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5‐3 捜索パーティー(後編)

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「ああ、そうか悪かったな。じゃあ普通に喋るわ。これでいいか?」

 面倒臭くなったので普通に話すと三人は呆然とした。俺が気圧されて弱気になるとでも思ってたんだろうな。なんというか浅はかさに呆れる。

「それで? 誰が捜索に誘ってやったって? オットー? わかりやすく説明しろよ。不当だと感じたらすぐにでも法的措置を取らせてもらうからな?」

 笑顔で訊くとオットーが視線を彷徨わせた。無力でお人好しな金持ちのボンボンをいいように使おうと思ってたってとこかね。従わざるを得ないように追い込んで。

 生憎だが、俺は元工場勤めの叩き上げなんだよ。世の中の悪い部分もそれなりに見てきてんだ。相手が悪かったな。都合のいいカモにはなってやんねーよ。

 なんといっても、俺には対抗できる力があるんだからな。

「俺を気弱なお人好しだと思ってたか? 俺の国では人を動揺させて食い物にするような手口は恐喝ってんだ。お前らが今やってることだよ。この国の法律は知らんが、まぁ引っ掛かるんだろうな。オットーの顔見りゃ一目瞭然だ。謝るなら今のうちだぞ」

「ちょ、ちょっと人聞き悪いこと言わないでよ!」

「はっ、法律だあ? んなもん知るかよクソが! 急に調子こき始めやがって! あんま舐めたこと言ってるとぶっ殺すぞおっさん!」

「あーあ。エイゲンが怒っちゃいましたか。僕は知りませんよ。あなたの言う法的措置が今ここで役に立ちますかね? あなたこそ謝るなら今のうちですよ?」

 リンシャオが眉根を寄せて異議を唱え、エイゲンは俺に詰め寄って圧をかけ、オットーは呆れたように両手を広げて肩を竦める。なんだか慣れてる感じがするな。

 俺は胸ぐらを掴もうとするエイゲンを躱し、エレスにストレージの操作を小声で伝える。するとすぐ側にズドンという音をたてて巨大な蛇の頭が現れる。

 静寂。兵も列についている連中も皆、驚きの余り呆然って感じだな。

「これな、俺が仕留めたケルベロスワームって魔物の頭だ」

 象でも丸呑みにできそうな大きさの、血に濡れた青黒い蛇の頭が真っ赤な目を見開いている。俺はその横っ面をペシペシ叩きながら三人に笑顔を向ける。

 三人は目を剥いて真っ青な顔をしていた。リンシャオは腰が抜けたのか座り込み、オットーとエイゲンは体を震わせながらじりじりと後退りしている。

「魔法で隠して持ち歩いてるんだよ。売らなきゃ勿体ないからな。そんな俺をぶっ殺すって、相当腕に自信があるんだなエイゲンは。いつでも相手になるぞ?」

「う、あ、そ、その」

「謝罪も法律も突っぱねるってことは、そういうことだもんな。俺としてはそっちの方が楽でいいんだよ。三人とも殺しちまえば後腐れもないし」

「ひっ、わ、私も?」

「ぼぼ、僕は関係ないですよ!」

「どこをどうしたら無関係になるんだよ。あ、ちなみにな。俺が討伐したケルベロスワームってのは物凄いでかいんだわ。お前ら頭悪そうだから見せてやるよ」

 言った後でケルベロスワームの死体を全て出す。胴体を含めると三十メートル超え。ズドドーンという音と共に砂煙が立ち上って三人は悲鳴を上げて尻もちを着いた。

 お説教を始めようとしたところで、兵士が駆け寄ってくるのが見えた。

「エレス、収納してくれ」
【かしこまりました】

 エレスに小声で伝え、出したもの全てをストレージに収納する。巨大な魔物が一瞬で消えてしまったことに驚いたのかまた静寂。荒くれ者たちが怪訝な顔をしている。

 間もなく辺りがざわつきだした頃、兵士が三人俺の側に来た。

「失礼。今のは貴殿がやったのか?」
「ええ。俺がやりました。そういう魔法を使えるので」
「そうか。さっきの巨大な魔物は一人で討伐を?」
「いえいえ。百人がかりでした。首を落としたのは俺ですがね」

 兵士の隊長だろうか。一人だけ兜と鎧の意匠が違う精悍な顔つきの男が、筋骨たくましい太い腕を組んで感心したように頷いた。

「あれの首を落とすか。それは大したものだ。しかし、今後はこういった真似は控えてもらいたい。いくらそこにいる連中が無礼な態度を取ったとしてもな」

「はい、大人げない真似をしてしまいました。お騒がせして申し訳ない」

「うむ。先ほどから見ていたが貴殿は好人物な上に胆力がある。どうだろうか? 我が国の兵として働く気はないか? その気があるならすぐにでも入隊を許可するが」

 苦笑して頭を掻いてたら勧誘始まっちゃったよ。参ったな。

「有り難いお話ですが、俺は旅商として世界を巡る生き方を変える気はありません。あちこちで人の為に働く人生を楽しみたいのです。申し訳ありません」

「そうか。わしはギエンという。宿場町に駐屯する兵の隊長をしている」

「セイジです。商家の次男坊で旅商をしております」

 ギエンと握手を交わす。どうやらギエンはエイゲンが俺を脅す前からこちらの様子を確認してくれていたようだ。トラブルが起きたらすぐに駆けつけられるように。

 アホの子三人は俺をバケモンみたいな目で見てるな。距離を取ってこそこそ話している。そりゃカモにする予定だったのが話が違うってなれば焦るわな。

 でもそれはお前らの勝手な思い込みが原因だから。
 侮っていい相手かどうかを慎重に見極めなかったのが悪い。

 勝てると確信するまで動かない俺の汚さが身に沁みたかよアホ共が。

 列もはけて順番がきたし、さっさとダンジョンに入って捜索して帰ろう。こいつらといるとストレス溜まって駄目だわ。真面目に捜索する気なさそうだし。

 カザマ君とリュウエンって少年が気の毒だ。もしかしたら強い魔物が出て置き去りにされたのかもな。いや、二人を餌にして逃げてきたか。この三人なら大いに有り得る。

 もしそうだったらどうするかな。
 カザマ君たちに処分を決めてもらおうか。

 待ってろよ二人とも。
 ダンジョンは初心者だが、おじさんが捜し出してやるからな。

 
 
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