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もう一人の渡り人編
15.レノアイザベラニーナエリーゼ(4)
しおりを挟む女子たちが体を強張らせるのが分かる。確かに相当な重圧だが、俺は平然としていられた。多めに見積もっても、ジオさんとエドワードさんとの面会時くらい。ルードの威圧を受けた俺は、その程度ではもう怯まない。というか、怯めない。
どっか壊れちゃったのかなー?
間違いなく、あれを食らって胆力がついたと思う。大口を開けた化け物に、これからお前を食ってやると舌で体を舐められているような感覚だった。それと比べれば、イワンコフさんの威圧はどうということはない。虎と猫ほどの差がある。
なんなら、髭を引っ張って怒られるくらいまでできそうだ。と思う。
レノアが震えながらイワンコフさんに茶を出し、長椅子の後ろに立つ二人に並ぶ。そこで、俺を品定めするように見ていたイワンコフさんが口を開いた。
「ふむ、顔色一つ変えんとはな。お前がエドワードの客分だって名乗った男か」
「はい。ユーゴ・カガミと言います」
イワンコフさんが「ユーゴ?」と眉根を寄せる。俺は冒険者ギルドカードを机の上に置き、指で押さえて滑らせるようにイワンコフさんの前に運ぶ。
イワンコフさんはそれを手に取り確認した後で、哄笑しながら俺に返した。
「ウハハ、なるほど、そうか、お前がユーゴか。わしはこの街の領主をしとるイワンコフ・リーズリーだ。よくこの街に来た。歓迎する」
「あ、これはどうもご丁寧に」
俺は軽く頭を下げて答えた。自分のことを既に知られていたことに驚いたが、女子たちは俺以上に驚いていたようで、皆目を丸くしていた。
「エドワードさんから既にお聞きでしたか?」
「ああ、手紙でな。だがそれだけじゃないぞ。リンドウ殿からも直接聞かされとる。王国軍の元筆頭術師をして『驚異的な才能の持ち主』と言わしめる逸材だからな、是非とも一度会ってみたいと思っとったんだ」
女子三人が二度びっくりといった様子を見せる。俺は頭を掻いて苦笑する。
「買い被りです。ゴブリンにも殺されかけるくらいですから」
「謙遜するな。一日でダンジョンの四十階層近くまで進んだパーティーがおると報告も入っとる。耳を疑ったが、謎が解けたわ。ユーゴのパーティーだろ?」
「ええまぁ、俺はほとんど何もしてないんですけど」
女子三人の顔が興奮気味になる。向かいばかり見ていたが、ふと気になって隣に目を遣るとエリーゼが頬を染めて羨望の眼差しを向けていた。
その変貌ぶりにビクリと肩が跳ねる。なんか怖い。
「ウハハハ、英雄色を好むか!」
「か、勘弁してください」
「いやいや、冗談で言った訳じゃないぞ。何日か前に、カナン大平原東部の賊が消えたという報告があってな、時期的にユーゴたちが関わっとってもおかしくないと思ったんだ。それに、あそこの部族は初代様の予言を口伝で残しとったろ。そこに出てくる英雄が、確かユーゴ・カガミ。同姓同名、伝説の英雄様じゃないか」
「あー、そのことなんですが……丁度良いのでそれも含めてお話します」
俺はウェズリーに来た経緯についてをざっくりと話した。イワンコフさんは魔物化についての話をしたときはずっと顔を顰めていた。だがローガ一味を捕縛し、魔物化に備える戦士として鍛えているという話をすると膝を叩いて大喜びした。
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