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1章
第17話 犬にかわってお仕置きよ
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AM10:06 フレア・ロングコート
「ジイイィィィィィィ!!!」
バチバチバチバチ!!
結界を張ってコロニーの中に突入した私達を待っていたのは暗闇とその中で黒光りするゴキブリの大群だった!
「ジイイィィィィィィ!!!」
バチバチバチバチ!!
乙女の天敵がこんなに沢山!!
あ、あわわわわ~!!
「や、やっぱり無理よ!引き返しましょう!」
私は前を走るロールに叫ぶ。
「心配するな!もう10000EBを軽く超えた!さあ始めるぞ!」
しかし、そんな私の泣き言を一蹴しロールはステッキを一振りする。
ブオーン!!
「ジイイィィィィィィ!!!」
すると光の衝撃波が発生して私達に群がっていたゴキブリが吹き飛んでいく。
「す、すげえ!」
アロウが感嘆の声を上げているとロールが一人吹き飛んだゴキブリたちの方へ歩いていく。
「お前らはそこで見てろ!今から俺が害虫駆除の仕方をレクチャーしてやる!」
そしてロールはゴキブリの大群と向き合い、私達はそれを少し離れた場所で固唾を呑んで見守る。
た、頼むわよ・・・・!
私が祈っているとロールはステッキを握り締めて不敵に笑う。
「待たせたな相棒!さあ開店の時間だ!回れ!転針”秘められた魔商の時雷源”!!」
ロールが叫ぶと地面から水が舞い上がり持っていたステッキに水が渦を巻いていく。
「な、何あれ!?」
「あれは・・・・ぜんまいか!?」
やがて水は先端に一塊の渦を巻きぜんまいの様な杖の形になった。
杖は薄水色の水流のように流れ続け、その水流の中からは小さな白い光が無数に輝いている。
「・・・・きれい・・・・」
ホーリィが水の杖を見てうっとりした様に呟く。
確かに乙女の私に勝るとも劣らない美しい輝きをしてるわね。
私達が呆けていると準備が出来たロールが地面に杖を突き刺し宣言する。
「ゴキブリどもよ!この地はエヴァー商転店主ロール・エヴァースライムが頂いた!今度はお前達がここから立ち退いて貰うぞ!」
「ジイイィィィィィィ!!!」
突然の宣言にゴキブリごもが『ふざけんじゃねえぞ!このやろう!』と言うかのように鳴き出し一斉にロールに飛び掛る。
「ロ、ロール!!」
「おうてめえら!お客様の来店だ!丁重に粘り出してやれ!”合同混魔”!!」
ロールの叫びと共に杖が輝き出す。
「光と大地の”粘粘粘粘粘粘粘粘粘粘ァァ”!!突撃~!!」
すると杖から大量のスライムたちが湧き出してゴキブリたちに突撃する。
ドン!ドコ!ドボ!ドコ!ドダ!ドコ!ドコダ!ドンドコドーン!
「ジイイィィィィィィ!!!」
スライムたちは一匹一匹がかなりの質量を持っているらしく太鼓の様な音を響かせてゴキブリたちを弾き飛ばしていく。
「な、何あれ!?すごい!私の役立たずとはパワーが違うわ!」
「活きが良いだろう!うちの子たちは!だが驚くのはまだ早いぞ!」
「へ?」
弾き飛ばされたゴキブリたちは地面に転がり、その体にはスライムが粘りついている為身動きが取れなくなっている。
やがて全てのゴキブリが動きを封じられロールがにんまりと微笑む。
「どうだ?うちの可愛い商品たちは?気に入ってもらえたかな?・・・・それじゃあ会計だ!全生命力出汁やがれ!”光の溶精”作動!!」
ロールが地面に突き刺した杖をレバーの様に引く。
するとゴキブリに粘りついているスライムたちが光りだす。
「ジイイィィィィィィ!!!」
スライムたちが光りだすとゴキブリの体が溶けていき悲痛な鳴き声をあげる。
「ち、ちょっと何したの!?どうなってんのよ!?」
「こいつらはただの水で作ったスライムじゃない!エターナルブレンドで光を混ぜ込んだ特注品だ!このゴキブリたちには今スライムに仕込んだ光でエターナル化光素を反応させてるんだよ!」
「反応!?そんな事できるの?」
「これが俺と相棒の力”魔光商合成”だ!この相棒の力で”光時計”を作り俺は霊巣を介さず大気中のエターナル化光素に”9話参照”を起こしているのさ!」
「そ、そんなバカな・・・・!」
「この”魔光商合成”で魔法を操り、”魔陣融合成”でお前達のエターナルを混ぜ合わせる!対象によって色を変え形を変え混ざり合わせて即席で新しい魔法を作りだす!これが俺の編み出した”合成魔法”だ!」
「な、なんじゃそりゃ!?」
よ、よく分からないけどとにかくあの杖が凄いってことでいいのかな?
私は美しく輝く杖を見つめる。
「・・・・・・・・」
・・・・あの杖お高いのかしら?
私に似合うかな?
「ジイイィィィィィィ!!!」
そんなこんなを考えているとやがてゴキブリたちは完全に溶けてしまい、最後の一匹が溶けると坑道の中に静寂が訪れた。
「・・・・入り口はこれで占領か。・・・・楽勝だな・・・・」
「ヒヒイィィィィィン!!!」
ロールが拍子抜けした声を出しスライムホースが勝利の嘶きを上げる。
・・・・・・・・え?もう終わったの?
「す、すげえ!すげえよ!ロール!」
アロウが出会ってから何度目か分からないリアクションでロールを賞賛する。
「す、すごい!あんなに居たゴキブリたちを一瞬でやっつけちゃった!」
ロールを敵視していたホーリィも余りの強さに笑みを浮かべて喜んでいる。
私は美しく笑みを浮かべながらロールに駆け寄る。
「す、すごいじゃない!あんた!こんなに強かったの!?」
やれば出来る子じゃない!
何ならホッペにキスして上げてもいいくらいよ!
「世の中には俺より強い奴は山ほどいるさ・・・・。現にこのエヴァー商転のエースは俺じゃない。俺の相棒だ」
暴れたロールはトランス状態が覚めてきたのか少し落ち着いた口調で話す。
「あんたの相棒ってその杖?」
「こっちの相棒の事じゃない。先行したスケルトンを尾行させてる店員の事だ」
「あ~、何かそんな事言ってたわね。そんなに強いの?」
「ああ。・・・・その上滅茶苦茶な奴でな。俺も手を焼いている・・・・」
ロールはその相棒を思い出したのか疲れたような顔をする。
「あ、あんたが手を焼くって・・・・とんでもない奴なのね・・・・」
私はまだ見ぬその相棒とやらを想像して身震いする。
「それにさっきも言ったが俺はエターナル化光素がないと力を発揮できない。だから結界が張られてる街中では遥かに戦闘力が落ちる」
「そ、そうなの?」
何かそう言われると大した奴でもないような気が・・・・。
「って言うかさ、スライムトレード?だっけ?それを使ってるのは分かったけど、何で普通に魔法使わないんだ?」
横からアロウが不思議そうに聞く。
「・・・・持病でな。霊巣を使うわけにはいかないんだ。だから俺は霊巣を媒介しない様このスライムアーツを使ってエターナルを生み出してるんだ」
何故かロールは暗い顔で俯きながら答える。
「持病って・・・・屋敷で苦しんでた奴か?」
「・・・・そうだ・・・・どんな医者でも治せない・・・・重い、病気だ」
ロールは重苦しい声で告げる。
その表情はまるで医者から余命宣告を受けた患者ように暗いものだった。
私はその時寝ていたから知らないけど、聞くところによると屋敷でロールは発作を起こしてそのせいでアロウたちはピンチに陥ったようだ。
私は暗い顔をしたロールを見つめる。
「・・・・・・・・」
・・・・大丈夫かな?
もしこんな所で急に倒れたれたら・・・・。
ロールの事も心配だけど・・・・私はそれよりもこの場で急に発作を起こされることを心配していた。
こいつが戦えなくなったら・・・・
「よし!それじゃあ先に進むぞ」
そんな私を他所にロールは出発しようとする。
「ね、ねえロール・・・・大丈夫、だよね?」
私はその背中に確認するように声を掛ける。
「発作のことか?それなら心配するな。あんなものが1日にそう何回もあってたまるかよ」
「あ、いや・・・・で、でも、病気のことは本人にも分からないって言うし」
「・・・・大丈夫さ。そんなに早く起きたりするわけがない・・・・。そんなに早く・・・・」
ロールはまるで自分に言い聞かせる様に呟く。
「ロール・・・・」
「・・・・それに早くしないと、むしろお前達の方がまずい状態になるしな」
「え?」
私達が?
「さあ、行くぞ」
その言葉の意味が分からず呆ける私達を他所にロールはさっさと歩き出した為、私達3人は不安を感じながらその背中についていった。
・・・・だけどこの数時間後、
ロールの言葉の意味を私達は体で理解することになった・・・・。
「ここら辺なら大丈夫か・・・・おい!ちょっと待っててくれ!」
入り口から暗く細い道を1時間以上歩き続け、少し開けた空間に出た所でロールが急に私達に叫んだ。
「どうしたのよ?」
「相棒と通信がしたい。ここで少し休憩だ」
「こんな暗い所で?襲われたらどうするの?」
「心配するな。この辺りにはゴキブリどもの反応はない。お前達も疲れただろう。少し休んでてくれ」
そう言ってロールは荷物を持って少し離れた位置に移動する。
まあ確かにここまで走ったり戦ったりの連続だったしね。
私のようなか弱い乙女には堪えたわ・・・・。
「ふう~、やっと休めるぜ・・・・」
「疲れましたね・・・・」
それに私は途中で寝てたけどアロウとホーリィはここまでほとんど休憩なしで来たし・・・・2人ともぐったりしてるわね。
お言葉に甘えてしっかり休ませて貰うとしますか・・・・。
「・・・・相棒ってどんな奴なんだろうな?」
ロールの背中を見ながら腰を下ろしたアロウが呟く。
う~ん、さっきの話を聞く限り・・・・
「あのロールより強くて、しかもあいつが手を焼いてるんだから・・・・きっと筋肉もりもりマッチョマンの変態に決まってるわよ」
私は筋骨隆々の男を想像しながら答える。
「そ、そうなのかな?」
「それより・・・・これからの事を話しておきましょう」
「これから?」
「この坑道を出た後のこと。ちょっと気が早いかもだけど、ここまで来るのに苦戦しなかったしあいつがいれば抜けられそうでしょ?問題はその後よ。ロールはここを出た後きっと相棒とやらと合流してスケルトンに拉致された人たちを救出しに行くでしょ?ならあいつとはこの坑道を出たらお別れしないといけないわ。そうなるとまた私達3人でセントラルギルドから逃げないと行けないのよ。あの凶悪な外の世界を歩きながら・・・・」
「・・・・そうか。そうだよな。ロールはずっと俺達と一緒にいてくれるわけじゃないんだよな・・・・。あ!でもホーリィ。お前は元々ロールに救出されたんだし・・・・どうする?寂しいけど、あいつについて行くのか?」
「そんな!?絶対に嫌です!あんな狂人となんて!」
急にアロウに聞かれたホーリィは頭をぶんぶんと振って否定する。
どうやらロールの事が相当苦手なようだ。
「・・・・もし迷惑じゃなかったら・・・・」
そしてホーリィは不安そうな顔で目を潤ませながら上目遣いで私達を見つめる。
うっ、な、なんて可愛い顔・・・・!
「2人に・・・・付いて行っても、いいですか・・・・?」
バキューーーーン!!
「「ぬヴぉぉぉぉぉ!!!」」
そ、そして、なんだこの乙女圧は!!?
この私が女圧されているだと!?
私とアロウは目の前の美少女のパワーに吹き飛ばされてしまった。
「あ、あの・・・・?」
ホーリィは吹き飛んだ私達を不思議そうにポカンと小動物の様に見つめる。
ぐっ!・・・・この娘・・・・乙女る!!
「も、も、もちろんだよ!お、お前が、い、いると、こ、心強いしな!なっ、フレア!」
「え、ええ。そ、そうね・・・・」
ホーリィのパワーにやられた私とアロウは膝をがくがくさせながら答える。
「あ、ありがとう・・・・!」
そして安堵したホーリィは天使のような笑顔を私達に向ける。
「「ぶはぁぁぁぁ!!」」
ホーリィの天使の笑顔を顔面に受けた私達は吐血しながら上空に舞い上がる。
アロウはおろか乙女であるこの私までをもたったの2回攻撃でここまでボコボコに悶えさせるとは・・・・恐ろしい娘!
「はあ、はあ、はあ、と、取り合えず3人でまた旅に出るって事で・・・・え、え~と、そうだ!ブリーズファームに向かうんだよな?」
ホーリィにボコボコにされたアロウがクラクラしながら私に聞いてくる。
「はあ、はあ、そ、そうね。そこで腕利きの仲間を見つけないと、とても私達だけではやって行けそうにないし」
荒く息を吐きながら私は先刻の戦闘での失態を思い出す。
相手があの宿敵シバウルフだったとは言えあの時は私もアロウも空回りしっぱなしだった。
私達だけではとても・・・・
「でもどうやって仲間を見つけるんです?」
私が考えているとホーリィが聞いてくる。
どうやってか・・・・。
一応方法はあるにはあるけど・・・・。
「それは・・・・俺の金で雇うよ・・・・」
私が悩んでいるとアロウが俯きながら答える。
「え!?で、でも、そのお金はアロウさんの・・・・」
「・・・・だけど、俺達の命には代えられないだろ・・・・」
「アロウ・・・・」
確かに私もそれしか方法はないと思うけど・・・・でも、やっぱり
「それは最終手段にしましょ。もしかしたら運よく私達の目的地と同じ場所を目指してる旅人がいるかもしれないし。・・・・ね?」
私はアロウに微笑む。
都合のいい考えかもしれないけどこの子の思い出は守ってあげたい。
「フレア・・・・ありがとう・・・・」
アロウは嬉しそうに微笑む。
うん、きっと何とかなるわよ。
・・・・それはいいとして目的地か・・・・。
私はセントラルオークに向かうつもりだけど・・・・この子達も連れてっちゃっていいのかしら?
ホーリィはパプリカに帰して上げないといけないし、アロウは家ではオールモストヘヴンに行って商人になりたいって行ってたけど、この状況じゃもう商売なんて出来ないだろうし・・・・。
「あれ?・・・・そう言えば」
「ん?どうしたんだよフレア?」
私は家でアロウと話したときの会話で気になることを思い出した。
「ねえアロウ。そう言えばあんた最初に家で話したときカントリータウンに行きたいって言ってなかった?」
「・・・・ああ。兄貴の件で確認したい事があってな・・・・」
アロウは急に暗い顔になって答える。
「それって何なの?あんたのお兄さんって死んだんじゃなかったの?」
「・・・・ごめん。実は俺にも兄貴が本当に死んでるのかは分からないんだ。それを確かめたくてカントリータウンに行きたいんだ」
へ?死んでないの?
「どういうことですか?」
ホーリィが不思議そうにアロウを見ながら聞く。
「・・・・俺の兄貴は3年前に家を出てカントリーギルドに入ったんだよ」
「カントリーギルドって何ですか?」
「えっと、セントラルギルドの事は話したよな?実はこのイーストリザード地方にはそのセントラルギルドと対立してるギルドがあるんだよ。それがカントリーギルドだ」
「どうして対立してるんですか?」
「それはこのイーストリザードがセントラルから見捨てられた土地だからだよ。イーストリザードはここみたいな鉱山が多い土地でな。昔は炭鉱夫が多くいて魔石や石炭が取れたからこの大陸でも重宝されてたんだ。だけど資源も永遠に出せるわけじゃない。段々掘り尽くされて炭鉱を閉めることになった農園が増えると残るのは魔物の住みやすい環境だけだ。そうなると途端にこの地方は価値を失っちまったんだ。その上”学園ギルド”って言うセントラルギルドが魔石を必要としない魔法術式を発明しちまったりしてさらに立場がなくなったんだ。そうなると当然セントラルからこの土地にギルドの人間を送られなくなっちまってな・・・・。このコロニーみたいな危険な場所も野放しにされる様になったんだ・・・・」
そうなのよね・・・・。
本当だったら農園に近いこんなコロニーは”傭兵ギルド”が何とかしてくれるんだけど、わざわざこんな所にはねえ・・・・。
「そうなんだ・・・・かわいそう」
「だからそんな現状を何とかしようと結成されたのがカントリーギルドなんだ。いわゆる地方を守る自警団みたいな感じかな」
カントリーギルドはその名の通り地方を守る為のギルドだ。
いずれはこのイーストリザードから全てのセントラルギルドを追い出そうとしているらしいけど・・・・。
「それでお兄さんはそのカントリーギルドに・・・・?」
「・・・・兄貴は魔法の素質のある人でな。スケルトンに勧誘されたこともあったんだけど親はもう死んでたし、自分が行ったら俺が1人になっちまうから断ってたんだ。・・・・俺をずっと守ってくれてたんだ」
なるほど。アロウのお兄さんは秀色難民だったのね・・・・。
「それで兄貴は3年前まで御者の護衛の仕事で俺を養ってくれてたんだ。だけどある日、護衛中にシバウルフの群れに襲われて殺されそうになったんだ。その時助けてくれたのが・・・・カントリーギルドだったんだ。・・・・それから兄貴はカントリーギルドに憧れちまって・・・・」
「カントリーギルドに入ったってことね?」
私はアロウの言葉を継いだ。
「・・・・ああ。あいつらにどうしても恩返しがしたい。生活が安定してきたら俺を迎えに来るって。・・・・そう言ってたんだけどな。・・・・それから3年間一度も連絡がない・・・・」
アロウは消え入りそうな声で告げる。
「アロウ・・・・」
この子はお兄さんに・・・・
「あの・・・・でも、こんな事言うのは失礼なんですけど・・・・。カントリーギルドって言う所は魔物と戦ってるんですよね?それじゃあ、もしかしたら、お兄さんは魔物との戦いで・・・・」
ホーリィは言い辛そうに話す。
確かにその可能性は高い・・・・。
「・・・・そうかもしれない。兄貴はもう・・・・。いや、もしかしたら俺はそうであって欲しいとさえ思ってるのかもしれないんだ・・・・酷い奴なんだよ俺は・・・・」
突然アロウは自嘲する。
「ど、どういうことですか?」
「・・・・兄貴が生きてくれてるんなら嬉しい。だけど・・・・」
そこでアロウは言葉を詰まらせる。
「・・・・でも、だったら何で、迎えに来てくれなかったんだよ・・・・!」
そして堪えきれなくなったのか涙声で嘆いた。
「アロウ・・・・」
「俺は見捨てられたのかな?・・・・俺がラビットを見捨てたみたいに」
「それは違うでしょ!あんたは見捨てたわけじゃない!」
「そうかな?・・・・俺、あの森でラビットが親方に告げ口して俺を農園から出て行かないようにしていたのを知った時・・・・あいつの事邪魔だって思っちまった。俺を縛り付けないでくれって思っちまった。・・・・兄貴もそうだったんじゃないかな?・・・・俺のこと邪魔だと思ってたんだよ」
「アロウさん・・・・」
「・・・・フレア。俺がカントリータウンに行きたいって言った話。あれ忘れてくれ・・・・」
「え?」
「もう分かっちまったから。兄貴は俺のこと・・・・見捨てたんだよ。きっと。だからカントリーギルドの町に行っても意味がない・・・・」
「アロウさん・・・・」
「・・・・本当にそれでいいの?」
「・・・・ああ。それにカントリーギルドはセントラルギルドと対立してるんだぜ。お前はゴールドハウスの高官の娘だろ?じゃあカントリータウンに行くわけにはいかないだろ・・・・」
「そ、それは・・・・!」
確かに私がカントリーギルドに捕まったりしたら大変だわ。
だけど・・・・
「だから何度も謝ってるだろ!!こっちも色々あったんだよ!!」
「え?」
私が悩んでいると急に黙って通信していたロールの怒鳴り声が聞こえてきた。
「な、なんだ?」
シュンとしていたアロウもロールの怒鳴り声にぽかんとしている。
「そんなに急いで行ける訳ないだろ!!こっちは素人連れてんだぞ!!・・・・一人ぼっちで寂しい?知るかそんなもん!!我慢しろ!」
どうやら相棒と通信中に喧嘩になってしまったようだ。
「・・・・ひょっとして私達のせいで喧嘩になってるんでしょうか?」
ホーリィが不安そうに聞いてくる。
「どうかしらね?なんか痴話喧嘩っぽい雰囲気だけど?」
と言うことは相棒は女だったのかな?
ひょっとしたらロールの彼女かも。
自分より強い彼女なんてあいつも立場ないわね。
「分かったよ!そのブリーズファームって所に向かってるんだな!じゃあお前は先回りしてそこで待っててくれればいい!・・・・だから怒るなっての!!じゃあもう切るぞ!ちゃんと寝る前に歯磨けよ!」
ブリーズファーム?
ロールもブリーズファームに向かうことになったのかしら?
「待たせたな。出発するぞ」
ロールが叫び疲れた顔で戻ってきた。
「ねえ、あんたもブリーズファームに向かうの?」
「ん?聞いてたのか?・・・・あんたもって事はお前らもブリーズファームに向かってたのか?」
「そ。じゃあ目的地は同じってわけね」
なんだ、じゃあ取り合えずブリーズファームまでは安心できそうね。
「・・・・そうか。やはりこれは運命かもな」
っと私が安心してるとロールが不敵に笑いながら呟く。
その目は何か悪巧みを考えてる様に怪しく輝く。
な、何かめちゃくちゃ嫌な予感がするんだけど・・・・。
「なあ、お前ら。ここから出たら・・・・・」
ロールが何かを告げようとしたその時、
ドオーーーン!!!
「ぎゃあああああ!!」
急に私達が来た方から爆音が鳴り響いて私は思わず叫美声を上げてしまった。
「な、何だよこの爆音!!?」
「い、入り口の方からです!!」
アロウとホーリィがビックリして尻餅をつきながら叫ぶ。
「これは・・・・落盤!?・・・・まさかあいつら!!」
「ジイイィィィィィィ!!!」
爆音に反応したのか遠くでゴキブリどもの鳴き声が聞こえた。
な、なんか嫌な予感がする・・・・!
「ロ、ロール!!」
「・・・・やばい!!今の落盤でゴキブリが一斉にこっちに向かってきてる!!」
空魔法で探知したロールが絶望的な事実を告げる。
「何ですって!!嘘でしょ!?」
どうしてこうなるのよ!!
「こ、これは・・・・!骨が折れそうだ・・・・!」
ロールが空魔法で探知しながら青い顔をする。
こいつでもやばいの!?
「ち、ちょっと!大丈夫なの!?」
「やるしかないだろう!!一斉射撃で迎え撃つ!俺が前に出る!お前らは後ろから俺の指示通りに撃て!」
や、やっぱり私達も戦うことになるのね!!
「ジイイィィィィィィ!!!」
ゴキブリどもの鳴き声が近くなってきた。
く、来る!
「お、俺も戦うぞ!」
アロウが弓を持ち威勢よく叫ぶ。
「アロウ!あんたはまだ右腕が・・・・!」
「ここで死ぬよりはマシだろう!腕がダメになろうとやってやる!」
「アロウさん・・・・!」
「あんた・・・・ああ!もう!やってやろうじゃねえの!!」
アロウも覚悟を決めたんだ私もやらないと。
私は覚悟を決めてゴキブリの大群が押し寄せてくる暗闇を見つめる。
今度こそ、今度こそ、今度こそ、今度こそ、頼むわよ私のファイヤーボール!!
私は手のひらに気合を込めてエターナルを集める。
「ジイイィィィィィィ!!!」
・・・・そして私達とゴキブリの死闘が始まった・・・・。
「ジイイィィィィィィ!!!」
バチバチバチバチ!!
結界を張ってコロニーの中に突入した私達を待っていたのは暗闇とその中で黒光りするゴキブリの大群だった!
「ジイイィィィィィィ!!!」
バチバチバチバチ!!
乙女の天敵がこんなに沢山!!
あ、あわわわわ~!!
「や、やっぱり無理よ!引き返しましょう!」
私は前を走るロールに叫ぶ。
「心配するな!もう10000EBを軽く超えた!さあ始めるぞ!」
しかし、そんな私の泣き言を一蹴しロールはステッキを一振りする。
ブオーン!!
「ジイイィィィィィィ!!!」
すると光の衝撃波が発生して私達に群がっていたゴキブリが吹き飛んでいく。
「す、すげえ!」
アロウが感嘆の声を上げているとロールが一人吹き飛んだゴキブリたちの方へ歩いていく。
「お前らはそこで見てろ!今から俺が害虫駆除の仕方をレクチャーしてやる!」
そしてロールはゴキブリの大群と向き合い、私達はそれを少し離れた場所で固唾を呑んで見守る。
た、頼むわよ・・・・!
私が祈っているとロールはステッキを握り締めて不敵に笑う。
「待たせたな相棒!さあ開店の時間だ!回れ!転針”秘められた魔商の時雷源”!!」
ロールが叫ぶと地面から水が舞い上がり持っていたステッキに水が渦を巻いていく。
「な、何あれ!?」
「あれは・・・・ぜんまいか!?」
やがて水は先端に一塊の渦を巻きぜんまいの様な杖の形になった。
杖は薄水色の水流のように流れ続け、その水流の中からは小さな白い光が無数に輝いている。
「・・・・きれい・・・・」
ホーリィが水の杖を見てうっとりした様に呟く。
確かに乙女の私に勝るとも劣らない美しい輝きをしてるわね。
私達が呆けていると準備が出来たロールが地面に杖を突き刺し宣言する。
「ゴキブリどもよ!この地はエヴァー商転店主ロール・エヴァースライムが頂いた!今度はお前達がここから立ち退いて貰うぞ!」
「ジイイィィィィィィ!!!」
突然の宣言にゴキブリごもが『ふざけんじゃねえぞ!このやろう!』と言うかのように鳴き出し一斉にロールに飛び掛る。
「ロ、ロール!!」
「おうてめえら!お客様の来店だ!丁重に粘り出してやれ!”合同混魔”!!」
ロールの叫びと共に杖が輝き出す。
「光と大地の”粘粘粘粘粘粘粘粘粘粘ァァ”!!突撃~!!」
すると杖から大量のスライムたちが湧き出してゴキブリたちに突撃する。
ドン!ドコ!ドボ!ドコ!ドダ!ドコ!ドコダ!ドンドコドーン!
「ジイイィィィィィィ!!!」
スライムたちは一匹一匹がかなりの質量を持っているらしく太鼓の様な音を響かせてゴキブリたちを弾き飛ばしていく。
「な、何あれ!?すごい!私の役立たずとはパワーが違うわ!」
「活きが良いだろう!うちの子たちは!だが驚くのはまだ早いぞ!」
「へ?」
弾き飛ばされたゴキブリたちは地面に転がり、その体にはスライムが粘りついている為身動きが取れなくなっている。
やがて全てのゴキブリが動きを封じられロールがにんまりと微笑む。
「どうだ?うちの可愛い商品たちは?気に入ってもらえたかな?・・・・それじゃあ会計だ!全生命力出汁やがれ!”光の溶精”作動!!」
ロールが地面に突き刺した杖をレバーの様に引く。
するとゴキブリに粘りついているスライムたちが光りだす。
「ジイイィィィィィィ!!!」
スライムたちが光りだすとゴキブリの体が溶けていき悲痛な鳴き声をあげる。
「ち、ちょっと何したの!?どうなってんのよ!?」
「こいつらはただの水で作ったスライムじゃない!エターナルブレンドで光を混ぜ込んだ特注品だ!このゴキブリたちには今スライムに仕込んだ光でエターナル化光素を反応させてるんだよ!」
「反応!?そんな事できるの?」
「これが俺と相棒の力”魔光商合成”だ!この相棒の力で”光時計”を作り俺は霊巣を介さず大気中のエターナル化光素に”9話参照”を起こしているのさ!」
「そ、そんなバカな・・・・!」
「この”魔光商合成”で魔法を操り、”魔陣融合成”でお前達のエターナルを混ぜ合わせる!対象によって色を変え形を変え混ざり合わせて即席で新しい魔法を作りだす!これが俺の編み出した”合成魔法”だ!」
「な、なんじゃそりゃ!?」
よ、よく分からないけどとにかくあの杖が凄いってことでいいのかな?
私は美しく輝く杖を見つめる。
「・・・・・・・・」
・・・・あの杖お高いのかしら?
私に似合うかな?
「ジイイィィィィィィ!!!」
そんなこんなを考えているとやがてゴキブリたちは完全に溶けてしまい、最後の一匹が溶けると坑道の中に静寂が訪れた。
「・・・・入り口はこれで占領か。・・・・楽勝だな・・・・」
「ヒヒイィィィィィン!!!」
ロールが拍子抜けした声を出しスライムホースが勝利の嘶きを上げる。
・・・・・・・・え?もう終わったの?
「す、すげえ!すげえよ!ロール!」
アロウが出会ってから何度目か分からないリアクションでロールを賞賛する。
「す、すごい!あんなに居たゴキブリたちを一瞬でやっつけちゃった!」
ロールを敵視していたホーリィも余りの強さに笑みを浮かべて喜んでいる。
私は美しく笑みを浮かべながらロールに駆け寄る。
「す、すごいじゃない!あんた!こんなに強かったの!?」
やれば出来る子じゃない!
何ならホッペにキスして上げてもいいくらいよ!
「世の中には俺より強い奴は山ほどいるさ・・・・。現にこのエヴァー商転のエースは俺じゃない。俺の相棒だ」
暴れたロールはトランス状態が覚めてきたのか少し落ち着いた口調で話す。
「あんたの相棒ってその杖?」
「こっちの相棒の事じゃない。先行したスケルトンを尾行させてる店員の事だ」
「あ~、何かそんな事言ってたわね。そんなに強いの?」
「ああ。・・・・その上滅茶苦茶な奴でな。俺も手を焼いている・・・・」
ロールはその相棒を思い出したのか疲れたような顔をする。
「あ、あんたが手を焼くって・・・・とんでもない奴なのね・・・・」
私はまだ見ぬその相棒とやらを想像して身震いする。
「それにさっきも言ったが俺はエターナル化光素がないと力を発揮できない。だから結界が張られてる街中では遥かに戦闘力が落ちる」
「そ、そうなの?」
何かそう言われると大した奴でもないような気が・・・・。
「って言うかさ、スライムトレード?だっけ?それを使ってるのは分かったけど、何で普通に魔法使わないんだ?」
横からアロウが不思議そうに聞く。
「・・・・持病でな。霊巣を使うわけにはいかないんだ。だから俺は霊巣を媒介しない様このスライムアーツを使ってエターナルを生み出してるんだ」
何故かロールは暗い顔で俯きながら答える。
「持病って・・・・屋敷で苦しんでた奴か?」
「・・・・そうだ・・・・どんな医者でも治せない・・・・重い、病気だ」
ロールは重苦しい声で告げる。
その表情はまるで医者から余命宣告を受けた患者ように暗いものだった。
私はその時寝ていたから知らないけど、聞くところによると屋敷でロールは発作を起こしてそのせいでアロウたちはピンチに陥ったようだ。
私は暗い顔をしたロールを見つめる。
「・・・・・・・・」
・・・・大丈夫かな?
もしこんな所で急に倒れたれたら・・・・。
ロールの事も心配だけど・・・・私はそれよりもこの場で急に発作を起こされることを心配していた。
こいつが戦えなくなったら・・・・
「よし!それじゃあ先に進むぞ」
そんな私を他所にロールは出発しようとする。
「ね、ねえロール・・・・大丈夫、だよね?」
私はその背中に確認するように声を掛ける。
「発作のことか?それなら心配するな。あんなものが1日にそう何回もあってたまるかよ」
「あ、いや・・・・で、でも、病気のことは本人にも分からないって言うし」
「・・・・大丈夫さ。そんなに早く起きたりするわけがない・・・・。そんなに早く・・・・」
ロールはまるで自分に言い聞かせる様に呟く。
「ロール・・・・」
「・・・・それに早くしないと、むしろお前達の方がまずい状態になるしな」
「え?」
私達が?
「さあ、行くぞ」
その言葉の意味が分からず呆ける私達を他所にロールはさっさと歩き出した為、私達3人は不安を感じながらその背中についていった。
・・・・だけどこの数時間後、
ロールの言葉の意味を私達は体で理解することになった・・・・。
「ここら辺なら大丈夫か・・・・おい!ちょっと待っててくれ!」
入り口から暗く細い道を1時間以上歩き続け、少し開けた空間に出た所でロールが急に私達に叫んだ。
「どうしたのよ?」
「相棒と通信がしたい。ここで少し休憩だ」
「こんな暗い所で?襲われたらどうするの?」
「心配するな。この辺りにはゴキブリどもの反応はない。お前達も疲れただろう。少し休んでてくれ」
そう言ってロールは荷物を持って少し離れた位置に移動する。
まあ確かにここまで走ったり戦ったりの連続だったしね。
私のようなか弱い乙女には堪えたわ・・・・。
「ふう~、やっと休めるぜ・・・・」
「疲れましたね・・・・」
それに私は途中で寝てたけどアロウとホーリィはここまでほとんど休憩なしで来たし・・・・2人ともぐったりしてるわね。
お言葉に甘えてしっかり休ませて貰うとしますか・・・・。
「・・・・相棒ってどんな奴なんだろうな?」
ロールの背中を見ながら腰を下ろしたアロウが呟く。
う~ん、さっきの話を聞く限り・・・・
「あのロールより強くて、しかもあいつが手を焼いてるんだから・・・・きっと筋肉もりもりマッチョマンの変態に決まってるわよ」
私は筋骨隆々の男を想像しながら答える。
「そ、そうなのかな?」
「それより・・・・これからの事を話しておきましょう」
「これから?」
「この坑道を出た後のこと。ちょっと気が早いかもだけど、ここまで来るのに苦戦しなかったしあいつがいれば抜けられそうでしょ?問題はその後よ。ロールはここを出た後きっと相棒とやらと合流してスケルトンに拉致された人たちを救出しに行くでしょ?ならあいつとはこの坑道を出たらお別れしないといけないわ。そうなるとまた私達3人でセントラルギルドから逃げないと行けないのよ。あの凶悪な外の世界を歩きながら・・・・」
「・・・・そうか。そうだよな。ロールはずっと俺達と一緒にいてくれるわけじゃないんだよな・・・・。あ!でもホーリィ。お前は元々ロールに救出されたんだし・・・・どうする?寂しいけど、あいつについて行くのか?」
「そんな!?絶対に嫌です!あんな狂人となんて!」
急にアロウに聞かれたホーリィは頭をぶんぶんと振って否定する。
どうやらロールの事が相当苦手なようだ。
「・・・・もし迷惑じゃなかったら・・・・」
そしてホーリィは不安そうな顔で目を潤ませながら上目遣いで私達を見つめる。
うっ、な、なんて可愛い顔・・・・!
「2人に・・・・付いて行っても、いいですか・・・・?」
バキューーーーン!!
「「ぬヴぉぉぉぉぉ!!!」」
そ、そして、なんだこの乙女圧は!!?
この私が女圧されているだと!?
私とアロウは目の前の美少女のパワーに吹き飛ばされてしまった。
「あ、あの・・・・?」
ホーリィは吹き飛んだ私達を不思議そうにポカンと小動物の様に見つめる。
ぐっ!・・・・この娘・・・・乙女る!!
「も、も、もちろんだよ!お、お前が、い、いると、こ、心強いしな!なっ、フレア!」
「え、ええ。そ、そうね・・・・」
ホーリィのパワーにやられた私とアロウは膝をがくがくさせながら答える。
「あ、ありがとう・・・・!」
そして安堵したホーリィは天使のような笑顔を私達に向ける。
「「ぶはぁぁぁぁ!!」」
ホーリィの天使の笑顔を顔面に受けた私達は吐血しながら上空に舞い上がる。
アロウはおろか乙女であるこの私までをもたったの2回攻撃でここまでボコボコに悶えさせるとは・・・・恐ろしい娘!
「はあ、はあ、はあ、と、取り合えず3人でまた旅に出るって事で・・・・え、え~と、そうだ!ブリーズファームに向かうんだよな?」
ホーリィにボコボコにされたアロウがクラクラしながら私に聞いてくる。
「はあ、はあ、そ、そうね。そこで腕利きの仲間を見つけないと、とても私達だけではやって行けそうにないし」
荒く息を吐きながら私は先刻の戦闘での失態を思い出す。
相手があの宿敵シバウルフだったとは言えあの時は私もアロウも空回りしっぱなしだった。
私達だけではとても・・・・
「でもどうやって仲間を見つけるんです?」
私が考えているとホーリィが聞いてくる。
どうやってか・・・・。
一応方法はあるにはあるけど・・・・。
「それは・・・・俺の金で雇うよ・・・・」
私が悩んでいるとアロウが俯きながら答える。
「え!?で、でも、そのお金はアロウさんの・・・・」
「・・・・だけど、俺達の命には代えられないだろ・・・・」
「アロウ・・・・」
確かに私もそれしか方法はないと思うけど・・・・でも、やっぱり
「それは最終手段にしましょ。もしかしたら運よく私達の目的地と同じ場所を目指してる旅人がいるかもしれないし。・・・・ね?」
私はアロウに微笑む。
都合のいい考えかもしれないけどこの子の思い出は守ってあげたい。
「フレア・・・・ありがとう・・・・」
アロウは嬉しそうに微笑む。
うん、きっと何とかなるわよ。
・・・・それはいいとして目的地か・・・・。
私はセントラルオークに向かうつもりだけど・・・・この子達も連れてっちゃっていいのかしら?
ホーリィはパプリカに帰して上げないといけないし、アロウは家ではオールモストヘヴンに行って商人になりたいって行ってたけど、この状況じゃもう商売なんて出来ないだろうし・・・・。
「あれ?・・・・そう言えば」
「ん?どうしたんだよフレア?」
私は家でアロウと話したときの会話で気になることを思い出した。
「ねえアロウ。そう言えばあんた最初に家で話したときカントリータウンに行きたいって言ってなかった?」
「・・・・ああ。兄貴の件で確認したい事があってな・・・・」
アロウは急に暗い顔になって答える。
「それって何なの?あんたのお兄さんって死んだんじゃなかったの?」
「・・・・ごめん。実は俺にも兄貴が本当に死んでるのかは分からないんだ。それを確かめたくてカントリータウンに行きたいんだ」
へ?死んでないの?
「どういうことですか?」
ホーリィが不思議そうにアロウを見ながら聞く。
「・・・・俺の兄貴は3年前に家を出てカントリーギルドに入ったんだよ」
「カントリーギルドって何ですか?」
「えっと、セントラルギルドの事は話したよな?実はこのイーストリザード地方にはそのセントラルギルドと対立してるギルドがあるんだよ。それがカントリーギルドだ」
「どうして対立してるんですか?」
「それはこのイーストリザードがセントラルから見捨てられた土地だからだよ。イーストリザードはここみたいな鉱山が多い土地でな。昔は炭鉱夫が多くいて魔石や石炭が取れたからこの大陸でも重宝されてたんだ。だけど資源も永遠に出せるわけじゃない。段々掘り尽くされて炭鉱を閉めることになった農園が増えると残るのは魔物の住みやすい環境だけだ。そうなると途端にこの地方は価値を失っちまったんだ。その上”学園ギルド”って言うセントラルギルドが魔石を必要としない魔法術式を発明しちまったりしてさらに立場がなくなったんだ。そうなると当然セントラルからこの土地にギルドの人間を送られなくなっちまってな・・・・。このコロニーみたいな危険な場所も野放しにされる様になったんだ・・・・」
そうなのよね・・・・。
本当だったら農園に近いこんなコロニーは”傭兵ギルド”が何とかしてくれるんだけど、わざわざこんな所にはねえ・・・・。
「そうなんだ・・・・かわいそう」
「だからそんな現状を何とかしようと結成されたのがカントリーギルドなんだ。いわゆる地方を守る自警団みたいな感じかな」
カントリーギルドはその名の通り地方を守る為のギルドだ。
いずれはこのイーストリザードから全てのセントラルギルドを追い出そうとしているらしいけど・・・・。
「それでお兄さんはそのカントリーギルドに・・・・?」
「・・・・兄貴は魔法の素質のある人でな。スケルトンに勧誘されたこともあったんだけど親はもう死んでたし、自分が行ったら俺が1人になっちまうから断ってたんだ。・・・・俺をずっと守ってくれてたんだ」
なるほど。アロウのお兄さんは秀色難民だったのね・・・・。
「それで兄貴は3年前まで御者の護衛の仕事で俺を養ってくれてたんだ。だけどある日、護衛中にシバウルフの群れに襲われて殺されそうになったんだ。その時助けてくれたのが・・・・カントリーギルドだったんだ。・・・・それから兄貴はカントリーギルドに憧れちまって・・・・」
「カントリーギルドに入ったってことね?」
私はアロウの言葉を継いだ。
「・・・・ああ。あいつらにどうしても恩返しがしたい。生活が安定してきたら俺を迎えに来るって。・・・・そう言ってたんだけどな。・・・・それから3年間一度も連絡がない・・・・」
アロウは消え入りそうな声で告げる。
「アロウ・・・・」
この子はお兄さんに・・・・
「あの・・・・でも、こんな事言うのは失礼なんですけど・・・・。カントリーギルドって言う所は魔物と戦ってるんですよね?それじゃあ、もしかしたら、お兄さんは魔物との戦いで・・・・」
ホーリィは言い辛そうに話す。
確かにその可能性は高い・・・・。
「・・・・そうかもしれない。兄貴はもう・・・・。いや、もしかしたら俺はそうであって欲しいとさえ思ってるのかもしれないんだ・・・・酷い奴なんだよ俺は・・・・」
突然アロウは自嘲する。
「ど、どういうことですか?」
「・・・・兄貴が生きてくれてるんなら嬉しい。だけど・・・・」
そこでアロウは言葉を詰まらせる。
「・・・・でも、だったら何で、迎えに来てくれなかったんだよ・・・・!」
そして堪えきれなくなったのか涙声で嘆いた。
「アロウ・・・・」
「俺は見捨てられたのかな?・・・・俺がラビットを見捨てたみたいに」
「それは違うでしょ!あんたは見捨てたわけじゃない!」
「そうかな?・・・・俺、あの森でラビットが親方に告げ口して俺を農園から出て行かないようにしていたのを知った時・・・・あいつの事邪魔だって思っちまった。俺を縛り付けないでくれって思っちまった。・・・・兄貴もそうだったんじゃないかな?・・・・俺のこと邪魔だと思ってたんだよ」
「アロウさん・・・・」
「・・・・フレア。俺がカントリータウンに行きたいって言った話。あれ忘れてくれ・・・・」
「え?」
「もう分かっちまったから。兄貴は俺のこと・・・・見捨てたんだよ。きっと。だからカントリーギルドの町に行っても意味がない・・・・」
「アロウさん・・・・」
「・・・・本当にそれでいいの?」
「・・・・ああ。それにカントリーギルドはセントラルギルドと対立してるんだぜ。お前はゴールドハウスの高官の娘だろ?じゃあカントリータウンに行くわけにはいかないだろ・・・・」
「そ、それは・・・・!」
確かに私がカントリーギルドに捕まったりしたら大変だわ。
だけど・・・・
「だから何度も謝ってるだろ!!こっちも色々あったんだよ!!」
「え?」
私が悩んでいると急に黙って通信していたロールの怒鳴り声が聞こえてきた。
「な、なんだ?」
シュンとしていたアロウもロールの怒鳴り声にぽかんとしている。
「そんなに急いで行ける訳ないだろ!!こっちは素人連れてんだぞ!!・・・・一人ぼっちで寂しい?知るかそんなもん!!我慢しろ!」
どうやら相棒と通信中に喧嘩になってしまったようだ。
「・・・・ひょっとして私達のせいで喧嘩になってるんでしょうか?」
ホーリィが不安そうに聞いてくる。
「どうかしらね?なんか痴話喧嘩っぽい雰囲気だけど?」
と言うことは相棒は女だったのかな?
ひょっとしたらロールの彼女かも。
自分より強い彼女なんてあいつも立場ないわね。
「分かったよ!そのブリーズファームって所に向かってるんだな!じゃあお前は先回りしてそこで待っててくれればいい!・・・・だから怒るなっての!!じゃあもう切るぞ!ちゃんと寝る前に歯磨けよ!」
ブリーズファーム?
ロールもブリーズファームに向かうことになったのかしら?
「待たせたな。出発するぞ」
ロールが叫び疲れた顔で戻ってきた。
「ねえ、あんたもブリーズファームに向かうの?」
「ん?聞いてたのか?・・・・あんたもって事はお前らもブリーズファームに向かってたのか?」
「そ。じゃあ目的地は同じってわけね」
なんだ、じゃあ取り合えずブリーズファームまでは安心できそうね。
「・・・・そうか。やはりこれは運命かもな」
っと私が安心してるとロールが不敵に笑いながら呟く。
その目は何か悪巧みを考えてる様に怪しく輝く。
な、何かめちゃくちゃ嫌な予感がするんだけど・・・・。
「なあ、お前ら。ここから出たら・・・・・」
ロールが何かを告げようとしたその時、
ドオーーーン!!!
「ぎゃあああああ!!」
急に私達が来た方から爆音が鳴り響いて私は思わず叫美声を上げてしまった。
「な、何だよこの爆音!!?」
「い、入り口の方からです!!」
アロウとホーリィがビックリして尻餅をつきながら叫ぶ。
「これは・・・・落盤!?・・・・まさかあいつら!!」
「ジイイィィィィィィ!!!」
爆音に反応したのか遠くでゴキブリどもの鳴き声が聞こえた。
な、なんか嫌な予感がする・・・・!
「ロ、ロール!!」
「・・・・やばい!!今の落盤でゴキブリが一斉にこっちに向かってきてる!!」
空魔法で探知したロールが絶望的な事実を告げる。
「何ですって!!嘘でしょ!?」
どうしてこうなるのよ!!
「こ、これは・・・・!骨が折れそうだ・・・・!」
ロールが空魔法で探知しながら青い顔をする。
こいつでもやばいの!?
「ち、ちょっと!大丈夫なの!?」
「やるしかないだろう!!一斉射撃で迎え撃つ!俺が前に出る!お前らは後ろから俺の指示通りに撃て!」
や、やっぱり私達も戦うことになるのね!!
「ジイイィィィィィィ!!!」
ゴキブリどもの鳴き声が近くなってきた。
く、来る!
「お、俺も戦うぞ!」
アロウが弓を持ち威勢よく叫ぶ。
「アロウ!あんたはまだ右腕が・・・・!」
「ここで死ぬよりはマシだろう!腕がダメになろうとやってやる!」
「アロウさん・・・・!」
「あんた・・・・ああ!もう!やってやろうじゃねえの!!」
アロウも覚悟を決めたんだ私もやらないと。
私は覚悟を決めてゴキブリの大群が押し寄せてくる暗闇を見つめる。
今度こそ、今度こそ、今度こそ、今度こそ、頼むわよ私のファイヤーボール!!
私は手のひらに気合を込めてエターナルを集める。
「ジイイィィィィィィ!!!」
・・・・そして私達とゴキブリの死闘が始まった・・・・。
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