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詐欺と対策

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「オレオレ詐欺」というフレーズが世に出回るようになってから、どれくらいの歳月が経っただろうか。
 
 犯人はターゲットに電話をかけ「オレだけど……」と言い、その電話を受けた相手自らが「○○かい?」と息子や孫の名前を聞き返したのを良いことに、以降、犯人はその息子や孫などになりすますのだ。
 声の違いは「風邪で、喉の調子が おかしい」と誤魔化す。また、「携帯電話が変わったので、新しい番号を教える」と、元々の家族の連絡先とは別の連絡先を伝えたりする場合もある。
 そして、「交通事故を起こして人を傷つけてしまった。相手に示談金を払わなければ、訴訟を起こされてしまう」
「会社の小切手が入ったカバンをなくしてしまった。バレるとクビになってしまう」など、様々な理由をつけて相手を心配させ、今すぐお金が必要だと切り出してくるのだ。
 
 今更そんな詐欺に引っ掛かる人なんているのだろうか――と、思うかもしれない。しかし、それは年を追うごとに様々に手口を変え、より巧妙化しつつあるという。そして「自分は絶対に大丈夫」なんて思っている人ほど、危険だったりもするのだ。



 春子は、警視庁の捜査二課へ勤める刑事である。これまでに いくつもの詐欺事件を担当し、犯人の逮捕に貢献してきた有能な警察官なのだ。
 人望も厚い彼女には多くの友人がおり、プライベートで相談にのることもあった。
「ねえ、そんな電話がかかってきた時は、どう対応すればいいかしら。初めから詐欺と分かっていれば相手にしなければ良いだけだけど、そうではなくて本当にトラブルに巻き込まれている可能性だってあるわけじゃない? 」 
 不安そうな友人に、彼女はこうアドバイスする。
「とにかく――電話の声だけで判断を急いでは駄目よ。相手は急かすように言ってくるだろうけれど、顔を見るまでは信じないほうがいいわ。だって実際に会うとなれば、犯人だって騙しようがないもの。整形までして成りすますには時間もコストも掛かり過ぎて、全く割に合わないからね」
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