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もう一人の渡り人編
22.冒険者ギルド立てこもり事件(2)
しおりを挟む「ちょっ、何やってんの⁉」
人混みを強引に掻き分けて声を掛ける。真っ先に気づいたのはフィルだった。
「あ、ユーゴ! あいつがいたんだよ!」
「何⁉ あいつが⁉ くそっ、こんなところにいやがったか!」
「そうなんだよ! もうびっくりしちゃって!」
「確かに驚きだ! それでフィルよ、あいつって誰だ?」
フィルがぽかんとした。間もなく、自分の天然ぶりに気づいたのか口を覆って身を震わせた。顔を赤くし、怒ったような恥ずかしいような様子のフィルを見ながら、俺は人垣を押さえている衛兵に通してもらい仲間と合流した。
「フィル君、興奮しすぎっすよ。そんなだからユーゴさんに遊ばれちゃうんす。あいつの一言で分かるほど察しが良い人じゃないっすよ、ユーゴさんは」
ヤス君、目が笑ってないんだが。
「あいつで分かる方が異常でしょうよ。で、誰なの?」
「指名手配中の黒いローブの男っす。顔はしっかり覚えてましたんで」
「もう見る影もないがな」
出入口の側に、顔の腫れた男が倒れていた。巨大で歪な人型サツマイモに、冒険者ギルド職員の制服を着せてあるように見える。長い黒髪のかつら付き。
いや、赤黒いじゃがいもにも見えるな。特殊メイクみたいだ。
普通なら、うわなにあれ怖い、となる光景なのだろうが、あまりに浮世離れしているので驚くほど何も感じなかった。うん、やっぱり赤黒いじゃがいもだ。
体はロープで簡単に拘束されており、術封じの呪符が何枚か貼られている。その側には衛兵。戦乙女隊ではなくウェズリーの街の正規兵が二人。
他にも十数人の衛兵が野次馬を押さえている。
見えねぇ邪魔だ、誰だ足踏んだ奴は、誰よお尻触ったの、と喧々囂々。
人垣から抜ければそういう目にも遭わんだろうに。
「状況がまったく分からんのだけど、何でこんなことになってる訳?」
「あ、それはね――」
四時間前、俺と別れた三人は、予定通りルードにサラマンダーを届けに冒険者ギルドに向かった。その道すがら、たまたま通りがかったルードと合流し、捕れたてほやほやのサラマンダーを麻袋ごと引き渡したそうだ。
本来ならば、ここでルードに感謝されつつ、じゃあまたね、で終わる話だったのだが「ここまで手伝ったんだからさ、どうせなら最後まで見届けようよ」というフィルの言葉で、ルードと共に冒険者ギルドに向かうことになったのだとか。
「それで冒険者ギルドに到着したんだが――」
中に入ると受付にはチエがいた。それもいけしゃあしゃあと。まさかいるとは思わなかったのでルード以外の全員が驚いたそうだが、もっと驚いたのはルードの行動。他の受付が空いているのに、敢えてチエの元へと向かったらしい。
「その後さ、チエが『あれー、遅かったですねー。依頼完了の手続きをするから待っててくださーい』って言ったんだよ。もう、憎たらしい言い方でさ」
「あれは殺意を覚えましたね。ドヤった顔も相まって余計に腹立つんすよ」
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