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それぞれの成長 元戦乙女隊編
閑話 レインとウェッジ(1)
しおりを挟む秋一期二十二日。
二日前からモーゼスの街東部に先行潜入していたレインは、【影転移】でシャフトを街に連れて来た後で、情報収集の為に【影転移】でモーゼス西部の貧民街に移動。そこにある名もなき小さな酒場へと立ち寄った。
客はカウンターに一人だけ。黒い背広を着た、厳しい顔つきの男。
短く切り揃えられた白髪、整えられた口髭、年齢にそぐわない大柄で逞しい体躯、そして皺一つない着衣。見るからに一角の人物であることが窺える。
その素性は、ラグナス帝国南部、サイラスの街の領主兼ラグナス南部軍総指揮官。
五十八歳となった、ウェッジ・ローライズ辺境伯である。
ウェッジはウイスキーグラスを片手に、丸く削られた氷塊を見つめていた。
扉に備えつけられた呼び鈴の音で、貧民街に似合わぬ、バーテンダーユニフォームに身を包んだ、身綺麗な初老の男性店主がレインを一瞥する。だが歓迎の言葉は発さず、興味なさげに顔を背けて仕事に戻る。アイスピックで、手早く氷を削っていく。
レインはフードを脱ぎ、ウェッジと一つ席を空けて座る。
「店主。彼女にハーブティーを」
「あら、火酒を頼もうかって思ってたのに」
「馬鹿を言え。仕事中に酒なんか飲むもんじゃない」
「あなたは?」
「今日の仕事は済ませてある。飲んでも支障はない」
ウェッジとレインは年齢が同じく五十八歳。かつての関係は主人の兄と弟の奴隷。現在は互いに情報を渡し合い、両国の関係改善に努める仲。共に【影転移】が使える為、定期的に会って情報交換を行っている。目撃者が出ても問題にならない場所で。
「早速だが、そちらの状況は?」
「芳しくないわね。対策を練るとは言ったもののって感じ。進んではいるけど、防衛に関しては穴だらけ。埋められないところが多すぎるのよ」
「悪いが、これ以上は引き延ばせん。兵の練度が高くなり過ぎている。兵器開発も成功し、量産も済んだ。もう言い訳が立たん。魔物化があろうがなかろうが、秋二期の初旬には、わしの軍からウェズリーに二万の出兵が行われるだろう」
「私は、アルネスさえ無事ならそれで構わないんだけど。ウェズリーを落とすまでに掛かる予想日数と、あと、軍を停滞させることってできない?」
「予想日数は……現在のウェズリーの状況からすると、移動を含めて五日、といったところか。飽くまで、工作員の情報が正しければ、だが」
ウェッジは軽くグラスを傾けてから続けた。
「軍の停滞は不可能だ。ウェズリーの侵略後、そのまま軍を常駐させることになっているが、第二陣がある。三万の軍勢が直接アルネスに向かう」
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