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懐柔

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 真っ直ぐな長髪を1つにまとめた若い娘が降り始めた雪を見上げて白い息を吐く。色白の彼女の鼻は寒さで赤くなっていた。
 この娘、リアがこの土地に来てから初めての冬が来た。寒さが厳しいと聞いていたが予想以上で、それほど距離が離れていないはずの故郷とは段違いの寒さだ。
 

 リアの祖国が戦に負け、辺境にあった故郷の領地はこの国に取り入れられた。その領主に使えていたリアの隠密の一族も、今ではこの国の様々な場所で新しい主に使えていた。
 リアと幼馴染のローグはこの土地に振り分けられ、領主に仕えている。
 この国では女が戦闘に関わる文化がないため、子供の頃からローグと同じように鍛えられた彼女は、この土地に来てから大した役目は与えられていない。ローグは危険な仕事も任されているようで、なんだか羨ましくもある。
 
 そんな事を考えていても仕方がない。
 リアは雪が本降りになる前に、狩りで捕えた獲物をソリに積み、住処の砦に戻った。




 
 その晩、リアは砦の一室のドアを叩き、許可を得ると中に入る。そこには色素の薄い頭髪と茶色の瞳の青年、領主の息子であり、この砦の主でもあるカイルが待っていた。年の頃は定かではないが、リアよりも少し上な位だろう。穏やかな性格ながら、的確にこの砦周辺を収める手腕を持った若者だ。
 リアへの身に覚えのない執着に気づかなければ彼女もカイルを良い主だと認めただろう。



「ご機嫌よう」

 リアが感情無く挨拶すると、カイルはリアに近づき手を取った。

「手が冷たくなっているよ。おいで。温まろう?」

 そう言って彼の寝台に導かれる。リアは素直にそれに応じ、共に寝具に入ると主に背を向けて横になった。





 この冬、寒さが一段と強まった日、リアはカイルに呼び出され、直々に寝台を温める命をくだされた。
 実際にはカイルは“お願い”をしてきたのだが、リアからすればそれは命令と同義だった。
 主からの命に断る選択肢は無く、それから毎晩カイルの部屋を訪ね、寝台で共に寝た。
 お手つきになることを覚悟していたリアだったが、今のところカイルは背を向けるリアを後ろから抱きしめ、暖をとるだけだった。
 辺境とはいえ貴族であるカイルは気安い性格で意見が言いやすい。使用人ながらに湯たんぽを進めたのだが拒否された。
 カイルはリアへの好意を夜な夜な伝えてくるが、手は出されず、からかわれているだけなのか、よくわからない。


 しかし今日、いつもは抱きしめるだけのカイルが何故かリアの体を撫で始めた。

「その撫でるの止めて貰えませんか?」

 しばらく様子を見てみたが、主が止める気配がなかったので意を決してお願いしてみる。

「どうして?寒いから擦ってあげてるのに」

 カイルがからかうように応える。それから強く抱きしめられる。

「こんなに体が冷たかったら風邪引いちゃうよ。心配」

「私はそんなにやわでは……」

「命令したら聞くしかないんだよね?」

 これには抗議の言葉を飲み込むしか無い。黙り込んだリアの頭をカイルが撫でる。

「でも、しないよ。これでも我慢してるんだよ?いつも言ってるでしょ……」

 そう言うと、深く息を吐く。そして、リアの背中に額をつけてぶつぶつと呟きだす。

「君にキスしたい。柔らかい唇を合わせて、口の中に舌を入れて、恥ずかしがる君の舌を絡め取りたい」

 そんな事を囁かれ、当初は真っ赤な顔で困惑していたリアだったが、毎晩言われるので何だか慣れてきていた。

「想像力が豊かですね」

 皮肉を込めてカイルに言う。

「首筋に唇をあてて、鼓動と香りを感じたい」

「それは、今ほとんどしてますけど」

 リアの背中にひっついていたカイルが顔を上げた。

「全然違うよー。分かんないかなぁ」

「わかりません」

 こんな不敬なやり取りは、この時間しか許されない。

「……あたってますよ」

「何が?」

 自称、我慢強いカイルも健全な男らしく、女の躰に長く触れていれば体が反応し、リアの太ももにモノがあたる。仕方ないことなのだろうが、リアでもそれだけは慣れることができない。
 
「腕の中に君がいるのに出来ないなんて、切ないよ。僕の事は嫌い?」

「……そんな事は無いです」

 そもそも主に好きも嫌いもない。そんな思想は任務の邪魔になるだけだ。

「それで十分だよ」

 カイルは満足そうな声でリアを抱きしめ直す。とにかく早く寝てほしい。

「……もう寝ましょう」

「おやすみのキスをしてくれたら、すぐ寝るけど」

 カイルの言葉をいつものように聞こえないふりをした。






 業務の間で黒髪を刈り込んだ屈強な青年が声をかけてきた。

「くまが出来てるぞ」

 久しぶりに会うローグの鼻は赤く皮がめくれていた。きっと極寒の中で過酷な任務にあたっていたのだろう。

「最近寝不足で……」

 リアは幼馴染から顔をそらした。

「なんでだ?」

 ローグの問い詰めるような口調はいつもの通りだ。この口調のせいで同僚からはとっつきにくいと思われている。それでも彼は実力でこの砦の中に居場所を勝ち取ったようだった。それなのに、自分ときたら……。 

「……任務が忙しくて」

「夜に任務?」

 濁した言葉にローグは納得いかない顔だ。しかし、毎夜おこなっていることを正直に話すことははばかられるような気がした。これ以上問い詰められると面倒だ。

「じゃあね。馬小屋にいくから」

 リアは足早にその場を後にした。





 その日もカイルはリアの体を温めるという名目で撫で回していた。服の上からだとしても、そんなに脂肪がついていない、なだらかな胸の上も構わず撫でるため、神経が胸に集まってしまう。

「……たってるよ?」

 カイルは胸の尖りを見つけて手をとめる。尖りの上を確かめるように指で探る。

「……寒いからです」

 通用しないとわかっていても苦しい言い訳をする。

「温め合おうか?」「嫌です」

 カイルの軽口に素早く応える。主はわざとらしく溜息をつく。

「じゃあ仕方ないね。君が風邪を引いたら大変だから……」

 そう言うとリアの手を両手で包み体温を確認して、温めるように擦る。

「手が冷たいね。足も……」

 寝衣の裾から手を入れられ、素肌に直接触れる。温かく大きな手が優しく内ももを撫でる。初めて素肌を触れられ、躰が何故か小さく震える。

「ビクビクしてるよ?」

「寒さで震えてるんです」

 小さな声で先程と同じような言い訳を重ねる。

「顔は真っ赤で暑そうに見えるけど……」

 確かに自分の顔が赤くなるのを感じていた。リアは何も答えられず、聞こえないふりをした。






「息が上がってるけど大丈夫?」

 毎日体中を撫でられていると神経が敏感になってきているようだ。服の上からなのに、カイルの手が触れる場所が鳥肌が立ち、息が上がってくる。

「おかまい、なく」

 リアはとにかく変な声が出ないように気をつける事に集中した。

「体も熱いよ?熱があるんじゃない?」

「無い、です」

「じゃあどうしたの?」

「……」

「言えないの?」

 わざとらしいカイルに腹が立つ。何か言ってやろうと口を開いた時、急に耳に息を吹きかけられる。油断していた躰がビクつき少しだけ声が漏れる。

「本当に可愛いんだから」

 カイルは嬉しそうに抱きついてくる。何も聞こえないふりをしたが、その後も体の反射的な反応は止めることが出来なかった。





 食堂で昼食をとっていると、向かいの席にローグが座った。何やらいつもに増して、真剣な顔をしている。

「お前が昨夜、カイル様の部屋に入っていくのを見た」

 リアは動揺を悟られまいと表情を変えずにローグの茶色の瞳と目を合わせる。幼馴染の目つきが彼女を責めていた。

「……監視してたの?」

「そうだな。そうなる」

 あっさり認めたローグに、リアはため息を付く。彼は彼なりに自分のことを心配してるのだろう、と怒る気にもなれなかった。

「任務なの。分かるでしょ?」

 それしか言うことはない。主の命にはどんなことでも従う。同じ里の生まれなのだから分かってくれるはずだ。

「夜伽の相手をさせられてるのか?」

 ローグは誰にも聞かれないように声を落とした。

「……違うわ。湯たんぽ代わりにされているだけよ。何もされてないわ」

 今のところ。とは言えなかった。

「それで安心すると思うか?」

 ローグがすごむがリアは怖くない。食器をまとめて持ち、立ち上がる。

「例えそうだとしても、私には拒否する権利は無いの。それ以上言わないで」

 そう言って席を発つ。過保護な兄貴分にはそれで納得して貰うしか無かった。





「何考えてるの?」

 カイルは長い指でリアの髪をきながら、なんの気なしに聞く。

「……何も」

「そっか」

 リアの素っ気ない返事にも意に介した様子はない。

「いいよ。言ってくれなくても。考えられなくするからさ」

 胸の尖りを布越しに引っ掻いてくる。何度もくり返したと思えば、次は優しく摘んで転がすように擦る。口から自分のものとは思えない声が出て慌てて口を紡ぐ。

「そうだね。君をつけてきてる男が扉の直ぐ側で聞き耳を立てているかも知れないからね」

 耳元で囁かれる。リアは目を見開いた。

「可愛い声、聞かせたくないから我慢してね」

 カイルはそう言うとすぐさま服の中に手を忍ばせて来て、指先で腹から首元まで大きく撫でた。服は大きく捲り上がり布団の中ではだける。

「すべすべだね」

 何か言い返したいが口を開くと声が出そうで言えなかった。
 何度も往復する指先がわざと胸の尖りに引っかかるように撫でられる。

「気持ちいいでしょ?いいなぁ」

 今日も腰にはずっとカイルの固くなったモノが当たっている。

「ずっと我慢してて偉いと思わない?何かご褒美をくれてもいいと思うんだけど」

 息を強く吐くことで声を上げないように耐える。片手が太ももを撫で始める。内ももを中心に撫でまわしながら、上半身、特に胸への刺激を止めない。

「ほら、毎晩撫でてたからこんなに感じられる躰になったんだよ」


 それは自分でも自覚していたが認めたくはなかった。リアは歯を食いしばる。

「あぁ、抱きたいなぁ」

 好き勝手に躰を弄っている主は切実そうな声で呟いた。




 朝、リアが部屋を出るとローグが立っていた。複雑な表情を浮かべる彼と目が合う。
 部屋の中の音が聞こえたか聞いてみたい気もしたが、怖くて聞けなかった。逃げるように顔を逸らすとその場を後にした。





 冬が終わりに近づき、大分寒さが和らいできた頃。リアがカイルの扉を開けると彼は上半身裸で寝台に腰掛けていた。寒くないかと思ったが、彼に心配の言葉などかけたくなかった。

「今日から服を脱いで」

 微笑みながら指示され、流石に戸惑った。

「でも……」

「大丈夫だよ。何もしないから。僕は下を脱がないよ」

 主は気を使ったのか、ろうそくの灯を消し部屋を暗くした。
 何も大丈夫じゃないのだが。そう思った所で断ることは出来ず、ゆっくりと寝衣を脱ぐ。恥辱を感じながら、ショーツ1枚の姿で胸を手で隠す。
 窓から差し込む月明かりで、リアの白い肌が暗闇に浮き上がる。

「きれいだね」

 カイルは寝台に入ると、腕で寝具を上げて
リアを招き入れる。いつものように背を向け寝そべるリアは後ろから抱きすくめられる。肌と肌が触れ合い、いつもより熱を感じる。

「直接リアの肌を感じれて、幸せ」

 しばらくぴったりと密着していたカイルの体が離れて布団を捲った。背中を見ているらしくリアに緊張が走る。

「傷跡があるね」

 カイルは指先で背中に残っているであろう隠密の名残に触れている。

「これでも、隠密の生まれですので」

 リアの出自を思い出させ、この砦での扱いに対しての皮肉を込めた。主からは何も返答はなく、しばらく沈黙が流れた。

「……許してね」

 そう言うとカイルは背中に残る傷跡に音を立てて口づけをした。リアがピクリと反応する。カイルは背中に見える傷跡、全てに口づけすると、彼女を優しく抱きしめる。

「もう、傷が残るような事はしちゃ駄目だからね」

 そんな事を言われても、と思ったが以前とは環境が違う。今の主がそういうのならば、もう闘うことも無いのかも知れない。

「前にも傷跡ある?」

「な、無いです」

 危機を感じて思わず嘘を付く。主は笑いながらもそれ以上は聞いてこなかった。
 そしてその日は体を弄られる事も無く、カイルの体温と鼓動を感じている内に、いつの間にか眠っていた。





 砦にも春が訪れた。雪の白と木の黒と空の灰色しか無かった景色が色づいていく。

「もう温かくなりましたし、湯たんぽ代わりはいらないんじゃないですか?」

 相変わらずリアの“夜のお勤め”は続いていた。今日も部屋に入るとカイルが待ち構えていた。

「もうリアがいないと寝れない体になっちゃった」

 カイルが肩をすくめる。

「私は寝られないんですが」

「最近は結構寝てるよね?」

 リアがため息混じりに放った言葉はすぐさま反論される。
 確かに近頃は体を弄るのに満足した主の寝息が聞こえてくれば、リアもすぐに眠られるようになっていた。いつもカイルが目を覚ます前に起きているからバレていないと思っていたのに。

「おいで」

 そう言われてしまえばリアは今日も寝衣を脱ぎ、布団に入るしかない。

 静かな部屋にはカイルがリアの背中に口づける音だけが響いていた。主はその行為を毎晩の儀式のように繰り返す。それは躰を撫で回す前だったり、後だったりカイルの気まぐれで行われた。

「気持ちいい?」

 声を我慢しているはずなのに、密かに躰が感じ始めるとすぐにカイルが聞いてくる。
 否定すると背骨を素早く指でなぞられて、背中が仰け反り声が漏れる。

「かわいい。キスしたい」

 抱きしめられて、耳元で囁かれる。そして、また全身を撫でられる。興奮したカイルの口から漏れる吐息が耳にかかり、くすぐったい快感になる。胸の尖りの周りを何度もなぞられる。

「ほら、触ってほしい?」

 尖りへ触れられれば一際大きな快感が得られることをすでに知っている。それでもねだることはしない。それが彼女の唯一の抵抗だった。





 カイルがわずかな期間、領地の城に出向き不在になった。その間、リアには束の間の平和が訪れた。
 数日は何にも邪魔されず眠ることの幸福を噛み締めていたが、それも長くは続かなかった。
 久しぶりの豪雨の日、ある宿舎で大規模な雨漏りが発生した。そして、リアの部屋はまともに被害を受け、避難を余儀なくされた。
 部屋に泊めて貰えるほど仲の良い知り合いがいないリアは仕方なくローグの部屋に転がり込んだ。
 各々の業務のあと、食事や沐浴を済ませ部屋で落ち合うと問題が発生した。

「一緒に寝るぞ」

 ローグはぶっきらぼうに言う。リアはもちろん拒否する。

「なんでよ。ローグが床で寝なさいよ」

「俺の部屋だぞ」

 そう言われてしまえば言い返せない。

「じゃあ私が床で寝る」

「布団、無いぞ。それに1ヶ月以上床を掃除して無い。何、意識してんだ。昔は一緒に寝てただろ」

 確かに兄のような存在のローグと同じ寝具で寝るのはカイルと寝ることに比べれば問題ないかもしれない。苦手な頭を使う業務があったせいで疲れ、言い返す気力もないリアは大人しく寝台に入り込む。壁の方を向いて寝ると、寝具が軋みローグが横たわったのを感じた。
 しばらく眠れず壁をただ見つめていた。

「夜伽の相手をしてるのか?」

 ローグの言葉に振り返る。彼は天井を向いたままだった。

「だから、してないって」

「じゃあ、一晩中何してるんだ」

「寝てるだけよ」

 思わず口調が強くなった。ローグはしばらく黙ってから口を開く。

「それだけじゃ無いだろ。部屋からお前の声が聞こえたぞ」

 リアは戸惑った。やはり聞かれていたのだ。

「ちょっと躰を触られるだけで……」

 リアはまたローグに背を向ける。もうこの話を終わらせたかった。
 不意にローグの指が背中を撫でた。それだけで、躰が反応し、小さく甘い声がでた。恥ずかしくて顔が火照る。

「お前……」

 ローグが躰を起こすとリアの肩を掴み振り向かせようとする。リアが抵抗し、揉み合う内にローグに手を掴まれ組み敷かれる形になった。

「俺に嘘をついたのか?」

「本当にしてないってば!」

 里では仲間に嘘をつくのはご法度だ。問い詰められれても仕方ないことなのは分かっている。

「……じゃあ、確認させろ」

「確認って、どうやって……」

 言葉の途中でローグが首筋に吸い付いた。驚いている内に寝息の中に手を入れられ胸を揉まれる。リアは必死にローグの背中を叩く。

「ちょ、やめ」

 ローグに口づけをされて唇を舐められる。必死に閉じていた口を舌でこじ開けられ侵入される。
 ローグの手が下半身にのびた時、リアは彼の舌を思いっきり噛んだ。怯んだローグを思いっきり押しのけると、素早くベッドから抜け出て部屋を後にした。





 砦の主が戻り、また“夜のお勤め”が始まった。リアは憂鬱な気持ちを引きずりカイルの部屋に向かう。

「久しぶりだね。会いたかった」

 部屋に入るとカイルがすぐに抱擁してくる。なんだかカイルの香りが懐かしく感じた。

「やっぱりリアがいないと全然眠れなかった」
 
 そう笑うカイルの顔は確かに青白く少し痩けたように見えた。
 いつものように寝台の中で背中から抱きしめられると躰が少し強ばった。ローグとの記憶がよぎる。

「こわい?大丈夫だよ。僕はリアが傷つくような事はしないよ」

 カイルは優しく諭すように囁く。

「男なんて皆そうなんだから。気をつけなきゃ」
 
 そう言われて振り向く。カイルは不敵な笑みを浮かべている。

「言ったでしょ?僕は我慢してて偉いって」

 砦の主は何があったか全て知っているのだ。
そしてカイルの体に包まれる。寝台の中で正面から抱きしめられるのは初めてだった。ゆっくり頭を撫でられる。

「大丈夫。今日はゆっくり寝ようね」

 その晩カイルはリアが眠るまで、ずっと頭を撫で続けた。






 リアはあの一件があってからローグを徹底的避けた。ローグは初め、どうにかリアと接触しようとしていたが、砦の主が帰ってきてからは全く姿を見なくなった。

「……ローグを何処かにやったのですか?」

 主に寝所で思い切って聞いてみた。

「酷いことされたのに心配?」

「いえ、そういうわけでは」

 リアは口ごもる。正直、今はローグに会いたくなかった。それでも砦で唯一、気心知れた幼馴染の安否は気になってしまう。

「大丈夫。ちょっと遠くに派遣しただけだよ。死なない程度の任務だよ」

「……ありがとうございます」

 リアは珍しく、素直に感謝を述べた。

「優しいでしょ?ご褒美くれてもいいんじゃない?」

 借りはすぐに返すのが里の精神だ。いつもの主の軽口にも報いなければならない気になった。

「……何をお望みですか?」

「いいの?うれしい」

 カイルは抱きしめる力を強めて、うなじに顔を埋める。

「じゃあ、これからは口づけするの許してほしいな……。体にはしない。肩より上だけで我慢するから」

「……わかりました。肩より上だけなら」

 抵抗が無いと言えば嘘になる。しかし、覚悟を持って自分が言い出したことだ。
 カイルはリアの頬に手を添えて、ゆっくり近づくと唇に触れるだけのキスをした。
 鼻が触れ合う距離でリアを見つめて嫌がっていないか伺う。そして、何度も優しく唇を重ねた。それからリアの肩に顔を埋め、強く抱きしめる。

「幸せ……。壊れそう」

 顔を上げるとうっとりとした顔でリアを見つめる。

「口づけって深いやつも含まれるよね?」

 リアは黙ったままだ。これをカイルは肯定ととった。

「でも、これ以上するの勿体ないから明日のお楽しみにするね」

 主はそう言うと唇はもちろん、頬や額、輪郭や首に口づけをした。触れられるたびに小さく反応するリアを愛おしんで、長い事それを続けた。





 背中から抱きしめるカイルは目の前にある肩やうなじに唇をつける。そして、リアの顔を自分の方に向かせると深く口づけをした。

 キスが許されてからカイルは、当然のように毎晩リアとの口づけを楽しむようになった。口内を慈しむように愛撫し、リアの息が苦しくなった頃に解放すると、躰を撫でながら首筋や耳に唇を落とした。
 リアはいつの間にか、押し当てられる唇に吐息を漏らし、躰を触られれば甘い声を我慢出来ないようになっていた。
 カイルは律儀に肩より下に口づけをする事は無い。

「僕もだけど、リアも本当に我慢強いよね」

「何が、ですか?」

「もう、触ってほしくてたまらないでしょ?」

 下腹から太ももの際どい所を重点的に撫でられる。

「許してくれたら、すぐに触ってあげるのに」

 吐息を混ぜた声を耳元で出されると、それだけで鳥肌が立つ。

「それか、肩より下も口づけさせて?背中の傷跡にキス出来なくなっちゃったから……」

 局部を触られるよりは、ましな提案だ。

「……わかりました」

 そう答えるとすぐに背中に唇が押し付けられる。傷跡をなぞるように舐められて吐息がでた。

「ちょ、舐めるのは」

「なんで?口づけは舌を使っているじゃない?」

 そう言われてしまえば、そうなのだが。ただ唇をあてられるのとは段違いに感じてしまう。全ての傷跡を舐めたカイルはリアを抱きしめると耳に口づけて舐めた。躰が跳ねる。
 耳を舌でなぞられると、いやらしい水音とカイルの吐息で頭がいっぱいになって何も考えられなくなる。
 先程の提案を許可したのは失敗だった。
 さらに、躰を弄られる。胸の尖りで遊びリアの反応を楽しんでから、太ももと尻を撫でる。

「こっち向いて」

 体の表面を向かせると首筋を舐め、鎖骨をなぞり、胸の尖りに吸い付いた。尖りを舌先で細く弾くとリアの首が仰け反る。

「やばい。理性飛びそう」

 そういうとカイルは舐めるのをやめてリアに抱きついた。太ももに固いものが押し付けられる。

「これさ、君が帰った後で自分でしなきゃいけないんだよ?」

 そう言われても困る。それならリアを寝所に呼ばなければいい話だ。

「毎日、君のこと思い出して、してる……」

 また耳を舐められて何も言えなくなった。

「僕も触れてほしくてたまらない」

 耳元で訴えられる声が、リアの頭の中に響き背中を震わせた。





 毎晩カイルはリアの上半身を愛撫して、我慢できなくなりそうになると、中断して彼女を抱きしめて耐えるというのを繰り返していた。それも数日続けると苦痛になってきたようだった。

「手をさ、貸してくれない?」

 息を荒げながら赤い顔をしたカイルが懇願する。

「自主的に触らなくていいから、手を使ってもいい?下着は脱がないから」 

 あまりにツラそうなので思わず頷く。カイルはリアを抱きしめ手を取ると自分のそそり立つモノを下着の上から触らせる。
 軽く触れるだけでカイルの躰が吐息を漏らす。そして下へ上へ撫でさせるようにする。
 リアは初めて触る男の局部の感触に戸惑う。その肉は布越しでも躰だと思えないくらい熱い。
 カイルは息をさらに荒げ、躰を震わせて悦んでいる。リアの手を肉棒に押し付け強く擦り付ける。硬さをました棒が脈打つとカイルは手を止めた。そして触らせていた手を口もとまで持ってきてキスをした。

「ありがとう。出す気はなかったのに、リアに触られてるって思うと我慢できなくなっちゃった。ちょっと着替えてくるね」

 そういうと寝台を出て隣の部屋に消えた。しばらくしてベッドに戻ってくるとリアをいつものように後ろから抱きしめた。
 カイルは静かに頭を撫でている。リアは先程の出来事に衝撃を受けながら、また太ももに固いものがあたっているのに気づいた。





 ある日、寝台に腰掛けたリアの太ももに頭を預けていたカイルが口を開いた。

「脚にさ、口づけさせてくれない?」

 主の注文は徐々に難易度が上がっていく。拒否したら、この男は素直に引き下がってくれるのだろうか?
 しかし、答える前にカイルはもう唇を脚に押し付けている。寝具を降り、リアの足元に膝まづいた主は彼女のつま先から順番に口づけていく。
 リアはその様子を眺めながら、主をかしずかせているように思えて少し気分が良くなった。それもすぐ終わる。

「ちょっと広げて」

 太ももまで登ってきた主が、そういうと寝台に脚を上げて広げられる。恥部を突き出す様な体勢に羞恥心が募った。脚を戻そうとするがカイルがそれを許さない。主はリアの内ももへ吸い付き舌を這わす。
 そして、抵抗も虚しく股までたどり着くと躊躇なく下着を舐める。

「そこは、脚では……」

 脚を閉じようとするが、カイルの手が膝を抑えられて出来ない。

「じゃあ、ここはなに?」

 舌先を押し付けるようにされると強い快感が走る。下着の上からも何度も舐めあげられる。

「いや」

 思わず出る拒否の言葉にカイルは引き下がった。

「わかったよ」

 そういうとカイルの下は下着から出ている足の始まりの部分を舐め始める。強く、優しく舐めるのを繰り返され、吸い付かれる。
 そこも敏感な場所の様でくすぐったい快感が走る。

「ここは脚だよね?じゃあここも脚じゃない?」

 舌を肌に添わせて元の場所に戻ったので下着がめくれて舌が直接、粘膜に触れる。

「あ、ちょっと」

 そういうリアを無視して、カイルは下着の下に潜った舌で割れ目を舐める。いつしか片手で下着をずらして本格的に愛撫している。溢れる愛液をすすり、残らず舐め取る。
 カイルの頭を押して見るが、頑なに動かず舌は1番敏感な場所ばかり責めてくる。
 頭が真っ白になり、体に力が入らない。何かが込み上げてきてリアの躰が大きく震えた。声にならない悲鳴を上げた時、カイルはようやく顔を上げた。
 熱に浮かされながら困惑しているリアをそっと抱きしめ、頬に唇をつける。

「気持ちよかったね。嫌がってるのに続けてごめんね。もうしないよ」

 カイルは言葉では謝罪しながら満足そうな声でリアに頬ずりした。




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