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弟子入り⁉︎

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自室に戻り、インベントリから必要な荷物を出して後をミリアにまかせて調理場に向かった。

「クリステア様ぁ! お待ち申し上げておりましたあぁ!」
「ヒェッ⁉︎」
廊下を曲がるとすぐに調理場の出入り口の前で落ち着かない様子で待ち構えていた料理長が駆け足で近づいてきた。

「り、料理長、久しぶりね。さっそく材料を用意してもらいたいのだけど……」
「何なりと! 私におまかせください!」
私が取り出したメモを恭しく受け取ったかと思うと、踵を返しダッシュで食料品庫に向かった。
……犬かな?

料理長の後ろ姿を見送っていると、調理場の出入り口からシンが顔を覗かせた。
「……よお、お帰り。じゃない、お帰りなさいませ、オジョウサマ?」
他の料理人の目があることに気づいて言葉遣いを改めるけれど、なんで疑問形なの?

「ただいま。今回は料理長とシンに頑張ってもらうからよろしくね」
私の言葉にシンは「うげっ」とあからさまに嫌そうな顔をした。失敬な。

「料理長からそれとなく聞いてはいたが……本当だったのかよ」
「料理長からどう聞いてたのかは知らないけれど、今回は香辛料をたくさん使うから、配合を頑張って覚えてね?」

「うっ……どうせまた高額なのばっか使うんだろ? 胃が痛え……」
そこまで嫌がることないじゃないのよ。
そりゃまあ、今回レオン様に奢っていただいたのは金貨ウン枚だけどさ!

……ちょーっと集りすぎたかなぁ? とは思ったけど晩餐会に還元するわけだから、結局のところ国のためで、必要経費だし!

まあ、そんな裏話をしたら「聖獣様の金で買った材料とか、ますます失敗が許されねぇやつじゃねぇか……っ!」とビビり散らかすだろうから言わないけど。

「クリステア様! 材料をお持ちいたしましたっ!」
料理長がぞろぞろと見習いを引き連れて材料を持ってきた。
「あ、ありがとう……」

「これくらい造作もございません。お前たち、クリステア様が書かれたこのメモの指示に従って下ごしらえをするのだ! いいな!」
「「「はい!」」」
料理長の合図で見習いの皆さんがメモを確認してから即座に動いた。すごい統率力……!

「えーっと、じゃあ俺も見習いなんで……」
シンがそろそろと見習いに混ざろうとしたところで、料理長がシンのコックコートの襟をむんずと掴んだ。

「(不本意ながら)お前はクリステア様の一番の助手なのだからクリステア様の指示に従え」
「……ッス」
シンは襟を掴まれたまま、ぐりんっと私に向き合うよう方向転換させられ、諦めたように項垂れた。

そうそう、キミは私の一番助手なのだから諦めなさーい! なんてね。
「今回は料理長もシンと一緒にスパイスの調合を覚えてね」
「え……⁉︎ 私も、よろしいの、です、か?」
料理長は掴んでいたシンの襟を離してギギギ……と私の方を見た。

「え、ええ。今回は種類が多いから、料理長も一緒に覚えてもらう方がよいかと思って」
それならシンのプレッシャーも軽減されるよね?
どのみち、王宮に提供するレシピはスパイスごと渡すことになるだろうし、料理長に教えるのはなんの問題もないからね。

「……っ! 私も、ついに、クリステア様の弟子として認められたと……? そう、おっしゃるのですね⁉︎」
「へぁ⁉︎ え? ええ⁉︎」
弟子? 認める? ……って、なんのこと⁉︎

「今回の料理は香辛料の使い方次第で今後の外交の方向性が決まると伺っております。そんな重要な席でのレシピの要となる調合の場に同席させていただく栄誉を賜るということは、弟子として認められた証……ッ!」
「えぇ……⁉︎」
そんな話したこともありませんが?
……て言うか、弟子なんてとってませんが⁉︎

「誠心誠意、努めさせていただきます!」
おおお……キラキラした目で見つめられると否定しづらい……!
「え……ええ、頑張ってね?」
「はい!」

「……俺は弟子になった覚えねぇけどな?」
シンが私たちを見ないようにしながら、ボソッと呟いた。
うん、奇遇だね。私もそんな覚え全くないんだ……

私たちは調合に使っている専用の部屋に移動し、メモを片手にわんこのようにワクワクと待機する料理長の横で先程レオン様に奢っていただいたスパイスたちをドドドン! と取り出した。

「おお! これらは全て今回使用する香辛料ですか!」
「ええ。帰りがけに寄り道して手に入れたの」
料理長が真剣な顔で中身を確認して香りを確認する。食材が絡むと、ちゃんと真面目なんだよなぁ……

「ほう、これは……なかなかの品ですね。香りが鮮烈、傷みもない」
「でしょう? たくさん買ってきたから、これを晩餐会にも使おうと思って」

「なるほど。これほどの品質なら王宮で用意されるものと引けは取らないでしょう」
「それならよかったわ。そういえば、料理長は以前王宮で働いていたのよね?」
「おや、よくご存知ですね。ええ、ここで料理長として引き抜かれる前は王宮で副料理長として働いておりました」

え⁉︎ 副料理長⁉︎
そんなに偉い人だったの⁉︎
私に対する奇行ばかりが印象に残ってるからそんなにすごい人だと思わなかったよ……
そういえば、公爵家の料理長なんだから、腕は確かなんだよね……

料理長をちょっとだけ見直した私は、今回使う香辛料や調合について説明を始めたのだった。

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