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それぞれの成長 パーティー編
閑話 トロアの決断
しおりを挟むモーゼスの街、西の城塞前で、ビンゴの馬車がゆっくりと止まった。
「着いたぞ。どうする?」
ビンゴは麦わら帽子を手に取り、半身を起こして荷台の二人に声を掛けた。
「余計なお世話かもしれないが、俺はお勧めしないがね」
「おっさんもそう思うか?」
「そりゃあな。俺は魔物より人の方がよっぽど怖ろしいからな」
ナッシュはトロアに向き直り、その両肩に手を置く。そして真っ直ぐに見据えた。
「トロア、正直に言やぁ、俺もビンゴのおっさんと同じ気持ちだ。だが、もしお前がアルネスの街にいた場合、俺にはお前を守ってやるだけの余裕はねぇ。ドニーにしたってそうだ。あいつも宿場町で魔物と戦う羽目になる。手前ぇの命で手一杯だ」
トロアはナッシュが何を言いたいのかを理解していた。
『自分で答えを出せ』
そう言いたいのだろう、と。
だが、トロアは答えが出せなかった。
モーゼスに残れば、魔物に襲われることはないだろう。そしてラグナス帝国軍からも、長兄アーヴェインからも、父のヴァンダインが守ってくれる。それに、もし父が危機に陥ったとしても、兄に代わって自分がその手助けをすることができる。
ただ、その間、自分のことをこれまで守り続けてきてくれた大好きな兄二人は、魔物に殺されてしまうかもしれない。そこに自分がいて手助けすることができたなら、そういう事態を避けられるのではないかと、そう思わずにはいられなかった。
「どうして皆、別のところにいるんだろうね……」
トロアの寂しげな呟きに、ナッシュは苦い顔をした。アーヴェインが馬鹿なことさえしなければ、こんなことにはなっていなかった。そういう思いが胸に湧く。
「俺、父上とも兄上とも一緒にいたいよ……」
「トロア……」
もし、ジャミがまともな母であったなら、そして、アーヴェインがまともな兄であったなら、家族は離散することはなかったに違いない。きっと今頃、クリス王国防衛軍の一員として、ラグナス帝国を迎え討つ準備を、父を含めた四人でしていただろう。
(トロアは、城塞内で母上の護衛をしてたんだろうな……)
戦争を目前に控えた想像なので、決して幸せなものとは言えない。だがそれでも、一家離散した現状と比べれば、遥かに良い未来の形なのではないかとナッシュは思う。
ただ、それを思ったところで――。
「トロア、親父も俺もドニーも、皆、お前と同じ気持ちだよ。だけどな、それを言ったところで、世界が変わってくれる訳じゃねぇんだ。いいか、ここで決めろ。モーゼスか、アルネスか、宿場町か。それとも、ミリーたちと一緒にいるか」
「酷な話だよな。大切な者があちこちバラけちまってんだもんな。一つを選べったって、答えなんかそう簡単に出るもんかよ。だからな、坊主、こう考えるんだ。お前さんの中で、最も強い者を思い出せ。そいつがいれば安心できるって奴をだ」
ビンゴに言われてすぐに、トロアの頭には訓練場で見た模擬戦のことが浮かんだ。クロエとナッシュの攻撃を一人で引き受け、後方にいるフィルを守り続けたユーゴの姿が思い起こされる。兄とクロエを子供のようにあしらった、憧れの存在。
「ユーゴさんも、アルネスの街で戦うの?」
「え? ユーゴ? ああー、そうだな。そういや、ユーゴたちも一緒に戦うのか」
ナッシュはユーゴのパーティーの存在をすっかり忘れていた。不思議なことに、それを思い出すと、これまで抱えていた死地に身を置くような気分が軽くなっていった。
「ハッハハハ。そうだ、あいつらがいるな。しかも今、修行に出てんだよな」
「そうなの⁉」
「ああ、きっと馬鹿みたいに強くなって帰ってくるんだろうな。ユーゴだけじゃねぇ。フィルも、ヤスヒトも、サクヤもだ。そうだよ、あいつらがいたんだ」
ナッシュは哄笑した。それを見てトロアはナッシュの無事を確信した。
実際に見た訳ではないが、ダンジョン中層までを二日で攻略したり、下層に出現する魔物をサクヤと二人だけで討伐したとも聞いている。ユーゴのパーティーがいれば、ドニーのことも、きっとなんとかしてくれる。そう思えた。
「うん、決めたよ。俺、この街に残る。父上の側にいる」
「トロア、お前」
ナッシュは、『それでいいのか?』と言う言葉を飲み込んだ。トロアの表情は、これまで一度も見せたことのない、固い決意を感じさせるものだった。
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