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寮に戻りましょう!

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その日の夕食は、コカトリスの肉が手に入ったとのことで唐揚げになった。
お昼がこってり系だったから、もう少しあっさり目でも良かったんだけど……お父様もお兄様も美味しそうに召し上がっているようだからいいか。
お母様も揚げ物にはレモンや柑橘系の果汁をかけるとさっぱりして美味しくいただけますよとアドバイスしてからはさらに食べるペースが上がったように感じるんだけど、だ、大丈夫かな……
外では淑女として少食らしいお母様も、自宅では結構しっかり食べてるのよね。
この世界の貴族って健啖家が多いのかも。
それというのも、魔力を使いすぎると貧血みたいな症状になるんだけど、その予防としてカロリーの多いものをガッツリ食べる、というのがあるのよ。
食べ物には多少なりとも魔力があって、魔物のお肉なんかは特に効果が高いみたい。
黒銀くろがね真白ましろの話によると、私が作った料理にも魔力が込められているみたいだから、料理人に魔力があればその影響もあるのかもしれない。
子どもの頃は魔力操作が未熟なことと、魔力量を増やすためにあれこれやるせいで魔力切れになる子が多いから、食事やおやつは結構カロリー高めなのよね。
大人になると自分でしっかりコントロールできるから、よっぽどのことじゃないと倒れはしないけど、子供の頃の習慣もあってカロリー高めの食事が多かったみたい。
外で淑女があまり食べないのは「ワタクシには守ってくれる旦那様や親がいるから、ガツガツいただく必要ありませんのよ~ホホホ」という、庇護者がいるのよっていう周囲へのアピールみたい。
まあ、そうは言っても魔力を全く使わないってことはないから、自宅ではしっかり食べていると思うけど……
そんなわけで、コカトリスの唐揚げは瞬く間に皆の胃袋に収まったのだった。

翌日、料理長にお願いしていた炊きたてご飯や食材をインベントリに収納し、身支度を整えた私は寮に戻るべく馬車に乗り込もうとしていた。
「クリステア、まだ戻るには早いのではないか?」
お父様が名残惜しそうに引きとめる。
後ろのほうで料理長が大きく頷いているけれど、気にしたら負けだ。
「はあ……父上がそう仰るから、お茶の時間までいたのではないですか」
お兄様が呆れたように言った。
「急いで寮を出てきたので、戻ったら明日の準備をしなくてはならないんですよ。ね、テア」
「え、ええ。私も予習がありますので……」
「む、それならば仕方あるまい。また近いうちに帰ってきなさい。来週はどうだ?」
「あなた。私たちが学生の頃は頻繁に帰ったりはしてませんでしたでしょう?」
お母様がお父様を嗜めた。
「しかしだな……」
「あ な た?」
「う……な、何かあればすぐに帰りなさい。いいな?」
あ、お母様の笑顔の迫力に負けた。
それでも粘るのがすごいけど……
「はい。では、いってまいります」
お兄様がこれ以上付き合っていられないとばかりに私を馬車に押し込み、自分も続いて乗り込む。
ミリアたちも乗り込むと、馬車はゆるやかに走り始めた。

「セイたちはバステア商会の近くまで迎えに行けばいいんだね?」
「はい。店の近くに馬車を停めて、黒銀くろがねが店まで迎えに行くことにしております」
公爵家の家紋入りの大きな馬車で店の前に乗り付けたら目立つし、店の迷惑になるからね。
「昨夜のうちに白虎と話をつけておいた。いつでも出られるように支度しているはずだ」
黒銀くろがねが補足してくれた。
一応屋敷を出る前に、白虎様に念話でお知らせもしておいたし、店の近くに着いたらまた念話すると伝えたから、乗り込みはスムーズに行われるだろう。
馬車は商人街に向けてガラガラと駆けていった。

商人街のメインストリートに入ると、まだまだ日が高いこともあって、商人やその客たちでごった返していた。
貴族の馬車とわかると皆サッと道の端に避けていくのだけど、人や馬車でいっぱいだから先へ進もうにもスイスイというわけにはいかない。
貴族街よりも幾分スピードを落としつつ、バステア商会近くにある馬車の停留場にすべりこんだ。
前世でいうところの有料駐車場みたいなところなんだけど、馬車を停めるのとは別に代金を払えば、馬に水や餌、ブラッシングなどのメンテナンスを用事を済ませている間にしてくれるのよ。
うちの馬車はセイのお迎えのためだけに停めるから、駐車料金とチップを払って馬車が出しやすい位置に誘導してもらった。
私は白虎様に念話で到着を告げると『わかった』と即座に返事がきたので、さほど時間もかからず出発できそうだ。
「すぐに戻る」
黒銀くろがねはそう言って素早く馬車から降り、颯爽とした足取りでバステア商会へ向かった。
黒銀くろがねが通ると、女の人は見惚れて後ろ姿を見送っていた。
人の姿の黒銀くろがねはイケメンだからねぇ。
ぼんやりと黒銀くろがねがバステア商会に入って行くのを見ていると、数分もしないうちに黒銀くろがねがセイ達を連れて戻ってきた。
皆が揃ったのを確認して、お兄様が御者に出すように告げると、馬車は再び学園に向けて走り出した。
「早かったわね」
「ああ、此奴ら店の中で待っておったのでな」
「今日は道が混んでいるから、すぐに出たほうがいいと思って」
セイが小虎姿に変化した白虎様を膝に乗せて、ふうと息を吐いた。
「セイはこの週末ゆっくりできた?」
「え? ああ、まあ……」
セイは曖昧に笑った。
そっか……セイにとってはバステア商会も仮の住まいなのだから、自宅でのんびりリラックス、というわけにはいかなかったのだろう。
「クリステア嬢はどうなんだ?」
「私? 私はまあ……いつも通りというか……」
私が料理長の話をすると、セイだけではなくお兄様まで渋い顔をした。
「テア。寮だけではなく屋敷でも困ったことは僕か父上にちゃんと相談するんだ。いいね?」
「は、はい。でも被害があったわけではなく、来るかもわからないのに待たせているのは少々申し訳なくて」
「彼が勝手にしていることなんだからそこは気にしなくてもいい。テアが不快に感じているなら父上に解雇を進言して……」
お兄様がすぐにでも対策しそうになるのを慌てて止める。
「いえ、大丈夫です! 料理長の腕は素晴らしいものですし、彼を解雇したら我が家の損失に繋がります!」
「しかし……」
「何かあれば必ずお兄様に相談しますから!」
必死に止めた結果、料理長のクビは免れた。
うっかり話題に出してしまったせいで、危うく料理長の人生を狂わせるところだった。
「クリステア嬢は、学園でも屋敷でも色々と大変なのだな……」
「あはは……」
いや、大変さの度合いから言えば、セイの方が上をいくからね?
お兄様の様子を伺いつつ、私に同情の目を向けるのはやめてね?

そうこうするうちに、学園の門まで着いた。
週末に王都の自宅に帰ったり、商人街に買い物に出かけたらしい生徒たちが乗り合い馬車の停留所から学園の門へ歩いていく横を通り過ぎたものだから「あっ! エリスフィード公爵家の馬車だ!」とか「あ、あれ! 聖獣様じゃない⁉︎」とか声を上げる生徒がいて、結局目立ってしまった。
門で降りようとすると、門番から「学園長から許可をいただいておりますので、寮の前まで向かって結構です」と告げられ、私たちはそのまま馬車で特別寮の前まで向かった。
本来なら、入寮・退寮時以外の自家用の馬車での乗り入れは禁止なんだけどね。
他の生徒がいる中で降りるのは危険だと判断されたようで、学園長の計らいで許可されたそうな。ありがたやー。
特別寮の前は先日とは違って、人の気配はなかった。
ニール先生の姿も見当たらない。
まあ、ずっと外で見張っているわけないわよね。
男子寮や女子寮から何人か生徒が出てきてこちらの様子を伺っていたけれど、駆け寄ってくることはなかった。
ニール先生の取り締まりが効いたのだろうか。

私たちは素早く馬車から降りて寮の扉を開け、そこからお兄様が男子寮に戻るのを見送った。
お兄様が男子寮の前で馬車を降り、こちらに手を振るのを確認した私は、手を振り返して寮に入ったのだった。

「かーっ、やっと着いたかぁ」
セイの腕から飛び降りた白虎様が即座に人化し、大きな伸びをした。
真白ましろは……人化しないでそのまま私の横をポテポテと歩いている。
くっ、可愛い……!
「あー、腹減ったなあ……なあ、お嬢。これからメシ作るよな?」
白虎様がお腹を押さえながら、いかにも腹ペコといった様子で私を見た。
「ああ、それでしたら……今日は我が家の料理人が拵えたお弁当がありますからそれをいただきましょう。皆さんの分もありますよ」
私はインベントリからバスケットを取り出して見せた。
「お! やった! んじゃ今から食堂に行って食おうぜ!」
「お前は……!」
セイが白虎様を叱ろうとしたところで、くうぅ……とセイのお腹の虫が鳴った。
あ、顔が真っ赤になっちゃった。
「なぁんだよ。お前も腹減ってんじゃん」
「やかましい!」
「いでぇっ!」
セイの鉄扇が白虎様のお腹にクリーンヒットした。セイの照れ隠しのキレがすごい。
「ふふふ、じゃあ皆で食堂にいきましょうか」
「……ああ、すまないが馳走になる」
セイはくるっと踵を返してスタスタと心持ち早足で食堂に向かってしまった。
男の子に可愛いって言ったら失礼かもだけど、頑張って大人ぶろうとしてるのを見るとなんだか微笑ましいわよね。
私はセイの赤い顔がおさまるように、ゆっくりとした足取りで食堂に向かったのだった。
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