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もう一人の渡り人編

7.舐められ隊長と輩ムーブに戸惑う責任転嫁(4)

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 突然の注意にサクちゃんは困惑した様子を見せている。そりゃそうなるよね。と、思ったところでフィルが呆れたように肩を竦めた。

「ヤスヒト、サクヤで遊びすぎ。そういうの良くないと思うよ」

「そういうことか! ヤスヒト! お前!」

「ハハハハ、まぁまぁ。冗談っすよ」

 ヤス君が、食って掛かるサクちゃんを宥めつつ隊長に顔を向ける。

「それで悪事って? どういう内容っすか?」

 訊ねられた隊長がハッとしたような素振りを見せる。

「じ、人身売買だっ!」

「それっていつの事件ですかね?」

 フィルの質問に最初に反応したのはチエだった。忌々いまいましげに表情を歪めて舌打ちする。それを見たモンテさんが、よりオドオドと戸惑った様子を見せる。

「い、いくつもある! どれも似たような手口だ! 直近は一昨日!」

 隊長が声を張り上げている間に、チエが衛兵に何かを呟いてその陰に姿を消した。モンテさんも衛兵に頭を下げてチエを追う。一体どうするつもりなのだろう。

 興味あるな。放置しとくか。

「フ、ハハハ! どうした! 弁解はないのか!」

「俺たちがこの街に来たのは二日前なんですけど」

 沈黙。

 俺が返答するまで少し間が空いたことで、勢いを取り戻しつつあった隊長が硬直した。だが我に返ったような素振りを見せて、もう一度指を差し直す。

「それを証明できるか!」

「二日前に門兵を担当した方に聞いてください。入出記録も取ってましたんで」

「そ、そんなもの、どうとでも誤魔化せるだろう!」

「では入出記録を取る意味は? それと俺たちが誤魔化したという証拠は?」

 再びの沈黙。間もなく隊長がガクリと項垂れる。

「はぁ、誰か、門兵に確認してきてくれ」

 衛兵たちが相談し、二人駆けていった。これ以上の茶番は面倒なので、二日前の夕方に到着したところから、昨日の夜までの行動をすべて話した。

「証言が欲しければダンジョン前に常駐している衛兵に確認してください。入出記録はなかったですけど、朝夕と二回顔を合わせてますんで覚えているはずです」

「相分かった。誰か、ダンジョン前の衛兵に確認を取りに向かえ。それと、先ほど聞いた宿を知っているものはそちらにも話を聞きに行ってくれ」

 衛兵たちがまた相談し、今度は四人駆けていった。

「それで、今日は何をしておられたのか?」

「え、今日は関係なくないっすか?」

 衛兵たちがまた「確かに」と細かく頷きながら囁やきあう。そこにはやはり嘲笑が。もしかすると、ドワーフの女性たちの間で流行っているのかもしれない。

 もしくは隊長がいじり倒されているか。隊長の細かな震えを見る限り、後者のような気がする。というよりこれはもうイジメだ。イジメはいかんよ。

 ん? 話の通じる隊長と、それを馬鹿にする部下?

 心で呟いて閃いた。そうか、そういうことだったか。

 円滑に終わると思ったが、どうやら大失敗をしたようだと覚る。
 
 
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