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ちょっと! ルビィさん⁉︎
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「あらあ、いいじゃない!」
ルビィが跳ねるようにステッキに近寄り、全体を舐めるように観察する。
「はっ! ありがとうございます!」
……オーウェンさん、ルビィとのやりとりはずっとその口調で通すつもりなのかしら?
手に入りにくい魔石を前報酬としてたくさん受け取っていたから、パトロン相手のような対応になる気持ちはわからなくもないけど……
「これは……素晴らしいな」
「本当、サイズはともかく素敵だわ」
お父様とティリエさんもルビィの後ろから覗き込み、感心したような声を上げた。
「ふん、わしとこいつで作り上げたんじゃ。つまらんもんになるわけがなかろうて」
ガルバノおじさまがオーウェンさんの態度に若干引きながらも自信たっぷりの様子だ。
確かに……仕上がったステッキは、持ち手のすぐ下のあたりから色とりどりの魔石がランダムに散りばめられているように見え、それでいてバランスよく計算して配置されているみたいだった。
魔石の周囲から繊細な模様が持ち手や杖の部分にかけて刻まれており、よくよく見ればその模様は何かの呪文のようだ。
ひええ、すごい細かい……魔導具って極めようと思ったらここまでしなきゃいけないの?
……できる気がしないんですけど⁉︎
「普段はルビィ様が持つことで魔力を貯めることができますが、魔石の容量を超える場合は杖を通して余剰分を少しずつ放出するようにしました。ですが、使わない時はこのスタンドに空の魔石をセットして置いておけば、余剰分の魔力を空の魔石に充填できます」
オーウェンさんはそう言うと、杖を保管しておくためのスタンドらしきものを取り出して組み立て、ステッキを掛けてみせた。
「ほう。空の魔石を再利用するのはかなりの魔力を必要とするため、難しいはずだが……」
お父様が興味深そうにスタンドを観察する。
「ええ、小さい魔石であればともかく、中型から大型サイズの魔石の場合、魔力切れを起こさないよう魔力の多い者でも数日から数週間かけ小分けにして充填しなければならないため、再利用は非効率と言われています。しかし、これならステッキを使わない時にかけておくだけで魔力を吸い上げることができるため魔力を無駄にしません」
「なるほど……しかし、この魔導具は現実的ではないだろう。そもそも魔石の魔力が飽和状態になるという前提ではな」
「そうなんですよねぇ……」
意外なことにお父様とオーウェンさんで魔石話に花が咲いている。
オーウェンさん、魔導具の話ができてなんだか嬉しそう。
通常、魔力を使い切った空の魔石に魔力を貯めることは可能。だけど、魔石に充填する分以上の魔力を使って押し込むようにしないと充填できないのだそう。
魔力を吸い出すのは簡単だけど、充填するのは魔石の素になった魔獣の属性だかなんだかが影響しているせいか難しいんですって。
小さな魔石は生活用品に使えるので、魔力を充填して再利用するという商売は実際にあるそうなのだけど、大きな魔石となるとね……
だけど、オーウェンさんは大きなサイズの空魔石にも充填ができる魔導具を作ったらしい。
要するに前世の充電池と充電器みたいなものよね。
……ん? それってすごいのでは?
魔力量の多い聖獣限定にはなりそうだけど、大きな空魔石が再利用できるのってすごく便利よね?
……もしかしたら、魔力量の多い私でも充填できるかもしれないし。
……充電器の追加注文をお願いしてもいいかしら?
「あ、あのう……スタンドまではお願いしてなかったと……」
マリエルちゃんがビクビクしながらオーウェンさんに話しかけた。
ステッキを作るだけのはずがスタンドまで魔導具となるとすごい出費になるのでは、と怯えているのかもしれない。
確かに高そう……でも欲しい。
「あー、これは元々試作していたものの応用で作っただけだからおまけのようなもんだ。せっかくの魔力を無駄にするのも何だし、魔石を融通してもらったからその礼だとでも思ってくれ」
「え、あ……ありがとうござい、ますっ!」
マリエルちゃんがわかりやすくホッとしている。
「ちょっと。ワタシ抜きで盛り上がるのは構わないけどそろそろ試させてもらってもいいかしら?」
ルビィが脚をテシテシ床に叩きつけながら、オーウェンさんたちをジト目で見ていた。
「おわっと! 失礼しました、レディ。それではこちらをどうぞ」
オーウェンさんが慌ててルビィに向き直り、恭しくステッキをルビィに差し出した。
「あら、うふふ。いいわ、許してあげる。さて、どうかしらね……」
ルビィが前脚を振ったと同時にステッキがフッと消えてルビィの手元に現れた。
「ふぅん、いいわね。気に入ったわ」
カツン、と音を立ててステッキを手にしたルビィがビシッとポーズを決めた。
「……ルビィ、どうやってステッキを持ってるの?」
マリエルちゃんが素朴な疑問を投げかける。
確かに、人と同じように握れないのにどうやってステッキを持ってるのかしら。
「何よ今更。魔力で吸着してるに決まってるでしょ」
いや、決まってないと思います。
ルビィが前脚を持ち上げると、添えただけのステッキが同じように持ち上がり、クンッと動かすとステッキがクルリと回った。
え、何それ。器用すぎない⁇
「ちょ、ルビィ……かっこかわいい!」
マリエルちゃんがぷるぷる震えながらルビィを見つめる。
「ふふん、当然よ! さあ、魔石の魔力はいっぱいみたいだから、試射といきましょうか。はい、マリエル!」
ルビィがそう言った途端に手元からステッキが消え、マリエルちゃんの目の前に現れた。
「わわわっ!」
マリエルちゃんが慌てふためきながらステッキをキャッチするのを見て、ルビィがやれやれといった風に首を振る。
「まったくもう、いざという時にちゃんと受け取れなきゃ意味ないわよ。まずはそこから特訓しないとね」
「ええ……?」
ルビィは特訓の言葉に青ざめるマリエルちゃんの足元まで転移すると、マリエルちゃんのふくらはぎに前脚をついて、お父様とオーウェンさんに向き直った。
「さあ、修練場とやらに案内してちょうだい」
「う、うむ。それでは移動するとしよう」
お父様の案内で、領地の館にある修練場に皆で向かった。
「ねえ、クリステアちゃん。あのステッキって実際のところどう思う?」
ティリエさんが私の隣にやってきた。
「おじさまたちから聞いてないんですか? あのステッキのこと」
「オーウェンから完成した時もだけど、ここに来る前にも延々と説明を聞かされてきたからどんなものかは知ってるけど、実際に使いものになるのかしらと思って」
「うーん……どうなんでしょう? 魔石の属性別に魔法が使えるみたいなんですけど、どの程度の威力なのかは見当もつかないです」
「そうよねぇ。あれだけの魔石を搭載して、果たして望み通りの結果になるのかは怪しいし」
「……? どういうことですか?」
ティリエさんがため息をつくのを見て疑問に思ったところでお父様たちのすぐ後ろを歩いていたオーウェンさんが歩くスピードを緩めて私たちに近づいた。
「おいティリエ。俺が作った魔導具だぞ? そんじょそこらのヘボ魔導具師と一緒にされちゃあ困るぜ?」
「別にアンタの腕を疑ってるわけじゃないわよ。ちゃんと魔法が展開するのは間違いないだろうけど、結果どうなるかわからないのがこわいのよ」
「は? 上手くいくならいいだろ?」
「アンタはもうちょっと加減というものを知るべきだと思うの」
「あの、ティリエさん。それってどういう……」
そうこうしているうちに、修練場に到着していたようで、お父様がマリエルちゃんにあらかじめ設置されていた的に向かって魔法を展開するよう説明していた。
「さあ、マリエル! 思いっきりやっちゃいなさぁい!」
マリエルちゃんの肩にしがみついたルビィの合図で、マリエルちゃんが杖を両手で銃を持つように握って、ギュッと目を閉じ「え、えいっ!」と気合を入れた。
その瞬間、杖の先に小さく、でも密度の濃い魔法陣が浮かび上がり、それがキュン!と纏まり、青い炎に変化して真っ直ぐ的へと向かった。
「へ……?」
炎が遠くの的へ一瞬で届いたかと思いきや、ドゴォン‼︎ と大きな破壊音を立て、的の後ろにあった土壁ごとごっそり無くなっていた。
「えええ……⁉︎」
「いやっふう! やったわね! マリエル!」
呆然としているマリエルちゃんの肩越しにルビィがはしゃいでいた。
隣に立っていたお父様や少し遠巻きに見ていたセイたちはドン引きしている……
いや、やったわね! じゃないですよ、ルビィさん⁉︎
オーバーキルってやつですよそれ‼︎
---------------------------
文庫版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」四巻発売中です!
文庫版だけの限定書き下ろしはまっしろもふもふな聖獣視点のお話です。
よろしくお願いします!
ポチッとエールもありがとうございます!
励みになりますー!
ルビィが跳ねるようにステッキに近寄り、全体を舐めるように観察する。
「はっ! ありがとうございます!」
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「本当、サイズはともかく素敵だわ」
お父様とティリエさんもルビィの後ろから覗き込み、感心したような声を上げた。
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ガルバノおじさまがオーウェンさんの態度に若干引きながらも自信たっぷりの様子だ。
確かに……仕上がったステッキは、持ち手のすぐ下のあたりから色とりどりの魔石がランダムに散りばめられているように見え、それでいてバランスよく計算して配置されているみたいだった。
魔石の周囲から繊細な模様が持ち手や杖の部分にかけて刻まれており、よくよく見ればその模様は何かの呪文のようだ。
ひええ、すごい細かい……魔導具って極めようと思ったらここまでしなきゃいけないの?
……できる気がしないんですけど⁉︎
「普段はルビィ様が持つことで魔力を貯めることができますが、魔石の容量を超える場合は杖を通して余剰分を少しずつ放出するようにしました。ですが、使わない時はこのスタンドに空の魔石をセットして置いておけば、余剰分の魔力を空の魔石に充填できます」
オーウェンさんはそう言うと、杖を保管しておくためのスタンドらしきものを取り出して組み立て、ステッキを掛けてみせた。
「ほう。空の魔石を再利用するのはかなりの魔力を必要とするため、難しいはずだが……」
お父様が興味深そうにスタンドを観察する。
「ええ、小さい魔石であればともかく、中型から大型サイズの魔石の場合、魔力切れを起こさないよう魔力の多い者でも数日から数週間かけ小分けにして充填しなければならないため、再利用は非効率と言われています。しかし、これならステッキを使わない時にかけておくだけで魔力を吸い上げることができるため魔力を無駄にしません」
「なるほど……しかし、この魔導具は現実的ではないだろう。そもそも魔石の魔力が飽和状態になるという前提ではな」
「そうなんですよねぇ……」
意外なことにお父様とオーウェンさんで魔石話に花が咲いている。
オーウェンさん、魔導具の話ができてなんだか嬉しそう。
通常、魔力を使い切った空の魔石に魔力を貯めることは可能。だけど、魔石に充填する分以上の魔力を使って押し込むようにしないと充填できないのだそう。
魔力を吸い出すのは簡単だけど、充填するのは魔石の素になった魔獣の属性だかなんだかが影響しているせいか難しいんですって。
小さな魔石は生活用品に使えるので、魔力を充填して再利用するという商売は実際にあるそうなのだけど、大きな魔石となるとね……
だけど、オーウェンさんは大きなサイズの空魔石にも充填ができる魔導具を作ったらしい。
要するに前世の充電池と充電器みたいなものよね。
……ん? それってすごいのでは?
魔力量の多い聖獣限定にはなりそうだけど、大きな空魔石が再利用できるのってすごく便利よね?
……もしかしたら、魔力量の多い私でも充填できるかもしれないし。
……充電器の追加注文をお願いしてもいいかしら?
「あ、あのう……スタンドまではお願いしてなかったと……」
マリエルちゃんがビクビクしながらオーウェンさんに話しかけた。
ステッキを作るだけのはずがスタンドまで魔導具となるとすごい出費になるのでは、と怯えているのかもしれない。
確かに高そう……でも欲しい。
「あー、これは元々試作していたものの応用で作っただけだからおまけのようなもんだ。せっかくの魔力を無駄にするのも何だし、魔石を融通してもらったからその礼だとでも思ってくれ」
「え、あ……ありがとうござい、ますっ!」
マリエルちゃんがわかりやすくホッとしている。
「ちょっと。ワタシ抜きで盛り上がるのは構わないけどそろそろ試させてもらってもいいかしら?」
ルビィが脚をテシテシ床に叩きつけながら、オーウェンさんたちをジト目で見ていた。
「おわっと! 失礼しました、レディ。それではこちらをどうぞ」
オーウェンさんが慌ててルビィに向き直り、恭しくステッキをルビィに差し出した。
「あら、うふふ。いいわ、許してあげる。さて、どうかしらね……」
ルビィが前脚を振ったと同時にステッキがフッと消えてルビィの手元に現れた。
「ふぅん、いいわね。気に入ったわ」
カツン、と音を立ててステッキを手にしたルビィがビシッとポーズを決めた。
「……ルビィ、どうやってステッキを持ってるの?」
マリエルちゃんが素朴な疑問を投げかける。
確かに、人と同じように握れないのにどうやってステッキを持ってるのかしら。
「何よ今更。魔力で吸着してるに決まってるでしょ」
いや、決まってないと思います。
ルビィが前脚を持ち上げると、添えただけのステッキが同じように持ち上がり、クンッと動かすとステッキがクルリと回った。
え、何それ。器用すぎない⁇
「ちょ、ルビィ……かっこかわいい!」
マリエルちゃんがぷるぷる震えながらルビィを見つめる。
「ふふん、当然よ! さあ、魔石の魔力はいっぱいみたいだから、試射といきましょうか。はい、マリエル!」
ルビィがそう言った途端に手元からステッキが消え、マリエルちゃんの目の前に現れた。
「わわわっ!」
マリエルちゃんが慌てふためきながらステッキをキャッチするのを見て、ルビィがやれやれといった風に首を振る。
「まったくもう、いざという時にちゃんと受け取れなきゃ意味ないわよ。まずはそこから特訓しないとね」
「ええ……?」
ルビィは特訓の言葉に青ざめるマリエルちゃんの足元まで転移すると、マリエルちゃんのふくらはぎに前脚をついて、お父様とオーウェンさんに向き直った。
「さあ、修練場とやらに案内してちょうだい」
「う、うむ。それでは移動するとしよう」
お父様の案内で、領地の館にある修練場に皆で向かった。
「ねえ、クリステアちゃん。あのステッキって実際のところどう思う?」
ティリエさんが私の隣にやってきた。
「おじさまたちから聞いてないんですか? あのステッキのこと」
「オーウェンから完成した時もだけど、ここに来る前にも延々と説明を聞かされてきたからどんなものかは知ってるけど、実際に使いものになるのかしらと思って」
「うーん……どうなんでしょう? 魔石の属性別に魔法が使えるみたいなんですけど、どの程度の威力なのかは見当もつかないです」
「そうよねぇ。あれだけの魔石を搭載して、果たして望み通りの結果になるのかは怪しいし」
「……? どういうことですか?」
ティリエさんがため息をつくのを見て疑問に思ったところでお父様たちのすぐ後ろを歩いていたオーウェンさんが歩くスピードを緩めて私たちに近づいた。
「おいティリエ。俺が作った魔導具だぞ? そんじょそこらのヘボ魔導具師と一緒にされちゃあ困るぜ?」
「別にアンタの腕を疑ってるわけじゃないわよ。ちゃんと魔法が展開するのは間違いないだろうけど、結果どうなるかわからないのがこわいのよ」
「は? 上手くいくならいいだろ?」
「アンタはもうちょっと加減というものを知るべきだと思うの」
「あの、ティリエさん。それってどういう……」
そうこうしているうちに、修練場に到着していたようで、お父様がマリエルちゃんにあらかじめ設置されていた的に向かって魔法を展開するよう説明していた。
「さあ、マリエル! 思いっきりやっちゃいなさぁい!」
マリエルちゃんの肩にしがみついたルビィの合図で、マリエルちゃんが杖を両手で銃を持つように握って、ギュッと目を閉じ「え、えいっ!」と気合を入れた。
その瞬間、杖の先に小さく、でも密度の濃い魔法陣が浮かび上がり、それがキュン!と纏まり、青い炎に変化して真っ直ぐ的へと向かった。
「へ……?」
炎が遠くの的へ一瞬で届いたかと思いきや、ドゴォン‼︎ と大きな破壊音を立て、的の後ろにあった土壁ごとごっそり無くなっていた。
「えええ……⁉︎」
「いやっふう! やったわね! マリエル!」
呆然としているマリエルちゃんの肩越しにルビィがはしゃいでいた。
隣に立っていたお父様や少し遠巻きに見ていたセイたちはドン引きしている……
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