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裏
しおりを挟む遠くで、まだ騒いでいるであろうにぎやかな様子が聞こえる。
無理もない。
今夜は婚礼なのだ。
彼―――セッパクの従姉妹と、同級生でありセッパクの想い人との。
最初に目を引いたのはその美しさ。
次いで割と悪戯好きなところが面白いと思った。
一緒にいるようになってそんな性質に振り回されたり、誤解した従姉妹にあの方に迷惑をかけるなという手紙を何通も貰ったりしたものだ。
その従姉妹がいつの間にか婚約者の座を手に入れていて一体どんな手を使ったのかと驚いたものだ。
というのもその時は教会の擁する聖女に好奇心をくすぐられたらしく興味津々でちょっかいをかけていたからだ。
それが気になってセッパクもついつい一緒になって聖女の傍に行ったりしたものだ。
なのに蓋を開けてみれば従姉妹との婚約だ。
一体どんな手を? と不思議に思うのは仕方ないことだろう。
まあ、お互いの家のことを考えれば結局は政略婚なのだが。
「―――あれ、どうしたの?」
声をかけられて意識を考え事から戻すと首元を緩めた想い人が立っていた。
―――待っていた。
どうせ適当なところで抜け出すと思っていたから。
「・・・・・・少し話をしたくてな」
「? いいけど・・・・・・」
何かあったっけ? と首を傾げる相手を促して庭に出る。
夜風が少し冷たいか・・・・・・? 室内の方が良かったか?
ちらと考えながらゆっくり話が出来るような所まで着いて行く。そこは東屋だった。
足を踏み入れると
「それで? 話って?」
「・・・・・・」
話を促されて、さてと考える。どう話を進めるか。
自分が口下手な自覚はある。
少し考えて結局、素直にそのまま話をすることにした。
「・・・・・・従姉妹は母方のだ」
セッパクの唐突とも云える言葉に相手は一瞬驚いたものの「あー・・・・・・」バツの悪そうな表情を浮かべた。
「すっかりバレているの・・・・・・」
「・・・・・・」
ふっと軽く息を吐くと彼は東屋に備え付けてある椅子に腰を降ろした。上を見上げポツリポツリ言葉をこぼす。
「・・・・・・諦めようと思ったんだ。お互い立場というものがあるし。でも、もしかしたら間に誰か入れば・・・・・・って夢を見た」
「! それで聖女か・・・・・・」
ずっと不思議だったのだ。
たしかにあの女はユニークではあるものの彼の好みだとは思えなかったからだ。
「そう、扱いやすそうだったし・・・・・・」
「だが、あの女は―――」
多分、いろんな男の手がついていた、と思う。
「それだからあと一歩が踏み出せなかったんだよねぇ―――悩んでいる時にお前の従姉妹殿から口説かれてね。でも、そうかてっきり父方かと思っていたけど、母方か・・・・・・」
「ああ・・・・・・だから従姉妹に蹴り飛ばされたぞ」
『あの方のたまに覚悟は決めたつもりでしたけど、どうしてもあなたに肌を許すのは想像だけでも無理でしたわ―――だから初夜の花婿を花嫁から奪ってみせることくらいしたらどうですの!? 男でしょ!?』
と結婚の準備で忙しくなるちょっと前の従姉妹に呼び出されて発破をかけられたのだ。
確かに云われなければ行動に移せないなんて情けない話だが、仕方ない。本命には慎重になるものだ。
「蹴り飛ばし・・・・・・ふふ」
思わずといったようにでもどことなく淋しそうに笑う彼の前にセッパクは跪くと、どこか芝居がかったそれでも恭しく手を差し出した。
「―――では大人しく攫われてくれるな?」
「えっ」
「えっ?」
「いや・・・・・・てっきり私は振られているとばっかり・・・・・・」
「どうしてだ?」
「だってあの時・・・・・・誘ってものってこなかったから・・・・・・」
「ああ・・・」
一度だけ妙な空気になったことがあった。
あれは寮の中で何人かと一緒に騒いでいた時、盛り上がって外へ繰り出そうとなったのだ。
彼らの目的が女だというのは明白で。
ノリが悪いぞとブーブー文句を云われながらも彼が行かないと云うので自分もやめたのだ。
確かに彼の云う通りに家の権力外のところで何かあったら目も当てられないだろう。
その時に微妙な空気が流れ、ん? これは、その、もしかして、誘われているのか? と思ったものの違った時の反応が怖くて結局手は出せなかった。
「意気地がなかったんだ。許してくれ。俺は繊細なんだ」
「何それ・・・・・・どうしようかな」
そう云いながらも手を取ってくれた美しい彼をセッパクはその腕に抱き締めた。
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