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ご機嫌とり

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「さて、今日の晩ご飯は例のアレを使ってみますか」
いつもの割烹着を身にまとい、三角巾をキュッと締めてから食糧庫ストッカーに向かい、必要な食材をピックアップする。

「ええと、じゃがいもと玉ねぎと、にんにく……」
黒銀くろがねが抱えたカゴにドサドサとそれらを放り込んでいく。
そのまま冷蔵室に移動しバターを取り出す。
「さてと。まずはじゃがいもを水から茹でてくれる? 皮はむかなくていいわ」
「りょうかい」
真白ましろがじゃがいもをさっと洗って、皮付きのまま鍋に入れてから水を注いで魔導コンロに置いて着火する。
はじめは中火で、お湯が沸きはじめたら弱火でじっくりと。
沸騰したらさらに弱火にして茹で、串を刺して中まで火が通っていたら鍋から取り出して粗熱をとる。

真白ましろ、魔法でじゃがいもを冷ましてくれるかしら?」
「まかせて」
氷魔法と風魔法を組み合わせてじゃがいもを冷ましてもらっている間に、インベントリからベーコンを取り出して2~3センチ幅に切り玉ねぎは縦に薄切りに。
「くりすてあ、これでいいかな?」
「ありがとう。ここに置いてくれる?」
じゃがいもは皮付きのまま1センチ幅の輪切りにしてっと。
それから、ニンニクは潰して荒みじんにしてからフライパンに油と一緒に入れて弱火で温める。
香りが立ったらベーコンと玉ねぎを中火で炒め合わせ、塩で味を調える。

玉ねぎに色がつきはじめたらじゃがいもを投入。
ベーコンがカリッとしてないのが好みならベーコンは後入れでもいいけど、私はカリッと派なので先入れにしている。
ベーコンから出た油をじゃがいもにからめるようにしてからバターを投入。これはコクを出したいから入れるので、少しでもいい。

あとは……
「これを入れて仕上げよ!」
瓶に入った黄金の粉……そう、シンが送ってくれたカレー粉だ。
香りがとんでしまわないよう、最後にこれを振り入れてから全体の味を調えて完せ……ああそうだ、採取の時にイタリアンパセリに似たハーブを見つけたのでこれを刻んでパラパラと散らばせて……と。
「カレー風味のジャーマンポテトの完成!」

ご飯やお味噌汁などは白虎様や朱雀様がミリアと一緒に作っておいてくれたので、あとはルビィも食べられるようにマリエルちゃんとセイがサラダを作ってくれたのでそれらを配膳台に並べ、各々が好きなように取ってもらういつものビュッフェスタイルだ。
「それでは皆さん、いただきましょう」
帰りが遅いニール先生の分は取り分けてあるので、余っている分は皆が争うようにおかわりするのであっという間になくなってしまう。
皆すごい食欲だなぁ……

たくさん作り過ぎたかなと思っても毎回ペロリと完食されるので嬉しい反面、もし私がステータスを確認できたのなら、称号に「給食のおばちゃん」とかついているんじゃないかと心配になってしまうのだった。

「くりふてははん、おいひいれふ!」
マリエルちゃんは久々のカレー風味に箸が止まらない様子。
口いっぱいに頬張って喋るのはお行儀が悪いわよ?
「刺激的な味だから、ワタシはたくさんはいらないけど……マリエルが喜ぶだけあって美味しいわぁ。サラダの合間に食べるくらいがちょうどいいわね」
ルビィは食べられないかと思いきや、これで体調を崩すことはないみたい。
そもそもカレーのスパイスはこの世界じゃ薬扱いのものがほとんどだものね。

「うめぇ! こりゃコメにも合うな! おっと、もう無くなっちまった、おかわり……」
「ちょっと待て白虎の。お前はもうすでにおかわりしたであろう。我が先だ」
「おれも!」
おかわりに立つ白虎様に続いて黒銀くろがね真白ましろが我先にと配膳台に急いだ。
「あ、わ、私も!」
マリエルちゃん……食いしん坊な聖獣様たちに張り合わなくていいのよ?
……っていうか、初めに山盛りにしてなかった……? もう食べたの?
「……俺も」
セイは黙々と食べていたけれど、スッと立ち上がるときれいに食べ終わった皿を手にスタスタと速足で向かったのがおかしかった。
カレー風味はこの世界でも大人気みたいね。

月に一回くらいなら、特別寮でカレーを作るのもいいかも。
実家の商会で売りに出せないかとカレー粉の材料を聞いて愕然としたマリエルちゃんに月イチでカレーの日を設けるのはどうだろうと持ちかけたら「学園の食事でそんな高級料理を……⁉︎ いやでも本来は庶民の味なはず……いやでもここでは高級素材……あああああでも食べたい……でも贅沢品……!」と苦悩していた。
とりあえずしばらくはカレー風味のスープとか、炒め物とか、少しのカレー粉で対応できるメニューにしましょうということで折り合いがついたのだった。

部屋に戻り、お風呂上がりに黒銀くろがね真白ましろ、それから輝夜かぐやにブラッシングをした。
私がちゃんと構ってあげないから浮気がどうとか言われちゃうのよね。
しっかり丁寧にブラッシングして、そんな疑惑は払拭しないと!
「お痒いところはございませんか~?」
『うむ……問題ない。あ、そこはもっと強めにブラシをかけてくれ』
「はいはい」
『くりすてあー、つぎはおれ! くりすてあごのみのもふもふにして?』
「わ……わかったわ」
うぐぅ、真白ましろめ、私の膝に上半身を預けてきゅるんと上目遣いとか、あざとすぎるでしょうが!
こいつめ、こいつめぇ!
この後めちゃくちゃブラッシングした。
二人ともツヤッツヤのモッフモフになった。
私も二人も満足、満足。

それから、専用のカゴの中で丸くなって寝ていた輝夜かぐやを抱き上げ膝の上にのせてブラッシングを始める。
「いつも朱雀様のお相手ご苦労様」
ミリアの話によると、私が授業でいない時は結構な頻度で朱雀様に捕まっては着せ替え人形にされているらしい。
セイが学園に入学する前ごろから「もう変装じょそうはしたくない」といちまさんみたいに可愛かった「おセイちゃん」の姿になるのを拒否するようになったため、可愛いお着物を着せたい欲が輝夜かぐやに向いている模様。
『フン、そう思うんならおかかをもっと増量しなよ』
「はいはい」
『……まあ、最近は相手さえしてやりゃあ機嫌がいいからね。初めほど恐怖感はないよ』
「それならよかった」
神使としてセイに仕える四神獣の皆様は魔獣の輝夜かぐやからしてみれば「おっかない」存在のようで、初めの頃は大変だったものね。
でも同じような聖獣の黒銀くろがね真白ましろに対してはそこまで恐怖を感じないのはなぜかしら?
『神に近い存在のやつらとこいつらじゃ、格ってモンが違うんだよ。本能的なモンだからうまく説明できないけど……』
「うーん、わかったようなわからないような……」
『矮小な獣に成り下がったお主に舐められるような我ではないぞ?』
『おれだって』
聞き捨てならないとばかりに二人がゆらりと立ち上がり、輝夜かぐやに威圧する。
『……ッ!』
悲鳴こそ上げないものの、毛を逆立てる輝夜かぐやを落ち着かせるように撫でる。
「こら、二人ともケンカはダメって言ってるでしょう?」
二人をメッとしかると渋々とばかりに座り込んだ。
『我らはやつらよりも聖獣になったのが遥かに後ゆえ仕方あるまい』
『だね。でも、くりすてあをまもるためならやつらとだってたたかうからね』
『無論だ』
「いや戦う理由も必要もないからね⁉︎」
どうして君たちはそんなに好戦的なの⁉︎
白虎様やレオン様はすごく余裕がある感じなのにな。
……そこらへんが格の違いってやつなのかしら。
そんなことを考えていると、何かを察したのか二人が拗ねてしまったのでマッサージも追加するはめになってしまった。
……つ、疲れたぁ……!
正直採取より大変だったかもしれない……
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