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それぞれの成長 元戦乙女隊編
16.鬼教官なんて必要なかったんだ(2)
しおりを挟む「あー、うん。そうね。無理しなくていいよ。ちょっと根を詰めすぎちゃった感じがするから、長めに休憩を取ってからにしよう。俺も、どうせなら美味しく食べてもらいたいからね」
ちなみに、能力値はどうなった? と訊くと、全員、平均が二十程度上がっていた。それを聞いた時点で背筋が寒くなったが、意識がなくなるまで殴り合っていたという話を聞かされて気が遠のきかけた。真面目とかそういう次元じゃない。
「あのね、誰もそんなになるまでやれとは言ってないでしょ。三時間程度で平均二十も上げるとかおかしいぞ」
「そうなんだが、レノアがな。普通に模擬戦をやるよりも、そっちの方が能力値の伸びが良いって気づいてな」
「あら、効率は大事ですのよ? アタクシが気絶するまで、ほとんど伸びなかったじゃありませんの。怪我の功名ですわ」
「何それ? どういうこと?」
「一時間は普通にやってたんだよ。だけど伸びが悪かったから、回復しないで限界までやってみようって、レノアが実験し始めたんだ」
「それで、四対一で、模擬戦」
リンチじゃないの⁉ なんて危ないことしてるのこの女子たちは⁉
「はぁ、大怪我しなくて良かったよ……」
俺は安堵の息を溢しつつ、念の為に一人ずつ順に回復術を掛けていく。この女子たちには、鬼教官よりブレーキ役の方が必要だったようだと覚る。
サブロもよく付き合ったもんだ。偉いぞ。と心で褒めつつステボを確認したら能力値が百を超えていた。補正値込みとはいえ、四十上昇は目を疑った。
おそらく四体一の一の方はほぼサブロだったんだろうな、と思う。まぁ、最初から一番強かったし、体格と重量の差もあるから、仕方ないんだろうけどね。
水球でサブロの体を洗い、手拭いで拭き取る。食いっぷりを見る限り、軽くへばった程度だったようだ。サブロは本当にタフだ。いっぱい遊んでもらって良かったな。
よしよし。
「うん、今日はもう模擬戦は良いよ。洗い場で着替えちゃって」
「はぁ⁉ ちょっと待てよ⁉ アタイら、やる気満々だぜ⁉」
「そうですわ! まだまだやれますわよ!」
「ユーゴ、折角気合を入れ直したんだ。私たちの意気を挫くようなことは言わないでもらえないか?」
「グァウ!」
「サブロも、みなぎってる」
「あー、あのね。食事しながら言うつもりだったんだけど、飽くまで模擬戦はもういいってことね。とにかく身奇麗にして。次はダンジョンの四十階層に行くからね」
は? と、え? という声を無視して、俺は冒険者ギルドの中へ。
ダンジョンの転移装置は到達した階にまでしか行けない。故に、いきなり四十階層からという訳にはいかないが、たとえ一階層からだとしても、強行軍で行けば今日明日中には四十階層に到達できるだろう。
進んでいる間に能力値と魂格が上昇するだろうから、俺が引率すればマーダードールベアとの通常戦闘も問題なく行えるはず。
何度か周回して、補正値が三十パーセントを超えれば、アトラクションでの鍛練も可能になるだろう。
スパルタだが、今の女子たちの鍛練に比べればマシ。彼女たちの鍛練方法は能力値が全然上がらなくなった達人が追い詰められてやる方法だ。
話のネタがなさ過ぎて猥談に走らざるを得なくなった喋りのプロみたいなことをしている。それはとても危険なことだ。下手をすれば大事になる。だから何かが起こる前に、誰かが歯止めにならないといけない。でなきゃ干される。
俺は一体何の話をしているんだ。
ルードとの約束があるので、俺は明日以降でないとウェズリーを発つことができなくなった。合間にエリーゼたちを鍛えておくのは良策だと思う。彼女たちに生きていて欲しいと願う俺の思いとも合致する。
ただ――。
今日は、フィルの伯父さんを探すつもりだったんだよな……。
やることが増えて、そこまで手が回らなくなってしまった。
すまんな、フィル。後回しにして。
そんなことを考えながら、いつものように食事の準備を進めた。
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