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第二話
気の合う二人(1)
しおりを挟むゲイロードの不穏な発言にざわめきが起こる中、壇上の端に控える聖騎士団長イリーナと枢機卿団長ノルトエフはどちらからともなく顔を見合わせた。
「おいおい、ジジイがヤベーこと言うのはわかってたけど、なんだか話が変な方向に行ってないかぁ? どうにかしろよぉ、おっさん」
「馬鹿言え小娘。俺にそんなことができると思うか? こんな細腕で猊下を押さえられるわけがないだろう」
「何だよ、相変わらず使えないねぇ。しょうがないからアタイが行ってやるよ」
「減らず口は百歩譲って受けるとしても、恩着せがましくされる意味が理解できんのだが。お前と違って、こちらは魔道具に延々と魔力を流し込んで【魔力防護壁】を発動し続けているのだからな」
「またまたぁ、どうせアタイを援護するくらいの余裕は残してんだろぉ?」
「あるわけないだろうが。不安なら老害を何人か貸してやる。口ばかり達者でクソの役にも立たんが、お前なら盾代わりくらいにはできるだろうよ」
「そりゃあ、死なせろってことかい?」
言い終えるなり、イリーナは不意の閃きに目を見開いた。ノルトエフにも同じ閃きが走ったようで、二人は小声の遣り取りを僅かに中断させて見つめ合った。
「もしかすると、そこまでが猊下の企みかもしれんな」
「あー、やっぱおっさんもそう思うかぁ」
「深読みの可能性もあるが、再編後に不審な点が浮き彫りになった連中もいるからな。この場での膿出しは猊下らしいとも言える。ただ、単なる思いつきの線もあるというのが怖ろしいところだ。もしそうだったら俺は出奔するぞ」
「あんたが抜けるなら、アタイもそうせざるをえないねぇ」
「尻拭いの負担が増えるからな」
(そういう意味で言ったわけじゃないんだけどねぇ)
気恥ずかしさから訂正できず、イリーナは人差し指で頬を掻く。
「うん、まぁ、そういうことにしとく。そういやおっさん、車持ってるんだって?」
ノルトエフが一瞬、体を強張らせる。
「車? 何を言ってるのかわからんな」
「隠さなくったっていいよ。イスタルテ共和国に伝手があんだろ? おっさんが軍の余剰物を買い取ったって聞いたんだよねぇ」
そういう噂が立っていただけだが、舌打ちするノルトエフを見てイリーナは確信する。この様子だと、発掘品の改造や機械いじりが趣味だというのも間違いではないかもしれない。
「逃げるならさぁ、ついでに隣国辺りまで乗せとくれよぉ」
「断る。甘えても無駄だ」
「はいはい、言うと思ったぁ。さぁて、ケチが伝染る前に行くかねぇ」
イリーナは二十五歳という若さで聖騎士団長の座に就いた美女である。とはいえ、就任したのは昨日の内乱鎮圧後に行われた再編時。まだ着任から一日も経っていない。
ゲイロードと同じく傭兵上がりで、目つきの鋭さを隠す為に、いつも薄笑いを浮かべている。その表情の乏しさと長い銀髪、細身に合った白銀の重鎧から白銀の人形という二つ名が付いているのだが、そんなイリーナでさえもこのときばかりは眉根を寄せた。
(まったく、余計な仕事を増やさないでほしいねぇ)
粗方の粛清が済んだとはいえ、未だ聖都は荒れている。
ゲイロードの思惑は不明だが、これ以上どこに潜んでいるかもわからない敵対者を煽るような発言を許す気はなかった。
しかしイリーナは気づいていなかった。
その勇ましい心とは裏腹に、指が震えていることを。そしてその震える指が腰に帯びた長剣の柄に触れる程、自身が怯えていることを。
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