上 下
229 / 371
連載

おやつを作りましょう!

しおりを挟む
さてと、マリエルちゃんも手伝えるようなおやつ……何にしようかな?
あまり時間をかけずにできるもの……そうだ。
私はインベントリからあるものを取り出した。
「え、じゃがいも……?」
マリエルちゃんが首を傾げる。
「そうよ、このじゃがいもでフライドポテトを作ります!」
新じゃがの時にインベントリに収納しておいたものだから、皮ごと使ったフライドポテトにすればいいかな。
「フライドポテト! 大好きですー!」
マリエルちゃんは、わあい! とはしゃいでじゃがいもを見つめる。
「……でも、これをどうするんです? まさか……」
「洗って、カットして、油で揚げます」
「や、やややっぱり……じゃがいもから作るんですね⁉︎」
いや、フライドポテトなんだからじゃがいもから作るに決まってるでしょ?
何から錬成するつくるつもりだったの……?
「洗うのはともかくとして……カットして揚げるとか……そんな、高難易度なこと……」
マリエルちゃんが青い顔をしてブルブル震え出した。
「高難易度って……揚げ物は苦手な人にとっては難しく感じるかもしれないけれど、そんなに大変なことじゃないわよ?」
「クリステアさん、さては料理中にボヤを起こしたことありませんね……?」
「え、ボヤを起こしたこと……あるの?」
マリエルちゃんはこくりと頷く。マジか。
「料理漫画の真似をして、野菜炒めでフランベってやつを試してみたんです。そしたら、火柱が上がって……ふふ……へへへ」
マリエルちゃんが前世を思い出したのか、遠い目をしている。おーい、帰ってきてー!
「わかった。揚げるのは私がやるから! 洗うのとカットを手伝って。ね?」
それなら火事にはならないから。
「カット……クリステアさんは、流血事件を起こしたことは……?」
「あああああ! わかった! わかりました! とにかくじゃがいもを洗うのを手伝って、ね?」
「はい……」
マリエルちゃんに私の割烹着の予備を装着させ、シンクでじゃがいもを洗ってもらう。
マリエルちゃんの料理音痴は深刻そうね……
「クリステアさん、できました!」
きれいに洗い上げたじゃがいもをザルに入れたマリエルちゃんは、ふんす! と鼻息荒くザルを掲げた。
「ええと、それじゃあカットだけど……」
「わかりました。……私、皮むきは指を落とす覚悟で頑張ります!」
「いや、そんな覚悟は要らないからね⁉︎ これは新じゃがだから、皮ごと使うから!」
「あ、なんだ……よかったぁ」
マリエルちゃんは安心したように肩の力を抜いた。
なんでじゃがいもの皮むきごときで指を詰める覚悟がいるのよ⁉︎
マリエルちゃん……なんて恐ろしい子!
「じゃ、じゃあ私がカットするわね……」
じゃがいもをくし切りにして、アク抜きのために水を張ったボウルに入れてさらし、10分程度経ったら取り出して水気を取っておく。
私がカットして、マリエルちゃんがせっせとボウルに移し、黒銀くろがねや真白が先にさらしておいた分の水気を風魔法で吹き飛ばすという作業を繰り返し、たくさん準備できたところで揚げ油の用意だ。
「つ、ついに油の出番……ッ」
マリエルちゃんは黒銀くろがねの後ろに隠れてビクビクしながらこちらを見ている。
「そんなに怯えなくても……今回はそんなに油を使わないから大丈夫よ」
フライパンにポテトが少し浸るくらいの高さまで油を入れて揚げ焼きにしていくのだ。
ジュワワワワ……
ふわぁ……そういえばフライドポテトは久々かも。
揚げ物の香りってどうしてこうも食欲をそそるのかしら。
ポテトがキツネ色に揚がったら、紙を敷いたバットにポテトを上げていく。
パラパラと塩をふって、完成!
「できたての試食は作った人の特権よ。さあ、どうぞ」
試食用のポテトを差し出すと、マリエルちゃんや黒銀くろがねたちが我先にとポテトを頬張った。
「ふわああぁ……ホックホクで、美味しいぃ……!」
「うむ。久々に食べるが、やはりできたては格別だな」
「うん! いくらでもたべられそう……」
皆がうっとりもぐもぐ味わっているのを見てから、私も一つ……ぱくり。
はあ……いいわあ……!
マリエルちゃんの言うとおり、ホックホクの熱々で美味しい!
「さあ、じゃんじゃん揚げていくわよ!」
冷めないよう残りはインベントリに入れて、次々に揚げていく。
収納した瞬間、マリエルちゃんたちが「あ……」って、残念そうな顔をしたけれど、ここでつまみ食いしてたらそれだけでお腹いっぱいになっちゃうからね。
談話室にも腹ペコ男子たちが待ってるんだから、早く持っていってあげなくちゃ。

「お待たせしました!」
談話室に入る直前にインベントリからフライドポテトを取り出してワゴンに乗せたので熱々の状態だ。
フライドポテトに添えたのはケチャップ、マスタード。それからマリエルちゃんのリクエストでマヨネーズも用意した。
「こ、これは……?」
エイディー様は初めて見るフライドポテトの山に戸惑っている。
「これはフライドポテトといって、じゃがいもを切って油で揚げて塩をふったものですわ。こうして指でつまんで食べるのです」
私が実際に食べて見せると、エイディー様はごくりと喉を鳴らし、ポテトをひとつつまみ上げた。
「あ、熱い……?」
「これは熱いうちにいただくのが美味しいのです。さあ、どうぞ」
皆が次々にポテトを手に取り口に運んでいるのをキョロキョロと見ていたエイディー様は、意を決したようにポテトを口に放り込んだ。
「……! 熱っ! でも美味うまっ!」
キラキラお目目がフライドポテトをロックオンしたかと思うと、数本まとめてつまみあげて頬張り、モッシャモッシャと咀嚼しはじめた。
よかった、気に入ったみたい。
あ、そうそう、これもおすすめしなきゃ。
「そのままでも美味しいのですが、このケチャップやマスタードをつけても美味しいですよ?」
「マヨネーズもおすすめです!」
私がケチャップやマスタードを小皿に取ってエイディー様に勧めると、すかさずマリエルちゃんがマヨネーズもプッシュしてきた。
「あ、それからこのマヨネーズとケチャップを混ぜて……はい! これもおすすめです!」
……オーロラソースまで。
マリエルちゃんのマヨネーズ推しがすごい。
「ん! これ、どれをつけても美味い!」
色んな味で変化がつけられるので、エイディー様の手が止まる気配がない。
あんまり食べすぎると喉が渇いちゃうよ……と思ったところでミリアがお茶のおかわりを注いでくれた。さすがミリア。
「俺らも負けちゃいらんねーな!」
白虎様たちもエイディー様の勢いに負けじと参戦したので、たくさん揚げたはずのフライドポテトはあっという間になくなってしまった。
「はー……美味かったなぁ。なあ、これまた食いにきていい?」
空になったお皿を指してエイディー様が言う。
「そうですね……今回はお客様としておもてなししましたけれど、次回からは友人としてお手伝いいただきますよ? 特別寮のモットーは『働かざるもの食うべからず』ですので」
「俺も……これを作るのを手伝うのか?」
「はい」
毎回おやつ目当てに遊びに来られても困るからね。嫌なら来なくていいのよ?
集まっておしゃべりするだけならカフェテリアやサロン棟だってあるんだから。
ある程度線引きしなきゃ、これが当たり前だと思われたくないものね。
「やったー! やるやる! 作り方を覚えたら、家でもこれが食べられるんだろ? 絶対手伝う!」
「えっ? あ、はい……」
え、いいんだ? おぼっちゃまだから料理やお手伝いなんて嫌がるかと思ったのに。
「ど、どうしよう……女子力で男子に負けてしまう……」
マリエルちゃん、ボソッと発言しているけれど貴女の場合、それ以前の問題だからね……?
エイディー様は嬉しそうに立ち上がり、マリエルちゃんに手を差し伸べた。
「じゃあまたくる! マリエル嬢、そろそろ寮に戻る時間だから一緒に帰ろうぜ!」
「ふえっ⁉︎ は、はひっ? い、いっひょにでふか?」
マリエルちゃん……可愛いのに本当に残念な子だよ……可愛いからいいけど。
「どうせ帰り道は一緒だし、すぐそこだからさ、行こうぜ!」
「は、はいぃ!」
エイディー様はそろそろと出したマリエルちゃんの手をつかみグイッと立ち上がらせ、玄関に向かった。え、強引だな⁉︎
慌てて私たちもその後に続いて玄関に向かい、二人を見送ったのだった。
……乙女ゲームならエイディー様は強引系の俺様脳筋キャラって感じだわね。
二人並んで寮に向かう後ろ姿は幼くも微笑ましいカップルにも見えるけれど……残念だったな、片方は残念腐令嬢だ。
きっとエイディー様と二人きりで返答するのにテンパりながらも「このシチュエーションならああしてこうなって……ぐふふ」とか考えてるに違いない。うん。
前世の友人がそうだったからね……(遠い目)

---------------------------
コミカライズ版、文庫版ともに「転生令嬢は庶民の味に飢えている」三巻が発売中です!
どちらも書き下ろし番外編がおまけについていますので、お楽しみいただけると思いますのでぜひぜひ~!( ´ ▽ ` )
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。