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これはいわゆる◯◯案件……!

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「あ! いいところに来た! 何なんだよこいつら⁉︎ 上得意になりそうなやつ連れてくるっつうから期待してたのに、期待の斜め上をいきやがるんだが⁉︎」

店員さん改めサモナール国の王子がレオン様に苦情を申し立てている。
この王子、口が悪い!
……あれ? この二人って、知り合いなの⁉︎

レオン様は普段、国民の前にすら姿を見せないので神聖化されている節があるのに。
まあそれは聖獣の姿の話であって、人化した姿で正体を隠して街中をうろついてはいるんだけど。

「上得意だろう? あれだけの量を買い込む客なんてそうそういないだろうが」
「いや確かにそうだけどよ……でもあん時ゃあんたが奢ってただろうが! まさかこんなガキがをどうこうできるとは思わねぇだろ!」
……なんだか失礼なことを言われている気がするんですが。

「どうせ使いこなせねぇか、親にバレて取り上げられるかして泣きついてくるか、その親が渡りをつけてくると思ったら、使用人が普通に買いにきたんだぞ⁉︎ 交渉のしようがねぇだろ!」
あ、やっぱりそういう展開を期待してたんだ?

「どうせならあんたとの取引すりゃよかったんだ。あんたは金払いもいいし、度胸もある。冒険者にしちゃあ粗暴なところもない。実はお忍びの貴族かなんかだろ?」
「……少なくとも貴族ではないな?」
レオン様は片眉を上げて面白そうに笑った。

ええはい、ドリスタン王国を守護する聖獣様ですからね! 貴族じゃないよね!
……あれ? この二人、知り合いではない?

「殿下、殿下! ここで揉めたらまずいですよ! 目立っちゃダメでしょうが!」
使用人に変装したお付きの護衛らしき人が剣を収めてから王子の両肩に手を置いて引き寄せた。

黒銀くろがねはそれを見て掴んでいた手を離したので少しホッとした。
しかし掴んでいた王子の手首が赤くなっている⁉︎
やばい、国際問題になっちゃう⁉︎

「うるせぇな、そんな誰もこっちの騒ぎに気づいて……ない⁉︎」
王子が慌てたように周囲に目をやって、初めて私も誰もこの揉め事が気にならない様子で普通に通り過ぎているのに気づいた。
それどころか、この店に気づかない様子で自然に避けながら通り過ぎている……?

「お前らが揉め始める前から認識阻害の魔法をかけてある。誰も俺たちには気づかないから安心しろ」
レオン様がこともなげに言ってのけたけれど……いつの間に⁉︎
全く気づかなかった!

「認識阻害……⁉︎ んな、高位の魔法を使うとか、あんた……何者だ⁉︎」
王子、さっきからそればっかなんですけど⁉︎
今度はレオン様に向けて護衛と共に警戒態勢に入った。
これだけ誰にも気づかれずに魔法をかけられてたら街中で暗殺・誘拐し放題だから無理もないけど。
私だってその可能性を想像して怖くなったもん!

「あー、ちっと探りを入れるつもりがお節介しちまったばっかりにしくったなぁ……」
レオン様がまいったとばかりに頭をガリガリと掻き、こっちを見てニカっと笑った。

「ここじゃ積もる話もできねぇし、お嬢んち行くか!」
「は? 我が家ですか⁉︎」
はあ? なんですと⁉︎ 王宮じゃなくて?

「おぬし、戯言も大概にしろ。なぜ主がおぬしやこやつらを招かねばならんのだ」
「そうだそうだ。そんなすじあいはないね!」
黒銀くろがね真白ましろが私を庇うようにしてレオン様に反論した。

「ちょ……っ、待……! 何で俺こんなとこにいるんだ⁉︎ 場違い過ぎんだろ⁉︎」
シンが私たち、レオン様、王子たちを交互に見ながらオロオロしている。
あわわ、巻き込んでごめん、シン。
シンの胃が無事なのを祈る!

「は? なんでこいつの家なんだよ? そもそもこのガキだって何者なんだよ?」
王子が不審そうな目で私を見た。

「彼女はエリスフィード公爵家のご令嬢だ」
レオン様が胡散臭そうな笑顔で言ってのけた。
ちょっ! なんで自分のことは伏せて私の正体バラすんですかぁ⁉︎

「……は? エリスフィード公爵家……って、ええぇ⁉︎ うっそだろ⁉︎」
「え、ちょ、ド、ドリスタン王国における重鎮も重鎮じゃないっすか……! 殿下ぁ、だからお忍びで行商の真似事はやばいって言ったじゃないすかぁ!」
「うるせぇ! まさかそんな大物が釣れるとは思わねぇだろうが!」

王子と護衛が揉めている。
私もまさか一国の王子が他国で行商人のふりして媚薬売りつけようとしてるとは思わなかったよ!

あれ? これ、もしかして裏の販売ルートでも作ろうとしてたのでは?
もしそうだとしたら、王子、アウトオォ!

だが残念! あなたがターゲットにしたのは片やドリスタン王国の守護聖獣、片や王家と懇意にしている公爵家の令嬢だ!
悪事を働く前から詰んでるね! ふはは!

……しかしこれ、もしかしなくてもお父様に叱られ案件なのでは……?
そもそも、ここにくるのも香辛料を買うためだからと思ってお父様に報告してないし。
屋敷に残ったミリアが報告してるかもだけど、この展開は想像もつかないだろうし。
……私も詰んだ。

かといって、このままハイさよならとはいかないよねぇ……
「サモナール国のお客様をお迎えするにはむさ苦しいところではございますが、よろしければ私の家でお茶でもいかがですか?」
私は全くよろしくないけどね⁉︎

「……招待を受けよう。案内を頼む」
王子が渋々といった様子で答えた。
受けてくれなくてもよかったんですよ⁉︎

「ああ、このままぞろぞろと屋敷に向かうわけにはいかねぇから、殿下と……そうだなそこのあんたは護衛としてついてくるといい。後の始末は……そうだな。そこのお前。ここにある香辛料全て買い取るから荷物をまとめてこい」
「は? 俺⁉︎ あ、いやその……ハイ、カシコマリマシタ……」
レオン様の指示を受けてシンがしどろもどろになりながら答えた。シンの胃が心配!

黒銀くろがね、お前はこいつの護衛で一緒に戻れ」
「断る。おぬしの命令など受けぬ」
「こいつに何かあればお嬢が悲しむがいいのか? 白いのよりお前のほうが冷静だろうからお前が適任と思うが」
レオン様がおっしゃるように、このままシンを置いて帰って何かあったらと思うと気が気では無い。

黒銀くろがね、お願い」
「……あいわかった。確かに我のほうがこれより主の願いに添えるだろう。ただし、我が不在の間に主に何かあれば承知せんからな」
私の上目遣いのお願いに「うっ」と怯んだ黒銀くろがねは不承不承ながらも引き受けてくれた。

「任せとけ。俺がいてお嬢に何か悪さはさせねぇよ」
「おれがいるんだから、もんだいない!」
レオン様がウインクしながら、真白ましろは私を抱き込むようにして黒銀くろがねに鼻息荒く答えた。

「あ、白いのは先に屋敷に戻ってこのことを伝えてくれるか?」
「はあ? ことわる! くりすてあはおれがまもる!」
真白ましろがぎゅうぎゅうと抱きつく。うぐぐぐぐ、圧が!

「そっかぁ、知らせなしで賓客を連れ帰ってまともにもてなせなきゃお嬢が恥をかくかもしれんなぁ? そうなったら困るよな? お嬢?」
レオン様がにんまり笑いながら私に話を振った。
確かに、このままではなんの準備もないまま他国の王子を招くことになる。
屋敷に帰るまでのわずかな時間だけでもないよりましだ。

「……ええまあ。そうかもしれません。真白ましろ……頼める?」
「ぐぬぬ……! くりすてあ、すぐもどるから、まってて!」
真白ましろはそういうと即座に転移魔法を使って消えてしまった。

「な……ッ! 転移魔法だと⁉︎」
王子と護衛たちが驚いている。
あちゃー、転移魔法なんて普通できないもんね。認識阻害がかかってるから周囲にはバレてないけれど、王子たちには丸見えだった件。

「……とりあえず屋敷にご案内いたしますわね? 申し訳ありませんが、この人混みですので馬車まで歩きとなりますが……」
私はそう言って馬車の停留場まで先導を始めた。

……こんなことなら、ちょっといい馬車でくるべきだった?
足回りが最新式っぽいのだけが救いだな。
そんなしょうもないことを考えながら。


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