翔べない翼

古代 こしろ

文字の大きさ
上 下
10 / 13

10ページ 帰還

しおりを挟む
 失くすものなど無い、すでに名を呼ばれることさえ無いのだから。

 ラズリルからもらったもの。尊い宝物だという言葉。

 老婆は手紙を遺してた。帰る方法があるという。それは失うものもある、と。

 
 あっちは冷たい人達ばかり。

 抱きしめてくれる人がいた。


 「あいたい。 帰りたい  」


 こわい。もういないことが当たり前になっているかもしれない。

 
  翔んでいけばいい。

 向こうに着くには苦痛を伴う。失うものなど無いと思ったのが頭によぎる。

 冷たい世界から、戻ってくる代償は残っていた。

 確かに戻ってこられた。この門を越えれば。

 名前が聞こえる、早く行きたいのに歩くしかない。


 側にくるなり、まずそっと抱きしめられる。

 「温かい・・・」

 痛みはひどいけれど、その温もりに安堵する。



 ラズリルは、ひきちぎられたような無惨な翼については言わなかった。


 
しおりを挟む

処理中です...