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もう一人の渡り人編
27.冒険者ギルド立てこもり事件(7)
しおりを挟む「ユーゴ、どうしたの? 大丈夫?」
フィルが心配そうな顔で訊いてきた。どうやら、俺の具合の悪さは外見にも表れているようだ。サクちゃんも訝しんでいる。俺は手振りだけで二人に問題ないことを伝え、ヤス君に訊ねた。
「ヤス君、探知だとどんな状況?」
訊かれたくなかったのだと思う。ヤス君は視線を逸らして表情を暗くした。
「二人、動かなくなりました。おそらくもう……」
俺は「分かった」と頷いた。そして冒険者ギルドの出入口へ向かい歩く。
「ユーゴさん、どうするつもりっすか?」
「チエを討伐する。俺がやるよ」
最も単純な解決策。それは殺すこと。そんなことはヤス君にだって分かっていたはずだ。だがそれをしなかったのは、殺人に抵抗があったから。
俺を含め、うちのパーティーメンバーは皆そうだ。ドゴンたちの襲撃でも、即死させるような攻撃はしなかった。しようと思えばできるのに、それを避けていた。
多分、そうするのが当然って思ってるんだよな、俺たち。
魔物化した者を手に掛けたことはあったが、それは止むにやまれずだ。救えないから、そうせざるを得なかったというだけで、望んでやったことではない。
チエに対してもそうだ。決して殺したい訳ではない。だがそうしなければ、被害は増える一方、というか、生かしておくと、ろくなことにならない気がする。
絶対、逆恨みされてつきまとわれる……。
さっきの映像を思い出して身震いする。あれが本物のサイコパスというやつだ。
さて、どうするか。
ここからだと遠すぎて【過冷却水球】の設置は位置が定まらない。
いや、また捕縛しようとしちゃってるよ。駄目だって。あの火球の他にも攻撃手段はあるって絶対。全力で殺しにいかないと、こっちが殺される。
まずは、距離を詰めないとだよな。【天眼芯】をカウンターの向こうまで投げ込んで、ヤス君に【犠芯転移】で送ってもらおうか。あとは出たとこ勝負。
怖いな。死ぬかもしれないよな。あー、やりたくねー。
そういった思いで足を進めたのだが、困ったことに俺の頼れる仲間たちが全員ついてきた。サブロまでが「ピギッ!」とやる気を見せる始末。
「人を殺すのは、最後の手段、だと思ってたんすけどね」
「皆そうだろ。今がその手段を使うときだ」
「ユーゴでもどうしようもないんだから、諦めもつくよね」
「え? 俺に期待してたの?」
当然、という返答が揃う。俺は頭を掻いて苦笑する。
「そりゃ申し訳ない。ただ命を奪うことが最善だと思う。捕縛できるに越したことはないけど、その後のことを考えると難しい気がする」
「同感だ。おとなしく牢に入っているとは思えん。狡賢いしな。衛兵をやり込めて逃げられでもしたらまた被害者が出る。あとはルードが通してくれるかどうかだが」
背に声を掛けようとしたところで、ルードに手で止められる。
「撃って、きます」
ルードが呟いた直後、また火球が現れた。ルードはそれを手で払い消し去る。
「僕は、動け、ません。人が、大勢、いるので」
あ、そういうことだったのか。
ルードが出入口の前で仁王立ちしていたのは、逃さない為だけでなく、チエの視界を狭める目的もあったのだと気づく。というより、ルードは自分を囮にしているように感じた。野次馬を標的にされるとたまったもんじゃないもんな。
チエの性格的に、許しておけない存在はルードだ。敢えて自分が目の敵にされるような振る舞いをしてきたと思えば、謎の行動も理解できる。
だが、そんなことは結果が分かってないとできない。
とすると、ルードは予知能力でもあるとか?
疑いの目を向けていると、ルードが「予言」と言った。俺は耳を疑う。
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