翔べない翼

古代 こしろ

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 周りで人は翔んでいる、翼もなく。それは特別なことではなかった。
 
 すべてのものがあがめているのは神の御使いと言われる者。人に飛ぶということを教えた者。

 いつどこで真実となったのか定かではない。


 毎日数回その御使いは現れる。それを人々はあがめる。人数は決まっていないが1人ずつ祈りを捧げるのだ。

 翼のある少年がいた。人の翼は退化していき、今も残っている者は多くない。青白い翼をもつその少年は孤独な子だった。

姿を見せない人に養われている。周りの者は皆知っているようだった。
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 数十分。その少年が歩みでると人々はもう分かるのだった。

「ラズリル様」ひざをつく少年に御使いは言った。「おまえは翔べない」

 少年は顔をあげ、ラズリル様の綺麗な顔を、曇りのない目とあきらめの交えた表情で見る。しっかり少年の顔をみた御使いはもう一度言った。「おまえは翔べない」何度も少年が言われている言葉。
 
 そして身をかがめ、少年の頭をそっとなでる。人々はこれで、あきらめる。いつも通りにこのあと御使いは去る。

 …はずだった。

「待ってください」少年が御使いを呼び戻した。御使いは誰が呼び止めてもきかないはずだ。しかし少年のはじめての呼びかけにラズリルは去らずにとどまった。

「僕はあなたをあがめてはいません」

 御使いは怒るでもなく目を閉じた。

「僕は捨てられていた自分を養ってくれる人がだれかわかりません。その人への感謝を…あなたが御使いなら僕の礼を届けてくれるのでしょうか」

 はじめて少年に、他の言葉をかける。御使いはまぶたを上げ少年をみながら言った「届けよう」

 少年はあきらめ以外の表情で見た「お願いします」

 御使いの去る場所は知らない。



 少年は人々に名を呼ばれることはない。教えていない。人々は少年を気にかけてはいない。

 ただ少年は定められた時に行くだけだった。

 
 少年には翼がある。しかし御使いの言うように翔ぶことはできない。孤独に足で歩く。

 養い親は姿も見せない。声もかけず、名も教えてくれない。
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