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それぞれの成長 パーティー編
4.鍛練する理由となんとなく出来た新術(4)
しおりを挟む現在は復旧作業を行っている真っ只中なのだが、その作業に携わる人員として白羽の矢が立ったのがエリーゼたち戦乙女隊。
こちらも隊員の半数以上がチエと繋がりがあったことが発覚し、現在王都からの処分待ちとなっているどうしようもない隊なのだが、身の潔白が証明された隊員は人柄も良く真面目な為、猫の手も借りたいイワンコフさんが助力を願ったそうだ。
「アタクシは領主館で秘書をやることになりましたの」
「アタイは冒険者ギルドのマスターだってよ」
「私、冒険者ギルドの、サブマスター」
「私は正規兵として雇ってもらえることになった」
チエの立てこもり事件の翌日、イワンコフさんのところで話していたとき、同席していたエリーゼたちからそう報告された。嬉しそうに照れ笑いしていたので、俺は「そうか、おめでとう」と祝いはしたが、素直に喜べはしなかった。人選的には間違っていないと思うが、大丈夫なのかは甚だ疑問。
俺の予想では戦争が始まるまで半月を切っている。そして国境付近にあるウェズリーの街は前線だ。帝国兵の進撃だけでなく、魔物化の任意暴走がこの街でも行われる可能性まで出てきている。
模擬戦をした訳ではないので明言はできないが、エリーゼたちはさして強くないと思う。そんな彼女たちが前線にいるのだと思うと気が気じゃなくなる。
まだ知り合ったばかりだが、生きていて欲しい。失った後に訪れる感情に苛まれたくないという自分勝手な思いが暴れている。
実感は乏しいが、ノッゾさんにも、イゴールさんにも、ミルリナさんにも、俺は生きていて欲しかった。
まだどこかで生きている気がするから感じていないのか、それとも感じるほどには親しくなかったからなのかは分からないが、現状、喪失感と無力感は覚えていない。だが、もう遠慮願いたい。元の世界で十分に味わったのだから。
そういう訳で、どうにか誰も死なせない力を得たいと考え、この三日の間、鍛練と並行して新術の開発に勤しんできたのだが、願望やイメージが強いと形に繋がるのが早いとヤス君が言っていた通りで、なんと三つも習得できてしまった。
俺の思いは、危機に素早く駆けつける為の『機動力』。
そして以前から考えていた『火力』の二つ。
結果、できた術が【浮遊】。念動力を使って体を宙に浮かせる術だ。そのままでも空中を動けるのだが、あまり速度は出ない。
それで風術を推進力として使うことを考えたのだが、上手くいかなかった。イメージが固まらなかったからなのだが、その思案中、以前ロックサウルス討伐のときにフィルが見せた驚異的なジャンプ力を思い出した。
あれはもしかしたら風術の噴射によるものだったのではと閃き、真似をしてみたところ、何度も酷い目に遭った。それはもう一日中、あちこち体をぶつけまくった。
夜近くなってようやく【障壁】を使えば良かったことに気づき、やっぱり俺って馬鹿なんだと思って、地面に両手両膝を着けて凹んだがそれはどうでもいい。
生傷は絶えなかったが、お陰で現在は風術による推進力をそれなりに上手く扱えるようになった。まだ危なっかしいところはあるが、障害物が多くなければ大丈夫だ。
そしてこの際に利用する風術を発展させたのが【竜巻】。
【浮遊】と風術推進を会得後の昨日、カナン大平原に移動し、推進力に利用している風を攻撃に転じることができないかと空に浮かんだ状態で試したのだが、かなりの広範囲を巻き込む竜巻を起こしかけてしまった。
アワワワと慌てふためいてすぐに解除したので被害はなかったが、見学に来ていたドゴン一味は泡を食っていた。
そういえば、ドゴン一味は予定通りカナン大平原東のワブ族の集落で暮らすことになった。元々の人柄は悪くないので、すんなりと受け入れられていた。あとは騙されないように頑張って集落を守ってもらいたいと思う。
それはそうとして【竜巻】は失敗だった。広範囲攻撃術として利用できるのでまったく使えないという訳ではないが、どう考えても使いどころが乏しい。
欲しいのはダンジョンなどでも使えるような単体で高威力のものだったのだが、どうにもイメージが湧かない。それでなんとなく、今持ってる属性を全部混ぜたら強いんじゃないか、という発想が生まれた。
光と風と水。
それらを混ぜ合わせて出来るものは何か。まずはそれを考えるところから始めた。
何もないところから新たな術を生み出すことはできない。発端となるアイディアと、それを成す明確なイメージが必要になる。
それで瞑想したのだが、暗闇の中、最初に頭に浮かんできたのは雲だった。
水属性で生じさせた細かな水の粒子を、光属性の熱で気化させ、風属性で気圧を下げていくことで凝結させる。
極小の氷粒の集合体。そのイメージが完結すると、暗灰色の雨雲の中を駆け巡る稲妻がイメージされた。そのエネルギーだけを火力として用いたい。
その願いを強く抱く。
すると、【浮遊】と【竜巻】のときにもあった、カチリと嵌まった感覚が訪れた。
その感覚に従い、両手の平を向かい合わせて念じると、パチッとスパークが起きた。そこから更に魔力を送り続けると、空気がオゾン臭を放ち始め、稲妻を纏う小さな黄金色の球が現れた。
俺の望んだ火力。【迅雷】が完成した瞬間だった。
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