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ドグマ組騒動編
閑話 一斉捕縛
しおりを挟む同日夜――。
エドワードはジオと共に騒然とする繁華街に佇んでいた。
「粗方片付いたようだな」
「ああ、それにしても急な話だ。骨が折れたぜ」
ジオは辟易したと言わんばかりに溜め息を吐いて頭を掻いた。つい先ほどエドワードからドグマ組構成員の一斉捕縛の助力を請われたばかり。よくもまぁ冒険者の手配が間に合ったものだと思う。
「それで、何だってこんなことになってんだ?」
「ラグナス帝国絡みだ」
「ああ? どういうことだ?」
「ドグマ組の若頭、ハンが帝国と結託してアルネスを落とそうとしていた疑いがある」
「なっ⁉ マジかよ⁉」
エドワードはただ頷く。ジオがこういう反応をするのは今に始まったことではない。信じられないという顔をしているだけで、自分の言葉を信じていない訳ではないと知っている。
故にただ頷くだけで良かった。黙っていれば勝手に理解し、釈然としなければ訊いてくる。それを待っていた。
ジオはジオで、エドワードがそういう対応をするときは深刻な事態であることを理解していた。
かつてそれを見たのは自分の所為でマクレーン家が窮地に陥ったとき、そして父のガイラルが病で危篤状態になったときの二度だけ。今回はそのとき以上に切迫しているのか、見たこともないほど深く眉間に縦じわが刻まれていた。
(こいつがこんな顔してるってことは、相当ヤベェ事態ってことだな。いや、単純に歳食っただけか? 俺らも三十半ばだしな。だったら良いが、やっぱ関係ねぇか。そうだよなぁ……)
ジオの元にもノッゾのパーティーが魔物化したという報告は入っている。どうにもキナ臭いと思っていたが、エドワードの表情から、それと似た不穏な気配を感じ取った。
ジオはまた同じように溜め息を吐いて頭を掻いた。今度は先程よりも大袈裟にした。あんまり考えたくないことが脳裏を過ぎる。そこにしか結びつかないことが忌々しかった。
「やっぱ魔物化が関わってんのか?」
「何故そう思う?」
「なんとなくだが、ラグナス帝国が絡んでそうだって思ってたからな。アルネスを落とすって聞いて繋がったってだけだ」
「そうか」
エドワードは苦笑した。決してジオを侮っている訳ではないが、察しが悪い方だと思っていた。それが即座に言い当てられたので、思わず眉が落ちて笑みが溢れてしまった。
(今回は完全敗北だな)
決してラグナス帝国の関与を考えなかった訳ではない。だがここまでの暴挙に出るとは微塵も思っていなかった。相手もそれをすればどうなるかを理解しているはずだからだ。
「戦争になるって、考えといた方が良さそうだな」
「ああ。それと、おそらくだが、今後、要人の襲撃が度々起こるかもしれん。お前も十分に気をつけてくれ」
「気をつけるったってなぁ……」
ジオはまたまた頭を掻いた。ドグマ組の事務所に一人で殴り込んでいたミチルが手を払いながら出てくる。満面の笑顔で。
「俺の許嫁、強いからなぁ……」
「許嫁だと⁉」
誰も聞いたことのない領主の声が夜の繁華街に響き渡った。
この日はやがて『裏返りの聖夜』と呼ばれるようになり、毎年結婚を前提とした恋人たちの為に裏返った声で祝福するイベントが行われるようになるのは余談である。
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