上 下
184 / 409
ドグマ組騒動編

閑話 一斉捕縛

しおりを挟む
 
 
 同日夜――。

 エドワードはジオと共に騒然とする繁華街に佇んでいた。

粗方あらかた片付いたようだな」

「ああ、それにしても急な話だ。骨が折れたぜ」

 ジオは辟易したと言わんばかりに溜め息を吐いて頭を掻いた。つい先ほどエドワードからドグマ組構成員の一斉捕縛の助力を請われたばかり。よくもまぁ冒険者の手配が間に合ったものだと思う。

「それで、何だってこんなことになってんだ?」

「ラグナス帝国絡みだ」

「ああ? どういうことだ?」

「ドグマ組の若頭、ハンが帝国と結託してアルネスを落とそうとしていた疑いがある」

「なっ⁉ マジかよ⁉」

 エドワードはただ頷く。ジオがこういう反応をするのは今に始まったことではない。信じられないという顔をしているだけで、自分の言葉を信じていない訳ではないと知っている。

 ゆえにただ頷くだけで良かった。黙っていれば勝手に理解し、釈然としなければ訊いてくる。それを待っていた。

 ジオはジオで、エドワードがそういう対応をするときは深刻な事態であることを理解していた。

 かつてそれを見たのは自分の所為でマクレーン家が窮地に陥ったとき、そして父のガイラルが病で危篤状態になったときの二度だけ。今回はそのとき以上に切迫しているのか、見たこともないほど深く眉間に縦じわが刻まれていた。

(こいつがこんな顔してるってことは、相当ヤベェ事態ってことだな。いや、単純に歳食っただけか? 俺らも三十半ばだしな。だったら良いが、やっぱ関係ねぇか。そうだよなぁ……)

 ジオの元にもノッゾのパーティーが魔物化したという報告は入っている。どうにもキナ臭いと思っていたが、エドワードの表情から、それと似た不穏な気配を感じ取った。

 ジオはまた同じように溜め息を吐いて頭を掻いた。今度は先程よりも大袈裟にした。あんまり考えたくないことが脳裏をぎる。そこにしか結びつかないことが忌々しかった。

「やっぱ魔物化が関わってんのか?」

「何故そう思う?」

「なんとなくだが、ラグナス帝国が絡んでそうだって思ってたからな。アルネスを落とすって聞いて繋がったってだけだ」

「そうか」

 エドワードは苦笑した。決してジオを侮っている訳ではないが、察しが悪い方だと思っていた。それが即座に言い当てられたので、思わず眉が落ちて笑みが溢れてしまった。

(今回は完全敗北だな)

 決してラグナス帝国の関与を考えなかった訳ではない。だがここまでの暴挙に出るとは微塵みじんも思っていなかった。相手もそれをすればどうなるかを理解しているはずだからだ。

「戦争になるって、考えといた方が良さそうだな」

「ああ。それと、おそらくだが、今後、要人の襲撃が度々起こるかもしれん。お前も十分に気をつけてくれ」

「気をつけるったってなぁ……」

 ジオはまたまた頭を掻いた。ドグマ組の事務所に一人で殴り込んでいたミチルが手を払いながら出てくる。満面の笑顔で。

「俺の許嫁フィアンセ、強いからなぁ……」

許嫁フィアンセだと⁉」

 誰も聞いたことのない領主の声が夜の繁華街に響き渡った。

 この日はやがて『裏返りの聖夜』と呼ばれるようになり、毎年結婚を前提とした恋人たちの為に裏返った声で祝福するイベントが行われるようになるのは余談である。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

異世界で流れに任せてみたら

ゆずゆ
ファンタジー
《転生物語》 右も左も分からない中、その場その場で適当に流されながらも楽しく異世界を生きていくお話。 可愛い子供に転生して周りに守られながら、彼女はどんな第二の人生を歩んでいくのか…ほのぼのファンタジーです! 不定期更新、拙い文章ですが楽しんでいただけると幸いです。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...