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7‐1 復讐劇(前編)
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エレスの声が聞こえると同時に、俺は暗闇の中に立っていた。
なるほど。こんな感じか。
「ライトを頼む」
【かしこまりました】
パッと頭上で光が発生し辺りを照らす。
「おおー。すげぇなこれ」
目の前に下り階段が現れたので感嘆の息がもれる。ここはついさっき降りたばかりの地下四階へ向けての階段だ。さっと体に異常がないことを確認する。
うむ、問題なし。
「いやぁ、大したもんだなこのスキル。見事に死にぞこなったわ」
【ご感想は?】
「二度とやりたくないな。めちゃくちゃ痛かった」
【うふふ、そうですか。安心しました】
知らないスキルを知るには使うのが一番だ。俺は石橋を叩いて渡る性格なもんだから、しっかり経験しておかないと気が済まないんだよな。
目的は死が俺にどんな影響をもたらすかの把握。感想は『恐怖心』がオフなので痛み以外は大したことがなかったってところかね。
俺が使ったのは〈機能拡張Ⅳ〉を取得した際に得たスキル〈セーブ〉だ。このスキルはデータスロットが二つ存在し、自分もしくは他人の状態を保存しておける。
一日のロード回数はスロット分の二回までと制限はあるが、命を落とした際に保存されている時点の状態に戻ることができるというとんでもないスキルだ。
俺はこのセーブデータを一階からずっと上書きしてきた。最初は念の為というつもりだったが、ふと策を思いついた。三人に敵愾心があるのなら利用できないかと。
とはいえ、俺が攻撃意思を覚ってしまった場合、能力値が反映されて死ぬことはなくなってしまう。なので三人が疲れて遅れを見せ始めるまで足を速めた。
そして結果が出たのがこの場所だった。隙を見て『第六感』と『鋭感』をオフにし、下で殺されて今に至るという訳だ。おっと、また再設定しておかんとな。
ほい二つの『感』をオフから100%と。
「しかし、残念だなぁ」
【そうですね。嘆かわしいことです。断罪ですね】
「遂に殺人に手を染めることになるか」
【マスターは殺されましたから。目には目をです】
三人が心から反省していたら本気で見逃してやるつもりでいたんだがな。
というのは建前で、実際は万に一つの可能性程度にしか思っていなかった。三人はこそこそと話すのをやめてなかったからな。どこかで仕掛けてくるとは思ってたんだよ。
つまり俺は、あえてアホの子三人に隙を見せてスキル検証に付き合ってもらった訳だ。まさかそれがカザマ君の死の情報を引き出すことになるとは思わなかったが。
「なぁ、エレス。カザマ君は生きていると思うか?」
【リンシャオの言っていたことが事実なのであれば生存は絶望的かと】
「そうか。そうだよな」
不意打ちで死ぬ。それを実体験した俺にはわかる。
あの状況で生き延びるには、特定の回復スキルが必要だ。
たとえば、伊勢さんの持つ〈救急看護〉。あとはその上位版で使い勝手の悪い〈緊急手術〉とかな。覚えている限りではその二種しかなかったはずだ。
カザマ君がそれらを都合よく取得しているとは思えない。取得していたとしても、あの三人とパーティーを組んでいた時点で能力値の低さが窺える。
俺が先行させられたことや、同じ殺され方をしたことから推察するにカザマ君は前衛だ。VITへの振り分けがメインだろう。MPがそれほどあるとは思えない。
一時的に生き延びれたとしても、三人がかりで攻撃されればやはり生存は厳しいだろうな。再生促進液も持っている訳がないし魔力枯渇症の可能性もあるから。
「はぁ、やっと掴んだ手掛かりだと思ったんだがな」
【僭越ながら申し上げます。マスターはお気づきではないかもしれませんが、カザマさんの存在自体が手掛かりです。他にも日本人がいる可能性を示唆しています】
「わかってる。カザマ君が冒険者をしていたということは、他にも日本人がいなければおかしくなってくるからな。たった一人を労働奴隷として送り込む訳がない」
【その通りですマスター。ただ一点、不可解な点があります。カザマさんが労働奴隷ではなく冒険者をしていることです。考えられる可能性は幾つか存在します】
「ああ、それについても考えてた」
未開惑星の労働奴隷として送り込むということは、監督者が必要だ。それがアナザエル帝国の者であることは間違いない。あるいは機械かもしれないが。
「カザマ君が自由になっているということは、労働奴隷が解放されている。あるいはカザマ君だけが逃亡に成功したかのいずれかだ。その話が聞きたかったんだがな」
【可能性だけなら、幾つも存在しますからね。その点は残念です】
労働奴隷たちが反乱を起こしアナザエル帝国の監督者を倒した。監督者が病気や事故で急死した。人体魔物化生物兵器が漏れ出しアウトブレイクが発生したなどなど。
解放に至る可能性だけでも多く出てくる。
逃亡にしたところで、カザマ君だけが成功したとも言い切れない。
他にも逃れた日本人がどこかにいるかもしれない。
その辺りの詳細な情報を掴めると思っていたのに。
あのアホ共の所為で。
「残念だが仕方ないよな。他にも日本人がいるかもしれないということがわかっただけで十分だ。さっさと四階に降りてやることをやってしまおう」
【断罪ですね】
「念の為に捜索もだ。カザマ君の生存だって可能性はゼロではない。リュウエンにしてもそうだろう。しらみつぶしに捜してやるさ」
俺はどうやって三人を断罪しようか考えながら階段を降り始めた。
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