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なるほど、わからん。

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週末最後の授業を終えた私たちはあらかじめ頼んでいた迎えの馬車に乗り込み学園を出た。
セイは白虎様の転移で目立たない場所に移動してからバステア商会に向かうそうだ。

私もそうするほうが一番早いのだけど、それを気軽にやっちゃうと使用人の送迎の仕事を奪うことになるし、お父様もそれなら頻繁に帰ってこい、何なら転移で通えとかとうるさくなりそうだからしない。しないったらしない。

特別寮で皆と過ごす日々を気に入っているし、そんなことができるのは学園にいる今だけだもん。

それに、ミリアを連れて帰るからね。
魔法陣なしの転移はどこへ行くのかわからないから怖いってお父様も言っていたから、ミリアにそんな怖い思いをさせるわけにはいかないよね。うん。


今日は午前の授業だけだったからか、私たちと同じように自宅へ帰る人の姿はまばらだ。

学園の外にある乗り合い馬車の停留所で馬車を待つ人の列も少なかったけれど、その列の前を我が家の馬車が通り過ぎると好奇心たっぷりの表情の生徒たちに注目された。

中にはこちらを指さして興奮気味に話している男子生徒もいた。
話しかけられた生徒が慌ててその手を押さえていたから、平民の生徒なのかもしれない。
その後の彼の身振り手振りから察するに馬車について語っている様子。

「……乗り合い馬車を使わずに迎えを頼むから見られていたってわけじゃなかったのね」
お父様にはエリスフィード公爵家の馬車とわからないように装飾などない極力地味な馬車での送迎をお願いしていたのだけど、まさかの最新型だとは。

私がぼそりと呟くと、マリエルちゃんが呆れた様子で肩をすくめた。

「当たり前じゃないですか。貴族の子息子女なら馬車の送迎なんて普通だし、儲かっている商会の子たちも営利誘拐されないよう使用人が迎えにきたりしてますからね」
そういえば混み合っている時は大抵送迎用の馬車が列をなしていたっけ。
さして珍しくもない光景なわけよね。

「まあ、乗っているのがクリステアさんや聖獣のお二方だってこともあるでしょうけど。普通なら子どもの送迎用とはいえ親の見栄もありますから、それなりの体裁を保てるよう見た目は派手に装飾するものなんです。それなのに、この馬車は最新型にも関わらず目立たないようにわざと地味にしているから逆に目立つんですよ」
「な、なるほど……?」

前世では車の免許を持っていなかったし、車に全く興味がなかったからよくわからないけれど、明らかに最新型の高級車だとわかるのに、エンブレム(エリスフィード公爵家の紋章)とか一切排除して普通にそこらへんにある馬車のふりをしようとしているから悪目立ちしているらしい。
そんなこと言われても知らんがな。

「まあ、防弾ガラスの入ったゴリッゴリの防犯対策を施した新型の黒塗りベンツがエンブレム外して普通のセダン車のふりをしてるみたいなもんですよ」
「へ、へえー……?」
なるほど、わからん。
ミリアがマリエルちゃんの隣で意味不明だという顔をしてマリエルちゃんを見ていた。
ミリア、気が合うわね。
私もマリエルちゃんの言ってることがよくわからないよ……

「まあ……ここまでしなくても、乗車しているメンバーだけで過剰戦力なんですけどね……」
そう言ってマリエルちゃんが乾いた笑いを浮かべ、遠い目をした。

それはわかる。
黒銀くろがね真白ましろがいればどんな敵襲があろうと蹴散らしちゃうだろうからね。
なんなら、マリエルちゃんの膝に抱っこされてるルビィがご機嫌で持ってるステッキだけで殲滅できるはずだ。

「うーん、もっと古い馬車にしてもらうとか? ……いやダメだわ。前に乗っていた馬車は乗り心地が最悪だったもの。もうあれには戻したくない……!」
「あー……でしょうねぇ。最新型ってバネを改良して乗り心地や性能が格段にアップしましたもんね。それにこれ、魔法攻撃無効の仕掛けのオプションついてますよね?」

「え、なにそれ聞いてない……」
「確か実家に届いた最新号の箱馬車カタログにそういうオプションありましたよ」
「箱馬車カタログ⁉︎ そんなのがあるの⁉︎」
「ええ。父さんがエリスフィード公爵家に出入りするのに貧相な馬車では失礼にだってことで取り寄せたカタログに掲載されてました。他にも色々とオプションありましたから、それも盛りに盛ってそうですよね、この馬車」
「ええ……?」

お父様、なんてことを……目立たないようにするはずが逆効果じゃないの。
だけど、一度いいものを知ってしまうと、もうグレードを落とすことなんてできっこない。

くっ、お父様に物申したいけど感謝こそすれ文句を言うのはお門違いだわ。
帰ったらお礼を言おう……

そうこうするうちに馬車は商人街に入り、人や馬車が増え始めたのでスピードが緩やかになった。

賑やかな通りをゆるゆると進むと、屋台で昼食を食材を買い求める人たちの姿が目に入り、少しだけ開けた窓から屋台メシのいい匂いがした。
窓の外を見ると、肉の串焼きを持った冒険者っぽい格好をした人が豪快に肉にかぶりついていた。

「うわぁ……お肉の焼けるいい匂い。そういえば、王都こっちに来てから屋台メシとか食べたりしてないわね」
いいなあ、貴族の料理はゴッテゴテだけど、平民の料理はあまり手をかけられないこともあってシンプルなのが多いから、スパイスをちょっと足せば美味しく食べられそうなのよね。

初めて王都に来た時、レオン様がくださったのも屋台で買った串焼きだったっけ。
串焼きの味を思い出していると、お腹がきゅるりと鳴った。
それに応えるようにマリエルちゃんのお腹もきゅるる……と鳴った。

迎えの馬車が来ていたこともあって、昼食を食べずに出発したからなぁ……

「……マリエルさん、ちょっと寄り道して帰らない?」
「え?」
「クリステア様、まさか……?」
「そのまさかよ」
私はにっと笑って、御者にルート変更を告げたのだった。

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