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聖女……聖女?

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「それではニール先生、できるだけ早く厨房を片付けてくださいね」
ニール先生の食事が終わり、席を立つタイミングで、私はにこっと笑いながら念押しした。
「……善処するよ」
あっ、目をそらした。
これはうやむやにされそうな予感がする。
むむむ……とニール先生を見つめる私に気づいた黒銀くろがねがテーブルを指でトントン……と叩きながら言った。
「ニールよ、主の希望を叶えるべく、可及的速やかに処理するように。主の願いはすなわち我々の願いでもあるのでな」
「そうだよ。さっさとしないとぜーんぶすてちゃうからね?」
「……はい!」
真白ましろにも念を押されたニール先生は、聖獣である二人の機嫌を損ねては大変だ! とばかりにとてもよい返事をしてくれた。
……白虎様と朱雀様がうんうんと頷いているのは……やっぱり見なかったことにしよう。
あの二人、隠す気ないんじゃないかな?

ニール先生がそそくさと部屋を出ていくと、白虎様が会議室内に結界を張った。
相変わらず自然にやっちゃいますね⁉︎
「お嬢~! なんか美味いモンくれ!」
私たちの対面の席に着いていた白虎様は机に突っ伏すようにして手を伸ばした。
ミリアには事情を説明済みと思って油断しまくりじゃないですかね、白虎様?
「トラ、いい加減にせんか!」
「あだっ⁉︎」
久々にズバッとセイの鉄扇がヒットし、白虎様は頭を抱えた。い、痛そう……
「いつもいつも、お前という奴は……クリステア嬢に迷惑をかけてはいかんとあれほど……」
「だってよぉ、ここんとこずっと不味いメシばっかでうんざりしてたんだよ。お前だってため息ついてたの知ってんだからな?」
「……っ! うるさい!」
「いでででで! 本当のことだろぉ?」
白虎様に暴露されたセイは少し顔を赤らめて握りしめた鉄扇をグリグリと白虎様の頭に押し付けた。うう、痛そう……
「そうですわ、主だってここの料理に辟易なさっていたではありませんか。私もこんな食生活では自慢の羽がパサついてしまいそうですわ……」
朱雀様はしょんぼりしながら燃えるような赤毛をいじっている。
……それ、羽毛じゃないよね? え? まさかそれ羽毛なの?

「そ、それよりも! ミリア殿には今まで欺いていたことを謝りたい! 事情があったこととはいえ、性別を偽り黙っていたこと、本当に申し訳なかった!」
セイがガタン!と立ち上がり、ミリアに向かってビシッと頭を下げた。
ミリアは突然のことに驚いた様子だったけれど、すぐに気を取り直してしゃんと姿勢を正した。
「私に謝罪など不要です。先ほどクリステア様から深い事情があってやむを得なかったことと伺っております。それにセイ様が訪問される日、クリステア様はいつも楽しそうにしていらっしゃいました。そんな方が悪人であるわけがございませんから」
そう言って微笑むミリア。
……うちのミリア、天使……いや、聖女かな? 女神かもしれない。
お父様に掛け合って、お布施という名の給料アップしてもらわないといけないわね。

「ありがとう……同じ寮で過ごす友でもあるので、これからもよろしく頼みます」
セイはほっとした様子でそう言った。
「故郷を離れてご不便もございましょう。私でお手伝いできることがありましたらご協力いたします」
「それは、ありがた……」
「ただし。これからは外聞もございますし、節度のある距離でおつきあいくださいね? クリステア様を悲しませたり困らせたりすることは決してございませんよう」
ミリアは聖女のような微笑みのまま言ったのだけれど……なんだろう、この圧力。
なんというか「うちの子に手を出したら許しまへんえ?」みたいな迫力が……
「え、ええ。もちろんだ」
セイがヒクッと顔を若干引きつらせながら答える横で、なぜか白虎様がニヤニヤと笑って見ている。悪い笑顔だなぁ……
「白虎様も」
「は? え?」
ミリアは笑顔のまま白虎様に矛先を向けた。
白虎様その迫力に、思わず姿勢よく椅子に座り直す。
「クリステア様を困らせることがないよう、くれぐれも……そう、くれぐれもお願いいたしますね?」
「お……おう」
ミリアの迫力に白虎様もタジタジの様子。
……ミリアさん? あれ? 聖女……だよ……ね?

あとからミリアから聞いたところによると「白虎様が駄々をこねる弟妹によく似ていたものですから……つい」だそうで。
ミリア、実は怒らせたら怖いものね……私も気をつけないと。

ミリアの迫力に気圧された二人がちょっと気の毒になった私は、ミリアにお茶を淹れるように頼み、デザートとしてプリンを振る舞った。
「嗚呼っ⁉︎ プリンではないですか……! クリステア様、ありがとうございますわ……! はぁん、幸せ……」
朱雀様はうるうると目を潤ませ、おしいただくようにして受け取った。
そ、そこまで感激しなくても……と正直引いてしまったのだけれど、喜んでもらえたのならよかった。
ただ、黒銀くろがね真白ましろが「主は奴らに甘すぎる」「そうだそうだ」と拗ねていたので、後でじっくりブラッシングしてあげないとだけど……

「クリステア嬢、先ほどニール先生と話していた厨房のことだが、ここでも料理するつもりなのか?」
セイが大事そうにプリンを食べながら聞いてきた。
「ええ。やっぱりあの食事を続けるのは正直つらいなと思って。食材は用意してもらえるそうだから、簡単なものなら作るし、厨房ならインベントリのストックも出しやすいでしょう?」
学生の本分はやはり勉学であるからして、今までのように料理ばかりしているわけにはいかないだろうからね。
幸い、ストックがあるからそれを小出しにするにしても厨房のほうが温め直しやアレンジなどがしやすいだろうし。
それに、会議室で食事をするのって、ちょっと味気なく感じていたよのね。
厨房があるなら食堂が隣接されているはずだし、そこも使いやすくして皆で食べられたらいいなぁと思ったのだ。
「なあなあ、お嬢。それって俺たちも食えるのか?」
「トラ! お前はまた……!」
「えー? いいじゃん。これからは俺も作るの手伝うからよぉ。なんなら食材調達だってしてやるし」
せ、聖獣……いや、白虎様たちの故郷ヤハトゥールでは神獣様が、料理のお手伝い?
……って、黒銀くろがね真白ましろに散々手伝わせてる私が言えた義理じゃないか。
「ふふ。もちろんご馳走するつもりではおりましたけれど、お手伝いいただけたら助かります。それに、働かざるもの食うべからず、ですからね」
私がそう言うと、白虎様はガッツポーズで喜んだ。
「ぃよっしゃ! じゃ、決まりな!」
「わ、私ももちろん手伝いますわよ!」
白虎様の声に朱雀様が慌てて続いた。
「お、俺は……」
セイが「働かざるもの食うべからず」と言う私の言葉に、戸惑いながら口ごもった。
うーん、セイはお料理なんてしたことなさそうだものね。
ヤハトゥールでは「男子厨房に入らず」ってやつなのかも。
シンの場合は、お父様は冒険者だったし、同じく冒険者のお母様と一緒に家族で旅をしていたこともあるから料理することに抵抗はなかったみたいだったから参考にならないしなぁ。
「俺も……て、手伝わせてくれ。自分で食べるものを作れないようでは、これから困ることもあるだろうからな」
そ、そんな覚悟を決めた!みたいな顔で言わなくても……
なんだかおかしくなってしまって、ついつい笑ってしまった。
「あはは……じゃあ、簡単なものからお願いするわね。とりあえずは、厨房をきれいにするところからね」
「お……おう!」
幸い、入学式までの数日間は外出もままならないだろうからちょうどいい。
学園での食生活向上のために頑張るとしましょうか!

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予告しておりました四巻発売に伴うWEB連載該当話の引き下げを7/15にいたしました。
お読みいただき、ありがとうございました。
四巻は最終巻ということもあり、加筆修正、新エピソードも頑張りましたのでぜひお読みいただければ幸いです!
四巻に関する情報はTwitterや近況にて報告していく予定ですのでよろしくお願いいたします。
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