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14‐2 怨嗟の村(中編)
しおりを挟む道の脇にある木陰に隠れて様子を見ると、集落の出入口の門に見張りが一人いた。ダンビラの鞘を腰に差した汚い髭面の中年だ。
毛皮の服を着た体を伸ばして大欠伸している。
油断しきってるな。
そう心で呟いたとき、不意にガサガサと上から音がした。振り返ると偵察に出ていたポチが降りてきていた。気づかれないように回り込んで枝葉の中を通ったらしい。
【マスター、偵察完了しました。〈踏破マップ〉も完成しています】
「よくやった。女たちはいたか?」
【外には見当たりませんでした。ですが〈踏破マップ〉には家屋と洞窟に複数の反応がありますので、その中に閉じ込められているものと思われます】
「洞窟まであんのかよ」
ホログラムカードを引き延ばして〈踏破マップ〉を確認する。家屋は五つと少ない。洞窟は一本道に二つの枝分かれがあるだけでさほど面倒ではなさそうだ。
洞窟の中にある一つの部屋に幾つもの点が動かず密集している。残りは点が三つずつあり重なって細かく動いているので、今まさに女が乱暴されているのだとわかった。
「エレス、光弾突撃銃をくれ。援護を頼む」
【はいマスター】
「じゃあロジン殿、俺は行くんで。打ち合わせ通りに」
「本当にお一人で?」
「やはり無謀ではありませんか?」
ロジンとリャンキが怪訝な顔で言う。何も言わないがカイエンも渋い顔だ。
「まぁ、待っててくれ。あっと驚かせてみせるさ」
俺は光弾突撃銃を手に木陰から出て集落の出入口に向かう。
すると見張りの男が眉根を寄せて「誰だ?」と誰何の声を上げた。
「エレス、先行して弾が切れるまで外にいる連中の手足を撃ってくれ」
【かしこまりました】
話しながら、男が抜こうとしているダンビラの柄を握る手を狙い撃つ。腕まで吹き飛んだのを確認後、すぐに右足左足と吹き飛ばす。男はきょとんとした顔で倒れた。
「あ? あぎゃあああああああああ!」
見張りの男が悲鳴を上げて間もなく、ポチが飛んで行った集落からも次々と悲鳴が上がり始めた。狙い撃ちの速度と精度はサポートAIには敵わんわな。
まぁ、俺の役目は死なせないように管理することなんでね。
賊の四肢を奪って回復薬と再生促進液を与えながらゆっくり行く。
ポチは残弾数が二十二だったから四肢を吹っ飛ばすには全然足りんしな。
計八十本。しっかり落としたいから大剣も使うか。
俺は背後に手招きし、青年たちについてくるよう示して集落に入った。
***
十分ほどで集落の制圧は済んだ。俺は四肢を失った二十人の賊を集落にあった荷車に乗せてロープで固定した。重ねたり詰めたりすれば意外と乗るもんだ。
現在はSTRに物を言わせて村まで運搬中。許しを請う声や殺してくれと願う声が上がってわあわあうるさいので賊には猿ぐつわを噛ませてある。
村民から請われた許しや願いを聞き入れてこなかった奴らが何を言うのか。何度も何度も繰り返し行われたであろう切願や哀願を尊厳と共に踏みにじってきた癖に。
誰がお前らの思い通りにするか。
胸糞悪いもの見せやがって。
集落に囚われていた村の女は二十人と聞いていた。だが十六人しかいなかった。四人がどこにいるのか訊いたら生きたまま魔物に食わせたのだという。
散々好き放題して使いものにならなくなったから最期に遊んだそうだ。
まさか人質のいる中でたった一人の男に制圧されるとは思ってなかったようで、賊は俺を嘲笑いながらこれまでしてきた悪行を自慢げにペラペラと喋り倒した。
その結果が積荷だクソが。まだまだこんなもんじゃねぇからな。
痛めつけて回復して四肢を切り落としてと怒りをぶつけたが気が晴れない。見つけた十六人のうち三人が原形を留めていない状態で亡くなっているのを目にしたからだ。
人のやることじゃない。
俺をバケモン呼ばわりした奴がいたが、よく言えたもんだ。
結局、救えた村の女は十三人だけだった。
いや、それも救えたと言えるかどうか。
三人は無反応やうわ言を繰り返すだけの状態で明らかに正気を失っていた。
残る十人にしたところで怪我や病気で酷い有り様。
片手片足の腱を切られ、口にするのも憚られるような惨い仕打ちを受けた女たちに、俺たちは手分けして清拭を行い、再生促進液で体はある程度回復させたが……。
それ以上は無理なんだよな。
病気や心を蝕む記憶、壊れた精神なんてものは俺には対処できない。
それでもどうにかできないかと考えているうちに──。
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