上 下
354 / 409
それぞれの成長 元戦乙女隊編

18.おじいちゃんさっき食べたでしょ(2)

しおりを挟む
 
 
 まったく、どうしようもない男だな、俺は。何様だよ。

 思わず鼻で笑う。自嘲がくだらない自己分析から現実に引き戻してくれた。

「あ、昼食はもう準備できてるから、先に食べてて」

 笑い続けている女子たちにそう声を掛けて、俺は一旦、訓練場に戻った。そこで空になったバットを【異空収納】に収め、サブロには水球で喉を潤してもらい【殺菌光】を掛けた後で勾玉に入ってもらった。

 うーん、何度見ても凄いよなー。

 サブロが光になって入っていく度に、本当に不思議な物だと思う。この中に部屋が入っているのか、それともどこかの空間へと繋がる転移装置のようなものなのか。

 考えたところで分かりはしないが、指先で摘まんだ勾玉をつい繁々しげしげと眺めてしまう。装飾品の価値など分からないが、これは見た目にも綺麗だと思う。

 ただ、色が一色というのはいただけない。ゆくゆくはパーティー全員が持つことになる訳だから、染色が可能かどうかも知っておきたい。同色だと、誤って入れ替わるなんて事態も起こり得る。例えば、風呂とかで。

 丁度、サブロの従魔の証も新しいのを用意しないといけないことだし、そのときにでも訊こうと思う。

 ま、証があろうがなかろうが、サブロを連れて街中を歩くのは無理なんだよな。

 幅を取るので往来の邪魔になる。そして大いに目立つ。許可が必要だと叱られるサイズであることは間違いない。という訳で、従魔用の道具関連の解決は後回しで良い。

 なんにせよ、今はとにかく昼食だ。

 冒険者ギルドに戻ると、女子たちは俺の用意したテーブル席に着いていた。料理は昨日フィルとサクちゃんにも出した豚汁と塩むすびにした。

「あれ?」

 先に食べていて構わないと言ったのに、誰も手を付けずに待っていた。俺が言いたいことが分かったのか、エリーゼが苦笑して答えた。

「そんな顔するほど意外だった? 私たちは、皆で食べたかったんだ」

「用意、してくれたのに、先に、食べれない」

「待ちくたびれたぜ。早く食前の挨拶してくれよ。皆待ってんだからよ」

「あら? おかしいですわね。旦那様より先に食べるのは駄目だって真っ先に止めたのは誰でしたかしら?」

 う、うるせぇ! と顔を真っ赤にして言うイザベラ。それでまた皆が笑う。四人掛けのテーブル席なのに、わざわざ間を詰めて、俺用に椅子まで用意してくれていた。

 旦那様って、何を言ってるんだか。でも、嬉しいよな。本当。

 俺は苦笑しつつそこに腰かけて「いただきます」と言わせてもらう。皆の声が後に続いて、美味しそうに食べてくれている姿を見ていると、それだけでなんだか胸がいっぱいになって……ん? いや、これは胸じゃなくて腹だな。

 なんでこんなに満腹中枢が働いてんだ?

 あ、そうだ。俺、坑道入る前にホットドッグ食べてたわ。

 道理で腹が減ってない訳である。孤食が嫌と言いながら、しっかりと軽食を一人で済ませていた。頭は老化したままなのかもしれないと真面目に思うひとときだった。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界八険伝

AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ! 突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...