上 下
298 / 409
それぞれの成長 パーティー編

4.鍛練する理由となんとなく出来た新術(4)

しおりを挟む
 
 
 現在は復旧作業を行っている真っ只中なのだが、その作業に携わる人員として白羽の矢が立ったのがエリーゼたち戦乙女隊。

 こちらも隊員の半数以上がチエと繋がりがあったことが発覚し、現在王都からの処分待ちとなっているどうしようもない隊なのだが、身の潔白が証明された隊員は人柄も良く真面目な為、猫の手も借りたいイワンコフさんが助力を願ったそうだ。

「アタクシは領主館で秘書をやることになりましたの」

「アタイは冒険者ギルドのマスターだってよ」

「私、冒険者ギルドの、サブマスター」

「私は正規兵として雇ってもらえることになった」

 チエの立てこもり事件の翌日、イワンコフさんのところで話していたとき、同席していたエリーゼたちからそう報告された。嬉しそうに照れ笑いしていたので、俺は「そうか、おめでとう」と祝いはしたが、素直に喜べはしなかった。人選的には間違っていないと思うが、大丈夫なのかははなはだ疑問。

 俺の予想では戦争が始まるまで半月を切っている。そして国境付近にあるウェズリーの街は前線だ。帝国兵の進撃だけでなく、魔物化の任意暴走がこの街でも行われる可能性まで出てきている。

 模擬戦をした訳ではないので明言はできないが、エリーゼたちはさして強くないと思う。そんな彼女たちが前線にいるのだと思うと気が気じゃなくなる。

 まだ知り合ったばかりだが、生きていて欲しい。失った後に訪れる感情に苛まれたくないという自分勝手な思いが暴れている。

 実感は乏しいが、ノッゾさんにも、イゴールさんにも、ミルリナさんにも、俺は生きていて欲しかった。

 まだどこかで生きている気がするから感じていないのか、それとも感じるほどには親しくなかったからなのかは分からないが、現状、喪失感と無力感は覚えていない。だが、もう遠慮願いたい。元の世界で十分に味わったのだから。

 そういう訳で、どうにか誰も死なせない力を得たいと考え、この三日の間、鍛練と並行して新術の開発にいそしんできたのだが、願望やイメージが強いと形に繋がるのが早いとヤス君が言っていた通りで、なんと三つも習得できてしまった。

 俺の思いは、危機に素早く駆けつける為の『機動力』。

 そして以前から考えていた『火力』の二つ。

 結果、できた術が【浮遊】。念動力を使って体を宙に浮かせる術だ。そのままでも空中を動けるのだが、あまり速度は出ない。

 それで風術を推進力として使うことを考えたのだが、上手くいかなかった。イメージが固まらなかったからなのだが、その思案中、以前ロックサウルス討伐のときにフィルが見せた驚異的なジャンプ力を思い出した。

 あれはもしかしたら風術の噴射によるものだったのではと閃き、真似をしてみたところ、何度も酷い目に遭った。それはもう一日中、あちこち体をぶつけまくった。

 夜近くなってようやく【障壁】を使えば良かったことに気づき、やっぱり俺って馬鹿なんだと思って、地面に両手両膝を着けて凹んだがそれはどうでもいい。

 生傷は絶えなかったが、お陰で現在は風術による推進力をそれなりに上手く扱えるようになった。まだ危なっかしいところはあるが、障害物が多くなければ大丈夫だ。

 そしてこの際に利用する風術を発展させたのが【竜巻】。

 【浮遊】と風術推進を会得後の昨日、カナン大平原に移動し、推進力に利用している風を攻撃に転じることができないかと空に浮かんだ状態で試したのだが、かなりの広範囲を巻き込む竜巻を起こしかけてしまった。

 アワワワと慌てふためいてすぐに解除したので被害はなかったが、見学に来ていたドゴン一味は泡を食っていた。

 そういえば、ドゴン一味は予定通りカナン大平原東のワブ族の集落で暮らすことになった。元々の人柄は悪くないので、すんなりと受け入れられていた。あとはだまされないように頑張って集落を守ってもらいたいと思う。

 それはそうとして【竜巻】は失敗だった。広範囲攻撃術として利用できるのでまったく使えないという訳ではないが、どう考えても使いどころが乏しい。

 欲しいのはダンジョンなどでも使えるような単体で高威力のものだったのだが、どうにもイメージが湧かない。それでなんとなく、今持ってる属性を全部混ぜたら強いんじゃないか、という発想が生まれた。

 光と風と水。

 それらを混ぜ合わせて出来るものは何か。まずはそれを考えるところから始めた。

 何もないところから新たな術を生み出すことはできない。発端となるアイディアと、それを成す明確なイメージが必要になる。

 それで瞑想したのだが、暗闇の中、最初に頭に浮かんできたのは雲だった。

 水属性で生じさせた細かな水の粒子を、光属性の熱で気化させ、風属性で気圧を下げていくことで凝結ぎょうけつさせる。

 極小の氷粒の集合体。そのイメージが完結すると、暗灰色の雨雲の中を駆け巡る稲妻がイメージされた。そのエネルギーだけを火力として用いたい。

 その願いを強く抱く。

 すると、【浮遊】と【竜巻】のときにもあった、カチリとまった感覚が訪れた。

 その感覚に従い、両手の平を向かい合わせて念じると、パチッとスパークが起きた。そこから更に魔力を送り続けると、空気がオゾン臭を放ち始め、稲妻をまとう小さな黄金色の球が現れた。

 俺の望んだ火力。【迅雷ジンライ】が完成した瞬間だった。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕、婚約破棄されちゃったよ〜!(仮)

撫羽
ファンタジー
ブリタニア王国のソフィア王女に、突然婚約破棄を告げられた、主人公テティス・マーシア。 前髪が、目の下まで延びていていつも少し猫背で俯き加減。ちょっと頼りない、へなちょこ主人公。 王女であり、愛しの婚約者に婚約破棄されちゃった! なのに、飄々としている彼。その原因は聖女候補か!? 攻略対象者が出てきたり王子まで出てきたり。 でも、聖女候補には近寄りたくないし巻き込まれたくないけど愛しの元婚約者もなんとかしたい! 何故そうなったのか? どうやって国を守るのか? 王女と主人公の婚約は? 祖母に鍛えてもらったり、家族総出で調査をしたり、小さなドラゴンに力を借りたり。 頼りない、ヘタレな主人公が、心の中で時々毒を吐きながら、愛しの王女を守ろうと奮闘します。 婚約破棄の物語は、令嬢が婚約破棄されるお話が殆どです。 たまには、男性側が婚約破棄されるお話があっても良いじゃない?しかも、俺様主人公じゃなくて、ヘタレだったら?て、単純なお話です。 細かい設定に拘る方、残虐性を求める方には向きませんので、どうかスルーをお願いします。 なろうで完結済です。

世界最強の魔女は争い事に巻き込まれたくないので!邪竜と無自覚に英雄を育てながらひっそりと暮らしたい

赤羽夕夜
ファンタジー
カーバル皇国の聖女として異世界召喚で呼び寄せられた、絵美(エミリア)は、人間の体には毒であり、魔力の元となる魔素を浄化する力を持っていた。帰る方法もないので、皇国の聖女として日々を過ごしていくうちに魔法の勉強が楽しくなり、次第に魔法への理解を深め、魔法の禁忌に触れてしまう。 禁忌に触れるのは神の存在が現実的である異世界ではタブーとされており、神は理の外にでてしまったエミリアに罰として不老不死の呪いを掛け、この世の終わりまで死ぬことは許さないとされた。その一方である事件が起こった。それはエミリアが召喚されてから5年後のこと。聖女として新たに召喚された美憂(ミーユ)は新しい聖女として迎え入れられ、エミリアの立ち位置も危うくなってしまう。 エミリアはありもしない濡れ衣を着せられ、次第に皇子をはじめとしたミーユの取り巻きに目を付けられ始めた。 毒殺の罪を着せられ、国外追放された、エミリアは森で眠っていたドラゴン(邪竜)と出会う。ドラゴンとは魔素の塊とされ、人々から災厄として恐れられていた。ファフニールと呼ばれるドラゴンはエミリアに敵意を向けたが、事情を聴き同情したファフニールは森に住まうことを許可する――。 無自覚大賢者兼森の魔女が世界から恐れられる邪竜と共に森で暮らしたり、無自覚に英雄を育てライフ、ここに開幕! ※グロ表現、下ネタ等告知なく、記述する場合がありますので、念のため15歳以上設定にさせていただきます。 ※なろうでも連載していたものですが、告知なく改稿・修正させていただく場合があります。その際に内容がなろうと相違がでてしまう場合もございますがご了承ください。

転生貴族のスローライフ

松倖 葉
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【R18】喪失の貴族令嬢 ~手にした愛は破滅への道標~

釈 余白
ファンタジー
 権力こそ全て、贅(ぜい)屠(ほふ)るこそ全て、そんな横暴がまかり通るどこかの独裁王国があった。その貴族社会で世間を知らぬまま大切に育てられた令嬢、クラウディア・アリア・ダルチエンは、親の野心のため言われるがままなすがまま生きて来て、ようやく第一王子のタクローシュ・グルタ・ザン・ダマエライトの婚約者へと収まることが出来た。  しかし何かの策略か誰かの計略かによってその地位を剥奪、元第一王子であるアルベルトが事実上幽閉されている闇の森へと追放されてしまう。ほどなくして両親は謀反を企てたとして処刑され家は取り潰し、自身の地位も奴隷へとなり果てる。  なんの苦労もなかった貴族から、優雅な王族となるはずだったクラウディアは、闇の森で生き地獄を味わい精神を崩壊したままただ生きているだけと言う日々を送る。しかしアルベルトの子を授かったことが転機となり彼女の生活は少しずつ変わって行くのだった。  この物語は、愛憎、色欲、怨恨、金満等々、魔物のような様々な感情うごめく王国で起こった出来事を綴ったものです。 ※過激な凌辱、残虐シーンが含まれます  苦手な方は閲覧をお控えくださいますようお願いいたします

【完結】中身は男子高校生が全寮制女子魔法学園初等部に入学した

まみ夜
SF
俺の名は、エイミー・ロイエンタール、六歳だ。 女の名前なのに、俺と自称しているのには、訳がある。 魔法学園入学式前日、頭をぶつけたのが原因(と思われていたが、検査で頭を打っていないのがわかり、謎のまま)で、知らない記憶が蘇った。 そこでは、俺は男子高校生で科学文明の恩恵を受けて生活していた。 前世(?)の記憶が蘇った六歳幼女が、二十一世紀初頭の科学知識(高校レベル)を魔法に応用し、産業革命直前のプロイセン王国全寮制女子魔法学園初等部で、この時代にはない『フレンチ・トースト』を流行らせたりして、無双する、のか? 題名のわりに、時代考証、当時の科学技術、常識、魔法システムなどなど、理屈くさいですが、ついてきてください。 【読んで「騙された」にならないための説明】 ・ナポレオンに勝つには、どうすればいいのかを検討した結果、「幼女が幼女のままの期間では魔法でもないと無理」だったので、魔法がある世界設定になりました ・主人公はこの世界の住人で、死んでいませんし、転生もしていません。また、チート能力もありません。むしろ、肉体、魔法能力は劣っています。あるのは、知識だけです ・魔法はありますが、万能ではないので、科学技術も(産業革命直前レベルで)発達しています。 表紙イラストは、SOZAI LABより、かえるWORKS様の「フレンチトースト」を使用させていただいております。

二人とも好きじゃあダメなのか?

あさきりゆうた
BL
 元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。  正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!? ※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。 21.03.11 つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。 21.05.18 第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。 23.09.09  表紙をヒロインのおっさんにしました。

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

ファーストカット!!!異世界に旅立って動画を回します。

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)
BL
トップ高校生we tuberのまっつんこと軒下 祭(のきした まつり)、17歳。いつものように学校をサボってどんなネタを撮ろうかと考えてみれば、水面に浮かぶ奇妙な扉が現れた。スマホのカメラを回そうと慌てる祭に突然、扉は言葉を発して彼に問い掛ける。 『迷える子羊よ。我の如何なる問いに答えられるか。』 扉に話しかけられ呆然とする祭は何も答えられずにいる。そんな彼に追い打ちをかけるように扉はさらに言葉を発して言い放った。 『答えられぬか…。そのようなお前に試練を授けよう。…自分が如何にここに存在しているのかを。』 すると祭の身体は勝手に動き、扉を超えて進んでいけば…なんとそこは大自然が広がっていた。 カメラを回して祭ははしゃぐ。何故ならば、見たことのない生物が多く賑わっていたのだから。 しかしここで祭のスマホが故障してしまった。修理をしようにもスキルが無い祭ではあるが…そんな彼に今度は青髪の少女に話しかけられた。月のピアスをした少女にときめいて恋に堕ちてしまう祭ではあるが、彼女はスマホを見てから祭とスマホに興味を持ち彼を家に誘ったのである。 もちろん承諾をする祭ではあるがそんな彼は知らなかった…。 ドキドキしながら家で待っていると今度は青髪のチャイナ服の青年が茶を持ってきた。少女かと思って残念がる祭ではあったが彼に礼を言って茶を飲めば…今度は眠くなり気が付けばベットにいて!? 祭の異世界放浪奮闘記がここに始まる。

処理中です...