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もう一人の渡り人編
19.気分が優れない話の後は美味しい食事で誤魔化す(3)
しおりを挟むあ、そうか。だからルードも。
俺は唐突な閃きに、思わず短く息を吸った。
「何だ? どうしたんだ?」
「ルードが嫌がらせを受けていた件で気づいたことがあったんです。もしかすると、階級が高い冒険者はチエから不当な扱いを受けて、この街を離れたかもしれません」
冒険者は謂わば傭兵のようなもの。階級の高い冒険者をウェズリーの街から遠ざけるように仕向けることで、街の防衛力を落としているのでは、と思う。
地味だが、割と効果がある気がする。だって俺なら絶対にそんな冒険者ギルドに行きたくないもの。腹が立つから、さっさと拠点を他の街に移すと思う。
「アルネスの街と違って、呪いを施せる術者がいなければ冒険者は邪魔でしかないです。かといって直接戦えば返り討ちにされる危惧がありますし、何より目立ちます。それで嫌がらせで遠ざける方を選んだのではないかと」
長期的にみれば、じわじわと悪評が立って、街を訪れる冒険者が減っていくのは間違いない。ここは国境沿いにある街。防衛力は落としておきたいはず。
「むぅ、半年もあれば十分に嫌悪感は抱かせられるか。まだなんとも言えんが、確かに冒険者の流出は起きとるんだ。しかし、今の話を聞いて少し気が安らいだわ。魔物化の呪いを使える術者はまだおらんと見て良さそうだな」
「どうですかね? 仮に呪いが完成していたとしても、それを使えるようになった術者をわざわざ敵地に送り込むような真似はもうしないと思いますよ。アルネスの街にいた呪いの開発者は既に失った訳ですし」
「そうか。確かに、自国内で魔物化を施した方が利があるか。敵国の女や子供をさらって、呪いを施して返しとれば、軍を動かすよりは遥かに安く済むものな。自国でも浮浪者なんかを掻き集めとりそうだ」
「チエを捕縛できれば尋問することも可能なんでしょうが、おそらく既に姿を隠していると思われます。いや、チエに限ったことではなく、工作員がすべて雲隠れしているかもしれませんね。手は打ってそうです」
「そうだろうな。だが、それで構わん。下手に捕縛すれば、撹乱されるのが目に見えとる。捕まえただけでも疑心暗鬼にさせられるに違いない」
見つけたら殺すしかなかろう。とイワンコフさんは溜め息を吐く。
殺す、か……。
確かにそれが最善手なんだろうが、それで解決する訳じゃないんだよな。
一番の問題は、根を断たない限りそれが繰り返されるということだ。
結局、ラグナス帝国をどうにかしないといけないんだよなぁ……。
今話してる内容は、すべて推測に過ぎない。もっと酷いことだって起こり得るし、考え違いをしていることだって大いにあり得る。いや、そもそも、なんだって平民の俺がこんなことをしているのか。いくらなんでも巻き込まれすぎだろう。
気が滅入る。だが、なるようにしかならない。こんなことは考えるだけ無駄だ。
てことで、もうやーめた!
「さて、それじゃあ話したいことも終えましたんで食事にしましょう。気持ちを新たに明るくいきましょう!」
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