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明かされる真実編
20.はじめてのおつかい(5)
しおりを挟むジオさんを気の毒に思っているのは俺だけだったようで、リンドウさんはすぐに転移して、また一つ隣の路地に移動した。俺もそれに付き合わされて飛んだのだが、そこで見知った顔が通りがかり、こちらを見てビクリと体を震わせて立ち止まった。
「デ、デネブ兄様ー⁉ なんか変なのがいますよー⁉」
「アープ、こっちへ」
デネブさんがアープを背に隠し、身構える。
おー、懐かしい。
元気そうな様子を見て嬉しくなる。二人はすっかりとアルネスの街に馴染んでいるようで、服装もユオ族の民族衣装ではなくなっていた。アープはワンピースで、デネブさんはシャツとズボン。なんだか新鮮。
「リンドウ、やはり人目を引くようだ。変装の意味はなさそうだぞ」
「せやな。ほんなら脱ぐか」
二人はすべての変装道具を【異空収納】に収める。すると、アープとデネブさんが警戒を解いて目を見開いた。
「おお、リンドウ殿でしたか!」
「すまんな、驚かせてもうた」
「ほんとですよー。急に出てくるから、危うくおしっこが洩れちゃうところですー」
「アープ、はしたない! すいません、リンドウ殿」
二人の遣り取りを見てリンドウさんが愉快そうに笑う。すかさずスズランさんが「静かにしろ!」と後頭部をはたいた。「あ痛っ」と前のめりになるリンドウさんを見て俺はゾッとした。首が取れなくて良かった。
それはさておき驚いた。どうやらアープたちはリンドウさんと知り合いになっているようだ。だが、考えてみればそうなっていても不思議はないかと思う。
アープとデネブさんがこの街に来た経緯は俺たち渡り人だ。それにミチルさんも関わっている。ローガはサイガ組とヒューガ組に雇われているし、俺の知り合いすべてと繋がりが出来ている方が自然なのかもしれない。
「ところで、そちらは奥方ですか?」
「なっ、ちっ、違う! 拙者は、まだ妻ではない!」
スズランさんが顔を真っ赤にして反論するが『まだ』って付けているということは、そういうことなのだと察した。二人はそういう関係だったのか。と、俺が驚いている間に、デネブさんは苦笑し、アープは項垂れていた。
「はぁー、なんだか、羨ましいですねー。アチシの旦那様はいつお戻りになるのでしょうかー」
「アープ、ユーゴ殿はだな――」
「は⁉ なんや、嬢ちゃん、ユーゴの嫁さんか⁉」
「何だと⁉ 拙者は何も聞いておらんぞ⁉」
「ああ、そうではなくてですね。これには事情がありまして」
デネブさんが説明に移ろうとしてくれたところで「泥棒ー!」という、聞き覚えのある叫び声が上がった。視線を移すと、雑踏をすり抜けるようにして、小汚い身なりの人族らしき少年が駆けて来ていた。
おそらく、貧民街で暮らしている子だろう。孤児かもしれない。焦った様子で何度も背後を気にしている。その手には、ウイナちゃんが持っていた巾着袋。ボンゴイさんの店を出てから、【異空収納】に入れてなかったのか。
「待つのじゃー!」
ウイナちゃんの大声が聞こえたが、颯爽と姿を現したのはサツキ君。人混みの隙間を素早く搔い潜り、あっという間に、逃げる少年の前に回り込む。
うおー、サツキ君! かっこいい!
「サツキ……!」
俺が拳を握りしめて興奮している側で、リンドウさんがうるうるとして言葉を詰める。スズランさんはその肩に手を置き、うんうんと頷いていた。こちらも感極まった様子。
サツキ君はというと、悲しげに眉を下げて手を出していた。孤児院育ちだから思うところがあったのだろう。だが少年の方はそんな気持ちを汲み取れなかったようで、サツキ君を睨みつけ、巾着袋の中に手を入れて金貨をばら撒いた。
「みんなー! 金だぞー!」
少年が叫び声を上げた。金貨が地面に落ち、跳ねて高い音を鳴らす。場は騒然となり、サツキ君が慌てて金貨を拾い集めに向かう。
その間に少年は逃げ出した。が、その背後にあった影からウイナちゃんとサイネちゃんが飛び出し「やー!」という掛け声を上げて少年の背に乗っかった。少年は地面に倒れ込み、二人に押さえつけられる。
「返すのじゃ!」
「泥棒は駄目なのですよ!」
俺は二人の成長に胸が熱くなり、この気持ちを共有できるリンドウさんたちに顔を向けた。
思った通り、リンドウさんは号泣し、スズランさんは手拭いで目元を拭っていた。
そうなりますよね。分かります。
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