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復讐は蜜の味

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 夏休みの最終日、書斎に呼び出されたアデルは父親の話が終わると、暗い顔で部屋を退出した。
 アデルは父親譲りの茶色の髪に薄茶色の瞳、ガタイも良く高身長で恵まれた体格。学園では学術、剣術共に首席。高位貴族の長男として、父のあらゆる期待に応え、申し分ない息子として成長してきた。
 しかし前学期では入学以来、初めて学術の成績でアデルを超える者が出てきた。先程の父の口ぶりは直接では無いものの、それを咎め、戒めるものだった。
 無理もない。この帝国の未来を担う高位貴族の中でも確固たる地位を護るための足がかりとして、まずは学園での活躍を求められるのは必然だ。アデルはこの重圧に耐え抜かねばならない。とにかく今後はどんな部門でも負けなど許されない。同期に負けるなど以ての外だ。
 夏が終わり、明日からは新しい学期始まる。
アデルは闘志を燃やしながら馬車に乗り込んだ。




 
 帝国の国立学園。国中の貴族の令息が入学し、教養や学術、剣術を中心に貴族が生きるうえで必要な事を学ぶ。
 高位貴族で成績優秀なアデルは学園の中でも中心的な生徒だった。学年問わず、誰もが将来有望なアデルに一目置き、今のうちにお近づきになろうという輩も少なくない。
 親しい仲間たちは家柄が良く、昔からの顔なじみも多い。寮生活でも不便がなく、成績に対する重圧以外は、それなりに楽しく暮していた。


 ある昼下がり、アデルは中庭の日向で仲間達と寝そべり談笑していた。その直ぐ側の通路を数人の生徒が通りかかった。そのうちの1人、長髪で色白の令息を見つけて仲間達が意味ありげな目配せをし合っている。
 前期に編入してきた彼は、美麗の令息として学内でも注目を集めた。男ばかりの学園では、彼のような中性的な美丈夫が憧れの的になったりする。
 そして、彼は学期末試験でアデルを抑え座学の首席を取ったことで、さらに名前が知れ渡った。

「おい。ルーザ」

 アデルが呼びかけると、その青年が立ち止まり、嫌味なほど整った顔を向ける。アデルを見とめるとお辞儀をした。

「午後はダンスの授業だ。ドレスを着るなら急いだほうがいい」

 そのからかいに仲間達からは笑い声が上がった。何か歯向かってくれば、言いがかりをつける事もできる。アデルは期待したが彼はいつものように困ったように微笑み、もう一度一礼をして去っていった。
 1つにくくった長い髪を歩くたびに揺らす後ろ姿も、体の線の細さも女々しく見える。
 主張する性格ではないが、何でも卒なくこなす優等生。人当たりがよく、誰にでも好かれている人気者。勉学では一番だが、剣術は苦手なようで、あまり積極的にやりたがらない。その完璧すぎない所がまた魅力だと、誰かが熱心に吹聴していた。とにかく、アデルは彼の何もかもが気に食わない。
 アデルはルーザとクラスが違うので、顔を合わせるのは合同の実技授業くらいだったが、機会があればウサを晴らすように冷たくあたっていた。





 学内にある舞踏会会場を模した広間には優雅な曲が繰り返し流れている。生徒はその音に合わせて架空の女性の手を取り、ステップを踏んでいる。
 ダンスの授業では先生が課題曲を出し、説明、実演してからは各自練習し、期日までに先生に披露し合格しなければならない。自習が肝になる為、大抵は既にダンスを習得し合格を貰った令息がダンスに慣れていない者の指南役をする。
 アデルと仲間たちは社交界での経験が豊富で早々に合格して授業中は時間を持て余していた。特に誰を指南するでもなく、辺りを見回していると、長い髪が目に入る。ルーザが学友のダンスの動きを見て、優しく指導していた。
 それを見て意外に感じる。彼はアデルが名も知らないほどの下級貴族の生まれで、舞踏会でも見かけたことがない。こんな美貌の令息がいれば目立って噂になったはずだから、きっと華やかな場所には無縁の田舎貴族のはずだ。なのに、彼はダンスに自信があるらしい。アデルは立ち上がり、広間の中央に向かった。

「一度、見本を見せたほうがいいだろう。ルーザ、相手役をやれ」

 アデルの発した言葉に皆が注目した。自分に集まる視線にルーザは戸惑ったようだ。

「しかし……」

「大丈夫だ。リードができるなら大体の動きは分かるだろ。適当に合わせろ」

 周りの期待の目にルーザは渋々、アデルに対面した。真正面から見るとルーザの瞳に光が差し込み色水晶のように煌めいた。
 因縁の関係であり、学年で憧れの的でもある2人が踊るのだ。広間にいた全員がその様子を固唾をのんで見守っている。


 まず、相手へのお辞儀。ルーザはちゃんと女性の型でお辞儀をした。手を重ね、彼の腰に手を回すとその腰の細さに驚く。
 音楽に合わせ、足を踏み出す。アデルのリードに合わせてついてくるルーザは間違いなく踊り慣れていた。ターンするたびにルーザの長い髪が流れるように宙を舞う。
 ダンスは踊る相手と顔を突き合わせなければならない。ルーザの形の良い目がアデルを見ている。陶器のような肌は触れられるほどの距離で見てもなめらかで美しかった。
 女性役なので完璧とはいかないが優美な彼の動きに、その場にいた者達は目を奪われていた。本来見本にすべきアデルのダンスなど、誰も見ていない。
 それに気づいたアデルは出来心で、誰も気づかない様な自然な動きでルーザの足を踏んだ。目論見通り、彼は後ろに倒れ込んで尻もちをつく。

「申し訳ない。立ち上がれるか?」

 アデルが令嬢にするように手を差し伸べると、数人から囁くような笑いが上がった。ルーザは目を伏せて、その手を遠慮した。

「大丈夫です。僕は少し休ませて頂きますね」

 自分で立ち上がり、壁際の友人の元へ下がるルーザは少し足を引きずっているようだった。きっと倒れた時にどこか痛めたのだろう。
 アデルはそれを見て、悪い事をしたと感じながらも、胸がすく思いだった。





 夕食後、図書館に行くと案の定、本を広げるルーザを見つけた。あんなに隅っこに居るのに見渡せば、すぐに彼を見つけられるのはルーザが持つ独特な空気感のせいだろうか。
 近づくと彼は1人で黙々と自習しているようだ。彼は学友から離れ、よくこの場所で勉強をしていた。

「昼は悪かったな。足の具合はどうだ?」

 顔を上げ、声の主がアデルだと分かるとルーザは困ったような表情を浮かべた。

「ご心配には及びません」

「それは良かった。それにしても、見事な踊りっぷりだったな。よく舞踏会には参加するのか?」

 アデルはルーザの正面の椅子に座り、テーブルに肘をつく。ルーザが読んでいる本は意外にも授業に関係ないものだった。

「いえ、社交界には出ておりません。ダンスは……、教養については厳しい両親でしたから」

 ルーザの表情が少し曇る。何か家庭の事情があるのだろうか?いや、貴族として産まれた者ならば、家門のために何かしらの重圧を受けているのは当たり前だ。

「そうか。そういえば、出身は北方だったよな?北の地には魔術師がいるんだろ?お前も魔術を使うのか?」

「いえ魔術師はいますが、僕は使えませんよ」

 話題を変えると固かったルーザの顔が緩み、声色も少し明るくなる。

「じゃあ噂はデタラメだったんだな。たとえば、魔術で教授を操って成績を操作しているとか……」

 彼の顔から表情が消えた。さすがのルーザも言葉に込められた悪意に気付いたようだ。

「魔術じゃないなら、“色仕掛け”という噂のほうが濃厚か」

 どんな反応をするか見ていたが、ルーザは無表情に見つめ返してくるだけだった。綺麗な顔に感情がないと肖像画と対峙するようで不気味に感じた。アデルは興ざめしてその場を後にした。
 アデルは気が付かなかったが、ルーザはその背中を見えなくなるまで見つめていた。





 ある日、合同決闘訓練が行われた。他学年も合同だった為に、かなりの人数が訓練場に集まっていた。
 模擬刀で練習試合を行っていくのだが、腕に自信がある者は、より強敵に挑み自らの強さを誇示するチャンスだった。
 アデルは最上級学年で既に騎士団へ入る事が決まっている先輩に挑み、勝ちを掴み取った。それを見ていた生徒達の中でアデルに挑もうとする者は少なく、アデルは練習相手を探して訓練場をうろついた。
 偶然ルーザの姿を見つけ眺めていると、型は綺麗だが踏み込みが甘く、力もないのでよく模擬刀を落としていた。真剣に取り組んでいないわけでは無いが、体づくりが足りないようだ。


 仲の良い学友との練習試合を終え、顔を上げたルーザと目が合う。その汗ひとつかいていない涼し気な顔に腹が立つ。

「次は俺とだ。来い、ルーザ」

 彼の顔が少し強ばったが高位貴族の誘いを拒否できるはずもなく、目の前に進み出て対峙する。
 2人は模擬刀を構える。アデルはすぐに踏み込み、何度か力を込めて打ち込むとルーザは呆気なく手から模擬刀を落とす。

「拾え。まだ、終わってないぞ」

 周りの生徒が手を止め、こちらの様子を伺っている。そうだ。お前達が憧れの目線を向けるこいつは、俺の足元にも及ばない。
 その後、ルーザが息を乱し、彼の汗が地面に滴り落ちるまで打ち合いを続けた。
 
「練習にもならん。座学だけでなく、体も鍛えろ」

 膝をつき、荒く息をしているルーザに吐き捨てる。

「……ありがとうございました」

 ルーザは何も言い返さず、頭を下げた。校舎に振り向くと、周りの生徒が一斉に目を逸らした。





 合同訓練が終われば今日の授業は終わりだ。仲間からの乗馬の誘いを断ったアデルは自室のシャワーで汗を流す。
 頭から温いお湯を浴びていると自分の下半身が昂っていくのを感じた。若さの為か毎日のように立ち上がって面倒だ。熱を収めようとモノを掴んだ。とにかく早く済ませようと快感に集中するために瞼を閉じ、しごく。
 脳裏に浮かぶのは白くて長い首。細い腰。うつむくと気づく長いまつ毛。汗ばむ肌と、荒く息をする桃色の唇。
 気付けばルーザの姿を思い浮かべている事に毎度の事ながら嫌気が差す。それでも、速まる手は止められず、ルーザが姿を妄想したまま果てた。手から伝う白濁した液がシャワーに流されていく。
 果てた後は冷静になり罪悪感を感じる。俺はどうしてしまったんだ。学友のルーザに勝手に欲情し、それを受け止められず罪の無い彼に冷たく当ってしまう。
 アデルは頭を冷やすためにシャワーの温度を下げた。




 
 ある日の午後、アデルは珍しく一人で寮を歩いていた。前方で戸が開くと、中からルーザが姿を現した。
 自分の妄想が思い浮かび、動揺する。平常心を装い通り過ぎようとしたが、こちらに気づいたルーザがお辞儀をした。

「ご機嫌よう。ちょうど良かった。僕の部屋に寄っていきませんか?実家から領土の特産品がたくさん届いたんです」

 そう愛想よく、言葉をかけてくるルーザに面喰らう。いつも理由なく目の敵にしてくる相手にも分け隔てなく接する彼に不信感さえ抱く。が、さすがに我ながら幼稚かと考え直す。

「そうか。では、頂こうかな」

 答えるアデルをルーザは部屋に招き入れた。中に入り見回す。小綺麗な部屋の中には無駄なものは一切ない。

 テーブルの上には木箱が置かれており、特産品はこの中か、と近づいて見るが中には何も入っていない。戸の鍵をかける音がして、ルーザを振り返り見る。
 彼の色水晶の様な瞳と目があった瞬間に全身の力が抜け、その場に崩れ落ちた。頭も体も感覚はある。それなのに首から下を動かすことはできない。
 
「だめじゃないか。簡単に他人の部屋に入ったら。悪い魔術師に魔法をかけられちゃうよ?」

 ルーザが近づいてきて、動かない体を蹴って上向きにされる。彼は見たことがない残酷な顔で見下してくる。

「何が、目的だ?謝罪でもさせたいのか?」

 ルーザがアデルに馬乗りになる。

「いや?ただ、君とはもっといい関係を築けそうだと思って」

 乱暴に顎を掴まれる。ルーザの手には短剣が握られていた。

「こんなことをして、ただで済むと思うのか?お前の家門ごと取り潰しになるぞ」

 睨みつけるとルーザはせせ微笑った。まったく意に返さないようだ。

「大丈夫、殺しはしないよ。それに、今から君が誰にも言えないような事をしてやるから……」

 そう言うと短剣で服を引き裂かれる。アデルの引き締まった躰が晒された。抵抗できず、されるがままになるしかない。
 こんな状況なのに綺麗な顔が近づき、目を覗き込まれると胸が高鳴る。
 
「僕をずっと見ていただろ?君の目線には気づいていたよ。憎悪の中に隠しきれない君の“欲望”にもね」

 その言葉に目を見張り、顔に熱が集まる。

「なにを言ってる?」

 動揺しながらも、誤魔化すしかない。

「その“欲望”、叶えてあげようか?」

 そう言ったルーザに首筋に唇を落とされ、動かないはずの躰が反応した。

「躰が期待してる……。男の性欲って厄介だよね?いつも可愛がってくれるお礼をしてあげるよ」

 ルーザはアデルの下半身の膨らみを撫でた。腰が反応する。彼はアデルの反応を楽しむように眺めている。

「便利だろ?感覚はあるのに、頭以外の体は反射的な動きしかできないんだ。そうだ、確認したかったんだけど君は男色なのかな?」

「そんなはず、ないだろ」

 声が上ずり、さらに顔が熱くなる。

「じゃあ、単純に“僕”に惹かれているのか。光栄だな」
 
 アデルが言い返そうとするとルーザが人差し指で唇を押えてきた。
 彼がアデルの頬にキスをすると躰を起こした。そして自らの上着の首元から順番にボタンを外し、脱いだ。次はシャツに手をかける。
 挑発するような目線を投げつけながら、上裸になっていくルーザの姿から目が離せず、生唾を飲み込んだ。
 シャツを脱ぎ捨てたルーザの肌には所々に大きな痣が見受けられた。

「ほら、この前君につけられた痣。痛そうだろ?」

 ルーザが両手を広げて痣を見せてきたが、アデルはそれどころでなかった。
 彼の胸には控えめながら膨らみがあり、腹にはくびれがある。
 アデルの表情を見て、ルーザは笑みを浮かべる。動かない彼の手に自分の股に押し付けた。男ならそこにある筈のモノの感触はない。

「そう。いくら男のように振る舞っていても、残念ながら僕は女の体だ。いや、君には好都合かな?」

 ルーザはアデルの耳に口を近づける。

「僕が欲しかったんだろう?男に惹かれる自分に戸惑い、悩んだんじゃないか?安心しなよ。君の体はちゃんと女を求めてたんだ」

 アデルの手に自分の胸を掴ませる。柔らかな感触が本物だと告げている。

「選ばせてやる。“僕”に抱かれるか、“私”に犯してほしいか、乞えよ」

 ルーザは吐息を含ませて囁く。その声が甘く頭の中に響く。何を言ってるのか理解が追いつかない。

「どっちも欲しいのか。さすが、“アデル様”は欲張りだな。強欲な君には“躾”が必要だって前々から思ってたんだ」

彼女は答えを待たず、アデルのズボンを下ろし下半身を露出させる。

「……やめろ」

 そう言いながらもアデルの膨張した肉棒は腹に着きそうなほどそそり立っている。拒否しても説得力が無いことは自分でもわかっていた。かろうじて動く顔をルーザから逸らす。

「あぁ、知ってるよ。君は経験が無いんだよな。その割には図体と一緒で無駄に立派なモノだな。こんなにして……。早く僕に触って欲しいんだろ?素直な犬は可愛がってやるのにな」

 頭に血が上ったが、何か言い返す前に長い指で棒の裏をなぞられる。その刺激に棒が反応してビクつき、大きく揺れ動く。

「こんなに尻尾を振って。案外可愛いとこあるじゃないか。さぁ、どうする?こんなチャンスは二度と来ないぞ。僕に悦くして欲しければ舌を出せ」

 アデルは首を振って抵抗した。ルーザは機嫌を損ねるどころか嬉しそうな顔をした。

「いいね。精々、足掻いて僕を楽しませてよ」

 そういって首筋に舌を這わせると胸に手を這わせた。胸の尖りに気づくと指で撫でつける。ますます硬さを持つ尖りをつままれると躰が小さく動く。

「胸で感じるのか。アデル様は淫乱だな。それとも自分で弄ってたのかな?」

 そういいながら、胸に口を寄せると敏感な部分を舌先で何度も突かれる。自分でもそこを触られて快感を感じるなんて知らなかった。我慢できずに喉の奥から息が漏れる。

「女に胸を弄られて、そんな顔で感じている所、取り巻き達に見せてやりたいな」

 ルーザは胸に吸い付きながら、細くて長い指をアデルの躰に這わす。首筋から脇腹を何度も往復し、次は鼠径部を重点的に撫で回す。
 かなり長い間我慢していたがアデルの息は荒くなり、胸を刺激されるたびに声が漏れる。焦らすようなルーザの手の動きに肉棒が勝手に反応して時折引くつく。
 ルーザが顔を近づけて、アデルの耳を舐めた。アデルの体が跳ねる。ルーザの吐息混じりの甘い声が辛うじて残っていた理性を溶かしていく。

「君の先走りが垂れて床まで濡らしているよ。ほら、楽になりたいだろ?犬のように舌を出せよ」

 辱めに躰が震えたが、込み上げる欲望に逆らえず、震えながらも口を開け、舌を出す。
 ルーザが冷たい笑みを浮かべた。

「舌を出してる間は気持ちよくしてやるから、そのままにしてろ」



 ルーザは肉棒を掴むと先端を親指で擦る。指が動くたびに背筋が震える。竿をしごかれれば腹の底が痺れるような快感だ。

「ほら、1回逝っとけ」

 しごく手が早まり、刺激が強まるとすぐに白濁が吹き出た。脈動する肉棒の中に残る液を絞り取るように何度かしごかれる。

 ルーザが硬さが残る竿に舌を這わす。何度も舐め上げ亀頭を咥えると、くびれを舌先でなぞる。そして、同時に尻の割れ目を優しく撫でてくる。
 誰にも触られたことがない部分への刺激が重なり、戸惑いと共に頭の中に靄がかかってくる。尻穴を重点的に撫でられながら口で肉棒を吸い上げられると躰が激しく反応した。
 続けられると次第に尻穴に感じる快感がもどかしくなり、もっと強い刺激が欲しくて勝手に腰が動く。ルーザが嘲るように微笑った。

 そうしている内に、アデルは舌が疲れてきた。しびれるような快感も相まって、もう舌を出していられない。その様子に気づいたルーザは動きを止めた。

「もう、満足か?」

 アデルは首を振る。ルーザに触れられた部分が熱をもったようになっている。躰中が疼き、どうしようもない。もう、プライドをかなぐり捨ててルーザの言いなりになるしかない。

「じゃあ、犯してくださいって言ったら続けてやる」

「……犯して、ください」

 躊躇いながらも振り絞った声はかすれていた。すでに誇り高く学園で憧れの的だったアデルはもういない。ここにいるのは発情した犬のように快楽をねだることしか出来ない、哀れな男だ。

「いい子だ。お望み通り犯してやるよ」

 愛撫で柔らかくなった穴に指先が沈みこんでくる。鳥肌が立つような不思議な感覚が沸く。ルーザは呻くアデルの体内を無遠慮に出入りする。さらに陰茎を口に含み前後を同時に責めてくる。
 速さや場所を変え、執拗に責められ続け、体内の違和感は快感に変わっていった。しまいには自分の口から男らしからぬ甘い声が漏れているのに気づく。
 
「わかるか?もう3本も入ってるぞ。あの“アデル様”が童貞の前に処女を奪われるとは、な?それも“僕”に」

 ルーザの煽りが遠くの方で聞こえたが絶頂の余韻が強く返事をすることが出来ない。
 ルーザの長い指で中を責められ、棒をしごかれる。もう、快感に身を任せて喘ぐだけだ。躰を痙攣させて絶頂すると、指が引き抜かれ、頭を撫でられた。

「さっきまで処女だったのに、穴を犯されて逝くなんて、すごいね」

 優しい口ぶりに躰の奥がさらに疼く。
 彼女がズボンを脱いで膝立ちになる。憎いはずのルーザの裸体は女神の彫刻のように美しく見えた。
 彼女は自分の長い髪をくくる紐を引いた。解かれた髪が下りると、ルーザはますます妖艶だ。思わず見惚れているアデルの顎を彼女がつかむ。

「やっぱり、女のほうがよかったか?女の躰も初めてだろ?」
 
 彼女はアデルの頭に馬乗りになると、割れ目を指で開き濡れた粘膜をさらした。
 
「見えるか?」

 自らの指を滑らせ、尖りを撫でる。何度も擦り付けるとルーザの息が荒くなる。

「ここが、今から君が入る穴だよ?楽しみだね」

 ルーザの指がくぼみに沈み込んでいった。指を出し入れすると水音が響く。かき混ぜるようにすると愛液がアデルの顔に散ってきた。目の前に広がる光景に興奮して息が上がる。
 躰を動かして、この生意気な女を力尽くで泣くまで犯してやりたいが、やはりどうしても動かない。それを感じとったルーザは鼻で笑う。

「抵抗しても無駄だ。まだ分からないの?君は奪われる側なんだよ。ちゃんと僕に入れてあげるから、君は自分が犯されるところを大人しく見てるんだよ?」

 ルーザは腰のあたりに跨り直すと、アデルから繋がる様子がよく見えるように、股を広げてしゃがみ込んだ。彼女の秘部に自分の肉棒があてがわれる。
 ルーザの浮き出た鎖骨と紅潮した頬。ゆっくりと飲み込まれていく自分。全てがアデルの欲情を昂らせる。そして、肉棒に感じる熱さと肉圧で込み上げる快感に呆気なく達してしまった。ルーザの体内で自分が脈打っている。

「やっぱり童貞には刺激が強かったか。でも、まだ全部入ってもないよ?憧れの僕と繋がるって興奮するだろ?でも、立派な貴族を名乗るなら、もうちょっと辛抱しようね」

 全く硬さを失わない棒は、そのままルーザの体内に挿入され根本まで咥えられる。彼女は休むことなく、律動を始める。突き刺さった肉が出入りする度に締めつけられ、吸い付かれるような感覚に腰が引ける。
 彼女が腰を動かすたびに、揺れ動く胸、弛緩と緊張を繰り返す腹の筋肉、自分が出入りする度に泡立ち出てくる白液、そして快感を楽しみながらアデルを観察する美しい顔。彼女の姿の全てが視覚からも刺激を与えてくる。彼女の膣内に肉棒を擦り上げられ、もう快感に身を任せて喘ぐだけだ。

「犯されてるのにずいぶん嬉しそうだな。君のような高貴な方にも、この躰をお気に召していただけたようで僕も嬉しいよ」

 赤く濡れて誘うような口唇から熱い吐息をあげ、腰を振るルーザに見下されながらアデルは絶頂して吐精した。
 彼女は気に止めることなく腰を動かし続け、逝ったばかりで敏感になったアデルの躰は強い刺激に、すぐにまた絶頂してしまう。しかし、肉棒は硬さを保ち、そそり立ったままだ。ルーザの動きも止まらない。

「もう、出ない……」

 アデルの訴える声にルーザはさらに笑みを浮かべる。

「決めてたんだよ。今日は君が泣くまで犯すって」

 ルーザは腰を上げ自分からアデルを引き抜くと、次はアデルの尻に指を突っ込み、肉棒を掴む。
 
「だから、がんばろうね」

 ルーザは残忍な顔で笑いかけるとアデルの亀頭を口に含み吸い上げ、同時に指で穴の中をかき混ぜる。アデルは声にならない悲鳴を上げたが、与えられる快感から逃げることは出来なかった。





 どれくらいの時間が過ぎただろうか。
 ルーザは尻と肉棒でアデルを絶頂させ、次は自分の中で絞りあげ自らも快楽に耽るという事を繰り返した。アデルは始め快感の合間に拒否や懇願の言葉を口にしていたが、徐々に喘ぎすら声にならなくなっていった。
 そして彼女が満足して顔を上げると、息も絶え絶えのアデルは涙と涎を垂らし、焦点が合わない目で虚空を見ていた。真っ赤に染まった全身を不規則に痙攣させている。

「あぁ、もうとっくに泣いてた?」

 彼女はにこやかにアデルの汗ばんだ肌を優しく撫でる。それだけで彼は背中を仰け反らせた。

「なんだっけ。僕が魔術を使って色仕掛けもするって?すごい、噂通り……だったな?」

 その声はアデルには届かない。既に意識が朦朧としている彼は力無く瞼を閉じた。





 アデルが目を覚ますと窓の外が明るかった。飛び起きると、そこは自分の寝台だった。
 いつもの部屋、いつもの服。変わった所は何も無い。あれは夢だったのかと安堵する。
 そして不安になった。あんな夢を見るとは、あれが自分に隠された欲求なのだろうか。


 あの夢を見た日から、しばらくは元気が無かったアデルだが、ルーザに出くわすことも無く、仲間達に囲まれて過ごす内に調子を取り戻してきた。

 そして夢を忘れかけた、ある日の午後。
 廊下を歩いていると前方から他のクラスの集団がこちらに向かってくるのが見えた。自然とルーザを探し、その姿を見つけたアデルは内心怯む。あれは夢だ、と自分に言い聞かせ気を取り直す。
 その内集団が近づき、こちらにお辞儀をしてすれ違っていく。ルーザも皆に続いて頭を下げた。


 すれ違う瞬間に2人の目が合い、ルーザの口が動いた。


 アデルは目を見開き立ち止まる。仲間達が不思議そうに顔を覗き込もうとした瞬間、その場から逃げるように走り出した。

 呆気にとられる仲間を置き去りにして走るアデルの頭の中で、先程のルーザの唇とそこから覗く紅い舌の動きが繰り返し思い出される。


―いい子には、また夢を見せてあげるよ―


 アデルは全身が疼き、それに混乱しながら誰もいないであろう空き教室に飛び込んだ。
 真っ赤に火照った躰や下半身の膨らみを落ち着けるために深呼吸を繰り返す。が、上手くはいかなかった。頭の中にルーザの姿が、声が、焼き付いていて消せない。
 あれは夢では無かった……。今後、あの出来事を弱みに脅されたりするかもしれない。あれは完全な不手際だった。
 焦り、考えを巡らせる頭とは裏腹に、躰はアデルの渇望を素直に表していた。







    
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