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邂逅?

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夕食の準備が終わり、マリエルちゃんがルビィを呼びにいっている間に、私も輝夜かぐやを迎えに部屋に戻った。
輝夜かぐやは昼間、朱雀様の着せ替えごっこにさんざん付き合わされたとかで、部屋に戻った時はぐったりしていた。
食堂に行くことすら億劫な様子だったけれど、からあげと聞いて渋々とはいえ重い腰を上げたので、せめてもと私が抱っこして連れて行くことにした。
輝夜かぐやは普段あまり抱っこさせてくれないので、私としては久々にもふれて役得だったりする。
「あのね、今日は新しい仲間が増えたから歓迎会をしようと思ってるの」
『はあ⁉︎ 新入り?』
「そうよ。私のお友達のマリエルさんがカーバンクルを召喚して、そのまま契約に至ったの。それで、今日から特別寮ここに転寮になったから皆で歓迎しようと思って」
『……ちょっと待った。何を召喚したって?』
私の腕の中でだるそうにしていた輝夜かぐやがピクリと反応して私を見た。
「え……? カーバンクルだけど」
私が答えると輝夜かぐやはさもいやそうに鼻に皺を寄せた。
『カーバンクルなんて性悪と契約するなんて、何考えてるんだか。マリエルってあの小娘だろう? いいように使われるのがオチさ。アンタも巻き込まれないようにしなよ? アタシはヤツと関わるのは真っ平ごめんだからね!』
輝夜かぐやはカーバンクルを知ってるの?」
『……昔、ちょっとね。まあ、そいつとは限らないがカーバンクルってのはどいつも同じようなもんだろうさ』
それ以上は言いたくないとばかりに私の肩に顎を乗せて尻尾をパタパタと私の手に叩きつけた。
輝夜かぐやとカーバンクルの間で何ならあったみたいだけど、こういう時の輝夜かぐやが何も答えてくれないのは今までの経験からわかっている。
もう少し打ち解けてくれてもいいのに。
『いいから、早くからあげのところに連れて行きなよ』
「はいはい」
私はため息を吐いて食堂へ向かった。

私が食堂で輝夜かぐやを床に下ろしてから間も無くしてマリエルちゃんがルビィをだっこした状態でやってきた。
「お、お待たせしました……」
「お待たせしてごめんなさぁい! おめかしに手間どっちゃって」
そういうルビィを見ると、着ているベストの柄が変わっていて、首元には蝶ネクタイが。
ルビィは特に手荷物なんて持ってなかったはず。……てことは、インベントリ持ちってことかな?
「いいえ、私も輝夜かぐやを連れて戻ったばかりですから」
輝夜かぐや? ああ、アナタ魔獣とも契約してたんだったわね……て、何このチンケな黒猫。これが魔獣? 嘘でしょ?」
ルビィは私の足元にいた輝夜かぐやを見て驚いたように言った。
『はあ⁉︎ アタシのことを馬鹿にしてんのかい⁉︎』
フシャーッ! と威嚇する輝夜かぐやを見て、ルビィはふふんと鼻で笑いながらマリエルの手から飛び降り、輝夜かぐやの目の前で踏ん反り返った。
「だってアンタ、大した魔力を持ってないじゃないの。ああ、その首輪、魔導具なのね……て、なんだ。悪さをしてそのザマなのね」
ルビィが輝夜かぐやをじいっと見つめると、額の魔石がゆらりと光りはじめた。
「ふーん。でも契約してからはいい生活してるみたいじゃない。感謝してるならツンケンしてないで、ちゃんとご主人様に仕えないと捨てられちゃうわよぉ?」
『な……! よ、余計なお世話だよ!』
フシャーッと輝夜かぐやの毛が逆立つ。 え、輝夜かぐや感謝してるって本当⁉︎
問い詰めたいけれど、絶対に答えてくれないだろうな……ただでさえ気が立っているみたいだし……うう。輝夜かぐやのデレがレアすぎて。もっとデレていいのよ?
「どうせ今のアンタは攻撃できないんだから無駄な威嚇はおやめなさいな。それに、前の姿に戻ったって、アタシには爪一本触れられやしなかったじゃなーい?」
オーホホホ! と高笑いするルビィに、輝夜かぐやはさらに毛を逆立てた。
『テメェやっぱり、あの時の……ッ⁉︎』
「あんまりにもチンケな姿になってたからすぐには気づかなかったけど、久しぶりねぇ? 元気だった?」
『ンなわけないだろッ! テメェのせいで……ッ』
輝夜かぐや⁉︎」
輝夜かぐやは我慢しきれなかったようで、バッとルビィに飛びかかろとした瞬間に魔導具が発動し、パタリとその場に頽れた。
魔導具によって魔力がギリギリまで吸い取られてしまったようで、尻尾すらピクリとも動かない。
『ち、ちくしょう……』
輝夜かぐや!」
私は慌てて駆け寄って輝夜かぐやを抱き上げ、ゆっくりと魔力を注ぐ。
一気に魔力を注ぐと身体に負担がかかるそうなので、もどかしく思いながらも魔力を注ぐと、少し楽になったらしく、呼吸が落ち着いてきた。よかった……
「オーホホホ! 相変わらずおバカさんねぇ? そんなんだから……痛っ⁉︎」
高笑いするルビィの頭をビシッとチョップしたのはマリエルちゃんだった。
「何すんのよ⁉︎」
「私の大事なお友達の契約獣に失礼な態度は許しません! ちゃんと謝らないとごはん抜きです!」
「はあ? なんでそんな……て、何あれ?」
マリエルちゃんが怒りを滲ませながら指差し、ルビィがポカンと見つめる先には、マリエルちゃん渾身の作、ポテトサラダのボディが葉野菜のドレスを纏った、緑の妖精サラダがあった。
「ルビィを歓迎するために作ったサラダです。でも、こんなことする子にはあげません!」
「やだちょっと! すごくおしゃれじゃないの! え、あれ本当にサラダ⁉︎ ちょ、あれはアタシが食べるべきじゃないの! それをくれないなんてひどくない⁉︎」
「食べたいなら、輝夜かぐやちゃんに誠意を持って謝ってください! じゃないとあげません!」
『か、輝夜かぐやちゃん……?』
輝夜かぐや、唖然とするポイントはそこじゃないわよ。
マリエルちゃんが、毅然とした態度でルビィを叱るのを見て驚いた。いいなりになってしまうのではないかと心配したのは杞憂だったみたい。
「わ、わかったわよ……ええと、今は輝夜かぐやだっけ? あの時も今のことも……ごめんなさい。アタシが悪かったわ」
輝夜かぐやはペコリと頭を下げて謝罪するルビィをぐったりしながら見つめ、プイとそっぽを向いた。
「……反省してるなら許してやらなくもない。あの時はアタシもアンタのことをみくびっていたからね。アタシも油断してたのさ」
そっぽを向いた顔は私からはばっちり見えていた。
許すのは不本意だけど、素直に謝られるのは照れ臭いような、そんな気配を感じた。
「ルビィ、輝夜かぐやとは以前に何かあったようだけど、ここではお互い契約獣同士仲良くしてね。ちなみに、我が家ではケンカしたらごはん抜きなんだけど……」
「あ、じゃあうちもそうします」
私の発言にマリエルちゃんが乗っかった。
「えぇ⁉︎ あ、あらイヤだわ。ワタシ、ケンカなんてしないわよぉ? オホホ……」
ごはん抜きの言葉に反発しそうになったルビィだけど、マリエルちゃんの冷ややかな視線にピャッと飛び上がった。
「勝手に人の心を読んだり、それを利用して相手を陥れるのもダメですからね!」
「うぐっ! わかったわよ……」
マリエルちゃんの追撃でルビィは渋々ながらも了承。よしよし。
どうやら輝夜かぐやが以前遭遇したのはルビィだった様子。
そしてマリエルちゃんの発言や輝夜かぐやとのやりとりから見てルビィの能力は相手の心や記憶を読むってことなのかしら?
輝夜かぐやも、変な挑発には乗らないこと。今みたいに私がすぐ助けられるとは限らないんだから」
『……ふん、わかったよ』
やれやれ。久しぶりの魔力枯渇だから、これで懲りてくれたらいいんだけど。
『まあ今回は……助かったよ』
「えっ?」
『ふん!』
意外な言葉に思わず聞き返したけれど盛大にそっぽを向かれてしまった。
か、か、輝夜かぐやがデレたー!
「ふふっ」
嬉しくて思わず輝夜かぐやを抱き上げると、思いっきり身体を反らして腕の中から抜け出してしまった。
ああ……久々のデレは一瞬だった……

「なあ、解決したんならもう食べようぜ。腹減った~」
白虎様の言葉でハッとした私たちは、その場にいた皆に騒動を詫びて席についた。
ちょっとしたゴタゴタはあったものの、歓迎会ははじまった。
「いやーん! 可愛い! 毎回とは言わないけれど、こういうのたまには作ってよね!」
ルビィはお皿をくるくると回しながらサラダをあらゆる角度から観察した後、サラダを食べ始めた。
マリエルちゃんはその様子を固唾を飲んで見守っていたけれど、機嫌良く食べるルビィの姿にホッとしていた。
「よかった……暗黒物質にならなくて」
……マリエルちゃん、今なんて?
安心したマリエルちゃんは、からあげとポテトサラダでお皿を山盛りにしてモグモグと食べはじめた。
その様子を皆が呆気に取られて見ていたけれど、自分の取り分が減るとばかりに皆も我先にとからあげやポテトサラダを食べはじめる。
見た目に反して、マリエルちゃんってよく食べるからねぇ……特別寮に食いしん坊が追加加入だよ。
ニール先生の分まで食べ尽くされそうになったので、私は慌てて先生の分を確保するのだった。
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