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圧力に負けました。

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完成したばかりのソーセージのお披露目は、その日の夕食の時間となった。
「ほう、これが例の……」
お父様には今回どんなものを作るのか、作っても大丈夫なのかを相談しているので、材料については把握している。
内臓を使った料理かと口にしなかったのは、材料が何か知らないお母様への配慮なのだろう。
「ええ、ソーセージといいます。まずは、切らずにそのまま、何もつけずに召し上がってくださいませ。その後はお好みでケチャップやマスタードなどをつけてどうぞ」
「うむ。まずは何もつけずに……」
お父様はフォークを取りソーセージにプツリと刺すと、そのまま口へと運んだ。
「む……!」
噛み切った瞬間に肉汁が溢れ出たのだろう。目を見開き驚いた様子を見せるも、口中の旨味を逃さまいと無言で咀嚼していた。飲み込むのも惜しいかのように目を閉じ堪能していたようだけれど、ついにごくりと飲み込み、ふう……と一息ついた。
「なんと……肉の脂と旨味が凝縮したものが、広がり……まるで口の中で踊っているかのようだ」
んん? 詩的な表現すぎて、イマイチわかりにくいけれど、気に入ったってことでいい……のかな?
お父様の感じ入った様子を見て、お母様も恐る恐るソーセージを口にした。
「……!」
お母様も驚いた様子を見せると、口元を指先で覆い、目を閉じてゆっくりと味わい始めた。
「……なんてすごいの。噛み切った瞬間に旨味が踊り出してきたわ……なんて幸せなダンスなんでしょう」
……お母様、お父様の感想に寄せてきましたね。これも、美味しかったってことでいい……のよね?
「次はケチャップと……これは、マ……?」
「マスタードですわ。少々辛いですから、つけすぎませんよう」
お父様達にはケチャップはおなじみだけど、初めてみる粒マスタードに興味津々の様子。
「……これくらいか?」
辛いと聞き、警戒しつつマスタードを乗せると、パクリと勢いよくかぶりついた。
「うむ、こちらの方が私好みだ。もっと乗せてもいいくらいだな」
お父様は相好を崩すと二本めにとりかかった。
お母様も控えめにマスタードをつけてひと口食べると、さらにマスタードを追加して食べ続けた。
うんうん。好評のようでよかった。
「お父様、これのレシピは……」
「広めるのはやめた方がよかろうな」
うん、まあ予測はしてた。
「あら、なぜですの? こんなに美味しいのに……」
お母様は腑に落ちない様子だ。
「うむ、まあ、材料が手に入りにくいのでな……」
お父様はお母様を気遣ってか、材料に使用したものの詳細を告げなかった。
確かに、新鮮な内臓なんてなかなか手に入らないものね。
「あら……エリスフィード家の財力を持ってしても手に入りにくいものなのですか? 貴重な材料なのですのね」
「ああ、いや、う、うむ……手に入れた折には必ず作らせるようにしよう」
「まあ! 嬉しい! 楽しみにしてますわね?」
「うむ……」
嬉しそうなお母様と、複雑な心境のお父様の対比がものすごいわ。
お母様はどちらかといえば食わず嫌いの気があるけれど、食べてみて美味しければ材料についてはさほど気にしないタイプなんだから、いっそぶっちゃけちゃえばいいのに……とはいえ、今回はオークの内臓だもんね。流石のお父様も気を遣わざるを得ないか。
「ねえ、クリステア。そんなに入手が難しいものをどうやって手に入れたの? それにこれ、オーク肉だと思うのだけれど、それ以外に使う貴重な材料っていったいどんなものなのかしら?」
「えっ……?」
ひええ、お父様がせっかく有耶無耶にしてくれたのに、お母様ったら何故追求するかなぁ⁉︎
「いえまあ、今回はたまたま手に入ったものですから……」
お父様の気遣いを無駄にしないように私も曖昧に答えてみた。
「……昨夜、オークの肝を使ったタツタアゲをいただいたけれど、まさか貴女、また魔法薬の材料になるようなものを使ったのではないの?」
「えっ?あ、あの、ソンナコトハ、ナイデスヨー?」
うおお、鋭い。魔法薬になるような素材ではないけれど、かなり近いところを掠ってきたので思わず動揺してしまった。
「……クリステア?」
「はっはいぃ!」
「何を使ったのか正直におっしゃいなさい」
「お、おいアン……」
「貴方はご存知なのでしょう? そんなに言いづらいものなのかしら?」
「い、いやそんなことは……」
ヒエェッ! お父様の気遣いが裏目に出ちゃった⁉︎
お父様、こっちをチラ見するのやめてくださいませんかね⁉︎ ほらあ! お母様の目線がこっちに向かったじゃないのおぉ!
「クリステア?」
……うん、もう無理。
「……オークの内臓です」
「まあ! 貴女またそんなものを使って! 魔法薬に使わないのならなんの素材なの⁉︎」
あ、これまだ貴重な素材だと思ってるな。
「ええと……腸、です」
「え?」
「普通なら捨てるところなのですが、お肉を詰めるために綺麗に洗って使いました」
「な……っ! ちょ、腸⁉︎」
「はい……」
お母様、まさか通常はゴミになるものを食べてしまったからか、ワナワナと震えていた。
「貴女ね、せっかく社交界での悪評が薄れてきた矢先にこんなものを作るだなんてどういうつもりなの⁉︎」
うひゃー! 久々にお母様の雷が落ちた!
怖いよぉ……でも、ここで引いたら完全に禁止になっちゃう! それは避けたい!
「……でも、美味しかったでしょう?」
「え?」
「お母様、とても美味しそうに召し上がっていましたよね?」
「え……ええ、それはそうだけれど。それとこれとは話が」
「違いません。私はお父様やお母様に美味しいものを作っただけです。今までだって、食べたことないものを出して、美味しくなかったことや食べられなかったものはありますか?」
「そ、それは……」
お母様が動揺しているのを見て一気に畳み掛ける。
「お母様、とても美味しそうに召し上がられていましたが、これから先、一生アレが食べられなくてもいいのですか?」
「あれが一生……そ、それは」
「いいのですか⁉︎」
「……それは、いやかもしれないわ……」
「レシピは公開しません。我が家だけのものにします。でしたら、構いませんよね?」
「……そうね、それなら……」
「わかりました。お父様、それでいいですよね?」
私はにーっこり笑って二人を見つめた。
「う、うむ……」
「ええ……」
やった。勝った……!
「よかった、これで終わらなくて。このソーセージはエールにあうし、パンに挟んで食べたりと色々楽しめますもの。」
私が安堵して言うと、二人がピクリと反応した。
「エールに合う……だと?」
「パンに挟んで……それは美味しそうね」
んん?
「クリステア、次はいつ作るのだ?」
「そうね、できるだけ近いうちに試したいわ。腸はどうやって手に入れるのかしら? 冒険者ギルドに一体丸々手配するべきかしら……」
あれ?
「「クリステア?」」
お父様とお母様が笑顔で私に問うけれど、圧力が半端ない。
「ええと、はい、近いうちに必ず……」
我が家の秘密のメニューになったソーセージは近々また作ることになったみたい。
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