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1‐2 艦を降りた日(後編)
しおりを挟むにしても、くたびれたな。魔物の殲滅戦から商会長のジョニーの救出にケルベロスワームの討伐。朝から働き詰めの一日だったもんな。よく死ななかったもんだ。
そりゃ『命知らず』って二つ名で呼ばれるわ。
でもそれってよくよく考えたら無鉄砲とか向こう見ずって意味だよな。
要するに馬鹿ってことじゃねぇかよちくしょう。
いや、腹立てることでもないか。自覚あるしな。
などと心で呟きながら作業を継続。もはや病気だなこれは。
設置したシャワーのタンクとバスタブに温水を投入して、鏡の前の棚にシャンプーや石鹸を置く。基本のコンテナハウスの倍の大きさがあるから脱衣室もある。
一旦部屋に戻ってポチを解除して、と。
脱衣室でツナギとインナーを脱ぎ、タオルを持ってバスルームに突入。さっとシャワーを浴びてからシャンプーで頭をごしごし洗っていると、扉が開く音がした。
「セイジお邪魔ー」
「でぇっ! なななんで入ってくるんだよ!」
「別にいいじゃないかよー。アタシだって入りたかったしー」
「ば、馬鹿! ちょ、ちょっと待て! 出る! 俺は出るぞ!」
感覚制御で『第六感』や『鋭感』を上げてるはずなのに!
何故反応しなかった! これを危機と見做さなかったのか!
それどころか『安心感』と『安定感』を貫通している!
なのにオフにしてある『罪悪感』はしっかり仕事をしている!
ただただラッキースケベだと思ってしまっている!
俺は大急ぎで頭の泡を洗い流し、タオルで股間を隠してバスルームを飛び出した。美人だとは思っていたが、やはりメリッサは脱いでもすごかった。
胸と尻が大きくて他がしっかり絞られてるって完璧だろうがよ。
いやそうじゃなくてタオルで隠すくらいしろよ。貞操観念どうなってんだよ。
「セイジー、一緒に入ろうよー。洗いっこしよー」
「知り合ったばっかりの女と風呂なんて入れるか!」
「えー? お嬢とは入ったんだろー?」
「ジーナは三歳だろうが!」
若返ったからか、疲れてるのに元気になってしまった。
こんな生活が続くのか。先が思いやられるな。
肩を落として溜め息を吐きつつ、明日のことを考える。
とりあえず、いつまでも無人島で生活する気はないのでボートを使って大陸に移動する予定だ。事前情報で付近に宿場町があることはわかっている。
まずはそこで情報収集だ。エレスに頼んで睡眠中の言語習得もセットしておこう。現地の言葉がわからないと情報収集どころじゃないからな。目的に支障が──。
目的、か。
誰にも話していないが、俺は両親を捜す気でいる。
異世界召喚された日本人は西暦一九九五年から二〇二五年の間に交通事故死した五千人が対象だ。俺の両親が交通事故死したのは二十二年前だから対象になる。
召喚されたかどうかもわからないし、雲をつかむような話なのもわかっている。
だが捜さずにはいられない。
もし労働奴隷として働かされていたら助けたい。そうでなくても、俺が成人して間もなく死に別れたんだ。親孝行できなかったのはずっと心残りだった。
育ててもらった恩がある。俺の気が済むくらいには返したい。
どうせ不老だ。俺には時間が有り余るほどある。それに折角フェリルアトスが与えてくれた第二の人生だ。俺の好きにさせてもらうさ。
会ったことはないが、フェリルアトスもそれを望んでそうだしな。
「ぶえっくし」
さて、風邪を引く前にベッドに向かうとしようかね。風呂が空くまで裸で待ってても湯冷めするだけだし、今日はもう諦めて寝ちまおう。
本格的な冒険は明日からだ。肩ひじ張らず、気楽にいくとしようか。
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