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やってやります!

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「私に頼みとは、一体何でしょう?」
恐る恐る尋ねると、レイモンド王太子殿下はとても申し訳なさそうな表情で話を切り出した。

「今朝、王宮……母上から手紙が届いたのだが、クリステア嬢にどうしても頼みたいことがあると」
「妃殿下が?」
え、なんだろ……お茶会に参加しなさいとかだったら嫌だなぁ。

でも、それならまずお母様に招待状が届くわよね?
その方がお母様に強制連行されるだろうから、お母様をすっ飛ばすどころかレイモンド王太子殿下を経由してのお願いって一体なんだろう?

レイモンド王太子殿下と婚約して義娘になって(はぁと)とかはさすがにないと思うけど。
またお菓子が欲しいな、とかそんなところかしら?

「クリステア嬢にサモナール国の賓客をもてなすための料理を作ってほしいんだ」
「……はい?」
サモナール国? ……ってどこの国だっけ?
えーと、えーと、確か南の方にある、海を隔てたお隣の国、だよね?
香辛料とか輸入してるんだったかな……

「サモナール国……そういえば、サモナールの王族が見聞を広めるために外遊にいらっしゃるとのことでしたわね」
アリシア様が国名を聞いて思い出したように呟いた。

え、アリシア様ってば情報通すぎません?
ほえーっと感心したように見ていると、アリシア様は呆れたように私を見た。
「サモナール国との外交は重要ですもの。この程度の情報は把握しておかないと」
はい、不勉強ですみません。
でも、十かそこらの歳で他国の動きとか把握するとかおかしくない?
それが貴族の常識なの?

「素晴らしいな、アリシア嬢は。その歳で外交のことまで関心があるとは」
レイモンド王太子殿下がにぱっと笑いかけると、アリシア様は赤くなった顔を扇子で隠した。
「こ、このくらいのことはドリスタン王国の貴族であれば、と、当然のことですわ」
うおお、アリシア様の謙遜が私にグサグサ刺さってくるよ……

「クリステアは領地の館からもあまり出ないような子でしたからね。情報には疎いんですよ」
ね? とお兄様がフォローしてくださったけれど、公爵令嬢としては不勉強ということなのだろう。

前世の記憶が戻ってからは、食の改善とファンタジーのド定番である魔法のことに夢中で、それ以外の勉強についてはおざなりだったからなあ……
特に地理とかは前世でも苦手だったから、試験で困らない程度の最低限の知識しか詰め込んでないんだよね。
サモナール国のことは香辛料の輸出国としてかろうじて覚えてたくらいだもの。

「ほほほ……そ、それで? 私がサモナール国の賓客をもてなすための料理を作るとは、どういうことなのでしょうか?」
いやほんとに何でやねん? て感じなんだけど⁉︎
王宮には国を代表する宮廷料理人とかいるはずなのに、何で私が⁉︎

「ああ、それは……以前サモナール国からやってきた国使をもてなした際、贅を尽くした料理にも関わらず、彼はあまり食が進まなかったんだ。体調が悪いのかと心配したのだが、サモナール国の料理とはあまりに違い、慣れない味に戸惑ったのだと謝罪されたんだ」
……なるほど? この世界ではドリスタン王国の料理みたいにこってりしてくどいのが主流なのかと思っていたけど、そうではないらしい。

よくよく考えてみれば、ヤハトゥールは前世の和食と同じような味付けだし、サモナール国は香辛料が輸出品目になるくらいだから、スパイシーな料理が好まれるのかもしれない。

「今回やってくるのはサモナール国の王族だ。国使でさえほとんど食べなかったことを考えれば、全く口にしないことさえ考えられる」
んー、それはあり得るかも。

でも、それってやばいよね?
歓待するためのもてなし料理のはずが、蓋を開けてみれば一切食べられないようなこってりギトギトの激マズメニューしかないとか、出された側からしてみれば嫌がらせみたいに感じるだろうし、全く食べなかったらよくももてなしを無碍にしたな⁉︎ って怒ってもおかしくないよ。

「そこで、クリステア嬢の料理だ。我が国の食事情を陰ながら向上させた君の料理なら、なんとかなるのでは? と母上が期待しているんだ」
はああああぁ? 何で⁉︎
なんともならないよ⁉︎
他国の王族が満足する料理なんて知らないもん!
下手なものを作って「不敬だー!」って処刑されることになったらどうしてくれるのよ⁉︎

「わ、私の料理など他国の王族の方に召し上がっていただけるようなものでは……」
「頼む! ここで揉めるようなことにでもなれば香辛料や薬草の輸出が止められる可能性だってあるんだ」
「え?」

なんですと⁉︎
香辛料や薬草の輸出ストップ? それは困る!
「テア、僕からも頼むよ」
美味しいごはんが作れなくなるかもしれないよ? とお兄様に諭された私は渋々引き受けることになってしまったのだった。

「……どうしよう……」
レイモンド王太子殿下とお兄様が男子寮に帰った後、私は頭を抱えてしまった。
私が作ったからってサモナール国の王族とやらが気にいる保証はないのだ。
下手をしたら私が香辛料の取り引き停止の引き金にだってなりかねないのに。

アリシア様と仲良くなって、ようやく周囲が静かになって落ち着いた日常が送れるはずだったのに、どうしてこうなった……⁉︎
「もう引き受けてしまったのですもの、やるしかありませんわよ?」
「それはわかってますけれど……」

その王族がドリスタン王国にやってくるのは二週間後。
それまでの間にレシピを決めて試作して……試食はレイモンド王太子殿下に頼めばいいのかな? まさか、陛下や妃殿下に頼むわけにはいかないよね?
て、いうか学生の、しかも料理人でもないのになんで私が……
カレーか? 殿下にカレーを振る舞ったからか⁉︎
スパイスをふんだんに使った料理が得意と思われた?

いや、カレーは我が家以外では殿下やセイたち以外に振る舞っていないし、材料費が薬草としても使われる香辛料をたっぷり使ったとんでもなく高額なメニューゆえに門外不出のメニューだから妃殿下が私を指名する根拠としては薄いのよね……

「うーん……とりあえずサモナール国について調べるしかないか」
サモナール国の食事情とか料理本とか、さすがにそんなものは無いよねえ……?
うーん、うーん、と頭を悩ませていると、アリシア様がはあ……とため息を吐いた。

「しかたありませんわね。私も手伝いますわ。お料理は手伝えませんけれど、調べ物であれば私だってできますもの」
それを聞いたマリエルちゃんも手を挙げた。
「わ、私も手伝います! 父に聞いてみます!」
「アリシア様、マリエルさん……!」
うう、頼もしい。
よおし、二人が協力してくれるんだもの、私も頑張らなきゃ女が廃る!

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