だ。その呪いは俺にもサイクリスタルにも解くことは出来ない。水精は俺たち人間を遥に超えた力を持っている。一度呪いを受ければ変異が進行しサイクリスタルになるか、それとも・・・・変異に失敗し、死ぬかのどちらかしかない・・・・」
しかし、ロールは残酷な現実を突きつけるだけだった。
化け物になるか、それとも・・・・死か・・・・。
一度、あの女にも宣告を受けていた。
サイクリスタルに到るか、それとも永遠回帰を迎えるか。
「あのスーパー召喚獣を生み出したのは暗黒ルシファー大陸のサイクリスタルだ。アリーガがあの戦いの中で呼んでいた”ベガマリア”とか言う奴がそうなんだろう。人を超え、魔物を超え、ミュータントを乗り越え、サイクリスタルへと到った者がこのイーストリザード地方に現れたんだ」
ロールの話を黙って聞いていたホーリィが「でも」と遮り疑問をぶつける。
「一体どうやってそのサイクリスタルはこの地まで来たんですか?それになんの為に?」
「お前にはこの2人が寝ている間にちらっと話しただろう。ある2つの存在が揃えばこの地にルシ=フェルの魔獣を送り込める、と。その一つが繁殖可能なスーパー召喚獣を生み出せるベガマリアとか言うサイクリスタルだ。そしてもう一つが・・・・」
ロールはそこで言葉を切り、私とアロウに顔を向ける。
「空間を飛び越える力を持ったサイクリスタルだ。お前たち屋敷でそいつに会ったんだろう?」
・・・・あの女だ、間違いない。
私とアロウはお互い顔を向け合い、頷く。
あの女は空間を引き裂いて突如私の目の前に現れ、そして私をあの水精に呪わせて空間のゆがみの中へ消えていった。
あの女の力がどれほどのものかは分からないけど、確かにあの力ならモーセの尾接界を飛び越えてこれるかもしれない。
つまり・・・・
「ベガマリアやアリーガをこの地に送り込んだのはあの女って事ね?」
「そうだ、そしてこれはこのユーリエッセ大陸を震撼させる大事件の始まりに過ぎないのかもしれん」
「・・・・どういうこと?」
ロールは立ち上がり、ゆっくりと窓の方へ歩いていく。
その巨体が一歩踏み出す度にギシリと床板が悲鳴を上げる。
窓の向こうではルシ=フェルのゴキブリ達に荒らされたのだろう、あちこち破壊された古い小屋が並んでいた。
その景色を見ながらロールは拳を握り締め私たちに告げた。
「つまりこれは、ルシ=フェルの異邦人達による侵略戦争の始まりなんだよ・・・・!」
―――こうして私たちの地獄〈ゲーム〉が始まり、この日から私の針は破滅へと回り始めた・・・・。
目の前で大粒の雨が地面を叩きつけていた。
緑を育む事ができない荒涼とした大地を責め立て痛めつけるかのように、上空の黒雲は水滴となった自らの分身を容赦なく放ち続ける。
この枯れ果てた土地も、かつては生命に満ち足りた草花を茂らせていたのかもしれない。
しかし時の流れと共に土壌は渇いていき、草木は枯れ、住み着いていたミミズにも見捨てられ、今ではこの雨を吸収する気力さえ失っているようだ。
そうして一人寂しく傍に居てくれた草花の笑顔を思い出し『こんなはずじゃなかった』と嘆きながら風化していくんだろう・・・・。
私はそんな事を考えながら野営のテントの内側でボンヤリと雨を見つめていた。
一体いつからここにいて、どれくらいの時間こうして膝を抱えているのかも分からない。
昨夜、あの恐ろしい力を使ってロールさん達を巣穴に閉じ込めてからの記憶が朧気だからだ。
あの後、自分のしてしまった事から目を背けるようになにも考えず、ただブリザード様の後についていった。
恐らく先行していた残りの隊員さん達と合流して、今はこうして山裾の空き地で野営しているんだろう。
生き残った隊員さん達は怪我をしていないだろうか?
仲間を喪って落ち込んでいないだろうか?
そんな事を他人事の様に思い始める。
そう、他人事の様に・・・・。
私は決して彼らとは相容れないんだろう。
もちろん、檻の中で怯えているパプリカの人達とも。
だって私も、この枯れた土地と一緒で一人ぼっちなんだから・・・・。
「いやはや困ったものだ。こうも酷いと身動きが取れないではないか」
雨を見ながらボンヤリしていると後ろからブリザード様が嘆いた声が聞こえてきた。
早くこの土地から離れたいのだろう、その声色から目を向けなくてもこの大雨にうんざりとしている表情が窺える。
うんざりしてるのは私の方なのに・・・・。
「ドミナ、昨晩はよく眠れたかな?」
胸の内で辟易していると、どこかからかう様な口ぶりでブリザード様が声をかけてきた。
まるで私の心を見透かして、その上でわざと煽っているかのように聞こえてしまう。
返事をするのも煩わしかった私は黙って目の前の雨を見続ける。
するとブリザード様が呆れたように鼻を鳴らした。
「いかんなあ、今のお前は曲りなりにもこの部隊の副隊長だぞ。そのお前があの程度の事でこうも気落ちするなどと。いい加減自分の立場を自覚したらどうだね」
・・・・あの程度の事。
ブリザード様の言葉で昨晩の光景が脳裏に浮かび上がる。
青い火花、岩肌を突き刺す雷撃、崩れ落ちる岩盤。
私の力でロールさん達は・・・・。
「うぅ・・・・!」
すでにトラウマになってしまった出来事を思いだし、胸が痛みだし、呼吸が乱れる。
「フフフ、胸が痛むか?自分が恐ろしいか?そうやって目を反らし続けようと己の業が風化する事はないぞ」
「・・・・やめて、ください」
「割りきりなさいドミナ。あの時のお前の判断は正しく、その力は美しかった。あんな神々しくも禍禍しい花火を見たのは久しぶりだ」
「やめて、私は・・・・」
「その小さな手から放たれたあの美しい雷。あの時と同じだ。私が初めて施設長に出会い戦った時と同じ力だよ。やはりお前はあのお方に似ている」
ブリザード様は遠い過去を思い出しながら恍惚とした表情で震えながら語る。
「当時の私はクリムゾンを追放され、野盗にでも身を落とそうかと考えていた。そんな時、突如目の前に現れたあのお方と私は戦い、そして敗れたのだ。力の差がありすぎて唖然としたよ。幼少期から天才と呼ばれ、若くして戦場に身を投じ、勝ち続けていた私が手も足も出なかった。あの時私の運命は変わったのだ!」
空を覆う黒い雲を見つめながら、自分に酔いながら語り続けるブリザード様。
私はその姿を不気味に感じながら、話の内容に驚いていた。
ブリザード様が昔、クリムゾンの特殊部隊にいたと言う話は聞いた事があった。
今ドナドナ部隊の隊長をしているのはその時の経験を買われてのことらしい。
でもまさか、あの施設長と戦った事があったなんて。
ブリザード様は視線を黒雲から私へと移し怪しく微笑む。
「そして昨晩私は確信したよ。やはりお前はスケルトンケアの指導者となるべき人間だ。お前の力は人を魅せ、そして恐怖させる二面性を持っている。強大な霊巣魔力量、生まれついての七色の才能、それこそが我らユーリエッセ人の信念”魔力至上主義〈エターナルドリーム〉”の体現者としての証なのだ!」
・・・・どうして、こんなにも食い違うんだろう?
私はずっと、この力は人に寄り添うための物だと信じて生きてきた。
けど、この人は・・・・この人たちは・・・・。
野営地の中央に目を向けると、そこには雨風を凌ぐため白い布で覆われた檻が見える。
故郷を襲われ、大切な人を奪われ、震えながら自分の運命に絶望するパプリカの人達。
「・・・・私は」
そしてこの世界で泣いているのはあの人たちだけじゃない。
オールドファームでは非色民と蔑まれ、虐げられて生活していた村人たち。
私のこの力はあの人たちを笑顔にする為にあるはずなんだ!
「誰かを抑圧する力なんて私は要りません。人を傷つける力なんて要りません。・・・・私は貧しい人達を支えてあげられる力が欲しいんです」
震える膝を腕で押さえながら私は勇気を出してブリザード様に自分の言葉をぶつける。
私達スケルトンケアは魔力のあるなしで勝手にその人の人生を縛り付けてきた。
この世界で魔力は遺伝しない。
魔法が重視されるユーリエッセでは血の繋がりは希薄な物に扱われがちだ。
農園から都へ、都から農園へ。
魔力産業の発展という名目で多くの血と涙をこの大地に落としてきた。
私達が生み出すのは両親から引き離された子供の泣き声と、子を連れて行かれた両親の悲鳴。
そこには決して私が理想として思い描いてきた愛ある世界は存在しない。
スケルトンケアは・・・・私たちは変わらなくちゃ・・・・
「絵空事だな。そんな物では人は幸せになれんよ」
だけどブリザード様は震えながら吐き出した私の想いをバッサリと切り捨てた。
子供のわがままをあしらうかのように・・・・。
「魔物どもが蔓延るこの世界で人々に必要とされるのは魔力〈エターナル〉という武器だ。お前が憐れんでいるパプリカ人達も、私が力を行使しなければ魔物に血肉を食まれるしかないのだぞ。現に今のお前は私の背中に隠れているだけではないか?それでパプリカ人たちを守れるのか?」
「そ、それは・・・・!」
痛いところを突かれて言葉を失ってしまう。
確かに私の小さな体では何も守れない。
こうやってブリザード様の背中に隠れながら振り回される現状を、変える力はない・・・・。
そもそもパプリカの人達をこんな目に合わせてるのはこの人なのに。
力のない私の言葉はこのドナドナ部隊の中では誰よりも無力なんだ。
「そして非色民にしてもそうだ。身を守る術を持たず、自分たちの生活基盤すら築き上げることのできない者たちに必要なのは力ある者による支配なのだ。我々が奴らを農園という柵の中に閉じ込めているのは言うなれば救済なのだよ。柵の中の世界しか知らない無知だから分からないのだ。外の世界がどれほど過酷かを。そして自分たちではどう足掻いてもその環境に適応する事ができないという現実を。力なき夢などこの世界では許されない。牙を持たない家畜は柵に繋がれている現状こそが救いなのだ」
「でも・・・・」
そうだとしても、それじゃあ何のためにあの人たちは生きているの?
あの人たちがいつも見上げている空はきっとこの黒雲と同じだ。
雨に打たれ、雷に怯え、冷たく身を震わせながら体を丸めながら晴れ間が覗くのを待っている。
このままでは決して過ぎ去る事のない黒雲を見つめながら・・・・。
「ドミナよ。どうやらお前は奴等の本質が見えていないようだな」
そんな私の心情を察したのかブリザード様は嘆息しながら私に告げる。
「お前は非色民どもの表面だけを見て奴等を憐れんでいるのだろう。それが間違いなのだ。奴等は家畜などではない。その本質は卑しい寄生虫なのだよ」
「寄生虫?どういう事ですか?」
その言葉の意味が分からず私はブリザード様を見上げた。
そして、私は衝撃を受ける。
いつも余裕の笑みを浮かべながら自分の主張を押し付けてくるブリザード様のその顔が、今は苦虫を踏み潰したように歪んでいたからだ。
「・・・・それはお前自信がこの旅で知ることになるだろう」
ブリザード様は私の視線から逃げるように顔を背けながらそう告げる。
「・・・・私から言えることは手綱の握り方を誤るなと言うことだけだ。・・・・少し隊員達の様子を見てくる。お前も雨があがるまで休んでおきなさい」
自分を抑える様な低い声でそれだけ言い残し、ブリザード様はやはり逃げるようにテントから離れて行った。
・・・・今の表情はなんだったんだろう?
ブリザード様のあんな表情・・・・初めて見た。
・・・・寄生虫、とあの人は言っていた。
その言葉の意味するところは分からない。
昔、非色民の人達との間でなにかあったのかな?
旅を続ければ私にも分かるはずと言っていたけど?
・・・・いや、今は何も考えたくない。
答の見えない疑問をボンヤリと考え続け、だけど私の思考は徐々に鈍化していく。
今、私が本当に求めてるのは停滞だ。
これ以上誰も傷つけなくていい立ち止まったこの状況。
変えたいとは思う、けど今の私では結局誰かを傷つけるだけなんだもん・・・・。
今はただこの雨が降り止まなければ、こんな旅は続ける必要はないのにと思うばかりだった。
AM10:06 ホーリィ・クローゼット
目覚めは雨音と共に訪れた。
トントンと目の前で小刻みに何かが叩かれる音を聞きながらゆっくり瞼を開いていく。
てっきり坑道の黒い岩盤が視界に表れると思っていたけど、予想に反しそこにあったのは染みだらけの木製の天井だった。
ここは一体・・・・?
混乱しながら私は周りを確認する為寝起きでぼやけた目を擦りながら、上体をゆっくり起こしていく。
「ぬっ、起きたか」
その時、横から声が聞こえてきた。
顔を向けるとそこには”本の様な物””を片手に持ったロールさんがいた。
「ロールさん?ここは?」
「坑道の外にあった古い小屋の中だ。汚い上にあちこち隙間が空いてはいるがなんとか雨風は凌げる」
「坑道の外?それじゃあ・・・・」
「ああ、安心しろ、ここはもうコロニーの外だ。お前たちは皆無事に生き残ったんだよ」
信じられなかった・・・・。
苦痛に倒れ、魔獣に襲われるというあの地獄の状況で生き残れるなんて・・・・。
夢みたい・・・・。
「・・・・あっ!! アロウさんとフレアさんは!?」
二人の事を思い出し私はバッと身を乗り出す。
「落ち着け、坊や達ならそこで眠ってるよ」
言いながらロールさんは小屋の奥に顎を向ける。
二人は埃だらけの床に横たわり眠っていた。
見たところ大きな怪我もなさそうだ。
よかった・・・・。
「明け方に出口を抜けて今はもう昼前だ。胸はまだ痛むか?」
そう言われて私は自分の状態を確認する。
胸はまだ少しズキズキするけど、エターナル化光素中毒で倒れていた時に比べてずいぶん楽になっていた。
霊巣にも魔力が戻ってきている。
「少し痛むけど大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
「気にすることはない。というより、俺の方こそお前を振り回して悪かったな。予定ではさっさと救いだして相棒と合流するはずだったんだが、随分回り道することになったな」
「そんなっ!謝らないで下さい!こうして生きていられるだけで私は充分感謝してます!」
頭を下げるロールさんに対して慌てて両手を振る。
そんな私の姿にロールさんはフッと笑みを浮かべる。
「どうやら、少しは吹っ切れた様だな」
「え?」
「森で泣き出した時は『このまま消えてしまいたい』って顔してたからな。少しは生きる希望ができたみたいで安心したよ」
言われて私は視線を床に落とす。
今でもお母さんたちを殺された現実を思うと胸が苦しくなる。
いっそ私も二人のところに行けたならと、そんな風に思ってしまうのはどうしようもない。
・・・・でも、もう少しだけ留まってみたいとも思う。
「・・・・だって、みんなが居てくれたから」
視線を落としながらそう呟いた瞬間、視界が涙でにじんできた。
胸がぽかぽかと熱くなる。
その温もりが手足が震えるような絶望を和らげてくれる。
胸からこみ上げた暖かい雫が瞳からポタリと零れ落ち、ささくれた床板に優しく滲んでいく。
「私なんかを見捨てずに、必死で戦ってくれたから、それが、うれしくて・・・・」
本当に私って駄目な女だ。
物語に出てくるような悲劇のヒロインじゃあるまいし、一人で泣いて、一人で落ち込んで。
アロウさんもフレアさんもずっと一緒に泣いてくれていたのに、ロールさんがずっと守ってくれて・・・・そばにいてくれたのに。
あんな化け物と戦わせて、死にかけて・・・・一人じゃなかったんだって、ようやくそれに気付くなんて。
「言っただろう。スライム族は困っている人間を見捨てない。そこの2人だって一緒だ。4人とも爪弾き者ばかりだがそんな俺たちだからこそ分かり合えることもある。・・・・お前はもう、一人じゃないだろ?」
優しい声音でロールさんが右手を差し伸べてくれる。
「お前を助けに来たんだ、ついてきてくれるか?」
「・・・・はい。みんなと一緒にいたいです」
涙滲んだ声でロールさんに答えながら私はその手を掴んだ。
巨漢のロールさんの手のひらはやっぱり、すごく・・・・大きかった。
けどその温もりは私と変わらない。
人肌の温もりが小さな私の手のひらを包んでくれる。
あの時、あの屋敷で差し伸べてくれた右手をようやく受けいれられた気がした。
「・・・・ところで、それなんですか?」
涙を拭いながら私はロールさんが左手に持っていた"それ"に目を向ける。
ずっと気になっていた本のような日記の様な・・・・不思議な物体。
いや、おそらく物ではないんだろう。
形は本に見えるけど・・・・紙ではなく薄透明の光の粒子がそれを形成しているからだ。
おそらくは、魔法だと思うけど・・・・
「ああ、これか。これはスライム製の賢人魔法”大丈夫♪スライム族の攻略本だよ!〈パーフェクトバイぷる〉”だ」
「・・・・ぱーふぇくと、ばいぷる?」
「うむ、俺たちスライム族の”たびのきろく”を書き記した物だ。世界各地に散らばる魔商スライム族は滞在している地域の物価や採取可能な資源、それと魔物の情報なんかを記録していてな、いつでも仲間内で情報共有出来るようにしているんだ。それを可能としているのが賢人魔法、この”パーフェクトバイぷる”だ。言うなれば魔商スライム族の見聞録だな」
「へえ~、なんだか便利ですね。じゃあ、ひょっとしてあのゴキブリの事も?」
「いや、あのゴキブリは記録に載っていない。どうやら俺が第一発見者のようだから記録を取っておこうと思ってな。・・・・まあ、”暗黒ルシファー大陸”の魔物だとしたら載ってないのも当たり前なんだが」
「・・・・・・・・」
・・・・・・・・ん?暗黒ルシファー大陸?
「なんですか?その、”暗黒ルシファー大陸”って?」
どうも、聞いたことのない不思議な単語ばかりが出てくるなぁ。
なんだか混乱しそう・・・・。
「暗黒ルシファー大陸ってのはこのユーリエッセ大陸の南にある幻の大陸の事だ。地域によって名称はコロコロ変わる。この大陸では暗黒ルシファー大陸、現地ではスピリファー、他にもさまざまだが・・・・一番浸透してるのは"魔界〈ルシ=フェル〉"って呼び方だな。たしかパプリカでもそう呼ばれてたはずだが、聞いたことないか?」
「あっ!それならおばあちゃんに聞いたことあります」
子供の頃寝る前によく聞かされた。
この世界には魔界〈ルシ=フェル〉と呼ばれる、人間が足を踏み入れる事のできない幻の大陸があるらしい。
曰く、その地は私達の住む大地より遥かに過酷な環境で、そこで生まれた魔物は凶暴性、生命力、戦闘力のすべてに於いて他の大陸の魔物より強大である、と言われている。
そして、私の村では『悪い事ばかりするといつか悪魔に攫われて魔界〈ルシ=フェル〉の魔王に食べられてしまうんだよ!』・・・・と、低い声で脅かすようにおばあちゃんに聞かされてきた。
その話を聞かされて夜は恐くて眠れなくなったものだ。
・・・・今考えてみると、おやすみ前の子供に聞かせる話じゃないと思うんだけど・・・・。
でも・・・・この話はたしか・・・・
「ロールさん、それっておとぎ話なんじゃないんですか?」
おばあちゃんはさも本当の事の様に語っていたけれど、同じ様に子供の頃聞かされていたお父さんはそんなものただの作り話だと笑っていた。
私も子供の頃は信じていたけど、さすがにこの年になるとそんな話は・・・・
「いや、暗黒ルシファー大陸は実在する。いまだ上陸出来た者はいないが、多くの調査団にその存在を視認されているんだ」
しかし疑わしい顔を向ける私に対し、ロールさんは毅然とした声で言い切った。
「それに人間の肉体がその生命を終えると回帰現象で光の粒子となって昇っていくだろう?あの光は全て暗黒ルシファー大陸に流れていくんだ」
「あの光が・・・・?」
じゃあ、お父さんもお母さんも昨晩殺されたアロウさんの親方も今頃は・・・・
「田舎なんかではその辺りの情報が錯綜して、その地域の怪しげな伝承と面白おかしく織り混ぜられたりしてるんだ。恐らくお前のばあさんもそれと同じ口だろう」
「なるほど・・・・」
いたずら好きだったおばあちゃんらしいや・・・・。
「でもどうして誰もその大陸に上陸出来ないんですか?」
「それはだな、暗黒ルシファー大陸の近海から"モーセの尾接界"と言われる馬鹿デカイ結界が発生しているからだ」
「・・・・・・・・もーせのおせっかい?」
今日何度目か分からない初めて聞く単語にもう頭がこんがらがってきた・・・・。
「”モーセの尾接界”。その名の通り蛇の尾が鎖状に絡まった様な形の結界だ。海底から力場が発生し、そのまま海面を突き抜け、上空まで伸びた結界は大陸を360度ドーム状に包んでしまっているんだ」
「そんな!大陸一つを丸ごと包み込む結界だなんて!」
「その上厄介なのがその頑強さだ。過去に我こそはという数多の使い手達が磨き上げた力で結界を破ろうと自身の持つ最高の魔法を撃ち込んできた。・・・・が、結果は罅一つ入れる事が出来ず逆に自らのプライドを粉々に砕かれてしまったわけさ。結局お宝を求めてやってきた調査団たちはその結界を打ち破ることもすり抜けることも出来ず、外から指を咥えて眺めるだけ。やがて食料と金だけがなくなっていき、その内みんな馬鹿らしくなって小石を蹴りながら故郷に引き返して行ったわけさ・・・・」
遠い目をしながら語るロールさん。
海の向こう側でそんな現象が起きるてなんて、なんだか不思議だ。
誰も近づけない幻の大陸かぁ・・・・。
あれ?でも、それって、
「ねえロールさん、じゃあその結界がある限り外からはもちろん、内側からも誰も出られないんじゃないですか?」
私が疑問をぶつけるとロールさんは目を閉じて天井を仰いだ。
「・・・・物理的に考えると、そうなる」
「それっておかしくないですか?ロールさんはあのゴキブリがルシ=フェルの魔獣だって言ってましたけど、それならあのゴキブリはどうやってその結界をすり抜けて来たって言うんですか?」
説明がつかない話だ。
あの魔獣、それに魔獣使いのあのアリーガという男はその不可侵の結界を何らかの方法ですり抜けた事になる。
それに仮にすり抜けたとしても、あんな大型の魔獣が海を越えてこの大陸までやってくるなんてとても想像できない。
天井を仰いでいたロールさんは徐に首を落とし、なぜか自分の胸を押さえながら重苦しく息を吐き出した。
「・・・・実は、方法がないわけではないんだ。モーセの尾接界を超える事も、あの魔獣をこの大陸に送り込むことも・・・・。だけど、もしそうだとしたらまずい事になる」
「まずい事?どういうことですか?」
「これは俺の仮設なんだが・・・・ある”2つの存在”が協力し合えばルシ=フェルの魔獣をこの地に送り込むことが出来るはずだ」
「2つの存在?なんですかそれ?」
「それは・・・・」
(ガサ・・・・ガサ・・・・)
・・・・うん?
ロールさんがまさに答えようとしたその時、後ろでもぞもぞと動き出す音が聞こえてきた。
私たちは話を中断して後ろを振り返る。
「ん、う~ん・・・・・・・あれ?どこだここ?」
布が擦れるような音の正体はアロウさんの目覚めによるものだった。
まだ覚醒しきってないのか、アロウさんは目を擦りながらぼんやりと視線を宙にさ迷わせている。
「あっ!アロウさん、体は大丈夫ですか?」
私は慌てて近寄りその背中を支える。
「ホーリィ?・・・・ここは?」
「坑道の外にあった古い小屋だそうです。私たちあのコロニーから生きて出られたんですよ」
「コロニーの外に?・・・・あっ!ふ、フレアは!?あいつは無事か!?」
寝起きでボンヤリとしていたアロウさんだったけど、フレアさんの事を思いだしたとたん、慌てて私に詰め寄ってきた。
「お、おちついて!フレアさんならそこで寝てますよ!」
慌てる肩を押さえながら目線で隣で寝ているフレアさんを示す。
「えっ?・・・・あ、ほんとだ」
フレアさんの無事を確認したアロウさんはホッしたのかへなへなと腰を曲げた。
・・・・よっぽど、大事な存在なんだろうな。
ちょっとだけ、うらやましい・・・・。
「・・・・さて、アロウも目覚めたことだし俺は少し外の空気を吸ってこようか」
「え?」
と、今度はロールさんがそんな事を言い出して立ち上がる。
「お前たちは今のうちにゆっくり休んでおけ。この小屋の周囲に結界を張っておいたから俺が戻るまでここからは出るなよ」
「ち、ちょっと待ってくださいよ!まだ話の途中で・・・・」
「続きはそっちの貧乳が起きてからだ。俺も少し情報を整理する時間が欲しい。出発前に色々やる事があるしな」
そう言い残しさっさと出ていこうとするロールさん。
その背中は結論を先延ばしにしたいようにも見える。
なんだか、焦らされてるようでスッキリしない。
「・・・・それに」
・・・・と、ドアノブを掴んで扉を開こうとした時、ロールさんは徐にこちらを振り返った。
そして小さな声で、だけどハッキリと呟いた時のその顔を私たちは忘れることがないだろう。
「この件に一番関わってくるのは恐らく・・・・その女だ」
「え・・・・?」
視線をまっすぐフレアさんに向けながら悲哀に満ちた顔で呟いたロールさん。
その表情に私たちは固まる。
女の私より透き通った肌に整った顔立ち。
中でも一際目を引くその美しい瞳から、一滴の涙が流れていたからだ。
(どうして・・・・フレアさんが・・・・?)
そう問いかけたいけど・・・・言葉が出てこない。
(どうして・・・・泣いてるの・・・・?)
頬をゆっくり伝うその雫を眺めるだけで、唇が開こうとしない。
誰も何も言葉が発せず重苦しく時が流れる。
1秒・・・・2秒・・・・3秒・・・・と、時がゆっくり流れるような錯覚に陥る私たち。
やがてロールさんの顎から床にその雫が落ちた時、ガチャリと音が鳴る。
ドアをゆっくり開けながらロールさんは外に体を向ける。
雨を防ぐため黒いフードを被りながら足を踏み出す。
ドアが自然と閉まっていき、徐々に黒い背中が隠れていく。
結局、その背中が見えなくなるまで私もアロウさんもただの一言も言葉を発することが出来なかった・・・・。
AM10:06 フレア・ロングコート(1:00)
「・・・・で?あいつはこんな汚い小屋にか弱い乙女を残して出て行ったって事?」
二人から現在の状況を聞いた私は呆れながら腕を組む。
時刻はお昼過ぎ。
先ほど目覚めた私は先に起きていたアロウとホーリィと共に無事を喜び合った後、軽い祝勝会を開いていた。
と言っても、料理は私がアロウの家で調達していた食糧を使ったサンドイッチとりんご。
天候は相変わらず雨が降り続け、極めつけに会場はこの廃墟同然の汚ねえ小屋。
魔物が突進してくれば崩れ落ちそうな掘っ立て小屋に私達を置いて行くなんて。
今、腹をすかせたあのゴキブリが襲ってきてみなさい、ひとたまりもないわよ。
「一応、魔よけの結界を張ってくれたみたいですから、ここから出なければ大丈夫だと・・・・」
「けど出て行ってからもう2時間は経ってるんでしょ?一体何やってんのよ?」
昨晩コロニーデビューを果たし冒険者としての一歩を歩き出した私達だが、やはりまだまだ半端者ばかり。
魔物が蔓延る外界で3人だけと言うのはどうしても不安なのだ。
「・・・・色々やることがあるとは言ってたんですけど、ロールさん様子が変だったんですよね・・・・」
私が不満を漏らしているとホーリィが心配そうに呟いた。
「様子が変だったって・・・・具体的には?」
「理由は分からないんですけど、すごく辛そうでした。・・・・ロールさん、一瞬だけですけど、泣いてたんです」
「・・・・あのロールが?どうして?」
「それは・・・・分からないんですけど・・・・・」
力弱く答えホーリィは俯いてしまった。
・・・・どうも要領を得ないわね。
ホーリィもなんか私に遠慮しながら答えてる様にも思えるし。
あの面の皮の厚いのロールが泣くなんて想像が・・・・いや、そう言えば私がアリーガをぶっ飛ばした時もそんな顔してた・・・・。
あの時は必死だったから気にしなかったけど、なんであんな顔されたんだろう?
・・・・というより、あの時の私の力は一体何だったの?
「・・・・フレアさん?」
・・・・いや、原因は薄々分かってるんだ、私は。
昨日から私の周りで嫌な事ばかり起きている。
それと同時に私の内側で不気味な力が蠢き始めている。
その発端は間違いなく・・・・
「あの、フレアさん?」
右手にゆっくりと目を向ける。
そこにはあの女に犯された呪いが刻まれていた。
──1:00
あの時、右手に走った激しい痛みを伴い表れた人外の力。
呪いの進行と共に身体に起こった異変。
もしかして、ロールはこの呪いの事を・・・・
「フレアさん!」
「へぁっ?」
急に耳元でホーリィの声が響き、私は思考の淵から呼び起こされた。
「急にどうしたんですか?フレアさんこそ辛そうな顔してますよ?」
「え?あ、ごめん」
いかん、私としたことが・・・・。
呪いの事は不安になるから考えないようにしてたのに。
「なんだか顔色も悪そうですし、もう少し休んでた方がいいんじゃないですか?」
私の顔を心配そうに覗きこむホーリィ。
せっかくの祝勝会なのにしんみりしちゃってるじゃない。
私は頭をぶんぶんと振って笑顔を作る。
「だ、大丈夫よ!ほら、せっかくの祝勝会なんだからあんな男の事なんかほっといて盛り上がるわよ!」
不安は燻っている。
だけど、今は・・・・今だけは笑っていたい。
ここまでずっと暗い気持ちで歩き続けて来たんだもの。
傷つきながら、泣きながら、痛みに堪えながら、ようやく抜けたんだから。
ロールがいないのは勿体ないけど、この3人で生きている喜びを分かち合わなきゃ。
・・・・そう言えばさっきから、1人黙りこんでる奴がいるわね。
「ちょっとアロウ!あんたさっきから何黙ってるのよ!」
目尻を吊り上げて私は地蔵になっていたアロウに喝をいれる。
「へぁっ?」
急に怒鳴られたアロウはなんとも間抜けな声を出しながらようやくこちらに意識を向けた。
「あんたねえ!ムードは最悪だけどこんな美少女2人と食事してるのよ!メンズが盛り上げなくてどうするの!」
「あ、ああ・・・・悪い」
アロウは謝りながらもまたすぐに俯いてしまう。
「・・・・ひょっとしてまだ体調が悪いの?」
「いや、そうじゃないんだ。・・・・なんか、ようやくひと息つけたと思ったら、色々考えちゃってさ」
「あっ・・・・」
いかん、私としたことが・・・・。
アロウだって同じに決まってるじゃない。
幼馴染と別れて、お兄さんは生死不明。
頼れる存在もいない中、故郷を追われ危険な世界に飛び出したばかり。
昨日、色々な事がありすぎた私達だけど、アロウの心の傷はこの中で一番新しくまだ傷が塞がってもいない状態だ。
その傷口からドクドクと薄黒い血が流れ続けてるのを無理に押さえて、アドレナリンを出しながらここまで走り続けて来たんだもの・・・・。
一晩たったら・・・・そりゃ、つれえでしょうよ。
「俺、ほんと弱えよな・・・・」
アロウは話すうちにどんどん沈んでいき、ついにはそんな事を言い出す始末だ。
「あんたなに言い出すのよ?」
「だってさ、外の世界ってロールとかアリーガとかホント凄え奴ばっかでさ。俺なんてロールの背中に隠れてるだけでフレアみたいに一緒に戦うなんてとてもできないよ」
・・・・私だって、隠れて逃げ回ってただけなんだけど。
というか、あんな奴らと一緒にされてたまるか。
「それに今も一人じゃこの小屋から出ることも出来やしない。村出てもこうやって結界の中で魔物に怯えてるなんて、これじゃあなにも変わらないじゃないか」
「それは・・・・今はしょうがないですよ」
「そうよ、今はまだ私たちだけで外を歩くのは危険なの。ロールが帰ってくるまで・・・・」
「でも、もし・・・・ロールがこのまま帰ってこなかったら?」
アロウがその言葉を放った瞬間、私の背筋が凍る。
「あいつも兄貴みたいに俺達を置いて行ったら?どうすればいいんだ?」
ここまでロールが私達を置いていく素振りなんて一度たりとも見せなかった。
スライム族の使命だと言って、ずっと私達を守り続けてくれた。
一緒に居てくれて、それが当たり前だと安心しきっていたと言われれば・・・・確かにその通りだ。
あいつが魔獣と闘いに行った時、私が動けたのはそんなあいつを失いたくなかったから。
あの時確かに私達は仲間だったからだ。
だから私は燃える闘魂を胸に立ち上がる事が出来た。
少しだけ強くなることが出来た。
でももし、ロールに見限られたら・・・・?
心が離れられてしまったら、その時私は立ち上がる事が出来るだろうか?
考えるだけで足が震え出す。
ロールに、アロウに、ホーリィに、母さんやアルに拒絶されたら、私はもう立ち上がれないだろう。
そこまで考えてようやく気づいた。
今のアロウの気持ちが。
誰かに拒絶されるということがどれ程苦しいのかを。
「ラビットが言ってた通りだ。俺やっぱり外の世界を甘く見てたんだ。自分の力で外に出てやるなんて意気込んでても、結局どっかで兄貴が迎えに来てくれるかもなんて期待してたんだ。
兄貴に依存してたんだ。こんなおんぶにだっこでお荷物の俺なんかいつかみんな・・・・」
そんな事はないと言わなければいけない。
そう解っていても口が開かない。
どれだけ慰めあっても、どれだけお互いを守り合っても、私達は仲間だと胸を張って言えるだろうか?
弱い自分をさらけ出して相手の同情を誘って依存しているだけなんじゃ・・・・
「そんな事・・・・言わないで」
その時、小さな涙に濡れた声が私とアロウの耳に届いた。
目を向けるとそこには、涙を流したホーリィが悲しみの顔をアロウに向けていた。
「私だって、みなさんに一方的に頼っちゃってます。泣いてばかりで迷惑ばかりかけてます。身体が大きいみんなの事がまだ少し恐いです。でも・・・・!」
天使のような美顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら、ホーリィは必死に訴える。
「あなたの事を見捨てたりなんて、そんな事、しない・・・・。アロウさんは、身を挺して私を、庇ってくれたじゃないですか・・・・。誰より優しい心を持ってるじゃないですか・・・・」
「そんな、俺なんて・・・・」
「あの暗闇の中で倒れた時、みんなの暖かさだけが私の拠りどころだった。みんなが支えてくれたから、私もみんなを信じられた。見捨てたりなんて・・・・しないよぉ・・・・!」
ホーリィは必死に言葉を告げながら泣き崩れた。
アロウは目の前で泣かせてしまった女の子の姿に茫然としている。
ホーリィは誰よりも独りぼっちだった。
確かに私たちはロールにおんぶにだっこのお荷物だった。
でも、そんな私達でも確かに一人の女の子を救えていたんだ・・・・。
私は泣き崩れたホーリィの背中をさすりながら、キッ!とバカ野郎を睨みつける。
「女の子を泣かせるなんて・・・・サイッテー」
「うっ・・・・」
私の責めを受けたアロウはバツが悪そうに目を逸らす。
私は目元をを緩めてその胸にコツンと軽くパンチをいれる。
「しっかりしなさいよ男の子。ビビってんじゃないわよ」
「フレア・・・・」
・・・・猟師をやってるだけあってアロウの胸板は、すごく・・・・大きかった。
なのにこの内側にある心はとても繊細だ。
きっと身を挺して庇った時もとっても恐かったはず。
体は大きくても根っこの部分はまだ男の子だもん、いつだって不安なのよね。
そんなアロウの男の子の部分を今まで支えていたのはきっとあの子なんだろう。
だけど、それも私が引き裂いてしまった・・・・。
今度は私が、支えてあげないとね。
「行くわよ、アロウ」
「へっ?行くって、どこに?」
「ロールのとこ。不安なら迎えに行けばいいじゃない。どうせすぐそこら辺にいるんだから」
「い、いや、でも、外は・・・・!」
怯むアロウの手を握り締める。
「今度は私の背中についてきなさい」
「フ、フレア・・・・」
「私はもう恐くないわよ。・・・・あんたが隣にいるんだから」
私の言葉にアロウはハッとする。
魔力のあるなしなんて関係ない。
尻込みしてるなら蹴り上げてやればいい。
震えているなら手を繋いで・・・・離さなければいい。
ロールに頼り切ってるのが申し訳ないなら、3人でその背中を守ってやるべきなのよ。
握り締めた私たちの体温が混ざり合っていく。
徐々に熱を帯び始め、迷ってたアロウの目に力が戻ってきた。
「・・・・ごめん2人とも、俺、どうかしてたよ」
「アロウさん・・・・!」
「自分で選んだ道だもんな、雨宿りなんてしてる場合じゃなかったよ」
繋いでいた手を離し、アロウは弓を手に取る。
私は小さく頷き武器を手に・・・・
「・・・・あら?」
と、武器を取ろうと床に手を伸ばしたが、肝心の武器が見当たらなかった。
・・・・そう言えば、片手剣は捨てて、護身用のナイフはアリーガとの戦いでどっかに吹き飛んだんだった。
仕方ない、何か武器になりそうな物を・・・・
――カサ・・・・カサ・・・・
凶器を探して小屋を見渡したその時だった・・・・奴が現れたのは。
私の視線が壁のある一点に止まる。
――カサカサカサカサ
カビだらけで変色した壁に浮き出た黒い光。
頭からつんと飛び出た2本の触覚が左右に揺れる。
私の顔からみるみる血の気が引いていく。
「フレア?」
私の異変に気づいたのかアロウは怪訝な顔で私の視線を追っていく。
やがて同じ一点に辿り着いたアロウもピキっと固まってしまった。
誰も何も言葉が発せず重苦しく時が流れる。
1秒・・・・2秒・・・・3秒・・・・と、時がゆっくり流れるような錯覚に陥る私たち。
「ぎ・・・・」
沈黙を破ったのは私だった・・・・。
一声発すれば蓋が開いたように、背中から込み上げた恐怖が喉に溜まっていく。
やがて・・・・それは破裂した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ゴキブリィィィィィィィ!!!!」
喉から魂が飛び出るんじゃないかと思うほどの叫美声が小屋をビリビリと軋ませる。
私のシャウトを全身に浴びた乙女の天敵は驚きカサカサと動き回る。
同時に私も後ろに転げ回りドタンガシャンと取り乱してしまった。
「フレアさん!?お、落ち着いて!」
「敵襲ぅ!敵襲よ!総員!迎撃準備!」
私を落ち着かせようと方を押さえるホーリィを振り切り、全力のファイヤーボールを撃ち込むため、両手にエターナルを込める。
「フレアさん!?ダメ!魔法を撃たないで!」
「止めんじゃないよ!!私のファイヤーボールであのゴキブリを焼き尽くしてやるわ!」
「こんなホコリだらけの場所で撃ったら私達まで燃えちゃいますよ!あと、アロウさんも落ち着いて!」
隣では弓を射とうとするも矢を取り零したアロウがワタワタとしている。
やはりアロウじゃ頼りにならない!
私が仕留めてやるわ!
動き回るゴキブリに照準を合わせようとする。
が、素早い動きを追いきれず焦っていると、小屋の外からドタバタと足音が聞こえてきた。
そして小屋の扉がバタンと開かれる。
「おい!なんだ今の汚い悲鳴は!?一体何があった!」
現れたのは私の叫美声を聞いて慌てて駆けつけたロール(あとで調教)だった。
私は一旦狙いをつけるのを中断し目じりを吊り上げてロールを振り返る。
「ちょっとロール!あんたどうなってんのよ!小屋の周りに結界張ってくれてたんじゃなかったの!?魔物が侵入するとはなにごとよ!」
「なに!?魔物だと!?そんなバカな!?」
「驚いてないでさっさと退治しなさい!動きが速くて狙いが付かないのよ!」
言われてロールは私の照準の先に目を向ける。
そして、敵の姿を確認して「ん?」と首をひねる。
そんな呑気な姿に私はイライラして声を張り上げる。
「ちょっとなにやってんのよ!?早くその魔物を退治しなさい!」
「・・・・いや、ただのゴキブリじゃないか。なに慌ててんだお前?」
「そうよ!ただのゴキブリよ!分かったらさっさと・・・・へ?」
・・・・ただのゴキブリ?
ロールの告げたあっけない指摘に私の両手からエターナルが霧散していく。
「ほ、本当にただのゴキブリなの!?魔物じゃなくて!?」
「見れば分かるだろ?あいつらとは違う。そこら辺にいる普通のゴキブリだよ」
「へ?あ・・・・え?」
魔物じゃ・・・・なかったの?
な、なぁんだぁ~!あ~ビックリした♪
安心した私はその場にへたりこむ。
「あ~あ、食いもんがメチャクチャじゃねえか。もったいない」
私が暴れたせいで散らかってしまった床を見ながらロールが呆れている。
とたんに恥ずかしくなり私は震えながら下を向く。
「ったく、虫一匹現れたくらいでなんだこの様は。お前ら本当にこれからやっていけんのか?」
「うるさいわね!昨日あれだけゴキブリに襲われたんだから仕方ないでしょ!大体あんた今までなにしてたのよ!」
「色々だよ。先を行ってる相棒に連絡したり、コロニーの調査したり、情報整理したり、それにコロニーを封印したりしてたんだよ」
「・・・・コロニーを封印?」
「このままほっといたらまた他の魔物に占領されるだろ。だから強力な結界で魔物が近寄れないようにしたんだよ」
そうか、確かにあのまま放置してたらまたシバウルフあたりのコロニーにされてしまう。
坑道の反対側はにっくきスケルトンが塞いじゃったからこれでもうあの坑道に魔物は近寄れないわ。
「わざわざ、そんな事までしてくれてたのか?」
それまで話を聞いていたアロウが信じられない物を見る様な目でロールを見つめる。
「ずいぶん時間が掛かったが、かなり強力な結界を完成させておいた。誰かが結界を破らない限り坑道に魔物が入り込むことはない。お前もその方がいいんだろ?」
アロウにニヤリと笑みを見せるロール。
恐らくアロウの故郷が襲われない様に気を利かせたんだろう。
「ろ、ロール・・・・!ありがとう・・・・!ごめん・・・・!」
「ん?なぜ謝る?・・・・そしてなぜ泣く?」
アロウは泣き崩れた。
残して来た女の子を想いながら、そして一瞬でもロールを疑ってしまった事に罪悪感を感じて。
そんなアロウの姿をロールはちんぷんかんぷるん?と言った表情で見つめ続けるのだった・・・・。
~1分後~
「アロウさん、落ち着きましたか?」
「ああ、もう大丈夫だよ」
ホーリィに宥められようやく泣き止んだアロウも話を聞ける状態になったようだ。
さてと・・・・さっきのゴキブリ騒動であちこち散らかっちゃってもう祝勝会どころじゃなさそうだ。
続きはブリーズファームに着いてからという事にして、これからの事を話しましょうか。
私は窓の外を見ながらロールに話しかける。
「それでどうするのロール?雨は結構弱まってきたけど、もう出発するの?」
「うむ・・・・できればそうしたいんだが・・・・」
そこでロールは言葉を切り、目を閉じながら天井を仰ぐ。
「実は、お前たちに話しておきたいことがある・・・・あの魔獣の事だ」
重苦しい声でそう告げるロール。
さっきチラっとコロニーの事を調べてたって言ってたけど、なにか新しい手掛かりを手に入れたという事かしら。
やがて、ロールはゆっくりと私の方に顔を向けてきた。
「フレア、お前はあの時見ただろう?魔獣が消滅したあの時なにが起こったのかを」
「見たって・・・・何をですか?」
あの時気を失っていたホーリィは何のことか分からないようだ。
「ロールの”時の雷”で魔獣が爆散した直後にね、その周りにいたゴキブリ達も一緒に消滅しちゃったのよ。まるで熱を当てられた氷のように溶けて消えていったの」
「え?なんですかそれ?魔物だって私達人間や動物と変わらない一つの生命ですよ。どうしてそんな事に?」
・・・・私にも分からない。
しかし、確かにあの時ゴキブリたちは命の糸が切れたように消滅していった。
まるで母体を喪った胎児みたいだわ。
私は答えを求めるようにロールに顔を向ける。
「その答えは簡単だ。あの魔獣もその子であるゴキブリたちも実体を持った存在じゃなかったからだ」
「実体を持ってない?どういうことよ?」
「奴等はみな魔力によって身体を得ていた存在、“召喚獣“だったんだよ」
「「「な、なんですって~~!!?」」」
ロールの告げた衝撃の事実に私達は驚き叫んだ。
「ちょっと待ちなさい!召喚獣って言ったらあんた獣魔法の最高峰の術じゃない!てことは、あのアリーガは召喚術師だったの!?」
召喚獣は契約した魔獣を自らの魔力によって召喚する究極魔法だ。
その力を使う為には強大な霊巣魔力量と伝説の゛Sランク゛の魔法素養を持っていなければならない。
しかしSランクだなんて一つの国に1人いるかいないかという確率でしか生まれない、国宝級の存在だ。
あの間抜けのアリーガがそんなとんでもない存在だなんて・・・・。
「いや、それは違う。アリーガは獣魔法のAランクの使い手だった。奴ではどうあっても伝説の召喚術師にはなれない」
しかしロールは私達の驚きをあっさり否定し、同時にアリーガの戦士としての未来をばっさりと斬り捨てた。
「じゃあ召喚獣じゃないじゃない!アリーガが伝説の召喚術師じゃないんならただの魔獣よ!」
「アリーガは伝説の召喚術師ではなかった。なら術師は別に居たという事だ」
「え!?あの場所に他にも敵が隠れていたって事!?」
まったく気付かなかった。
私達がやっとの思いでアリーガを退治したあの場に、実はもう1人敵がいたなんて!
「いや、あの場にいたのはアリーガだけだ。もし誰か居たというのなら俺の空魔法が生体反応を捉えるはずだ。少なくとも術師はあのコロニーの中には居なかっただろう」
「じゃあ召喚獣じゃないじゃない!召喚術はただでさえ膨大な魔力を消費するのよ!コロニーの外からなんて、そんな遠距離から召喚獣を送り込む事なんて不可能よ!」
「それを補っていたのがアリーガだ。奴は伝説の召喚術師ではないが魔獣の扱いに長けたビーストライダーだ。あの召喚獣は術師からアリーガに使役を譲渡された事によってアリーガの魔力で活動していたんだ」
「そ、そんな・・・・!」
そんな裏技みたいな事が出来るなんて・・・・。
アリーガとその影に潜む召喚術師。
一体なにが目的でそんな事を?
「で、でもロールさん」
私がロールの説を受け入れかけた時、それまで黙って話を聞いていたホーリィが待った!をかけた。
「それならあの魔物はなんだったんですか?ロールさんはあの魔物たちは魔獣から産まれたって言ってたじゃないですか。でも、召喚獣が子を宿すなんて事はできないんですよ」
そ、そうだ、あの魔物の事は説明がつかない。
召喚獣は完全な存在ではない。
実体を持たない仮りそめの存在なのだ。
普通の魔獣の様に繁殖出来るわけではない。
ホーリィの援護を得た私はどうだ!と言わんばかりにロールの言葉を待つ。
・・・・やがて
「・・・・そうだ、確かに普通の召喚獣は所詮魔力によって仮の姿を得た存在だ。その能力はあらゆる制限を受けることになる。本物の魔獣の様に生殖機能を持つことはできない」
「じゃあ召喚獣じゃないじゃない!私は確かに聞いたわよ!あんたがあの魔獣をゴキブリたちのお母さんと呼ぶのをね!つまりあんたの説は矛盾してるのよっ!」
ビシィ!と指を突き刺し私はロールを追いつめる。
逆転されたロールは無言で腕を組み目を閉じる。
私は勝利を確信し小さくガッツポーズをとる。
やはりあの魔獣は召喚獣ではなかったんだ。
伝説の召喚術師も最初から居ない。
そしてアリーガは伝説の召喚術師になれない、ただのイカれたゴキブリオタクだったというわけだ。
私はそう結論付けゆっくりと目を閉じる。
これにて昨晩のゴキブリ事件は本当の意味で決着の時を迎えたのであった・・・・。
~閉廷~
「・・・・甘いな、俺は普通の召喚獣では無理だと言っただけだ。あの魔獣を生み出した召喚術師は、お前たちの常識を遥に超えた化け物なんだよ」
しかし、ロールは自分の説を決して曲げなかった。
固く目を閉じたまま、往生際悪く主張を通そうとするその態度に私もついに堪忍袋の緒が切れた。
私は腕を振り上げ、バン!と床に叩きつける。
「いい加減にしなさい!あんたどこまで場を掻き乱せば気が済むの!あの化け物はただの魔獣だったって事で結論が出たんだからそれでいいじゃない!」
「・・・・俺もそれで済むなら目を背けてしまいたいさ。だがこの目で見てしまい、気付いてしまった現実からは逃れられないんだ・・・・!」
ロールは怯む事なく閉じていた瞼を上げ、私をまっすぐ睨み返す。
その気迫に圧され、一転して私が追い詰められた様な雰囲気になってしまった。
そして、追い打ちをかけるようにロールは告げた。
「敵の正体は伝説のSランクの壁を越えた存在、”水精士〈サイクリスタル〉”の召喚術により生み出されたスーパー召喚獣だ!」
「「「・・・・・・・・・」」」
・・・・ロールの告げた衝撃の事実に私達は言葉を失ってしまった。
ホーリィは困惑した表情を浮かべている。
恐らく意味が分からなかったんだろう、労わる様な目でロールの精神状態を心配している。
だけど私と、そしてアロウは違った。
私達はお互いに顔を向け合い、同時にゴクリと唾を飲み込む。
――サイクリスタル
今確かにロールが発したその言葉は私もアロウも聞き覚えがあった。
オールドファームの屋敷で出会ったあの女が確か自分の事をそう言っていた。
『私はサイクリスタルの一人』だと。
異様な雰囲気を身にまとい、空間を切り裂いて現れ、手も触れず私達の動きを封じたあの力は私達の常識を遥に超えたものだった。
そして、直後私は゛あれ゛に呪われた・・・・
「あの・・・・なんですか、それ?」
一様に固まっていた私たちの沈黙を破ったのは、唯一サイクリスタルに遭遇していなかったホーリィだった。
聞かれたロールは徐に私の左手に目を向け、話し出す。
「サイクリスタル・・・・それは水精という10属性の石ころに呪われ、その力の代行者となった者の事だ」
水晶・・・・
そうだ、黒い、水晶・・・・
あれに私は・・・・
「10属性の、すいしょう、ですか?」
「そう、水なる精と書いて水精だ。水精は1人の人間を選び、その者の霊巣に自分の魔力因子を寄生させるんだ。寄生された人間は左手に呪いが刻まれる。そしてその体は”氷結変異体〈クリスタルミュータント〉”へと変異してしまうんだ」
「ち、ちょっと待ってくれ!それって、もしかして・・・・!」
滔々と話し続けるロールをアロウが遮る。
その目は不安に揺れ、視線をロールと私の交互に巡らせている。
私は俯きながら左手を右手で隠す。
さっきから息が荒くなっている。
何も言葉を発すことが出来ない・・・・逃げたい・・・・。
何故か本能的に危険を察している。
これ以上は聞きたくないと・・・・。
「そうだ、フレアは水精に選ばれミュータントに変異している。サイクリスタルの召喚術師と同質の存在だ。・・・・もはや人間ではない」
しかし、ロールはこちらの逃げたい気持ちを察しながら、決して逃げさせてはくれなかった。
『人間じゃない』その言葉が私の頭の中に反響する。
「に、人間じゃないって、どういう事だよ!?」
「ミュータントは左手の呪紋の短針が進むたび、変異していき最終的にはサイクリスタルになる。見た目は人間と変わらないが、その力は針の進みと共に人外のものになっていくんだ。アリーガを吹き飛ばしたのはその力の一端だ」
私がアリーガと最後の打ち合いをしたあの時、確かに左手に激しい痛みが走った。
あの時、私の針は進んでしまったという事か・・・・。
アロウとホーリィが不安そうな目で私の左手を見つめている。
私は逸らしたい気持ちをこらえ左手に目を向けながら、覆っていた右手をそっとどける。
――1:00
昨晩は0:00の形で止まっていた呪紋は短針が一つ進んでいた。
アロウとホーリィが息をのむ。
ロールが語っていた人外の力、それを私は昨日の戦いの中で幾度か体感している。
・・・・私はもう、人間じゃないの・・・・?
「そ、その呪いを解く方法はないのかよ!?あんたの力でなんとかならないか!?」
ロールに向けたアロウの悲痛な叫びにハッと顔を上げる。
そうだ、この呪いさえ解呪できれば・・・・!
「それは無理だ。その呪いは俺にもサイクリスタルにも解くことは出来ない。水精は俺たち人間を遥に超えた力を持っている。一度呪いを受ければ変異が進行しサイクリスタルになるか、それとも・・・・変異に失敗し、死ぬかのどちらかしかない・・・・」
しかし、ロールは残酷な現実を突きつけるだけだった。
化け物になるか、それとも・・・・死か・・・・。
一度、あの女にも宣告を受けていた。
サイクリスタルに到るか、それとも永遠回帰を迎えるか。
「あのスーパー召喚獣を生み出したのは暗黒ルシファー大陸のサイクリスタルだ。アリーガがあの戦いの中で呼んでいた”ベガマリア”とか言う奴がそうなんだろう。人を超え、魔物を超え、ミュータントを乗り越え、サイクリスタルへと到った者がこのイーストリザード地方に現れたんだ」
ロールの話を黙って聞いていたホーリィが「でも」と遮り疑問をぶつける。
「一体どうやってそのサイクリスタルはこの地まで来たんですか?それになんの為に?」
「お前にはこの2人が寝ている間にちらっと話しただろう。ある2つの存在が揃えばこの地にルシ=フェルの魔獣を送り込める、と。その一つが繁殖可能なスーパー召喚獣を生み出せるベガマリアとか言うサイクリスタルだ。そしてもう一つが・・・・」
ロールはそこで言葉を切り、私とアロウに顔を向ける。
「空間を飛び越える力を持ったサイクリスタルだ。お前たち屋敷でそいつに会ったんだろう?」
・・・・あの女だ、間違いない。
私とアロウはお互い顔を向け合い、頷く。
あの女は空間を引き裂いて突如私の目の前に現れ、そして私をあの水精に呪わせて空間のゆがみの中へ消えていった。
あの女の力がどれほどのものかは分からないけど、確かにあの力ならモーセの尾接界を飛び越えてこれるかもしれない。
つまり・・・・
「ベガマリアやアリーガをこの地に送り込んだのはあの女って事ね?」
「そうだ、そしてこれはこのユーリエッセ大陸を震撼させる大事件の始まりに過ぎないのかもしれん」
「・・・・どういうこと?」
ロールは立ち上がり、ゆっくりと窓の方へ歩いていく。
その巨体が一歩踏み出す度にギシリと床板が悲鳴を上げる。
窓の向こうではルシ=フェルのゴキブリ達に荒らされたのだろう、あちこち破壊された古い小屋が並んでいた。
その景色を見ながらロールは拳を握り締め私たちに告げた。
「つまりこれは、ルシ=フェルの異邦人達による侵略戦争の始まりなんだよ・・・・!」
―――こうして私たちの地獄〈ゲーム〉が始まり、この日から私の針は破滅へと回り始めた・・・・。
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