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第五話

眠気

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 すっかりと日が暮れた。

 話を終えて溜息を吐くラフィに同情しつつ、俺は膨れた腹を撫でる。言われるままに、遠慮なく串焼き肉をすべて平らげてしまった。

 今世では物心ついて初めての満腹だ。前世は焼き肉を軽く食べただけで胃もたれする年齢に至っていたから、満ち足りた気分は本当に久しぶりだった。

 焚き火の中で枝がパチパチと爆ぜる音が耳に心地良い。生木のはずなのに、あまり煙らず嫌な臭いもしない。多分、ラフィがなにかしたのだろう。

 ああ、落ち着く。いや、どうでもよくなっちゃ駄目だ。質問しないと。

 眠気に襲われ、瞼が落ちそうになるのをぐっとこらえて俺は口を開く。

「『人に戻すから連れて来い』って、そんな簡単に──」

 会えるものなのかと訊こうとして、女子生徒が空間を砕いて白い板を出したことを思い出す。ラフィも同じことができるとしたら簡単に会えることになる。

 だが、意外にもラフィはかぶりを振った。

「簡単ではないよ。神域へ入るには地上に設けられた神門に赴く必要があるし、フェリルアトス様の許しがない限り開けることもできないから」

「ラフィもそうしないと神域に入れないってことですか?」

「もちろん」

 俺は首を傾げる。やはり前世でフェリルアトスと会ったときのことが引っ掛かった。あの女子生徒はいとも簡単に日本からフェリルアトスのいる空間に繋ぐ通り道を用意した。あれはラフィの言う神域ではないということなのだろうか。

 そもそも、あの女子生徒はなんなんだ?

 色々と考えさせられるが、眠気で上手く頭が働かない。

「あはは、今日はこのくらいにしておこうか」

 うとうとする俺を見兼ねたのか、ラフィが苦笑して言った。

「少し待ってて、今テントを用意するよ」
「手伝います」
「ああ、大丈夫。私のは特別性でね、組み立てる必要がないから」

 突然、焚き火から少し離れた野原に小ぶりな四角錐のテントが現れた。俺が目を疑っているうちに、ラフィが手早くテントの四隅に杭を打ち込んでいく。

「ストレージの補足説明になるけどね、一マスに収められる物の大きさと重量に制限があるんだ。組み立て済みのテントだとこれが限界だね」

 飽くまで一つの物につき、大きさは一辺二メートルくらいの立方体に収まるものまで。重さは五十キロまでと決まっているそうだ。

「あとは生き物も入れられないね。うん、とりあえずはそんなとこかな。さ、入って。周辺に【魔力防護壁マジックバリア】を発生させる魔道具を打ち込んだから、安心して寝て良いよ。続きはまたにしよう。詰め込むことが多いと大変だよね」

 俺は礼を言ってふらふらとテントに入った。だがそこでまた驚く。明らかに外観に見合った広さじゃない上、ランプがあるから暗くもない。

 出入口に顔を出し入れしながら内観と外観を見比べる。

「ああ、違和感があって驚いたんだね。そのテントの内側には進入対象縮小化の魔術式を施してあるんだよ。中は外観の倍くらいの広さになってるように感じるだろうけど、実際は入った者がそう感じる程度に小さくなってるんだ」

「それを聞くと、なんというか、こうやって顔を出し入れしてるのに部分的に縮小してるように感じられないのが逆に気持ち悪いですね」

「中に入り切らないと効果が発揮されないようになってるからね。それより私は十歳の子供がそういう大人びた口調であることの方が気持ち悪いよ」

 あはは、とラフィが笑う。確かに。

 というか、今さらっと言われたけど、俺って十歳なんだな。【分析アナリシス】とかいう技能とやらで確認したラフィが言うんだから間違いない。見た目でなんとなく十歳前後だとは思ってたけど、情報は正確な方が良いもんな。

 もしかして名前もわかるんだろうか? この世界で俺に名前を付けた人がいれば載っているかもしれない。明日、ラフィに聞いてみよう。

 そんなようなことを考えながら、俺はテントに置かれたベッドに倒れ込んだ。一つしかないが、ラフィのことだからもう一つ出すだろうという安易な気持ちで。
 驚きで目が冴えたように思っていたが、どうやらそれは気の所為だったようで、横になるなり俺の意識は遠のいてしまった。

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