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明かされる真実編
2.知らされぬ脅威を知り愚か者と知る(2)
しおりを挟むシンドゥー王国の第一王女による国王弑逆と王位簒奪。前国王のときはラグナス帝国と敵対していたようだが、現在はおそらく内乱中。たとえ既に鎮圧していたとしても、まだ他国と小競り合いを行う余裕などないだろう。
或いは、ラグナス帝国と第一王女が協力関係にあることも考えられる。むしろその線の方が強い。本気でクリス王国を落とす為に、ラグナス帝国が後顧の憂いを断ったのだと俺は見ている。
それに対してクリス王国だが、ラグナス帝国がこれだけ明確に敵対行動をとっているのに何の対処もしていない。工作員を送り込まれ、魔物化の呪いを施される者が現れ、実験材料として国民が攫われているにも拘らずだ。
仮に何らかの対処をしているとしても、それは王都クリストミラーのある北方のみだろう。最近では、それで手一杯なのではないかと思うようになった。
俺はラグナス帝国のみならず、このクリス王国の内情についても深くは知らない。
だが、それでも北方にあるモーゼスの街にも馬鹿をした奴がいたって不思議ではないように思う。南方のアルネスの街もそうだが、宿場町も、海辺の開拓村もそう、何よりウェズリーの国境沿いにある街とは思えない杜撰な状況を見てそれを確信した。
何処にでも悪い奴はいて、何処にでも腐敗はある。
一生懸命、真面目に生きる人の邪魔をする馬鹿が、この世界にも大勢いる。
情報の伝達速度に問題があるという考えもあったが、この世界には転移術がある。王国の中枢に転移術持ちの諜報員がいない訳がない。
もしいないとしたら、それはそれで大問題だが、おそらく内部で情報を遮断している者がいると見た方が現実的。つまるところ、ラグナス帝国の内通者及び工作員の暗中飛躍により、対応が後手後手に回っているとしか思えないのだ。
俺は別にクリス王国を救おうなんて気は更々ない。滅亡したとしても、それはそれで構わないと思っている。そもそも王位継承権のある王子たちが続々と継承放棄を行った時点で、王国は過渡期にあったのだと解釈している。
今の惨状は、そのときに王政を廃止するべきだったのを無理やり繋ぎ止めた結果なのかもしれない。たとえ王国が滅んでも、そこに人がいればまた国は興るというのに。
というか、俺は一介の渡り人でしかない。
本来ならこんなことを考えなくて良い訳だ。
ただ、クリス王国がラグナス帝国に完膚なきまでにやられちゃったら、自分と大事な人の身が危うくなるからやってるだけで、要するに、もっと王国がしっかりしてくれてたら、皆のんびりしてられたんだよ馬鹿野郎!
あー、腹立つ。ラグナス帝国も戦争なんかしようとしてんじゃないよ。魔物っていう共通の敵がいるのに、なんだって人同士で争うかな。
今更それを言っても仕方がないんだけれども。なんで俺がこんなことしてんのか。
まぁ、いいや。深く考えるな。
手始めに、軍隊がいると思われる国境沿いの砦や要塞に攻撃して、兵士の皆さんには速やかに撤退していただくことにする。それで軍の侵攻は遅れるだろう。
俺が勝手にやることだから、クリス王国が抗議されたとしても「証拠あんのか?」で済む。ラグナス帝国もそういう手口でやっているのだから、俺も遠慮なくやってやるつもりだ。
とはいえ無茶をする気はない。義憤に駆られて正義の鉄槌を下したつもりが間違いでしたなんて、元の世界でも枚挙にいとまがない。憶測の域を出ない現状、やって構わないのは脅し程度だと理解している。
滅ぼす云々は内情を確認してからの話。それを知る当てはウェッジ・ローライズ卿。その人を探し当ててから今後を決めようと考えている。
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