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もう一人の渡り人編
6.舐められ隊長と輩ムーブに戸惑う責任転嫁(3)
しおりを挟む「ドゴンたちは、またアルネスの街の戦力にするってこと?」
「いや、今回はワブ族の集落。ローガたちがいなくなって防衛力が落ちてるだろうし。それに、ああいう場所の方がドゴンたちも上手くやれそうな気がするんだよね」
「本当に色々と思いつくよな。どうなってるんだその頭は」
「怖や怖やっすよ。で、肝心のチエはどうするんすか?」
「流れ次第だけど、【箱庭】に入るとき、どさくさ紛れに一緒に入れちゃってよ。正直、それが一番手っ取り早いんだよね。後のことはそれから考えよう」
三人が唖然とした顔を向けるが、俺は知らん顔して畦道を歩いた。そして衛兵たちが待ち構える場所から十メートルほどのところまで足を進めて立ち止まった。
「止まれ!」
隊長がタイミングのズレた静止の言葉を叫んだ。女性の声だ。
「いや止まってるけども」
思わず言い返したところ「確かに」という囁きが衛兵隊のあちこちから上がった。全員女性だと覚る。人族かと思っていたが、女性ならおそらくドワーフだろう。
「え、ええーい、黙らっしゃい!」
隊長は俺を指差して声を張り上げた。すると「黙らっしゃいはないでしょ」という囁きが風に乗って聞こえてきた。微かな失笑と嘲笑らしきものも混ざり込む。なんとなく衛兵たちから馬鹿にされている残念な隊長の予感がした。
だが気の毒に思うよりも俺は不愉快な気持ちになった。かつて自分も浴びたことのある人を小馬鹿にしたような小さな笑い声。それがどうにも許せなかった。
「コラー! 隊長が話してるのに何だお前たちの態度はー!」
俺が急に怒鳴り声を上げたことに驚いたのか、隊長含め、すべての衛兵たちがビクリと体を震わせて直立した。チエとモンテさんは挙動不審になる。
「それでー? これは何の騒ぎっすかー?」
ヤス君が俺に便乗した。顎を上げて物凄く偉そうに言う。非常に感じが悪いが、この順応性と対応力には毎度驚かされる。輩になった意味は分からんけど。
こうなると残る二人も乗っかってくるのがうちのパーティー。ちらりと見たが、サクちゃんは腕組みして仁王立ち。フィルは興味なさげに杖を弄んでいる。
衛兵隊は俺たちの横柄な態度にたじろいだ様子だったが、隊長は職務を全うしようと必死なようで、細かく体と声を震わせながらも言葉を発した。
「き、貴様らが、あ、悪事を行ったという、通報を、こ、こちらの冒険者ギ、ギルド職員から受けた! 我々は、そそそれを問いただしに来た!」
「ビビってんすかー? 声裏返ってますよー?」
「おいおい、ヤスヒト、あんまりいじめてやるな。空威張りを褒めてやれ」
「感じ悪っ! どうしたの皆⁉ 輩にベクトル向いてからおかしいよ⁉」
「ですよね。サクやん今のは酷いっすよ? 輩ムーブに引っ張られすぎ」
「え……いや、え?」
俺はヤス君の手のひら返しに震えた。なんて見事な責任転嫁。
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