20 / 117
静かな森の出会い編
7
しおりを挟む*
《この先が最奥だ》
シャドウウルフが言った。もう着くらしい。
いくつかの枝分かれはあったけど案内があったのですぐだった。
道中の暗闇は、ルシウスが魔法で照らしてくれた。
「僕は光と水の魔法が使えるんだよ」
「ほぁー、ルチウちゅ、しゅごいねー。ほんちょに、しゅごいねー」
天井付近を漂う光の球を見て、私は感動しながらちょっと考える。
ルシウスがいなかったら、暗くて何も見えずに困っていたところだ。
シャドウウルフの方はすぐに仲間になってくれそうだし、もう一体の魔物も助けることができれば、きっとそっちも仲間になってくれるはず。
そうなれば、私たちの生存率はぐんと上がる。
たぶん、エルモアはそれも分かってて私たちをここに案内したのだと思う。
私たち皆が生き延びれるように、取り計らってくれたに違いなかった。
それに、この洞窟も……。
奥に向かうにつれて、人の手が入っているように思えた。シャドウウルフに訊いてみたところ、やっぱり昔は人が暮らしていたらしかった。
《俺たちの住処の奥には、人間が住んでいた部屋がある》
そう聞かされて、私はすぐにルシウスに伝えた。
ルシウスは「え、それは助かるね!」と顔を綻ばせた。
私は嬉しくなって手を差し出した。ルシウスと手をつなぎたかった。
ルシウスは微笑んで私の手を握った。
その瞬間、表情を凍らせて身震いした。
あ、シャドウウルフの脂がべっとりの方だったわ。
恋は盲目とはよく言ったものだと思う。すっかり忘れていた。
「ごめんにぇ。くちゃい方の手だったにぇ」
「あとで洗えばいいさ。でも、本当に臭いね。アハハ」
白い歯が眩しいっ!
ルシウスの輝きに目を細めている間に最奥に到達した。
聞いていた通り、壁に木製のドアがあった。その脇で真っ白な狼が身をくるめている。厚めに敷かれた枯れ草の上で、苦し気に息を吐いている。
《俺のつがいのライトウルフだ。レッドキャップにやられてな》
《仲間って、奥さんだったのね。それで、レッドキャップって?》
《赤い帽子を被ったゴブリンだ。普通のと違って頭が回る》
ライトウルフの怪我を診たいので、シャドウウルフに頼んで話をつけてもらいに行った。交渉も難しそうだし、気が立っていたら危険だからね。
私たちは離れた場所で見守ることにした……はずだったんだけど、突然、シクレアが翅を広げてシャドウウルフの方に飛んで行った。
《シクレア? どうしたの?》
《嫌な臭いがするのよ。とても興味深い毒の予感よ》
《毒だと⁉》
《えぇ。何をされたのか詳しく聞かせてちょうだい。あ、ノイン、ここは任せて。あとで教えるから扉の向こうを先に見ておくといいわ》
《わかった。ありがとう、シクレア》
シクレアはとても優秀。ベビーとは思えないお姉さんっぷりを発揮してくれる。
ん? でもベビーって飽くまで名称なだけで、年齢は関係ないのかしら?
シクレアじゃないけど、興味深いわね。
とにかく、シクレアに任せておけば安心だわ。
私は軽く笑って、ルシウスと一緒に部屋に入った。
0
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
神様!モフモフに囲まれることを希望しましたが自分がモフモフになるなんて聞いてません
縁 遊
ファンタジー
異世界転生する時に神様に希望はないかと聞かれたので『モフモフに囲まれて暮らしたい』と言いましたけど…。
まさかこんなことになるなんて…。
神様…解釈の違いだと思うのでやり直しを希望します。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
未来の地球と辺境の星から 趣味のコスプレのせいで帝のお妃候補になりました。初めての恋でどうしたら良いのか分かりません!
西野歌夏
ファンタジー
恋を知らない奇妙で野暮な忍び女子#
仕事:奉行所勤め#
今まで彼氏なし#
恋に興味なし#
趣味:コスプレ#
ー時は数億年先の地球ー
そんな主人公が問題を起こし、陰謀に巻き込まれ、成り行きで帝のお妃候補になる話。
帝に愛されるも、辺境の星から、過去の地球から、あちこちから刺客が送り込まれて騒ぎになる話。
数億年前の地球の「中世ヨーロッパ」の伯爵家を起点とする秘密のゲームに参加したら、代々続く由緒正しい地主だった実家に、ある縁談が持ち込まれた。父上が私の嫁入りの話を持ってきたのだ。23歳の忍びの私は帝のお妃候補になってしまった。プテラノドン、レエリナサウラ、ミクロラプトルなどと共存する忍びの国で、二つの秘密結社の陰謀に巻き込まれることになる。
帝と力を合わせて事件を切り抜けて行くうちに、帝に愛され、私は帝にとってなくてはならない存在にー
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します
大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。
「私あなたみたいな男性好みじゃないの」
「僕から逃げられると思っているの?」
そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。
すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。
これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない!
「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」
嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。
私は命を守るため。
彼は偽物の妻を得るため。
お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。
「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」
アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。
転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!?
ハッピーエンド保証します。
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる